-4話- 四天王風属性のオマージュしたのはどうやらみにくいあひるの子 その1
五月の半ばの穏やかな日の午後こと、君守家の庭では朝太が一人で遊んでおり、その姿を真洋と羽春が部屋の中から見守っていた。
「このごろ朝太が何か植物を育てるようなんだ。園芸に興味を持つとはちょっと意外だよな」
朝太の兄役の真洋こと魔王四天王のマカマフィンがそんなことを言う。
「あら、知らなかったの? 魔王様は昔、草花を育てていたこともあるのよ」
朝太の母役の羽春こと魔王四天王のハハルアピが答える。
「へえ、それは意外」
「魔王様が水と肥料と魔力を注ぎこんで育てたものだから立派なアルラウネに育ったわよ」
アルラウネとは植物の体を持つ女性型のモンスターである。
「あまりに強すぎたものだから野に放すわけにもいかなくって、今は私の部下にしてハハルアピ軍の副官を務めているわ」
「育ち過ぎだろそれ」
真洋が呆れるように苦笑いをする。
「四天王の副官クラスってみんなそんな感じよ。あんたの部下のイエティも、もともと魔王様が犬だと思って飼っていたものだったのよ。それを魔王様が餌と魔力を注ぎ込んで育てたから強くなりすぎて仕方なく魔王軍に入ったわけだし」
イエティは白い毛皮を持つ雪山に住むモンスターである。
「……知らなかった。魔王軍ってそんなのばっかりか」
「あら、それで強いメンツが増えるんだからいいじゃないの」
そこで朝太がホースを撒いていた水を自分がかぶってしまい、話が中断した。
「話を戻すけど、朝太が花を育てるような優しい性格なのはいいとして、そのことで将来からかわれるんじゃないかとちょっと心配なんだよな」
真洋と羽春は朝太をタオルで拭いた後、話を続けていた。
「あら、そんなことでからかわれるの?」
「ほら、子供の将来の夢とかでお花屋さんって答えるのは女の子がメインだろ。女っぽいってそういう対象になりやすいもんだろ」
「男のお花屋さんなんていくらでもいるじゃないの。それに花を育てる園芸業者なんて男の人が多いと思うわよ。結構な力仕事でしょうからね。男らしいとか女らしいなんて思いこみにすぎないのよ」
「現実がどうとかいいんだ。子供にとってはからかう対象があればなんでもいいんだよ」
「なんだか実感がこもってるわね」
「……実は魔王様の野望をかなえるべく理緒に教室で告白したことをいまだにネタにされている」
理緒という少女を朝太のお姉ちゃんにするために真洋は彼女に結婚を申し込んでいた。さすがに誰も本気にはしなかったようであるが、からかいの対象にはなったようである。
「そんなもの、子供じゃないあたしだってネタにするわよ」
「お前らに焚きつけられたことも一因なんだけどな」
「普通はもっと段階を踏むものでしょ。いきなり求婚するなんて思わないじゃない」
「俺がもし感受性の強い子供だったら登校拒否案件だぜ」
「朝太が感受性の強い子供で友達からからかわれて登校拒否にでもならないかって心配しているわけ? さすがに心配しすぎよ。それに、花を育てて観察しましょうなんて学校でもやるでしょう」
「そりゃ、そうだけどな」
朝太はスコップで土をいじっていた。
「学校と言えば、文化祭って言うイベントがあるらしいわね」
羽春が真洋にそんなことを尋ねる。
「ああ、そんなのもあるようだな」
たいして興味もなさそうに真洋が答える。
「あたしの聞いた話じゃ文化祭の企画で男子生徒が女装するなんてのがあるらしいわよ」
「どこで聞いたんだよ、そんな話。あれだろ、制服を変えて性別という常識に縛られないよう思想を柔軟にさせるのが目的とかだろ」
「やーね。そんな建前だけでやらされるなんて本気で思ってるの? 人間はそこに笑いを求めているものなのよ。大人の行動には大義名分が必要なのよね」
「妙なことを言うな」
「もしかしたらあんたも文化祭でそんなことをやる機会があるかもしれないわよ。ああ、でも、だめね」
羽春が首を振る。
「何が」
「あんたの女装じゃ笑いは取れないわよ」
「おぞましい想像をするんじゃねえよ。各方面から怒られるぞ」
「さてと、これから母さんは父さんの仕事の手伝いに行くから朝太と留守番よろしくね」
お父さんとは朝太の父役の辰人こと魔王軍四天王のタリュートゥのことである。
「前から疑問だったんだけど、手伝えることなんてあるのか?」
「やーね。あんたまさか男は仕事、女は家庭なんて思考してるんじゃないでしょうね。あたしは目立つことを避けるために社会に合わせて家庭に入っているのであって、言ってみればキャリアウーマンよ」
「そりゃお互い魔王軍の四天王なんてしてるんだから知ってるよ。俺が聞きたいのは仕事が手伝えるのかってことだ。タリュートゥは魔王様の時間を戻す術について調べてるんだろ。魔法の調査に関しちゃタリュートゥに任せておけばよくないかってことだ」
「そこはそれぞれの得意分野があるのよ。あたしは風属性だから探索系は得意なのよ」
「それだったらタリュートゥは火属性だろ。攻撃魔法ならともかく、調査解析に向いているとは思えないんだよな」
「あんた何も知らないのね。人間の世界でも火は知恵の象徴とされることもあるのよ。それに、魔法解析はお父さんのメインの能力に付随したものなのよ」
「メインって、攻撃じゃないのかよ」
「メインは敵の魔法に介入することなのよ。魔法を解析してそこに介入することで別の魔法に変えることができるのよね」
「それがメインの能力なのか」
「魔界において強さって魔法の強さに寄ることろが大きいでしょ。その魔法を改変されるなんて恐怖でしかないわよ」
「そんなの無茶苦茶じゃないかよ」
「さすがに何でもありってわけにはいかないけど、凶悪な能力なことは間違いないわよ。魔法を変性、変質させるって」
「そうだろうな」
「変性って言っても性転換じゃないわよ」
「わかってるよ」
「変質って言っても変質者じゃないわよ」
「わかってるよ。それじゃタリュートゥが変質者みたいで可哀そうだろ」
「そう? あたしとしてはちょっとくらいそう言うところがあってくれてもいいのよ」
羽春はそう言ってため息をつく。
「あんまり変なことを言うんじゃねーよ。前から思ってたけど、そういうネタは控えろよな。同僚の立場でもきついのに親の下ネタとか最悪だからな。魔王様の教育にも悪いよ」
「そうは言うけど、そもそも魔王の教育なんて何が正しいのかなんて分からないじゃない」
「そりゃまあ、そうなんだけどさ。帝王学みたいなことを教えなくていいのかね」
「帝王学って、あんた内容知ってるの?」
「いや、知らない」
「もう一つ言わせてもらうと、あたしが教育に悪いっていうけど、あんただってどう見られているかわからないわよ」
「どういう意味だよ」
「あんたの状態異常を駆使した戦い方が嫌らしいってもっぱらの評判よ」
「ここで言う嫌らしいってそういう意味じゃないだろ」
そんな会話をして羽春は辰人の待つ魔界へ向かった。
真洋は朝太が雑草を取り始めたので手伝うために庭へ出た。
「お待たせー」
羽春は辰人の待つ魔王城の一室に赴いた。
「あたしは何をすればいいのかしら」
「それを説明するために私が調べたことをお話ししておきます」
「分かったわ」
「魔王様が若返りのための時間を戻す術を行うにはいろいろ手順が必要だと分かりました。その手順の一つに魔力を取り出しておくということがあります。年老いた肉体から魔力を分離し、肉体を若返らせたのちにその魔力を体に戻すわけです」
辰人が資料を見せながら羽春に説明を行う。
「なるほどね。そうやって魔王様は若い肉体と長年積み重ねた強力な魔力を同時に手に入れるはずだったのね」
「ええ、ですから魔王様の魔力を封じたものが魔王城のどこかにあるはずです。魔力が漏れている可能性が高いですから、あなたにはそれを探してほしいのです」
魔物やマジック・アイテムからはうっすらと魔力が放たれているものなのだ。ハハルアピはその魔力を探知することを得意としている。
「ええ、やってみるわ」
ハハルアピはそう言うと意識を集中し、周りの魔力を探る。
「玉座の間の方からわずかに不自然な魔力の流れを感じるわね」
「魔王様の玉座ですか。調べてみる価値はありそうですね」
「まさか玉座の後ろに隠し階段があるんじゃないでしょうね」
「そんなことは……あり得ないとは言えませんね」
玉座の後ろに隠し階段。伝統的な隠し通路は魔王のロマンである。
そんなこんなで玉座の間にやってきたタリュートゥとハハルアピ。主を失った玉座が赤いじゅうたんの上に置かれている。
「どうも玉座の辺りから魔力を感じるのよね」
「ずっと魔王様が座っておいででしたからね。魔力が残っていたのかもしれません」
「うーん。でも、もっと下から魔力が流れて来ているようなのよ」
「玉座の真下に隠し階段があるのでしょうか。そこまでして隠したい何かがあるかもしれません。それが魔王様の魔力であってくれればよいのですが」
「あら。この玉座、動かしたような跡があるわね」
玉座を観察していた羽春が床に敷かれた絨毯にそんな痕跡を見つけた。
「魔王様が儀式の前に動かしたのでしょうか。やはりこの下に何かあるのでしょうね」
「でも、動かしたのはもっと最近、儀式よりも後な気がするのよね。それにほら、この玉座ってもともともっと手前にあったんじゃないかしら」
「確かに位置のバランスが変わった気がしますね。どういうことでしょうか」
「おそらく、部屋を掃除するときに動かしてそのあと元に戻さなかったんじゃないかと思うわ」
「……ちょっと仕事が雑なようですね」
「それで、どうするの。玉座を戻して隠し階段を探すのかしら」
「ええ、そうしましょう」
そう言うと辰人は重そうな玉座を軽々と持ち上げると本来の位置に戻した。
「ここに隙間があるわね」
玉座の間のじゅうたんの下は大きなタイルのような床石を敷き詰めたようになっていた。玉座のあった場所の床石間の一部に指先を入れることができるくらいのスペースがあり、持ち上げることができるようになっている。
「罠があるとも限りませんから慎重に探りましょう」
そう言って辰人は床石を持ち上げる。その下から階段が出てきた。
「やっぱり隠し階段があったのね」
「魔王様こういうこと好きそうですからね」
「この階段の下から魔力を感じるわよ」
「調べてみましょう」
階段を降りた先は一本道の通路になっており、つきあたりには小さな部屋があった。
「魔力の発生源はこの中ね」
ハハルアピの言葉を聞き、タリュートゥは部屋の扉を開ける。
「ここは魔王様の隠し部屋でしょうか」
「見て、宝箱があるわ。この中に魔力を発する何かがあるわね。これがあれば魔王様はお力を取り戻せるのかしら」
「魔王様の魔力であれば、そうなるでしょう」
「逆にこれがなければ魔王様は元の魔王様に戻れないのかしら」
「どうでしょう。時間をかければ戻るかもしれません。おや、止まってください。宝箱の周りに罠のようなものがありますよ。うかつに足を踏み入れると魔法が発動するようです」
宝箱の周りに魔法陣が描かれていた。
「やーね。でも、厳重に守られているってことね。期待が持てるわ」
「どうやら足を踏み入れると強力な電撃が流れる魔法陣のようです。私が一時的に電撃の出力を下げておきましょう」
「いつ見ても魔法の改変は見事なものね」
辰人と羽春は宝箱の前までたどり着いた。
「開けてみましょうか?」
「ええ、私がやりましょう。この中にあるのが魔王様の力の源のようなものだとしたら丁寧に扱わないといけませんからね」
タリュートゥは宝箱を開けた。
「これは……」
「ただいま」
辰人と羽春が魔王城から戻ってきた。
「おかえり。それで、仕事はうまくいったのか?」
真洋が成果を尋ねる。
「空振りでした」
「魔王様のコレクションを見つけただけだったわ」
「コレクション?」
「それはね……」
「マジックアイテムや魔導書といったものです」
羽春の言葉を遮るように辰人が答える。
「それと同人誌ね」
羽春が答える。辰人は隠そうとしたようだが無駄だった。
「何を隠してるんだよ、魔王様は」




