第一章 悠久の塔 第七層 TRS OBTdate.3 その5
俺は手に持っていた羊皮紙を再び祭壇へ置いた。
それにしても、普通こういったアイテムなどはUIにメッセージとして表示される場合が殆どだが、羊皮紙にちゃんとメッセージが書いているのは非常に珍しいパターンだ。
果たして何か意味があるのだろうか。俺は少し首を傾げて考えるが、これは考えさせるだけの罠か、もしくは雰囲気作りと判断した。
その時、姉たちの声が聞こえなくなる。
(グループチャットに切り替えたのか……)
そう考えて、俺たちもグループチャットに切り替えた方がいいと思い、メッセージチャットでシャッハたちに通知してグループチャットに切り替えた。
『はぁ……と、とにかく、奴隷は何とか片付けた……けど、回復アイテムもほぼ無いから何かあったら確実に詰む……』
と、疲労困憊な声のシャッハ。
俺が悩んでいる合間にオリスキを使ってまで殲滅したのだろうけど、そこに敵が湧かないとは限らないことを考えると危険な判断をしたのではないか……。
『再度、敵が湧いたら終わりでござるが、どうやら今いる部屋には扉があるのでござるが鍵が掛かって出れないようでござる』
「ま、そうだろうな。それにここのエリアの扉は基本的に一方通行のところが多いみたいだ……」
『また、面倒なマップでござるな』
そう言いながらナギリは少し残念そうな声を上げる。彼はかなりの謎解き系のゲームマニアで先日も二人で『ナイト・フォグ ジ・エンド・オブ・シーカー』の攻略で盛り上がったばかりだ。
とりあえず、彼らは奴隷部屋に囚われた状態だ。早く合流、いや助けないとマズそうだと俺は気を取り直し祭壇の下を覗き込んだ。
しゃがみ込んで祭壇を覗き込むと箱のようなモノが壁に埋め込まれており、箱の表面には8×8に配置された四角い木で出来たボタンのようなモノがあった。
(このボタンで何かのパターン、文字か何かを作るようにボタンを押せってことなのだろうか……)
俺はどこかにヒントが無いか、再び立ち上がり部屋を見渡す。どう考えても怪しいのは壁に掛けられている絵だ。
ひとまず、壁の絵は8枚あってどれも『狂人の王マシウス』に関するモノでパッと見たところ特に変わったところは無さそうだった。
(やっぱり、この手だとアレかなぁ)
俺は絵を手に取れるかどうか確認する。壁にあるオブジェクト類を手に取ることが出来る場合とそうでない場合、普通は見た目で判断出来るように視点を合わせると色が変わったりするモノなのだ。しかし、ここのフロアを制作した人達は本格的な謎解きゲームが作りたかったのか一見だと動かせるオブジェクトなのかどうかさえ分からないようにしてある。
俺は絵を手に取り裏を確認するがそこには何も書かれていなかった……。
(ただの嫌がらせだな……ここまで来たら)
何も書かれていないが、額縁の淵にナイフで付けたような点から始まり線が刻まれたモノが2種類あった。他の絵の裏にも同じように点と線が刻まれており、全部で16種類あった。
箱には8×8、点から始まる線が16種類。これは絶対に関係あることは確実だろうけど、何を意味しているのか考えないといけない。
俺はメモパッド機能を使って点と線を書き写す。
書いているウチに点が順番を表している事に気が付き、点を順番通りに並べ直して確認する。線は縦に一本、十字のモノ、縦線に横に線が三本、四本もしくは五本入ったモノがあった。
(これも数字なのか……)
全部で16行ある数字の羅列を眺め箱の事を考えると数字ロジックなのは確定だけれど、縦と横がどちらかが分からない。
また、ここのゲーム会社の作りは非常に意地が悪い。ミスをしたらトラップが発動して死ぬとか――と、いうのも無くは無い。
『クーさん、まだかなぁ~』
「はぁ、まだだよアコちゃん……今、数字ロジックを解いてるところ」
『えー、ナニソレ?』
『アコちゃん、クオン殿の集中力を破壊するのはイカンでござるよ』
「あはは、別に構わないよ……はぁ、なんでアクションゲームなのに、こんな謎解きしてんだろうなぁ~」
俺の言葉に皆が『確かに』と声を上げた。
再び溜息を吐いて、とりあえずトライだと心の中で呟いて祭壇の下にある箱の前に座りメモパッドに記したメモを見ながら箱のボタンを押していく。
はじめが縦ではじめの数字は押さないパターンでボタンを押していく。
正直言って8×8であればそこまで複雑な絵が使われていることは絶対に無いハズなので数独より簡単だ。
(2、1、2、1、2……1、2、2、2、1……)
絵を確認した時になんとなくマシウス関連のモノがヒントになっていると思っていたのでマスを埋めていく段階である程度答えが見えて来た。
これはマシウス家の封蝋の『M』の字だ。しかし、こんなクエストでチラリと触れただけの内容を覚えてるヤツなんて殆どいないし、これみんな絶対に攻略サイトを確認しながらプレイすると思うぞ……。
俺はそんなことを考えながら最後のマスのボタンを押す。
カチリ、と奥の方で金属音がし、その後にギリギリと木がこすれ合うような音が鳴る。その後、音が大きくなり金属のギアが擦れるような音が響き、箱が壁へ吸い込まれていった。
箱が消えた後、祭壇の下の壁が左右に開き隣の部屋への抜け道へと変化する。
(無駄なギミックだけど、これって太ってるヤツだと通れるのか?)
俺はそんなことを考えながら隣の部屋にやっと移動し、再びスタート地点へ戻って来ることが出来た。
さて、やっと元の場所に戻って来たわけだけど。
(たぶんこれが鍵なんだろうけど……)
祭壇の上にあった鉤状のオブジェクトなのだが、鍵にするには大きすぎるし本数が三本もある。
再びさっきの部屋にある羊皮紙に書かれていたことを思い出す。
『行きたければ祭壇を抜けよ』と言う部分はクリアした、その後は『鉤は鍵となるが使うには大いなる祝福が必要となる』という部分だ。
この祭壇の上にある鉤状のオブジェクトが鍵になるのは確定だけど、使うには『大いなる祝福』がいるらしい。祝福とは何だ?
ここは彼の知恵を借りるか……。
「ナギリ、ちょっと一緒に考えて欲しんだけどさいいかな?」
俺の言葉にナギリは快く了解し、状況を説明した。
『うーん、やっぱり情報が足らんでござるなぁ。可能性としてはその三本の鉤をどこかに持って行って鍵に変えるということなのでござろうなぁ』
うん、予想通りの返答だった。
情報が足りないのは確かだよな……。
解決方法は俺がこの部屋を出て、他の部屋を調べるってことだろうなぁ。
この部屋にしても触れる事が出来るオブジェクトやヒントがある場合、色が変わって見えると思い込んでいたところがあったせいで鉤状のオブジェクトが手に取れるアイテムだと思っていなかった。机や椅子にしてもそうだ。
俺はまだ調べていない机と椅子も調べた上でこの部屋を出ることにしようと思い、まずは椅子に座り机を調べることにした。
机の上は何も無くもたれ掛かると潰れそうなくらい貧弱なモノで椅子にしても体重があるヤツが乗ると潰れるだろうボロボロの椅子だ。形状は丸い板で裏にも特に何も無くとにかく感想としては『ボロくて貧弱』と、いった感じだ。
椅子も机も調べたけれど何も無く、仕方なく部屋を出る決心をして祭壇に置いてあった鉤状の物を手に取る。しかし、部屋の外の通路には爆走トロッコが定期的にやって来ることを考えると急いで次の部屋へ移動しなければいけない。
考えると考えるだけ頭が痛い……と、思いながらもどうにかしないといけないという使命感に駆り立てられ扉に手を掛ける。
ゆっくりと扉を開けると、丁度トロッコが走り去っていく姿が見える。
(これでしばらくは来ないか……でも、急がないといけないな)
俺はまず一番西側の扉へ向かった。
扉を開け、中を見ても敵の姿は無かったが慎重に部屋へ入る。扉が閉まると同時にカチリと音が聞こえる。
(ここも一方通行か……)
この部屋には先ほどの簡単に壊れそうな机が沢山並んでいて、まるでホラー映画に出てくるような遥か昔の教室のようだ。
(嫌な予感しかしないよな……)
ホラー作品だとこういうのは謎の影とかが現れたり、机が勝手に動きだしたり、黒猫が現れたり――はたまた妙に青白い子供に服を引っ張られたりというのが出てくる。
さすがにそこまでは無いだろう。このエリアは『狂人の王マシウス』に関連した作りになっているだろうから、この部屋はクエストシナリオであった『マシウス討伐』で出てくる『アラシオン神殿』の一室であり、作戦会議室で出て来た部屋だ。
このゲームにもレイドと呼ばれる大規模戦があり、対魔物《PvE》でのメインコンテンツの一つで『狂人の王マシウス』、『魔人グラファス』、『竜王ブリガンティア』、『死の支配者イノセンティウス』の4体おり、それぞれのストーリークエストをクリアしなければレイド戦へは参加することが出来ない。
クローズテスト中は『狂人の王マシウス』と『魔人グラファス』しか実装されていないのだが、ほとんどのプレイヤーはレイド戦をするまでに達しておらず俺たち含めクローズ中にレイド戦をやったことがあるプレイヤーは2、30名程度しかいないハズだ。
マシウスのストーリーは賢王として名を馳せたマシウスが『炎の呪い』によって狂人となり国中を呪いによって支配した。呪いを受けた人々はゾンビのような姿となってマシウスの奴隷となる――みたいな話だ。
このフロア全体が『アラシオン神殿』と少し似ている気はするけれど全く別物だ。
あのクエストはとりあえず戦闘数だけが多くて面倒でギミックの類は一切なかった、現状とは真逆だ。
俺は気を取り直して部屋を見渡す。
陰鬱な雰囲気漂う教室のような部屋だがボロボロの小さな机と椅子が20組ばかり、大きな黒板には『嫌われ者を探せ』と書かれていた。
(何をもって嫌われ者なのかを調べないとな……)
俺はそんなことを考えながら机と椅子を見る。
机と椅子はちゃんと数えると21組あり、どの机も椅子も同じオブジェクトを配置しているように見えた。
こういう謎解きの場合、嫌われ者と言えば仲間はずれを探すパターンだ――が、しかし、どう見ても机も椅子も同じでパッと見で全く分からない。
(こりゃ難題だな)
部屋は長方形で窓も無い、出入り口はひとつ。床はボロボロの板を張った床だ。
そして、まさかと思い天井を見上げる。しかし、残念ながら普通の天井で特に何も変わったことは無い。
と、すればいったい何が嫌われ者であるか……。
(やばいな、全然思いつかないぞ)
俺は焦りながら、机や椅子を調べながら部屋の中を徘徊するが全くもって何も見つけることが出来なかった。
他に何か……何か違う何かは無いのか?
こんなところであまり時間を費やすわけにもいかないという焦りで何かを見逃しているような気がするが、表示されているキーワードから答えに結び付くような物が見るかる気配は無かった。
(はぁ、落ち着け……落ち着くんだ……)
俺は心の中で幾度も呟き、目を瞑ってこの空間を脳内で再生する。
これは気に入っている海外ドラマの謎解き時に行うルーティンのマネではあるけれど、意外に使えることが分かって最近マネしていた。長方形の部屋、並んだ机と椅子、後は黒板。そこに書かれているのは『嫌われ者を探せ』だ。
そして、『嫌われ者』というキーワードだ。
ここは教室のような雰囲気だが、教室では無く『マシウス討伐』のクエストでも出て来た『アラシオン神殿』の作戦会議室と同じ作りの部屋だ。
作戦会議室で嫌われているヤツは誰だ?
そう考えた瞬間、俺の中で何かが閃く。
(そうか、作戦会議室で嫌われてる。これは教室でも言えることかもしれない……)
俺は黒板を調べることにした。教室や作戦会議室で嫌われ者と言えば《《教師》》や《《司令官》》だ。その存在はいないが、それらが立つべき場所で主にそれを使うと物であるとすれば答えは『黒板』ということになるだろう。
黒板の大きさは壁の半分程度でそこまで大きいモノでは無い。当然、現代ではこのような黒板は古い学校でもほとんど使われてはいないハズで、俺も実物を見たことは無い。
しかし、どういうモノであるか。と、いうことはアニメや映画で見ているので知っている。チョークなどの存在も無く、黒板消しもここには無い。
俺はこの部屋で唯一何かを入れる事が出来そうなチョーク入れを引き出した。
そこにはチョークが5本入っていた。
(あれ? もしかして俺、間違ってた?)
チョーク入れに入っていたチョークは白が四本、赤が一本。
赤のチョークが仲間はずれなのだが……いや、これはトラップなのだろうか、それにしても黒板にも何もなかった気がしたのだが。
俺は赤いチョークを手に取り何か変わったところが無いか調べる。
どうみてもただの赤い粉っぽい素材で出来た棒で何かあるとは思えない物体だ。
(いやぁ、ホント……これは意味が分からないぞ)
見逃した場所が無いか、再び黒板を調べることにする。
ネットダイブ中は汗をかくなどの感覚は無いのだが気分的に汗が垂れるような気持ちになる。これは焦っている時に感じる感覚なのだが、きっと現実世界の俺は汗びっしょりなのかもしれない。
よくよく黒板を調べていると右側の端の奥側に直径1センチほどの穴が開いていた。
(こ、これか!?)
俺は試しに穴に赤いチョークを入れてみる。
ゴゴゴゴゴ……と、低い音と共に黒板が床に入っていく。
ぼちぼちですが、書いてはいるんです(・ω・)
ま、他のヤツも書いてるってのはあるけどね。
模擬戦闘競技の最強乙女!?の方も大体毎日朝9時に更新してます。




