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第一章 悠久の塔 第七層 TRS OBTdate.3 その3

 愚弟《クオン》達のやり取りを聞きながら私達は現状把握をする。


 とりあえず愚弟《クオン》の邪魔になってはいけないと思いグループチャットを作りこちらで会話をするように傍にいるメンバーに伝える。


「にしても、ホントにこのゲームというか……ここの会社のRPG系はバランスが変よね」

「確かにそうッスね。詰め込みすぎて何がやりたいのか分からなくなってるって感じッスね。まぁ、課金の仕組みもいつもながらクソだけど」


 そう言いながらも味噌汁《ミソスープ》は狩猟万歳で狩猟ランク999の廃ランカーであり、随分と装備や色んなアイテムに金を掛けていた経歴のある人物だ。色んなゲームでも結構課金しているようで、ゲームの為に仕事をしていると言ってもいいくらいのヤツだ。


「きょ……じゃなかったクオン大丈夫かな?」


 しょこらんは不安そうな表情で言った。彼女は愚弟《クオン》のこととなると周りが見えなくなる傾向がある……うん、まぁ、仕方ないのは分かってるけど。愚弟《クオン》が愚(・)弟《・》たらんとしている要因がある以上、彼女のことを見ていると辛くなる時がある。


 ま、それは私がどーにかしてあげようじゃない。とか、勝手に思ってるのだけど……最近、どうも私生活では彼女の私に対しての保護者ぶりが強くなってきている気がしてならないわ。


「ま、愚弟《クオン》はゲーム馬鹿だから、なんとかするわよ」

「ですよね」


 少し安心したのか、彼女はホッとしたような表情を浮かべる。


 ただ、自分たちもこれからのことを考えないとパーティーが全滅してしまう危機ということは変わりない。正直、ゲームなんだから全滅しても失うモノなんか何も無いのだけど、ここにいるメンバーの殆どはそうは思わない。


 それはみんな『負けるのはイヤ』という負けず嫌いが多いからだ。


 特に私が一番その想いが強いのは自覚している。

 私の存在理由と言っても間違いじゃない。とにかく負けるのは悔しくて辛くて寂しいモノなのだ。


(まぁ、勝つのが楽しいと言った方が正解かな……)


 勝つ楽しみを知ってしまったせいで今の仕事をしてるわけだし――と、私は考えながらも表情を崩さないように気を付けた。


「さてさて、まずは可能な限り愚弟《クオン》達と合流出来るように努力しよう。とりあえず情報収集して、慎重にマップを攻略する方向で動きたいけど異論がある人はいる?」


 私の言葉にみんな即答で『異論無し』と返答が返って来る。


 今いる場所は『悠久の塔 第七層-僥倖なる神殿-3』だ。マップを確認したところ第七層のスタート地点から最も離れた位置と言っていいだろう。愚弟《クオン》達がいる場所からも随分離れている。


「この部屋は広いわりに敵が居ないってところが逆に不安ッスね。それにクオン達の方はマップギミックが多い場所みたいッスし」

「そう考えると、こっちもそういうギミック満載の場所な可能性があるわね」


 私はそう言いながらマップの構成を考える。まずマップタイトルに数字が付いていて同一の階層ということはマップ内が幾つかのセクションに分かれていると考えるのが妥当だとして……。


「本当にマップがちゃんと繋がってるんッスかねぇ~、転移トラップで移動しないといけないとか……ありそうじゃないッスか?」

「はぁ、ミソちゃん……それを言ったらテンション下がっちゃうわ」


 味噌汁《ミソスープ》に対してカレンが溜息を吐く。私も実はチラリと考えていたことだけど、確かに言われるとテンションが下がってしまう。


 でも、愚弟《クオン》であれば似たようなことを考えるんだろう。アイツはどんなゲームでも単純に作り手の考えそうなことってのを考えながらプレイしている。私は正直それを見ていて楽しいか疑問に思っていた。


「とりあえず、この部屋の隅々まで調べて、ここから出ることにしましょ」


 ひとまず愚弟《クオン》みたいに無駄なことを考えていても仕方ないと思い、私はそう言った。


 現状、シャッハ達と比べてこちらの方が戦力的バランスはマシではあるが回復《ヒーラー》はいるが支援《サポート》はいない。能力の上昇などのバフが得れないのは同レベル帯の敵が出現するマップでは非常にマズイ。


「出来れば可能な限り戦闘の類いは避けたいところ……」

「あら、好戦的なるかちにしては気弱な発言ね」


 カレンが言った言葉が私の胸にチクリと刺さる。確かに好戦的だと言われれば、確かにそうだと自分の中でも思っている。しかし、こういった状況では弱気というよりより慎重なだけだ――と、自分の中で言い訳をする。


「確かに弱気なのかもね……でも、全滅するのはもっと悔しいでしょ?」


 と、私はカレンに言うと『ま、そうよね』とカレンはイタズラな笑みを浮かべながら言った。


「それにしても、この部屋は何もないッスね」


 味噌汁《ミソスープ》はそう言いながら壁や床を叩いていた。そんなところを叩いても何も出てくるわけないでしょ……と、私は心の中で呟きながら再び部屋の中を見渡す。


 神殿系のマップでよくあるタイプの荘厳な作りの部屋で特に気になるオブジェクトも無い。ただ、何故気にしていなかったのかと思うことに気が付く。


「はぁ、なんでこんな変なことに気が付かなかったのかしら……この部屋、扉が無いわ」


 私の言葉にみんなが『ホントだ』と呆れたように立ち上がって部屋を見回す。

 部屋の広さは約3、40メートル四方の広くて何も無く壁にそって数本の柱があるけれど、特に変わった様子は無さそうだ。


「敵もいなければ、扉も無いって……どうしたらいいんだろう?」

「とにかく、何か仕掛けがないか探すしかないわ」


 ここに来て、味噌汁《ミソスープ》の行動が間違っていないのかもしれないと私は考えつつ妙に腹立たしいモノを感じる。


(はぁ、とりあえず冷静に調べるしかないってことね……)


 私はそんなことを考えながら床を見る。

 特に何の変哲もない床――と、一瞬だけ思ったけれど、かなり特徴的な床だ。素材は大理石っぽいけど、そこには溝が彫ってあり歩くとその溝に足を引っかけてしまうのではないかと思う。


「この床の模様って何なんッスかねぇ」


 味噌汁《ミソスープ》も同じところに気が付いたようで床の溝を手でなでながら調べつつ言った。他のメンバーも床が気になっているようだ。


「ヒールとか当てちゃったら、私確実にこけそうなくらい深い溝だよね」

「ヒールじゃ無くてもこけるわよ……」


 私のツッコミより早くカレンがしょこらんへツッコミを入れた。


 カレンのツッコミ速度は非常に早い。聞いたところによると関西出身らしく、そうとう日々、訓練されているのだろう。


「にしても、この床がキーのようね。ひとつのタイルで見ると同じ模様だけど、不規則に並んでるようにしか……見えないわ」

「るかちは謎解きって得意な方?」


 カレンはしゃがみ込んで床を調べながら言う。ここで聞いてくるということはカレンは得意では無いのだろうと、私は思った。ただ、聞くというのはカレンも私がこういうのが不(・)得《・》手《・》だと思っているのだろう。


「で、カレンは私が謎解き得意だと思ってるのかしら?」

「思ってない。どちらかというと私と同じタイプだと思ってるし」

「ま、正解かしら……」


 私の返事にカレンは『ま、そうよね……』と呟いた。


「あ、ちなみにッスけど……」

「味噌汁《ミソスープ》は言わなくても分かるから。んー、愚弟《クオン》かナギリがいれば楽なのにねぇ」


 愚弟《クオン》はサスペンス系のコンテンツとか謎解きギミック満載の名作ゲーム『ナイト・フォグ』シリーズとかも何百時間ってプレイしている。私的に言えば彼は変人だ。また、ナギリはその手のゲームマニアでウルトラオールドゲームと呼ばれる8bitや16bit時代の骨董品であるゲームを多くプレイしており、謎解き系のゲームにも造詣が深い。


「しょこらんも苦手だよね?」


 カレンは確認するように言った。カレンの言葉に彼女は苦笑しながら申し訳なさそうな表情を浮かべた。私は心の中で聞かなくてもわかると思いながらもカレンの考えも分からなくはない。しょこらんに対して意外性を求めただけだろう。そんなことを考えながら、私は再び苦手な謎解きを考える。


「アクション系のゲームなのに頭だけ使わせるコンテンツなんて意味ないわよね」

「るかち……ぼやいても意味は無いわよ」

「考えようとすればするほど、文句を言いたくなるのよ」


 私の言葉にカレンはボソリと『そうよね』と呟き溜息を吐いた。

 改めて見渡したけれど、溝の高さが違うとか――そういうのも無く床のタイルの方向がバラバラでただのモザイクパターンにしか思えない作りだ。壁に関しても柱と床と似たようなパターンの溝が入った壁があるだけだ。


「壁と床のモザイクパターンが何か関係があるのかな?」


 しょこらんが壁の方を見ながらそう言った。

 確かに床のモザイクパターンと似通った模様が壁にも入っているようだけど、特に意味があるようには思えなかったけれど愚弟《クオン》がいればそういうところをまずチェックしようというだろう。


「壁と床の関係を考えてみようか」


 そう言って私は皆を引き連れて壁の方へ近づいた。

 壁は小さな柱と柱の間に模様がある壁があり、横幅は2メートル、高さ3メートルといった感じだ。また、床に比べると浅いが同じ模様が刻まれている箇所と真平らに箇所がある。


「柱から柱の間を一枚と考えるのか? 一面で言えば10枚くらいあって、正方形の部屋だから壁自体は40枚あるわけね……」

「るかち、この壁の模様があるところは正方形だから部屋と同じってことなのかな?」


 しょこらんは平らな箇所に手を触れながらそう言った。


「本当ッスね。パッと見て同じかどうかは分からないッスけど、部屋を表してるみたいっすねぇ」


 味噌汁《ミソスープ》が部屋を見渡しながらそう言った。

 確かに、壁の模様と床の模様の縮尺が部屋と同じくらいのサイズで描かれているけれど床と壁の模様が同一かどうかは見ても分からない。それに隣の壁を見ても、違いがあるかどうかは正直解り難い。


「別のナニかがあるのかしら……はぁ、ちょっとイライラしてきたわ」


 カレンが溜息を吐きそう言った。


 正直、私もイライラしてきている。敵や人の動きを読んだり身体を動かすのは得意だけど、ただ頭を使って考えるだけというのは本当に勘弁して欲しい。


 そう思いながら思わず壁を殴ってしまう。

 次の瞬間――微妙な効果音が鳴り、壁が一瞬青い光を放つ。


「ちょ、るかちってばナニしてんのさ」

「いやー、このイライラを壁にぶつけただけなんだけど……」

「か、カレンさん、るかち……ゆ、床が、光って!?」


 しょこらんの声で部屋の方を見ると、壁と同じように床の溝から光が放たれる。

 しかし、その色は赤黒い色でその色味は嫌な気配を漂わせており、皆は素早く警戒態勢に移る。

 床の溝を走る赤黒い光は部屋の中心へ向かい三つの塊へ変わっていく……。


「これは……意外と単純な仕組みなのかしらね」


 赤黒い光の塊はジワジワと実体化していき、そこにモンスターの姿へ変化する。

 そこには『マシウスの奴隷』より強い『マシウスの親衛隊』という姿こそ奴隷とあまり変わりないゾンビのような見た目の魔物《モブ》で違いと言えばボロボロの皮鎧では無く、ボロボロの貴族っぽい服を着ているところだ。


 親衛隊の持つ武器は折れ曲がったレイピアで折れ曲がっているせいで通常のレイピアより威力は低いが躱す難度が高い。


「盾がいないと厳しいかもしれないわね……」

「味噌汁《ミソスープ》がいるだけマシよ。しょこらんとカレンは後ろ、私がタゲとってなんとか耐えるから……味噌汁《ミソスープ》は凍結散弾で1体でも止めて」

「イエス、マム!」


 味噌汁《ミソスープ》はそう言って素早く武器と弾薬を交換して現れた親衛隊の3体のうち左側の1体へ向かって凍結散弾を撃ち込む。


 凍結散弾は<停滞《ステイシス》>と<鈍足《スロウダウン》>の効果を持つ特殊散弾だ。凍結散弾は他の散弾と比べて散弾率が低く複数のターゲットに効果を与えようとすると、かなり近距離に纏めてから撃たないといけない使いにくい魔弾だ。


 私は接敵して右側の親衛隊へ向かってスキル<閃光刃《フラッシュブレード》>を放つ。

 <閃光刃《フラッシュブレード》>は衝撃波を飛ばし敵にダメージを与えれる戦士《ストライカー》の数少ない遠距離攻撃のひとつでタゲ取りにも有効で非常にヘイト値の高い攻撃でもある。


 <閃光刃《フラッシュブレード》>を喰らったマシウスの親衛隊はヒットモーションをキャンセルしてこちらに突進攻撃を仕掛けてくる。この突進攻撃は直線的な攻撃なので躱すのは難しくなく、正面のもう1体に<飛燕脚>を放ちその移動モーションで敵の攻撃を躱しながら敵のターゲットを取る。


「さて、2体分を躱せるかしら……!?」


 もう1体もさきと同じようにヒットモーションをキャンセルして攻撃を放ってくる。距離によって攻撃モーションが変わるのは分かっていたが敵の横薙ぎ払いに反応は出来たが完全に躱すことが出来ず仕方なく刀で受け流す。


 刀での攻撃受け流しは小さい反動ダメージを受ける仕組みけれどもディレイが発生して相手より先に動くことが出来なくなり状況的に不利になってしまう。


 敵は連携するようにさらに追い打ちを放ってくるがヒット位置を計算するとギリギリ躱せるかどうかの距離ではあるけれどディレイのタイミングを考えても……。


「くっ、数フレーム数足りないっ!」


 <蒼天霹靂《せいてんのへきれき》>を使用すれば私へのダメージは回避出来るけれどタゲがすべて外れてしまう問題を考えると使えない。


 マシウスの親衛隊2体が同時に折れ曲がったレイピアを振りかぶり素早い攻撃を繰り出す。私はそのレイピアの軌道を見ながら1体の攻撃を強引に躱し、もう1体の攻撃をバク転で躱そうとしたけれど剣先が私の左太ももの肉を切り裂く。


 当然、痛みはないけれどナニかが通る感覚は分かる。ネットダイブを使った体感ゲームを普通の人より多くの時間やっていても気持ちの良いものでは無い。


「くっ、かすっただけでこのダメって間違ってるわ……」


 ライフゲージが想定より速い速度で減るのを確認して思わず愚痴を零す。


 私の動きに合わせてしょこらんは素早く<超回復《ハイヒール》>を唱え一瞬でライフは元通りになるが、ヤツらの猛襲は止まることは無い。


 後方からカレンがヘイトを上げないように最も効率の良い魔弾攻撃で敵の体力を削っていくけれど正直、火力不足に苛立ちを感じる。


「はぁっ、投げ技があったら……まだ楽なのにっ!」


 と、思わず口にしてしまうが、投げ技なんて存在したら色々とバランス崩壊してしまうだろう……ま、そんな事を考えても意味は無いけど。


 思わず愚痴っぽいことを考えつつ苦笑している最中、味噌汁《ミソスープ》以外の面々が狭い部屋の中を敵2体と鬼ごっこをするように移動しながら回避、攻撃、回復を繰り返していた。


 なお、味噌汁《ミソスープ》はその間、残った1体を凍結散弾と蜘蛛糸の罠(スパイダートラップ)を交互に使うことで完全に動きを止めている。


「にしても8人ならこんな苦労しないのに……っと、これで1体撃破っ!」


 敵の残り体力を確認して手を出して1体撃破する。それでも正直、親衛隊は1体でもかなり面倒くさい。位置取りをミスると親衛隊は必殺攻撃の特殊スキルを持っているのでタイミングをミスるわけにはいかないからだ。


「きゃっ!」


 その時、移動中のしょこらんが躓きカレンと接触する。


 どうやら、地面の凹凸に引っかかったようだ。しかし、運が悪いことに接触したカレンが攻撃をするタイミングだった為に違う方向に攻撃をしてしまった。


「マジっすか!?」


 凍結散弾は<停滞《ステイシス》>の効果ではあるけれど他のプレイヤーからの攻撃で解除されるというデメリットを持っていてこれによってカレンにターゲットが移る。


 目の前の1体を躱してカレンへ向かう親衛隊のターゲットを取るにはどうする?


 と、瞬時に考えた私はバックステップと同時に刀を鞘に戻し、左足で大地を踏むイメージで踵を着け、体を落とし必殺の構えをするのであった。


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