第一章 悠久の塔 第七層 TRS OBTdate.3 その2
竜の咆哮がまるで世界を震わせるような衝撃波を生み真っ暗な通路内でみな吹き飛ばされる。吹き飛ばし効果に対しては上手く対応すればほとんどダメージは喰らわないけれど狭い場所では壁などに当たった時の衝撃ダメージには気を付けなければいけない。
「さすがにこれだけ暗いと足元に何かあったらマズイな」
いつもならスグに反応が返って来るはずなのだがドラゴンの歩を進めるごとに起こる地揺れだけ響く。
「どういうことだ?」
何かのバグか音が聴こえないのか……周りにも誰もいないようにも感じ何が起こっているのか分からず混乱する。さっきの瞬間に全員死んだとしても音が聴こえないのは理由が全く見えてこない。
とりあえずパニックになっていてはいけないと周囲を警戒しながら呼吸を整え、これまでの経緯と現状確認を行う。
通路で姉が『イイこと思いついちゃったわ』と言ってそのアイデアに乗ることにした俺たちは前面にいた奴隷4体を魔銃士メンバーが引っ張って全員で叩いて排除した。
そのまま急いで左側の通路へ逃げ込むように滑り込み、無理やりドラゴン系モンスターの脇を通り抜けた――ここまでは問題無かった。
ドラゴン系の魔物は自身の周囲に対しての反応が鈍く反応が遅れるのを利用して脇を抜けて通り抜け面倒な戦闘を避けるという手があり、通路の奥に何があるか分からないが正面突破するよりもいいだろうという判断で行ったのだが……。
俺たちは通路に入ってドラゴンをダッシュで抜け、後悔することになった。
脇を抜けたドラゴンは『嵐竜のドルドル』では無く『地殻のバルバロッサ』でドルドルと色違いのタイプではあるのだがドラゴンの中で最も周囲の反応が良い代わりに遠距離からの攻撃には鈍いというタイプだった。
それでも1体だけであれば戦闘すれば何とか出来るレベルではあったのだが、抜けた先にもう1体のバルバロッサがいて目が合ったアコちゃんが思わず大きな声を上げたくらい驚いた。
姉の一声でさらにそいつの脇を強引に抜けたまでは良かったが、通路の暗さのせいで全員の位置をキチンと把握できないくらい焦っていた……。
ドラゴンを抜けたと思った瞬間に<激しい咆哮>を喰らって全員吹き飛ばされたのだ。それくらいで全滅するメンバーでは無いので別のナニかがあったとしか思えない状況だ。
そして、現状はどうだ? 俺は暗い中の周囲を見渡すがうっすらと見える複数体いるドラゴンの姿と瓦礫の影だった。そして、じわじわと自分の周りの音が聴こえてくる……どうやら<激しい咆哮>の副効果にあるバッドステータス付与の効果があるのは確かだが、今回のような効果があったかは覚えていないがきっとそういうことなんだろう。
とりあえず身を隠す為にステルス用のアイテムを使用して姿を消し、暗い通路にある人が一人二人入れそうな窪みに身を隠す。やり過ごすことは出来ないだろうがしばらくは見つかることはないだろう。
「そうだ……」
俺は思い出したようにパーティーリストを表示して誰がどこにいるか確認することにした。かなり焦っていたようで普段であればまず各メンバーの位置や状況を把握する為に確認することなのに……。
メンバーリストには各メンバーの名前と場所、ライフなどが表示されている。
シャッハ、アコちゃん、ナギリが『悠久の塔 第七層-僥倖なる神殿-2』と表示されいた。『2』ってどういうことだ? と、思いながら他のメンバーも確認する。
姉、しょこらん、カレンとミソスープが『悠久の塔 第七層-僥倖なる神殿-3』と表示されている。
「そして俺が『悠久の塔 第七層-僥倖なる神殿-1』ってことか……」
そう呟いた時にパーティーチャットに音声が入る。
『いま、マップ見てるけどよく分からないところにマーカーが表示されてるわね』
「じゃ、転送床?」
俺は聴こえて来た姉の言葉に反応する。他のメンバーが安心したような声を上げ、みな一応無事なようだと分かる。
『まさか、多重トラップになってるとは思ってなかったわ。出先がモンハウとかゴキブリ部屋じゃないだけマシよね……とりあえず生きてるわ』
モンハウというのはモンスターハウスの略で狭い部屋などで敵がウジャウジャと詰め込まれた状況を言う。短い時間で敵が湧くマップの部屋などでよく発生することがあるが、このゲームでは自然となるケースはあまり無い。
「合流できそうかな?」
そう言いながら俺もマップを表示させる。
まだ行ってない場所は真っ黒に表示されていて、どういうマップなのかは全く分からないがパーティーメンバーの居る場所にマーカーが表示されている。
『こっちからそっちにいけるか……と、聞かれると絶対無理だからね』
姉は呆れたようにそう言った。
ま、それは当然だよな……と、俺は心の中で嘆きつつどうするか考えなければいけないと再び暗い通路の方を確認する。
『あ、クオン。俺の方もそっちに向かうのは無理だろうな……モンハウってわけじゃないけどこっちは奴隷部屋だわしばらく耐えるので精一杯かもしれない』
と、思ったより冷静な声でシャッハが言う。ただ時折アコちゃんの妙な声が聴こえてくるので余裕という状況ではないようだ。
ここで考えることは、俺自身はどうするかなのだが、選択肢としては動かずに他のメンバーが合流して助けて貰うか。飛び出して自らトラップに飛び込むか――だ。
まずは初めの選択肢、俺自身のリスクは少ないが考えるとシャッハ達の方には支援がいないレベル60の敵が1体や2体での戦闘だとなんとかなるだろうが、そんなことがまかり通るゲームではない。もとより12人パーティーを前提に調整されていればパーティーが分断されている状況ですでにヤバいということだ。
次の選択肢だが、こちらも大きな問題だ……。自らトラップに飛び込んで誰とも合流出来ない場所に出てしまったら終わりだ。
正直、俺一人で敵を倒すことはまず不可能だ。
「さて、どうしたものか……」
俺は思わず呟く。すぐさま姉の声が返って来る。
『どうもこうもないわよ。とりあえず合流しないと話にならないわ……愚弟はトラップに飛び込みなさい!』
言われるような気はしていたが、彼女の言葉によって選択肢が減らされた。
他のメンバーも『まぁ、そうだよね』と、呟き俺も小さな溜息を吐いて『だよな』と答え次の行動に移す。
まず、どこにトラップがあるかを確認する為のスキルを発動させる。
「<アラウンドサーチ>!」
<アラウンドサーチ>は周囲の状況の確認を行えるスキルでスキルの持続時間は3分間でその間は半分フレームで作られた映像となり各オブジェクトに割り振られた色味となる。
バルバロッサの隙を伺って隙間からソッと覗き込んで確認すると地面の数か所に渦のようなモノがある。見た目上ではどこに転送されるなどの判別は出来ないので、とりあえず飛び込み結果としてどうなるか――と、いうところだ。
さっさと飛び込まなければ姉に再び文句を言われるだろうと思い、行かざるを得ないと決心し隙間から飛び出た。
一番近場の渦に足を踏み入れた瞬間視界が一気に変わっていく。
ちなみに<アラウンドサーチ>の効果は転移などの移動を行うと解除されてしまうので通常の視界映像に切り替わる。
「はぁ……最悪だ」
一番危惧していた事が今、現実となり俺は溜息を吐いた。
俺が出現した場所はライティングによって照らされて明るい小さな部屋で敵などの存在がいないことだけが救いだった。
『えー、マジッスか!?』
パーティーリストを確認していたであろうミソスープが声を上げた。
それと同時にシャッハとアコちゃんが落胆するような溜息も聴こえる。
俺も急いでリストとマップで自身の場所を確認すると、『悠久の塔 第七層-僥倖なる神殿-2』と表示されているのでシャッハ、アコちゃん、ナギリとはそこまで離れていない場所に転移されたということが分かった。
「とりあえず、シャッハ達の近くではあるみたいだ……」
『みたいね……。とりあえず愚弟はシャッハ達と合流して、私達は付近を慎重に捜索して合流出来るか考えるわ』
姉は少し苛立った声でそう言った。マップで位置を確認すると一度みんなの場所を確認した時より移動していた。
『クオン……出来れば急いで欲しいところ。こっちは状況的にライフが持たない』
「わかった、可能な限り急ぐさ」
俺はそう言ってまずは狭い部屋の中を確認する。
シャッハ達との距離はざっと見て50メートルほど離れている場所で側と言えばすぐ近くと言える。彼は奴隷部屋と言っていたということはこの付近は小さないくつかの部屋とそれに続く通路があるのだろう。
マップ上で見て南側に扉があるがその奥がどうなっているかは実際に扉を出てみないと分からない。部屋の中には小さな机と椅子。そして小さな祭壇のようなモノがあり、その上には儀式的な鉤状のオブジェが幾つか設置されているあまり意味は無いと思いたい。
アイテム的なモノやマップ開放の地図などがあれば幸運だと思ったが、それらしきモノも無く扉を出る以外に選択はなさそうだった。
「ここは、敵感知かな?」
俺はアイテム欄を確認してエネミーソナーというアイテムを取り出す。猟兵がいれば正直使うことは無いと思ってあまり数を持っていないアイテムだ。
スイッチが付いた箱でスイッチを押すと波紋のような効果が広がり50メートル圏内の敵の存在を感知することが出来る。
残念ながらマーキングは出来ないのでマップ上に存在が一瞬だけ表示される。
すぐ傍には敵はいないようだが、付近には10体近くの敵の存在が確認出来た。
位置関係で言えば北側には何も存在は無く、南側は20メートルほど先に数体、東と西側に広がるように敵が配置されているようだ。
とりあえず、扉を開けてすぐ敵がいるというわけではなさそうだったので、扉を開け出ることにする。
扉を開けるとそこは先までいた部屋と比べると薄暗くジメジメした雰囲気の通路に出る。通路は2メートルほどの幅で東西に真っすぐ100メートルほど広がって一定の幅で南北に扉があり、俺が転送されて来た部屋と同じように部屋があるのだろう。
シャッハ達はここの通路から行ける部屋……ここはマップを確認すればすぐに分かる場所であるハズなのだが、どうやら彼らがいる場所の傍には扉は無いようだった。
(ったく、面倒だな……)
さっきエネミーソナーを使った時に表示されていた一か所だけ敵が多かった場所がきっとアイツ等がいる場所でその近くの部屋から繋がっていると考えても数体の敵と対峙しなければいけないのは確実だった。
そこにいる敵が奴隷だとしてステルスは確定で効かないし、強行突破してもその後、4人で対処できるかを考えても非常に高いリスクを負わなければいけないだろう。
(さて、どうしたものか……)
長考している時間は無い必死に耐えて待っているだろう彼らの回復アイテムが切れてしまえば確実に死亡してしまうだろう。そうなればパーティー全員が死亡してしまう。
まぁ、全員死に戻りで再挑戦という手も無くは無いだろう。
多くのオンラインゲームでは一部の装備が落ちたり、経験値の数パーセントを失ったりと様々なデスペナルティがある。しかし、このゲームでは死んでもペナルティは殆どが無い。
このゲームのメインコンテンツは複数人数による対人コンテンツである為で、特に闘技場や対人クエスト等は一戦するだけで幾度も死亡する場合もある。
ただし、一部の対魔物戦専用マップでは名声値が減るという仕組みが存在し対人戦での戦績やユニークボスなどを倒すことで名声値を取得出来る。
名声は様々な報酬に影響があり、レギオンを成長させる時のアンロック条件になっていたりする。
『クーさん、流石になんか考え事してたりしないよね?』
と、アコちゃんの声が聴こえる。
キチンと空気の読めるヤツだ。と、思いながら彼らに近づく為の道を探す。
その時、ふと地面に妙なレールのようなモノが敷いてあることに気が付き思わずため息を吐いてしまう。
(ったく、なんなんだこのクソマップ)
他のメンバーを心配させないように心の中で文句を言ってとりあえず悪い予感は当たるもので、この通路にレールが敷いてあるということは何かが通ることは明らかで微かに何かがやって来る微震を感じる。
物凄い轟音と振動が通路の東側から聴こえて来て俺はそれを見た瞬間、元の部屋に戻ろうと扉に手を掛ける――。
「ちょっ! マジかよ!!!」
扉を開けようとしてもビクとも動かない、これは『孔明の罠』よろしくと罠に次ぐ罠というヤツだ。遠くから凄い勢いでやって来たのはトゲの付いた巨大なトロッコだ。俺は急いで別の扉へと急いで向かい大急ぎで入る。
『クーさん……大丈夫かな? 変な声が聴こえたけど』
『反応だけはピカイチだから、大丈夫だろ』
シャッハはサラッと酷いことを言いわれて、ツッコもうかとも考えたが彼に信頼されているのだな――と、思いながらもさらに目の前にある酷い状況を認識して嫌な気持ちになる。
急いで入った部屋にはマシウスの奴隷が2体おり、ヤツらはすぐに俺の存在に気が付き手に持ったボロボロの剣をブンブンと振り回し襲い掛かって来る。特殊移動を使い素早く回避しながら部屋の中をザっと確認する。
この部屋は俺がさっきいた部屋に比べ少しだけ広く敵以外は何も無い。東側に錆びた鉄で出来ているような金属の扉があり見た感じ鍵が掛かっていそうな雰囲気だ。
雰囲気を感じるというのを人に言うと不思議な顔をされることがあるが、沢山のゲームをやっている人間は『あるある』と皆言うことがある。これは経験から来る判断でプレイをしていると作り手の意図をなんとなく受け取ってアイテムがある場所だったりトラップが存在する場所が読めることがあるのだ。
しかし、現状敵の攻撃を躱しながら扉に触れることは不可能なのでスキルで敵の動きを止めるしか無いと判断して<停滞>を発動させる。
1体だけ止めても意味は無いが同時に止めれるのは1体だけなのだからしかたないのだが、止めた敵を壁代わりに使いもう1体の攻撃を躱しオリジナルスキル<二律背反>を発動させる。このスキルはキャスト後のクールタイムを半分にすることが出来るのだが、それ以外にももうひとつ効果がある。
俺は魔杖を両手でグッとグリップさせ再度攻撃してくるマシウスの奴隷に向けてフルスイングする。
魔杖士ではありえない威力の攻撃にマシウスの奴隷は吹き飛び壁に激突し、怨念を込めたうめき声をあげる。
そう、このスキルは物理攻撃力と魔法防御力を入れ替えるスキルなのである。
副効果としてクールタイムを半減させる効果が付いているというスキルなのだが、実は魔杖士は敵を物理的に攻撃することは可能ではあるが強くは無い。
しかし、魔杖士は運の数値が基本的に高くクリティカルが出る確率が非常に高い為に攻撃力さえ高く出来れば前線で戦うことも可能なのだ。
そういう理由から<二律背反>というオリジナルスキルを組んだのはいいのだが、使用デメリットが体力の殆どを失う。と、いうモノで今、小さなダメージさえも喰らえば確実に死ぬ。
運と速度へボーナスを振っている俺の攻撃はかなり高い確率でクリティカルになるのは計算通りで敵は大ダメージと共に吹き飛び位置的にも隙が生まれ、その間に<停滞>のクールタイムが終了し、再度<停滞>を発動させる。
その隙に扉を調べると予想通り鍵が掛かっていた。
『クオン殿、すぐ傍のようですが……問題でもあり申したか?』
マップを確認していたのだろうにナギリが心配そうな声を上げる。
「鍵の掛かった扉があったり、敵がいたりと色々問題があってね……もう少し掛かりそうだけど、大丈夫かな?」
『クーさんも頑張ってよ、ウチらももう少し頑張るからさ。残り2体奴隷片付けたらいいだけだから……まぁ、アイテムとか無くなりそうだけど』
「ああ、もう少し頑張ってくれ」
俺はそう言って再び廊下へ出た。
素早く周囲を確認して、トロッコはまだ来ていないのを確認してやはりアソコのアレかなぁとは思うのだが初めの部屋への扉は開かない。可能性を考えると隣の部屋に何か仕掛けがあるのかもしれないと思って急いで二つ隣の部屋へ向かう。
(ここの扉も開かないとかいうのはカンベンしてくれよ……)
と、俺は心の中で呟きながら扉に手を掛ける。
ゆっくりと扉を開き、中を確認し敵がいないことに胸を撫で下ろし部屋に入る。
扉の閉まると同時にカチリと音がする……こんなこと、何故気が付かなったのだと少し後悔する。
どうやら、ここ一帯の部屋の扉は一方通行となっている部屋が幾つもあるようで迷路的な作りになっているようだ。
(ったく、なんでオフラインゲームみたいな謎解きしなきゃいけないんだ……)
そんなことを考えながら部屋の内部を確認すると壁にはいくつも絵が飾られており、また東側に祭壇のようなモノがあって、その祭壇の上には羊皮紙が置いてあった。
俺は羊皮紙を手に取り、調べると『行きたければ祭壇を抜けよ。鉤は鍵となるが使うには大いなる祝福が必要となる』と書かれており、俺は大きなため息を吐いた。
『おい、クオン? 大丈夫か?』
「ああ、大丈夫さ……オフゲーの謎解きコーナーに来てるみたいで、思わず溜息が出ちまった。ま、嫌いではないけどな」
俺はそう言いながら祭壇を調べ面倒ではありながら楽しい謎解きを始めた。




