第一章 悠久の塔 第七層 TRS OBTdate.3 その1
俺たちは悪夢の第六階層を越えて第七階層へやって来た。
この階層への一番乗りは俺たちのパーティーなのはさっきのボスがユニークだったことを考えれば明らかだ。
ただ後ろには気を付けなければいけない。後ろからは確実に某SNSのパーティーがやって来ることはロビーで会っている故に分かっていることだった。
「にしても、ここの敵は軒並みLv60みたいね」
カレンはスコープを覗き、スキルで敵のステータスを確認しながらそう言った。
「この階層でLv60ってことは残りの階層どういうバランスなのか不安になっちゃうわね……」
姉は腕を組みながら対策を考えながら文句を言った。
皆、この運営会社のゲームバランスを信用していないので当然、これらかの攻略に不安が出てくる。このダンジョン以外にも以前にもあり得ないくらいの数の敵が出現するクソマップが存在しており、とある攻略法が発見されなければ誰も行くと事の無い場所になった可能性もある。
「にしてもここに来て魔物さえもLv60ってヤバいよね」
アコちゃんも不安そうにそう言って姉の指示を待つ。
「常時ギリギリの戦いをしろってことか、もしくはサービス開始時のレベル上限の解除狙いか……」
姉はそう言いながら視認出来る範囲の敵を確認しながら、どう進めばいいかを考えている。俺によく長考を注意するが、こういう時は彼女の方が長考する傾向にある。
「見た感じで言えば暗黒系、不死系のロードタイプだな。マップの見た目は神殿っぽいからギミック関連も複雑なのがあるかもしれない」
「そうよね……後方はカレン、ナギリに任せて味噌汁にカレンのポジションに入って貰うとして……とりあえず慎重に進まないと一瞬で全滅する可能性も考慮しないといけないわね」
あくまでも他のマップなどにある傾向から構造や攻略方法を考える基本戦略で神殿系のマップでは暗黒系の人間型のモンスター、不死系のモンスターが出現する。これに関しては『マシウスの奴隷』と呼ばれる暗黒卿マシウスの改造人間が目の前をうろついているのが確認されているので確定情報と言える。
しかし、マップ構成というか作り手側の考えとすれば、程よい苦労でクリアできるマップ作りをするか。それとも嫌がらせに近い方法でプレイヤーを如何に苦しめようという意図でマップ作りをしているかで変わる。
ここのゲームは基本的に後者の場合が多く、とりあえず初見は死んで覚えればいいよ。と、言わんばかりの構成で作って来るのが予想できた。
その場合、とにかく先に進めば確実に詰むか全滅するのが目に見えているが故に、慎重に考えないといけない状況なのだ。
「はぁ、後ろが気にならないんだったら、まだマシなんだけどね」
姉の言葉に皆、同意して口々に『だよな』と呟く。
「そういえばなんだけど、まだ落とし穴とか見てないよね?」
しょこらんが思い出したようにボソリと恐ろしいことを言う。
ここの会社のゲームではトラップ系のギミックで巨大な岩が転がって来るトラップと下の階層や魔物部屋直行の落とし穴のトラップが必ずあるのだが、この色々なマップ構成を詰め込んである『悠久の塔』にて、一度も見ていなかった。
「うわぁ、嫌な情報をインプットしちゃったじゃない……しょこらん、後でお仕置きよ。まったく……」
「ご、ごめんなさいっ」
姉はしょこらんに対して悪い微笑を浮かべそう言いながらも、どこか吹っ切れたような表情をする。
「うん、でも……取りあえずここでモヤモヤしてても仕方ないってことは分かったわ。後ろに関しては考えない方向でまずは目の前の敵を慎重に叩きながら進むしかないか」
「一応、トラップに関してはこっちで何とかするッスよ」
ミソスープはそう言いながらアイテムを確認しはじめる。
魔銃士の中で猟師にはトラップ感知の特殊スキルがあって、それには捜査爆薬と呼ばれる特殊なグレネードが必要となっているが所持限界数が少なく滅多に使用しないアイテムである為、所持数を確認したのだろう。
「よし、行こう!」
姉は刀を抜き払ってそう言った。皆も彼女に合わせるように装備を構え前進を開始する。
魔法光に照らされ明るめの通路は30メートルほどのやや広めの整備された石畳で200メートル以上の距離があると見られた。前方にはカレンがマーキングした魔物の暗黒卿マシウスの改造人間であるマシウスの奴隷が8体いる。マーキングしている魔物以外に10体以上のマシウスの奴隷が視認出来る。
通路の脇に大きな柱が幾つか見られるので死角があるので、横に通路が無いとも言えないのでさらに多くの敵がいる可能性も考慮しなければいけない。
「とりあえず人間系の敵でまだ助かったという思いもあるわね……」
姉はそう言って合図を出す。
彼女が出した指示は魔銃士勢によるスナイプで数を減らせ。と、いう指示だ。
指示と同時にミソスープが手順用のターゲットナンバリングを行い、それに従うようにカレン、ナギリが魔弾を放つ。
カレン、ナギリはトレーニングコンテンツのヘッドショット訓練で満点を叩き出した数少ないプレイヤーだ。同レベルの敵でプレイヤー以外はヘッドショットをしても一撃で倒せる事は無いが通常より大きいダメージが入る仕様となっている。
「1番撃破! ふぅ、通常マップの奴隷より体力あるみたい……ヘッドショット4発で一匹だと結構厳しいわ」
カレンがスコープを覗きトリガーを引きながら言った。
「3番、6番がリンクした!」
ミソスープが状況を声掛けし、全員態勢を変える。
俺は素早くシャッハから5メートル手前に<攻勢防壁>を張りこちらに突進してくる敵1体を吹き飛ばし時間を稼ぐ。
「6番押さえた!」
と、シャッハが<攻勢防壁>の横へ移動して1体の敵を斬りつけターゲットを取る。
「2番は砂に任せるわ!」
姉はそう言ってアコちゃんに合図を送って敵に向かって走る。アコちゃんはシャッハが取った敵の裏から攻撃を放ち敵の体力を削る。
姉は俺が吹き飛ばした敵に向かって攻撃をする。
「距離注意して! 4番リンクするかも!」
俺の言葉に姉は『OK!』と言ってスキル<一迅雷撃>を放つ。
<一迅雷撃>は刀装備限定の特殊スキルで戦士系のスキルでは最速のスキルのひとつだ。なお、このゲームで刀は双剣士だけが装備できる武器なのだが、攻撃力が上昇するかわり防御力が大幅に下がるという特殊な装備となっている。
特に刀は特殊スキルを幾つか覚えることが可能なのだが、どれも使うのにコツが多いがサブクラスにモンクを取っていることで大幅に攻撃力を上げることが出来る非常に優秀な武器だ。ただし、防御力は魔杖士なみになるのでよほど敵の攻撃を回避できる自信が無いと使うことは出来ない。
これは姉専用装備とも仲間内では言われている。
「2番撃破でござる」
「4番行くわ!」
ナギリの撃破報告と同時にカレンは次のターゲットへの攻撃を行う。
「ねーちゃん! 5番リンク注意。アコちゃん、裏の7番、8番が気付いたぞ。6番の処理はシャッハに任せてそっち行って! 奥のノンターゲットが動きそうだからミソスープ、ターゲット頼む!」
ギリギリの相手と戦う時は声掛けが大切で普段は姉が指示出しをするが、彼女が戦闘時には俺かミソスープが基本的な指示出しをする。また状況で問題があった時はカレン、シャッハが指示を出すように打合せている。
「6番撃破! アコちゃんのサポ入る!」
シャッハはそう言って移動攻撃スキルを発動させて敵に向けて突進する。
「ライン押し上げよう! しょこらん、シャッハに回復。ねーちゃんの被ダメも確認しておいて!」
「う、うんっ」
敵を倒しながら前へ進む必要は普通ないのだが、1体倒すのに時間がある程度掛かる場合は前へ進まずに確実に倒して進む方が絶対的にいい。しかし、このダンジョンは他のプレイヤーさえも敵なので後ろから敵が来る可能性がある場合、確実に前へ進まなければより多くのリスクを背負うことになってしまう。
「ターゲット完了! 次ナンバリングのタイミングどうする?」
「任せる! ついでに前線混ざってねーちゃんのサポ入って」
ミソスープは親指を立てて散弾型の魔銃へ持ち替え、前線へ移動しながら次のターゲットのナンバリングを付けていく。これによって現在戦闘中の敵のナンバリングが消去され新たな敵が番号表示される。
魔銃士またはアイテムを使用して使えるスキルでパーティープレイ時では非常に有効なスキルだ。ただし、8体までしか番号を付けることが出来ない為に新たに番号を付けるとそれまでに付けていた番号は順番に消去されていく。
この為に6体から8体までの敵としか同時には戦えないように動くのが基本で、可能な限り一対複数となるような状況を作る為に皆が連携する。
「この次の敵までの間があるから、スイッチ可能なポジションに移って! 愚弟支援掛け直したら前線で2体引き取って耐えて!」
ここで無茶ぶりかよ……と、心の中で呟きながら彼女の言う通りに動く。しょこらんも俺の近くにいるようにする為に俺の後ろを付いてきてシャッハの前あたりで止まり全体回復のスキルを使用する。
それを確認しながら次のターゲットの中から近い敵を2体だけスキルを使ってターゲットを取る。
「こいつらの動きちょっと苦手なんで、耐えれるのは1分くらいと思って」
俺の言葉にみんなが同時に了解を示す言葉をそれぞれに言う。
姉は一人で1体を倒し終え、俺の近くにいる敵に対して範囲攻撃を行う。
「私も2体分よ、お前も頑張れ!」
「ねーちゃんは攻撃力高いでしょうが……俺はダメージ与える方法は基本ねーから!」
そう言いながら敵の攻撃を回避する。このマシウスの奴隷は攻撃目標がいない時は非常に愚鈍な動きなのだが、敵意を見せた相手に対しては妙に素早い動きで攻撃してくるので実は前衛がダメージを受けずに対処するのが難しい敵なのだ。
そもそも、そんな敵を2体背負って回避し続けるのは聖銀狼より面倒くさい。
「シャッハは向こうの7番へ行って! カレン、ナギリ1番落としたら3番へ。アコちゃんは愚弟に取り付いてるのヨロシク~」
「あ、私も支援掛け直しますね」
「お願い!」
皆、淡々と対処し敵を片付けていく。
たかが数分の戦闘ではあったが、戦闘を終えると皆、一呼吸おいて立ち止まる。
同レベル帯の敵からダメージを受ける場合、タイミングをミスると一発で死んでしまうこともあるから緊張していないように見えても、実はかなり緊張して戦っているのだ。
「しょこらんSP大丈夫?」
姉は刀を一旦しまい、遠見の双眼鏡を覗き通路の奥を観察しながら言った。その言葉にしょこらんは少し考えながらも『大丈夫だよ』と返事をする。
「さすがに被ダメ貰うとヤバいわよね……」
「防御力高い俺でも結構なダメ貰うから、るかち、クオンとしょこらんはヤバいでしょ」
シャッハはまだ警戒を解かずに盾を前方に向けながらそう言った。
「ウチらもヤバいと思うわよ?」
「でござる」
スナイパー組もさすがにキツイと言った雰囲気だ。
防御力で言えばシャッハ以外は攻撃特化しすぎて防御はおろそか。と、言った感じだ。俺やしょこらんは元から紙装甲なので攻撃とか防御とかいう以前の問題ではあるが……。
「にしてもここの奴隷は完全に強化版って雰囲気だね。重装備に変えてパリィ型で動いた方がいいかな?」
アコちゃんは首を傾げながらそう言った。双剣士には両手で武器を持っている時だけ<パリィ>という敵の攻撃を弾く特殊な技が使え、防御重視の双剣士では長剣と短剣もしくはソードブレイカーを装備して戦う戦術がある。
「普通の奴隷だったらまだいいけど、弓奴隷とか槍奴隷が来たら面倒だからダメね」
姉は即座にアコちゃんの意見を否定した。それを聞いたアコちゃんは『だよね』と、答えが分かっていたような表情でそう呟いた。
「とりあえず、現状は対処できる範囲での敵だったからいいけど、奥に進んだら面倒な敵とか絶対いそうだな」
俺と同じようなことを思っていたのか、皆は『納得』と、いった表情で溜息を吐いた。とにかく、前の階層と比べ物にならないくらい敵のレベルがあがっている。
「これで、敵配置もイヤらしかったらマジでヤバいんだけど。さすがに無いよね?」
と、ミソスープが言うがここのゲームがそこまで生易しいわけがない。俺はそう思いながら敢えて言葉にはしないでいた――
「いや、あり得るでしょ」
俺が敢えて言わなかった一言をシャッハは自信たっぷりに言う。
皆もそうだとは思っているが敢えて言わなかったことなので、暗い表情となる。
「で、でも、みんなで力を合わせて頑張れば大丈夫だよ」
「気休めは言わなくてもいいよ。ま、とにかく無茶して突っ込まない限りはなんとか出来る……私達ならね」
そう姉は笑顔で言うと皆の表情もやや明るくなる。
しかし、現実的な問題として後方へ気を配った状態で前進するのが非常に面倒ということなのだが。俺の中では解決策が無いわけではないと思っていたりする。
それは魔物が湧くタイミングと場所さえ把握出来れば後ろへの警戒を減らすことが出来るのではないか。と、思っている。
他にも脇道へ回避して自分たちが逆に後ろを取る。と、いう方法だ。
「あの二つ目の大きな柱の横、通路があるけど……」
姉は覗き込んでいた双眼鏡を下して言った。しかし、妙に歯切れの悪い言い方が全くいい報告がなされないことを予見していた。
「嵐竜のドルドルっぽい尻尾が微妙に見えてるんだよね」
彼女の言う『嵐竜のドルドル』は中ボスクラスのドラゴン系の魔物で通常ボスクラスの巨大さで体力も非常に高く面倒な敵だ。ただ『っぽい』というところがポイントで尻尾がある巨大な敵ということは確定であるが、強い敵がいるところというのは重要な場所である可能性が高い。
「なんにしてもドラゴン系の敵がいるってのは厄介だな」
「手前に奴隷が4体いてその奥の位置が十字路になってて、その奥にさらに奴隷が4体。その奥に弓奴隷が2体ね……」
さてどうしたモノかといった風に姉は小さな溜息を吐く。通路のところに強敵がいるのは確定なのだが、その場所の近くに遠距離攻撃をしてくる敵が配置されていることが彼女の小さな溜息の理由だ。
どのゲームでもそうなのだが、遠距離攻撃をしてくる雑魚敵というのは非常に厄介である。距離以上にレベル帯が同じくらいということもその問題を大きくしている。
弓の攻撃はダメージとしてはそこまで大きな物ではないが、スキルモーションのキャンセルなどがあり放置しておくとマズイことが多い。
それに近距離タイプの敵と比べて非常に広い索敵範囲を持っているので手前の4体と戦闘を開始する前に弓奴隷が反応する可能性が高いと思った方がいいだろう。
「それなら、アレじゃないッスかね前の方の敵は魔銃士で釣って、倒してから奥の敵はステルスで裏に回って弓から片付けるとか?」
ミソスープがアイテムを確認してそう言った。ステルスとは『特殊迷彩』となんとも安直な名前のアイテムだが10秒間だけ透明化出来る特殊なアイテム(サービス開始時は課金アイテムとなるらしい)で全員幾つかは持っている。
「それはダメね。奴隷は生体サーチ系の敵だからステルスしてても見つけてくる。幽霊系とかと一緒ね」
「あー、そういえばそうだったッスね……」
姉の言葉にミソスープはガックリと項垂れる。
「でも、釣るのはアリかもよ。それにイイこと思いついちゃったわ」
彼女は悪い微笑を浮かべる。これは確実にかな~り無茶なことを考えているに違いないと思いながらも彼女のいう事を聞くのだった。




