第一章 悠久の塔 第六層 TRS OBTdate.3 その12
お久しぶりの更新です。
一応、生きてますよ!
未到達となっている場所へ向かう道の捜索を始めて数分。
いまだに俺達は先へ進む為の道を見つけられずに同じところをウロウロするだけの状態となっており、ドゥルドゥルな空間にフラストレーションを溜めこみつつも先へ向かう道があるという希望を胸になんとか耐えていた。
「気になるところはあったんだけどな……」
「それは分かるッス。妙なドゥルドゥル部屋ッスね」
ミソスープが言うドゥルドゥル部屋というのは中庭らしき場所に最も近いと思われる3カ所にある一際怪しい部屋である。
すでに2、3度捜索はしているのだが、ドゥルドゥルが大量に付着しており視界最悪、走破性も最悪という素敵部屋で皆が怪しいとは思っているのだが、罠の気配もなければ、何かのギミックがあるようにも見えないところが難点である。
どの部屋も何かの実験施設のような医療テーブルが配置されており、よく分からない薬品棚などが幾つも壁際に立ち並んでいる。
「とりあえず、徹底的にオブジェクトを破壊しまくるしかないか?」
「破壊出来るのか? 窓とかも試したけど攻撃が弾かれたぞ」
確かにシャッハとアコちゃんが幾度か窓を見つけたら攻撃をしていたので、破壊出来ないことは分かっている。
「ちなみにパイプ椅子とかは吹き飛んだけど、机類は攻撃を弾いたよ」
「だよなぁ。シャッハが試してるのを見てたから分かってるけど、もしかしたらってこともあるから、再挑戦するのはありかと思ってるんだ」
「全員で手分けして一気にやりましょ。時間が勿体ないし」
姉の提案に皆が了承する。
なお、3チームに分かれたメンバーは姉、しょこらん、カレン。シャッハ、俺、ナギリ。アコちゃん、ミソスープの3チームだ。
本来ならば、PT内がバラバラに行動するのはあまり推奨されない行動ではあるが、今回は時間短縮の為に仕方なくというのと、このエリアに敵の姿が無いことをすでに確認済みだからだ。
俺とシャッハ、ナギリは皆と別れた場所から最も離れている場所へ向かっている間に他のメンツはすでに目的地に到着して部屋を荒らしまわっているのが音声で伝わってくる。
「なんだか、派手にやっているみたいでござるが問題ないのでござろうか?」
ナギリは黒装束から不安そうな視線を送って来る。
「まぁ、大丈夫じゃないかな……そもそも罠とかはサーチ済みだろ?」
「こちらも多分大丈夫。と、しか言えないでござるが……」
「今までのマップ傾向からそこまで変なのは無いと思うし。安心してもいいんじゃない?」
俺の言葉に「まぁ、そうでござるなぁ……」と、まだ不安を拭えない様子でナギリはそう言った。確かに俺にも一物の不安はある――なんと言ってもここの運営、いや開発が色んな意味で基本的に斜め上な調整や設計をしているからだ。
たぶん、ナギリや他のメンツも似たようなことを考えているのだろうと俺は苦笑する。
そうこうしている間に目的地に到着し、まず俺達は部屋の様子を見渡す。
どこの部屋も通路も大して変わらない黒い粘性の液体塗れだ。これが赤黒い液体に塗れていればホラーなのだが、現状はどちらかというとSFかサイコホラー系のイメージが強い。
他の同系の部屋と比べて、何かが違うということは無いようだが、俺達は他のメンバーに比べて慎重派なのだ。じっくりと観察して、何かヒントを探すことは忘れない。
机、診察台、薬棚、書棚と後、金庫のようなものが並んでいる。
机の上には謎の液体が入っているコップとボロボロになっている書類と使えるか不明な筆記用具。そして、シャッハがそれを槍でぶっ叩いて破壊する。
「特に何もないのは分かってるけど……にしても、この机、柔らかいな」
シャッハはそんな感想を言いながら次の獲物に視線を向ける。
診察台には赤黒い染みなど一つもなく、黒い粘性の液体が血液のようにベッタリと付いている。特に気になるものが置いてあるわけでもなさそうだ。
シャッハは机と同じように再び槍で叩き、破壊する。
「こっちも柔らか設定だな。一発で粉々だ」
次の獲物をどうするかを伺う視線を俺に向ける。
(さて、どうしたものかな?)
とりあえず、棚が開くかどうか確認していこうと提案することにし、ナギリがそれに賛同したので三人で手分けして棚の中の捜索を開始する。
俺が最も奥にある書棚からチェックを開始する。
書棚はどうみても金属製で、このゲームがファンタジー系の作品だというのを忘れさせるような作りに思わず微妙な気持ちになりつつも「まぁ、無しではないか」と、思わず独り言ちてしまう。
まずは閉められている書棚の上段の戸が開くかどうかを確認する。
黒い粘性の液体がベチリと嫌な音を立ててゆっくりと戸が開く……予想はしていたが、中には何も入っていない。どちらかといえば黒い粘性の液体がこびり付いていることの方がある意味では驚きである。
何度も言うが赤黒い血であれば多少は驚いたかもしれないが、ここに来るまで幾度も見せつけられている黒い粘性の液体に対しては耐性が出来上がりすぎており、正直、不快なだけで思う所はなにも無い。
そして、次は下段だ。
再びベチリと不快な音ともに戸を開く――次はドロドロと黒い粘性の液体が溢れ出てくる。ダラダラと流れ続ける黒い粘性の液体を見ながらゲンナリとした気分となるが、まだ捜索を開始し始めたばかりだ。
シャッハもナギリも微妙な声を上げていたのでこちらと同様に黒い粘性の液体がドゥルドゥルと溢れ出てきたのであろう。その後もどの棚からも目ざとい物は見つからず俺とシャッハ、ナギリは深いため息を吐いた。
「さて、どうするで御座るか?」
「とりあえずシャッハに叩いて貰うか……」
「まぁ、そうなるよな」
そう言ってシャッハは槍と盾を持って構える。
「そういえば、最近気が付いたんだけど盾系の攻撃ってキャンセル効くんだよね」
「マジか!?」
「って、言っても挙動がちょっと再現出来るときと出来ない時があるからバグかもしれないけどな」
「アレか、回復魔法弾バグみたいなヤツか。アレって回復と状態回復と同時に飛ばせる時があるんだけど、再現性がないんだよなぁ」
「他にもいくつか複数のスキルの組合せで出来そうだな」
「再現性が無いから確実性は薄いってのは対人だと問題だけどな」
「まぁ、ワンチャン有るかどうかってレベルだな。ま、何度か試してみるから見ておいてくれよ」
「オッケー」
シャッハは短く「行くぜ」と、言って<盾強打>を発動させ、そのままの流れで<槍突進>を発動させる。本来、<盾強打>の後は若干のディレイがあって、他のスキルを被せで発動させるのは難しい……と、いうか今回シャッハがやったのは完全に<盾強打>が終わる瞬間には槍での突き攻撃が出ていたので、若干のタイミングずれはあったもののスキルが被って発動している状態になっていた。
「一発で成功したぜ……って、棚は破壊不能だな」
「壊せないと分かれば、もう一度試してみてくれない?」
「ああ、いいぜ!」
と、言ってシャッハは同じ行動を行う。
しかし、今度は<盾強打>を行ってから、数フレームの間が開いて次のスキルが発動した。
「チッ、失敗した」
「なかなか、思うようにいかないのは仕方ないかな」
その後も数度、他の棚に向かってスキルを使った攻撃を繰り返す。
「ったく、成功率30%くらいだわ。最初に成功したのがある意味奇跡だ」
「だなぁ。やっぱりそれを考えるとバグ技っぽいし対人じゃおまけ程度にやってみるレベルでしか使えないな……まぁ、もしかしたらバグだと分かってて放置している可能性も無きにもあらずだな」
「そうで御座るな」
そんなやり取りとしていると、姉から音声チャットが飛んで来る。
『お遊びは終わった? で、結局何か見つかった?』
「残念ながら何も変わったものは無かったな。棚類が破壊不能オブジェクトってことがよく分かったくらいだ」
『こっちも似たようなものね……』
姉はウンザリしたような声でそう言った。
そうなってくると、この施設にある意味深な三つの部屋はフェイクということなのだろうか……それとも行っていない洋館側上層の場所に何かが存在するかだが、さすがにエントランス付近のあの位置に何かあるとは思えなかった。
『なんだか、面倒だからいっぺん燃やしてみる?』
「さすがに自爆するのは面倒じゃね? それにこっちの部屋はかなりドゥッルドゥルが大量な感じなんだけど……あとは棚を動かしてみるくらいか……」
俺がそう言った瞬間、姉が『それよ!』と、大きな声を上げる。
大抵の場合、破壊不能オブジェクトは何故か動かせない場合がほとんどなので、こういう場合が例外もあるとは思えないので正直言ってかなりのやけっぱちなのである。
「試してはみるか……」
『そうそう! さぁ、全員でチャチャッと試してボス部屋へ行くわよ!』
姉の大号令を合図に全員が再びドゥルドゥルの棚へ向かう。
こちらではまずシャッハが盾を構えた状態で俺が創作した書棚を動かそうと押してみる。
この書棚だけ単体で置かれていた為なのだが、押せども引けどもビクともしない、まさに“不動”である。
「動かないな……」
「俺としてはあそこに並んでるヤツを正面から押すのが正解な気がする」
と、ナギリが捜索していた棚を指さす。
「拙者が押してみるで御座るよ」
そう言ってナギリは三つ並んでいる棚の正面に立つ。
まずは左側から――
「むぅっ……動きそうにないで御座るな……次に行くで御座る」
そう言って真ん中の棚の前に立ち、ドゥルドゥルまみれになりつつ思いっきり棚を押し込む――
「ん? 何やら棚がグラつくで御座るな……んー、筋力が足りないのかもしれんで御座る」
「じゃ、俺がやってみる」
ナギリに変わってシャッハが棚の前に立ち、盾を構えてスキル<盾疾走>を発動させ、棚に向かって一気に突き進んだ――
「って、スキル使うのかよ!」
ツッコミを入れるのと同時にドスンと激しい音を立てて棚が倒れ、奥に進む通路が現れるの同時に黒い粘性の液体が大量に上から降り注ぎ、シャッハが真っ黒に染まる。
「うわぁっ、ジョーダンキツイわっ!」
不幸なことに戦闘中では無かったためにフルヘルムのフェイスガードを上げていたせいで顔面もドゥルドゥルでベトゥベトゥな感じになっていた。
「うーん、新型の人型モンスターと言われても誰も疑わないな……」
「くっ、言ってくれる。っても、後数秒したら落ちるから別に……き、汚くなんてないんだからねっ!」
「そこでツンデレで御座るか」
『……なんのやりとりをしてるのよ』
「あ、ねーちゃん、急いで来てくれ。道見つけたから」
『聴いてて分かってるわよ。もうすぐ着くから待ってて』
「りょーかい」
他のメンバーが来るまでの間、俺とシャッハ、ナギリで奥に進む通路の安全を確認する。結局のところ、目視でしか判断出来ないのでなんとも言えないところではあるが、ナギリがスコープを使って通路の奥の方を見ても暗くて判断が付かなかったが敵がいるような気配は無かった。
そうこうしているうちにミソスープとアコちゃんが現れる。
「そういえば、シャッハがドゥルドゥル星人になった瞬間って録画してないの?」
「残念ながら……」
「って、撮ってたらブッコだかんな!」
「だから、撮ってないってSSしかw」
「撮ってんじゃねーか!」
「あ、クーさん後で送ってね」
「りょwww」
「ざけんなよ、クオン! 俺にもちゃんとくれよ!」
と、シャッハ。
撮るなと言っておいて、いざあったら欲しいって……マジツンデレだな。
「全く、ナニ漫才してるのよ」
「放っておきな、いちゃいちゃしおって全く……」
と、カレンと姉がニヤニヤ顔で近づいて来る。ちなみにしょこらんは何故か赤面していた……。
「全く、誰がいちゃいちゃいだよ。野郎同士で何が楽しいんだよ」
「それは全くだ」
「まぁ、三次元となると中々に人によるで御座るからな」
「全く分かって無いわね。三次であっても二次元補正で妄想力を働かせるのが玄人って奴なんじゃないの?」
「るかちってば、かなりの上級者?」
「私じゃないって、知り合いにいんのよ全ての事象が受けと攻めで判別できるって強者が」
「ま、まさかしょこらん?」
「わ、私じゃありませんっ!」
そんな謎のやり取りとしつつ、カレンが暗視スコープで通路の奥を確認し、どうやらがさらに暗く下側に開けた風になっていると説明しているところから、奥には階段があり地下に繋がっているのでは無いかという意見が交わされる。
「行ってみるしかないんじゃないか?」
「まぁ、そうよね……」
そして、俺達は通路を進むことに決め、警戒を厳にしつつ暗い通路を進む。
マップを確認すると位置的には中庭のあったあたりを進んでおり、目的地と思われる場所はその中庭の中央だ。
暗く見づらいが、小さな灯が黒い粘性の液体の間から若干漏れており、それによって通路の奥が階段になっていることが分かる。
「地下ってあまりいい感じしないわよね……」
姉はそう言って剣を抜き更に警戒を強める。
足音もヌチョヌチョ、ベチョベチョと嫌な足音がする階段を俺達は滑らないように慎重に降りて行く。時折、しょこらんが滑りそうになって、俺のローブの裾にしがみつき、姉に『イチャイチャしない!』と、注意をされるのであった。
そして、階段をしたまで降りると陰鬱な雰囲気の靄で出来た壁が現れる。
「霧ってことは、ここがボス部屋ってことか……」
「そうみたいね。薄っすらと扉が見えるから、その扉の中へ入れってことね」
全員の緊張感がグッと増すのを感じ、ひと呼吸置いて「行くわよ」と、姉が言うとシャッハが扉をソッと開けた。
さぁ、とうとう次はボス部屋ですよ!
どんなユニークボスが出るんでしょうねぇ~




