第一章 悠久の塔 第六層 TRS OBTdate.3 その9
姉がとったその速度たるやネットダイブ中の人間が取れる限界速度といってもいいほどの反応にPT内全員の反応が遅れる。
ぶっ飛ばしに行くといって強引に敵に近づくも、かの敵は素早い動きで彼女の攻撃を躱す。まるで舌打ちの音が聞こえてくるような表情を浮かべつつ、敵の反撃を躱すために行動に出る。
皆は姉に対して、心配というよりも少し呆れたような表情を浮かべつつも、彼女をサポートするように各メンバーは連携しつつ動く。
ちなみに姉はいろんな意味で天才である。
ネットダイブ環境において彼女ほど、反応に優れた人間は世界でも稀ではないか? と、言われるほどの反応速度を持っている。
ネットダイブ環境でなくとも彼女は非常に高い反射神経と先を読む『勘』を持っている。
いわゆる対戦アクションゲームなどで『超反応』と呼ばれる動きを連続で出来る化物なのだ。
特にこのゲームにおいて、移動攻撃や移動回避を幾つも持つ双剣士との相性は神がかっているといっても過言では無い。
しかも、世間的に最強ステ振りと言われているAGI・DEXというステでは無く、STR・AGIタッチLUKという現状のバランスでは結構マニアックなステ振りである。しかも、サブクラスがモンクと侍。これに関してもLUKと命中補正値が高い武器や装備、スキルやクラスボーナスがある職の組み合わせを考えた結果で作られているキャラメイクだ。
姉曰く『なんとなく、わかっちゃうんだよね』と、言っていた。
何となくわかる姉の言うことも分かる自分がいるので彼女のことを否定的に言うことは俺には出来ない。
高速で繰り出される色違いのメイベルの潜甲虫だった敵からの攻撃を紙一重で躱すが、姉は敵に対して反撃することは出来ず歯痒く舌打ちをする。
彼女の攻防に合わせるようにシャッハ、カレン、ナギリでヘイトコントールを行おうとするが、敵の行動も非常に変則性が高く思っているほどの効果を出せずにPT全体がイライラを溜めていく。
「気が付いたんだけど、もしかして……このマップって複数PT前提の構成なのかもしれないよな」
俺はそう言いながら色違いのメイベルの潜甲虫だった敵にスキルを使ってヘイトを自身に向ける。
ちなみに成功率は現状3割だ。無敵時間が多く、且つ動きが速いせいでタイミングがつかみにくい。
「でも、ここってギミック起動後は入れないことを考えたら1PTで挑まないといけないから違うんじゃないの?」
そう言いながらカレンは次のポジションに移動する。
「ったく、ホントにクソ開発はっ! バランス調整ちゃんとしろって!!!」
かなり熱くなっている姉はそう言いながら、敵の動きに合わせてシャッハを盾にするように移動する。
「クッ、アイツ……貫通持ってやがる。盾構えてても3割くらいダメージが通ってくるんだけど!」
「頑張って堪えなさい! アコちゃん、合わせて!」
敵の動きに合わせて姉とアコちゃんが再び飛び出し、双剣士の攻撃スキルを発動するが、敵はその動きに合わせて特殊移動のモーションに入り、彼らの攻撃が無効化される。
「このタイミングでも、抜けるのか……」
「魔物に対して<停滞>とか使えればいいんだけどな」
「まったくよね……」
「魔術師持って来てれば対処可能なんッスけどねぇ」
「それは言わない約束なんだからねっ!」
姉も少しPT構成に関して失敗したと思っている節がある。
しかし、魔法がなくても何とかなるのは事実でもあるので、対人という可能性があることを考えれば攻撃魔法特化系魔杖士である魔術師を持って来る必要性は無い。
妖術師と違い魔術師の魔法はキャストタイムが長く強い範囲攻撃が多いので魔物対応としては非常に有効なのだが、対人で考えるとスナイパー型の魔銃士に異常というレベルで弱い。単純にキャスト中があまりにも無防備なので、キャストに入っている魔杖士は美味しい的なのだ。
そんなことより、今はそんな事を考え無いものねだりするワケにもいかないのだ。
再び姉は動き出す。
PTメンバーも皆、彼女の動きに合わせて敵のパターンを見極める為に――
このヒリヒリとした緊張感……実際に死ぬわけではないけど、誰一人ここで墜ちるワケにはいかないという思いがより強い連携を生み出す。
敵の近くに二人以上入っている状態での敵の移動パターンは必ずPTを分断するような動きをする。常に移動は特殊移動でブレている間は完全無敵状態。
移動後は斬撃攻撃+回転攻撃を行う。これはこのパターンでの特殊移動後では必ず行う行動であると予想される。
ヘイトコントロールを行う為にカレン、ナギリはシャッハ、アコちゃん、姉の攻撃と移動の合間に敵に攻撃を行う。しかし、2、3回に一度は攻撃が無効化されるか特殊移動で回避されるという現象に見舞われていた。
「何となくパターンがある気はするけど……やりにくいわね」
カレンが小さく呟く。
このPTの中では最もシューティング系のゲームをプレイしているカレンが攻撃を当てる事が出来ないというのはかなり希少な現象だ。ナギリにしてもシューティング……特にスナイプの技能に関してはかなり高度なPSを持っている。
「さすがに、敵が『超反応』をしてくるのはどうかと思うで御座る。デス・オブ・デッドのラスボスレベルの反応を中ボスというのは全くもって意味不明で御座る」
確かにナギリの言う通りだ。時にゲームにおいて銃の射線軸に入っていることを判定して反応するというのがある。今回の敵の動きはそれに似ている気がする。
そういう敵であっても普通は行動が止まるタイミングやディレイによって回避出来ないタイミングというのが存在するハズである――が、どうやら、この敵にはそういった常識が存在しないような不規則な反応が見られることで俺たちはそれに翻弄されていた。
よほどのことが無い限り、見てから反応で躱してくる敵なんてゲームバランス崩壊じゃないか。まるで姉を相手にしているようなレベルだ。
(やっぱり、運営が監視してるんじゃないのか?)
俺はそんなことを考えながら個々に支援とヘイトコントロール用のスキルを使用して少しでも周りが楽に動けるようにと色々と試す。
また、迷惑な話、状態異常系の範囲攻撃のタイミングが絶妙なせいで、決定打になるような攻勢に出られないでいる……確実に敵の体力自体は減ってはいるのだが、無駄というレベルで時間が掛かっているのは困りものだ。
ネットダイブの制限時間がヤバい場合はどう対処するんだよ……と、俺は声に出さずそんなことを考えながら小さな溜息を吐いた。
通常、考えられるDPSの2割か3割程度のダメージしか与えられないというのはプレイをしている側からすれば、かなりのストレスになる。どう考えてもただの嫌がらせレベルだ。
そういう人の嫌がることを平気でやってくるこのゲームの開発者の歪んだ性格が見えてくるのは非常に気分が良くないが、作り手としてどうやってユーザーを驚かそうと考えている姿勢には感心するし、頑張って欲しいとは思う。
だが、基本的にその思考もどこか斜め上な所為で本当にただただストレスが溜まるだけで、不快であるが先に進むためには集中力を切らさずにチクチクと戦い続けなければいけないのであった。
「あと、ちょっとで倒せるわよ!」
姉は敵の攻撃を躱し、そして攻撃を加えつつ皆を叱咤する。
個々に「おう!」と声を上げながら、攻撃のペースを上げていく……と、いっても攻撃が当たるのは2、3度に1度という割合でシャッハに至っては延々と盾でその攻撃を受け止め続けているだけである。
そして、やっと色違いのメイベルの潜甲虫だった敵が最後の雄叫びを上げる――当然の如く、最後っ屁も持っていると予想して俺達はシャッハを中心に壁を何枚か展開して防御姿勢を取り、ヤツの最後の刻を待つ。
予想していた通り、ドス黒い煙を噴出して地面にこびり付いている黒い粘性の液体のようにドロドロと溶けて消える。
「つ、つかれたぁ~、ねぇねぇ一旦戻らない?」
そう言ったのはアコちゃんだ。しかし、姉はそれを即座に拒否する。
「かなり長く感じてはいたけど、このフロアに入ってから時間的には1時間半くらいでしょ? マップもまだ半分も満たしてないし、下の層で人間狩りしてるアイツ等がこっちに上がってこられても困るから、出来るだけユニークボス攻略まで頑張りたいんだけど?」
姉はそう言ってwebコンソールを開く。
某SNS勢の書き込みがあるかを確認しているのだろう……基本的にあのコミュニティはゲームをしながらSNSへの書き込みや動画配信には余念が無い連中なのだ。
「アイツ等まだやってるみたいッスね」
ミソスープは姉と同じようにwebコンソールを眺めながら厭らしい笑みを浮かべてそう言った。
「まぁ、実際対人戦だけみればこのゲーム結構面白いからなぁ。ただかなりテクニカルな設定や判定が多いから一般受けはしないだろうけど」
「だよね。カジュアル勢には優しくない仕様満載だもの」
「にしても、るかち。このまま行くには魔銃士メンバーは弾数が厳しい状況だけどどうするの?」
「そうッス。こっちはまぁ、まだ何とかなりそうッスけど、カレンとナギリはキツイと思うッスよ」
「ちょっと、ミソはなんで大丈夫なのよ?」
「そいつはアレッスよ。ね、クオン?」
「あ、まさか……」
「そのまさかッス」
「ちょっと! クオンどんだけ弾持ってるのよ!」
カレンはそう言って俺を問い詰める。
そもそも、支援キャラは回復も持っているので意外と装備重量が空いているので他のキャラの物資を持って歩くことも多い。ちなみにしょこらんは装備重量限界値付近まで大量に回復アイテムを持っている。
普通なら、俺も回復アイテム類を大量に持って継続性を上げるのが普通なのだが、第五層のロビーでミソスープに頼まれたのだ。
そもそもミソスープは継続遂行性の低いマニアックな武装を幾つも持ち込んでいる為に弾数をあまり持てないので、悠久の塔に入る段階から俺が幾つかの特殊弾を持つことを受け持っていたのである。
ひとつ問題があるとすれば、魔銃士でも通常の魔弾系武器と散弾系武器では使用する弾が非共通なので使用できないのである。
故にカレンやナギリでは使用不可の弾が多いのだ。
「共通で使える火炎徹甲弾とか雷撃徹甲弾とか、三式特殊弾とか無いの?」
「いやぁ、さすがに通常系の強力希少弾はそんなに持ってないッスよ。あっても、あっしが攻撃出来なくなるじゃないッスか!?」
「って、アンタは基本的に散弾か罠がメインでしょ。持ってる意味ないでしょがっ! それに持っててもサブマシンガン系のヤツでしょ? 特殊系徹甲弾とか使えないヤツでしょ?」
「カレンもナギリもそんな目であっしを見ないで欲しいッス。まぁ、言ってることも分からなくはないッスけど、あったとしても満足できるレベルの弾数は持ってないッスよ。ね? クオン?」
「んー、とりあえず、インベントリ確認すっから待ってくれ」
そう言って俺はインベントリを確認する。
記憶が確かなら、散弾系の属性弾を幾つかと三式特殊弾、零式榴散弾……ってか、ミソスープは散弾系の弾好きだよな。通常弾系は――
「あー、そういえば箱預かってたな……」
俺は思わずインベントリに鎮座する『箱』を見つけて声を出してしまう。
その瞬間、全員の視線が俺に向く。
「弾薬箱!? ちょうだい! ってか、ミソ! どうせ使わないなら渡せ!」
「ちょw カレンっち!? 使わないわけ……あ~、まぁ……どうしようかなぁ」
ちなみに『箱』というのは幾つかの種類に分けられる。通常弾系が100~500発程度入っている『弾薬箱』。爆薬や散弾など特殊な弾が50~200発程度入っている『火薬箱』がある。
ただし、出てくる弾数と種類に関してはランダム。
他にも『医療箱』や『魔術箱』、『ビックリ箱』なんていうアイテムもあるが、それは今、関係無いのでいいとしよう。
ミソスープから俺の手元に預かっているのは『弾薬箱』が3つ、『火薬箱』が2つ、『謎の箱』が1つだ。ちなみに『謎の箱』は今回の荷物預かりのお礼で貰ったアイテムで開けると幾つかのパターンでレアなアイテムが出るかもしれないアイテムだ。同系統のアイテムでは『ビックリ箱』というのがあるが、こちらの方がレア度は高く希少なアイテムとなる。
「ミソスープ。とりあえず『弾薬箱』を1つずつカレンとナギリに渡したらどうだ? まぁ、最低でも100発は補充出来るわけだし」
「まぁ、そうっすねぇ」
「とりあえず、倉庫に戻ったらちゃんと返すで御座るよ」
「あ、私だってちゃんと返すわよ? 熨斗付けてもいいわ」
「仕方ないっすねぇ~、了解っす。ちなみにアッシに『火薬箱』を渡して欲しいッス」
「ああ、わかった」
一応、周囲に敵がこないか姉やシャッハに見張って貰っている間にアイテム交換を行う。
「そういえば、箱で思い出したけど、『ケアパッケージ』からミニガン出るらしいな」
「確率0.001%でしょ? 私も欲しいのは欲しいけど、この悠久の塔じゃ使えそうにないことを考えたら今は要らないわね」
「持ってる拙者が言うのはなんで御座るが長期遂行に全く向いてない武器で御座る」
「そういやぁ、昨日SNS勢のヤツが出してたっぽいッスよ。書き込みで見たッス」
「マジか!?」
と、ミソスープの情報に俺達は思わず声を上げた。
「確かに凄い破壊力なんッスけどね……対大型魔獣装備系シリーズ同様で重量がデカすぎッス」
「まぁ、確かに戦士系の盾と槍3セット分ってインベントリ容量の設定オカシイだろ?」
「ッスよねぇ。魔銃系の装備より剣とか盾、槍の方が軽いって絶対オカシイッス」
そんな文句を言いながらも俺達はさらに奥へ続く道を進むのであった。
表の仕事が忙しいってのもありますが、
ちょくちょく体調を崩してるせいで執筆速度が上がらないのですが、頑張るので応援よろしくお願いします!!!




