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第一章 悠久の塔 第六層 TRS OBTdate.3 その8

 シャンデリアの炎が青白く発光する――


 地響きにも似た低音が響き、視界にはどんよりとした霧が掛かるような演出が入る。


「こんなところの演出に気合入れてどうするよ?」


 シャッハが呆れたように呟く。

 全員が『確かに』と、言わんばかりの顔をする。


 そして、想定通り……と、いうか予想の範疇にあった敵のシルエットが現れるのだが、知っている敵とは少しカラーリングが違う。


「色違いって、もしかしてココの専用中ボスってことッスか?」

「そうみたいね……基本は変わらないだろうから、とりあえず、動きながら相手の動きを見極めていくしかないわね」


 姉《るかち》はそう言いながら楽しそうに刀を構える。


「それにしても、敵のレベル58って……ほぼ上限《キャップ》じゃない?」

「ホント、悪意しかないわよね」

「60いってるプレイヤーなら気を付ければ死なないけど、それ以下の4、50代なら確実に死亡ルートよね、これって」

「カレン、ボヤいてる暇なんてないからねっ!」


 姉《るかち》の言葉に他の皆も同様に動き出す――メイベルの潜甲虫《せんこうちゅう》は毒、腐食、裂傷とバッドステータス大好きっ娘で大変面倒な敵ではあるが、攻撃パターンはそこまで複雑ではない。

 ただ、元々の設定ではレベル43くらいだったハズだが、ここに出て来ている色違いのヤツはレベル58だ。これによって一番の脅威となるのは物理攻撃+裂傷の斬撃攻撃だろう。

 また、甲虫系の大型モンスターは高い物理耐性を持っている為に魔法系の魔杖士《キャスター》がいないと攻略に時間が掛かるというのが定説で硬い上に攻撃力が高いという、どう考えても『お前、中ボスとかいうレベルじゃないだろ?』と、いう感じの敵だ。


 こちらは……正確には違うのだが、決定打となる攻撃のほとんどが物理攻撃という意味から物理特化PTといって差し支えないだろう。基本戦術として小さなダメージを確実に与えてオリジナルスキルで仕留めるというのがやり口だ。

 ただ、初顔合わせの敵に対しては様子を見て、確実に動きを把握しなければDPSを上げることは難しい。


 ちなみにDPSはダメージ・パー・セカンド(Damege Per Second)の略で1秒あたりに与えることが出来る平均ダメージ量をいう。


 さて、それはいいとして俺達の記憶にあるメイベルの潜甲虫《せんこうちゅう》の基本動作は次の通りだ。


 離れている敵に対しては腐食効果のある液体を口から吐く。

 距離は5メートル程度で範囲は2メートル。これを避けて近づくと、その近づいた距離や人数によって前足を使った斬撃攻撃、もしくは尻尾を使った攻撃を行う。

 尻尾の攻撃は意外と早く毒ダメージ値も高いが動きが直線なので回避はそこまで難しくない。どちらかといえば、斬撃攻撃の方を警戒しなければいけない。


 斬撃攻撃は右位置にターゲットがいる場合は左足で、左位置にいる場合は右足で行う。

 それをガードした場合、尻尾を使った回転攻撃しかけてくる。

 こちらは尻尾をジャンプで避けることが出来ればベストだ。


 基本的にある程度、接敵した状態を保ちつつ攻撃を回避して、その隙をついてチクチクと攻撃するのが基本的な攻略方法だ。


 メイベルの潜甲虫《せんこうちゅう》で最も気を付けないといけないのは距離が離れすぎているときの行動だ。

 ジャンプで一気に距離を詰めてくるのはいいが、ジャンプ中に腐食効果の付いた液体を吐き、着地タイミングで左右の前足による斬撃攻撃、ちなみにこれを喰らって吹っ飛ばされた場合はまだいいが、中途半端に避けることが出来てしまった場合は回転攻撃か尻尾の攻撃が繰り出される。


 そして、目の前に現れた色違いのメイベルの潜甲虫《せんこうちゅう》はどこから鳴き声を上げているのかは不明だが不快な奇声を発し、その振動が周囲に響く。


「見たこと無いモーションね……もしかして、AIも全然違うんじゃない?」


 カレンはそう言いつつ後方のポジションを確保する。

 スナイパー系の魔銃士《ガンナー》に対してヘイトが向かわないように、前衛と俺がヘイトコントールを行い、防御回避をするのだが手持ちにある知識が使えない可能性はかなりの緊張感を生む。


 対人では下のレベルの相手に負けることはほぼあり得ないが、魔物《モブ》に関してはレベル帯が下の敵でも運が悪ければ死んでしまう可能性がある。

 と、いっても大体状態異常の所為なのだが――


「ちょっと、あの動き……」

「ま、まさか、と、突進ッスか!?」


 メイベルの潜甲虫《せんこうちゅう》は鎌のような両腕を上げ、威嚇するような体勢からすべての足を素早く前後に動かし始める。


「来るわよ! ブレイク!! カレン、ナギリ! 回り込んでポジションキープ!」


 姉《るかち》の声と共に全員が左右に特殊移動もしくはスキルによる移動を使って敵が突進してくるタイミングを見計らって躱す。

 カレンやナギリがスタンバっている場所の付近まで猛突進を行い、再び嫌な奇声を上げる。


「せっかく、後ろに行ったのに今度は逆に行かないとダメなの?」

「さすがに面倒で御座るな……」

「いいえ、同じ行動を取られるのも面倒だから、左右展開して左回りで対応していくわよ」


 姉《るかち》の指示に従ってシャッハ、姉《るかち》、アコちゃん、ミソスープの四人が代わる代わる攻撃を繰り返す。


 俺は割込みでヘイトを取りつつ、全員に支援を行き渡らせる。


「ちょ! 斬撃モーション増えてるし! 盾スキルは有効みたいだ!」

「って、大振りのわりにはディレイが少ないんだけど……」


 シャッハは敵の連続攻撃を回避と盾で受け流し、その次の隙に攻撃に入ったアコちゃんはメイベルの潜甲虫《せんこうちゅう》の素早い切り返しに焦りつつ、攻撃を与える。


「与ダメ自体はメイベルの潜甲虫《せんこうちゅう》より多いっぽいから、装甲薄くした代わりに動きが速くなりまた的な感じのヤツじゃない?」

「ってか、回転攻撃も速くなってるの! 反応遅れたら結構痛いわよ!」

「あ、ミスったッス!!!」


 言っている傍からミソスープがミスをして回転攻撃に当たって吹き飛ぶ。

 思っているよりダメージは薄いようだが、かなり後方位置へ飛ばされたようだ……が、その時、色違いのメイベルの潜甲虫《せんこうちゅう》は再び奇声を上げる。


「ま、また突進攻撃!? って、吹き飛ばした相手をロックするの!?」

「ちょっとマズイな……」


 俺は急いでミソスープの手前に防壁を二枚張ってから、突進してくる色違いのメイベルの潜甲虫《せんこうちゅう》を特殊移動で躱す。


 普通であれば、一枚の防壁で物理攻撃は防げるハズだが、なんとなく嫌な感じがして攻勢防壁を手前に、その後ろに防御壁を張った。

 二枚張りはそこまで難しくないが、タイミングや位置をミスるとどちらかの防壁の効果が発動しないという残念なことになるのだが、結構な量の練習したので、ほとんどミスすることは無い。


 突進した色違いのメイベルの潜甲虫《せんこうちゅう》は攻勢防壁にぶつかった瞬間に多少のダメージを受けるが防壁を吹き飛ばし突進を止める。そこから尻尾による回転攻撃を行う。


「うわぁ、壁一枚吹き飛ばすってあの攻撃のダメージ値ってヤバそうだね……」

「斬撃と突進はかなりヤバそうだから注意だな」

「クーさん、紙だから溶けそうだな」

「うん、アコちゃんも言うようになったねぇ~」

「じょ、冗談だってばぁ」

「まぁ、間違ってないけどな……オレが喰らったら一発で溶けそうだ」


 そんなやり取りしている間に吹き飛ばされたミソスープ起き上り、素早く俺が張った防御壁にピタリと背中合わせで張り付き、防御態勢を整える。

 そこにやってくる回転攻撃に焦りつつ、次の行動へ移行する。


 色違いのメイベルの潜甲虫《せんこうちゅう》による回転攻撃によって防御壁により防がれるが、防御壁はこれにより消し飛ぶ。

 敵の動きは思っている以上に素早く、回転攻撃の後のディレイはコンマ数秒で即座に前足による斬撃攻撃二連撃を行う。


 破壊された防御壁の場所には既にミソスープはおらず、色違いのメイベルの潜甲虫《せんこうちゅう》は獲物を探すように周囲を見回すような動作を行う。

 次の瞬間、色違いのメイベルの潜甲虫《せんこうちゅう》の足元で爆発が起こる。


「さぁ、一気に攻めるわよ!」


 姉《るかち》の声と同時かそれよりも早く皆は動き出していた。

 爆発はミソスープが仕掛けていた地雷で作動させたのはカレンかナギリだ。

 防御壁が破壊される手前でミソスープは素早く足元に地雷を置き、敵の死角へ特殊移動を使って滑り込み、逃げた。また、彼が地雷を置いた瞬間、地雷のマークが表示されカレンとナギリは視線を合わせて魔銃を構える。


 ヘイトコントールを行う為に、シャッハと俺が前衛側に移動しつつ敵の視線《ヘイト》を向ける瞬間《タイミング》に合わせてカレンとナギリから魔弾が射出され、色違いのメイベルの潜甲虫《せんこうちゅう》の足元にあった地雷が爆発し、大きなダメージを与えることに成功する。


 爆発したのは爆炎地雷で一定時間か地雷を踏み、踏み上げた瞬間に爆発するタイプの地雷でプレイヤーの間ではスナイパー型の魔銃士《ガンナー》が打ち抜くことで爆破させる連携用の罠として我々には重宝されているが、正直、一般的な使い方かといわれると微妙なところだ。


 直接的に地雷のダメージを与えるのが非常に難しい罠ではあるが、その効果は絶大で対人であれば盾型の戦士《ストライカー》でも一発で墜とせるほどの威力を持っている。

 ただ、爆発自体は物理ダメージであるために、物理耐性の高い魔物では一発で倒せるほどのダメージは出ない。しかし、爆発後に発生する火焔ダメージはかなり有効である。


 しかも、火焔状態になった後、数秒は相手の動きを封じることが出来るオマケ付きなので、姉《るかち》は畳み掛けると指示を出し動いたのだ――


(嫌な、感じがするな……まさかな)


 俺はそんな思いを端にやり、支援スキルを全員に行き渡らせる。

 ダメージ値を考えるとそろそろ倒せるところまで来ている……ハズだが、妙な不安は拭えない。


 そんな事を考えていた時、シャッハが妙な声を上げた。



「はぁ? 冗談だろ?」



 シャッハは空間把握に優れており、造形の変化などに関しては敏感だからこそ、気が付いたといえるかもしれない。

 その声に俺も敵の変化に気が付き、通常のメイベルの潜甲虫《せんこうちゅう》には無い特殊な変化を目の当たりにする。なお、姉《るかち》は一瞬だけ不思議そうな顔をしてから何が起こっているのかに気が付いたようだ。


「まったく、本当に悪趣味よね……」

「虫に脱がれても困るッスねぇ~」

「そんなんじゃ無いわよ味噌!」


 そんな軽口を言いながらも、警戒しながら全員距離をとって様子を見る。


 色違いのメイベルの潜甲虫《せんこうちゅう》はボロボロになった硬い鎧を脱ぎ捨てるように高らかに奇声を上げ腐食効果のある煙を噴き出す。


「ちょ! 腐食霧!?」

「まったく、面倒くさい!」


 俺はそう言いながらスキル<聖域浄化《サンクチュアリキュア》>を展開する。

 SP消費量は半端ないが、指定した場所のある程度の範囲に聖域を作る。

 聖域指定された場所は10秒間だけ全ての状態異常効果を無効化するスキルだ……ただ、問題として、自分自身には恩恵を受けないというスキルである。


 そこに関してはしょこらんが俺の前に立ち、<善なる結界>を発動させる。

 こちらは<聖域浄化>に比べて効果範囲が前方のみという狭い範囲しか効果を満たさないが効果時間以外にも魔法攻撃なども防げる防御系スキルでは最上位のスキルだ。

 一応、欠点としては物理攻撃や魔弾攻撃は防げないので、状況によって使い分けが必要となる……まぁ、これは防御壁などに関しても同様だ。


「なんだか、とても速そうなフォルム……面倒くさいが形になった感じね」


 カレンがそう言いながらヤツに弾を撃ちこむが、思った位置に当たらないようでカレンは思わず舌打ちをする。


「シャドウムーブみたいな動きが混ざって厄介ね……」

「ッスね……ブレてる瞬間は無敵っぽいッスね」

「ってか、アイツの攻撃速度ヤバいってもんじゃないぞ!?」


 シャッハは盾で攻撃を防ぎながらそう言った。

 この叫びにはシールドブレイクを問題としているのにすぐに気が付き、しょこらんとタイミングを合わせてシャッハの前に防御壁を作るために特殊移動でシャッハの側へ移動する。


「くっ、助かったクオン!」

「いや、マズったかもしれない……くっ、ヘイトコントール頼むっ!」

「ったく、マジかよ……」


 色違いのメイベルの潜甲虫《せんこうちゅう》だった敵は特殊移動で俺とシャッハのいる位置の後ろに移動する。どうやら一定人数が前衛にいる場合に行う行動のようで、これによって前後を分断する動きだろう。


「無敵アリの特殊移動を魔物《モブ》が使うってどうなのよ?」

「ただの魔物《モブ》じゃないッスね。まぁ、中ボスですし……ってのは冗談で、マジでヤバいッス……特殊移動の見極めをキッチリしないと狩られそうッス」

「あーもうっ、いい、キレた! マジでぶっ飛ばす!」


 そう言った姉《るかち》は色違いのメイベルの潜甲虫《せんこうちゅう》だった敵に突っ込んでいく。



気が付けばGW終わってた。

ちなみにGWってナンですかね? お休み? 知らないなぁw

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