第一章 悠久の塔 第六層 TRS OBTdate.3 その5
いやぁ、風邪だと思ってたら咳喘息でした。
薬飲んだり、医者に通ったりしてだいぶ落ち着いてきたので、執筆ペースも上げていきたいと思ってます。
さて、問題です。
どうやって2セット内で敵を倒すことが出来るでしょう?
俺の脳内ではそんな言葉が某有名アイドル声優の音声で再生されていた。
姉の気持ち的にさっさと倒したいというのはよく分かるが、実際に先ほどの攻撃パターン2セット内で倒せるかどうかというところは適当に言ったのだろう。
敵の残体力を考えれば、各攻撃力の高いメンツが連携してオリジナルスキルをぶち込めばおつりが出るほどに余裕で致死ダメージを与えることは可能ではある。
ただし、すべてが上手くいくことが前提である。
その前提をどうやって現実的なところに持っていくかは姉にとってはその場の流れ次第とか思っているに違ない。
直接文句を言えば後が面倒なので言わないが、結構なリスクを背負ってやらないといけないわけで……そして、もっとも死亡率が高いのが俺なのだ。できればボス戦まではオリジナルスキルを乱発するのは出来れば避けて欲しいなぁ。と、思うところなんだけど、状況があまりよくない。
そもそもオリジナルスキルのデメリットを考えると、少しのミスでPTが瓦解する可能性もあるほどのリスクがある。現状は人がいないフロアだから、そこまで考えなくても問題ないかもしれないけれど、最悪を考えるとやはり問題はある。
現状のPT構成では簡単に突破できないような敵が配置されているのにどこか悪意を感じなくも……あれ? もしかして、運営俺達を狙い撃ちにしているのか?
いやいや、それは考えすぎに違い――無いとも言い切れないんだよなぁ。
αとβ1テストの時にGMのPTをフルボッコにしたから、運営に覚えられている可能性も無くはないんだよな。
カレンとナギリのオリジナルスキルは狭いところでは味方にもダメージが飛んでしまうので、基本的には使用しない。と、なればシャッハ、アコちゃん、姉、この三人分のオリスキを使用したダメージ値で敵を倒すという計算しか選択肢は無いだろう。
初めの1セット目はアコちゃんがオリジナルスキルを発動して突っ込む。
ダメージ的にはさっきの戦闘の5セット分くらいのダメージが稼げると計算する。
ただし、俺としょこらんのオリジナルスキルでの支援をして再度戦線に立てなければタゲ取り要因が足りなくなる。2セット目でシャッハがオリジナルスキルを使ってダメージを稼いで敵を一方行へ追いやって、姉が止めを刺す。
まぁ、このあたりが理想なんだけど、ミッ○ーは最後っ屁があるんだよな。
問題はこの最後っ屁をどうやって回避するか……なんだよなぁ。タイミング次第では俺と姉、しょこらんが沈むかもしれない。シャッハが盾2枚構えても、結局そこに入れなければダメージを負うこと請け合い。
しょこらんはオリジナルスキル後になるから、確実に座っている可能性が高い。
俺はLPが1になっているのは確実、掠っただけで死ぬ。姉は移動系のデメリットでダメージを負う可能性が高い。
前衛なのに体力削って素早さと筋力に極降りだから、装甲は紙装甲といって問題ない。サブ職にモンクを取っているから支援職の俺よりかは幾分かマシだけどアタッカーのなかでは最も防御性能と体力は少ない。
上手くいけば防壁張ってどうにかするっていう手もあるだろうけど、これもタイミング次第では俺もしょこらんもSPが1の可能性も無くは無いんだよな。
さて、ここまで約2秒――
「行くわよ! シャッハ! オリスキで攻めて!」
時すでに遅し、姉は戦闘の鐘を鳴らした。
シャッハは即座に<オーバードーズ>を発動し○ッキーに向かって突貫をする。
同時に左右に展開した姉とアコちゃんによってミッ○ーのタゲを奪って翻弄する。当然、魔銃士勢も特殊移動で○ッキーの後方へ移動しつつダメージを稼いでいく。
一定までダメージ値が入ると回転攻撃、前足での引っ掻き攻撃の後、立ち上がる。
立ち上がった瞬間、全員がシャッハの後ろへ移動を開始する。
「猛毒攻撃来るぞ!」
俺は再び警戒を促し、シャッハの前面に防御壁を張る。
「毒の後、カレン、ナギリ! 左右展開してオリスキで砲撃! 後は私が突貫して潰す!」
「ちょ、最後っ屁どうすんの!?」
「愚弟、しょこらんで防壁張って、私はシャッハの後ろへ逃げる!」
うーん、それもかなりシビアなタイミングじゃないか?
「難しいことを考えても仕方ないでしょ! ほら、さっさと叩くわよ!」
そう言って全員に視線を送るとそれぞれが決意に満ちた瞳を向ける。
猛毒の霧が消えた瞬間にカレン、ナギリが両翼に展開して射線軸が重なるような位置を取る。
真正面にはシャッハがタゲをスキルで取る。
次の瞬間にカレン、ナギリがオリジナルスキルを発動させ轟音と共に光線がミッ○ーに当たり激しいヒットエフェクトが発生する。
俺とシャッハ、ミソスープは連続でスキルを使ってタゲを取り合ってカレン、ナギリに○ッキーが向かわないようにする。
「味噌、やるわよ!」
カレン、ナギリのオリジナルスキルが終了するタイミングで姉はミソスープに向かってそう言った。
ミッ○ーの残り体力は予想値で言えば姉のオリジナルスキルだとオーバーキルだと思うのだが、ミソスープを使うということはコンビネーション狙いだろうか?
うーん、こういう戦闘の組み立てに関しては姉の方が遥かに上だと改めて認識させられる。
ミソスープは特殊移動でシャッハの前、○ッキーの真正面に移動し行動阻害系の罠スキルを発動させる。
妙に甲高い雄たけびをあげながらミッ○ーは範囲攻撃の回転攻撃を行う。
ミソスープはそれに素早く反応して、特殊移動でシャッハの後方へ移動する。
シャッハが○ッキーの攻撃を受け止めている間に姉が<武神撃>を撃ち込みミッ○ーのLPを削る。
計算上、残り数%のLPだが、このタイミングで倒してしまうと確実に姉が最後っ屁を根本から喰らうハメになってしまう。
モンクのスキルは高威力の物が多いが、デメリットとして行動後のウェイトタイムが長い、変わりにリキャストタイムが短く、他の職と組み合わさると超絶的なコンボダメージを叩き出すがどの技も癖が強く非常に玄人向けの職となっている。
「味噌! トドメ!」
姉の掛け声とほぼ同時にミソスープは爆炎地雷を設置し、攻撃アリの後方回転移動を使ってシャッハの傍に移動しつつ、○ッキーの残りLPを削りきる。
そして、ミッ○ーは再び甲高い雄たけびをあげて最後の攻撃を行う。
この最後っ屁はLPが0になると同時に雄たけびをあげ、その雄たけびには衝撃波ダメージ+麻痺が付与されており、さらにその後、倒れ朽ちると同時に猛毒の霧が高速3連続で吹き上がる。通常の猛毒霧と同様に盾や壁があれば防げる。そうでなければマジでクソである。
俺としょこらんは○ッキーの雄たけびに合わせて防御壁をシャッハの両翼に張り、PT全員が盾と壁のに隠れる状態となる――
次の瞬間、どす黒い霧がブワッと周囲に広がり、視界が暗くなる。
ちなみに猛毒自体はそこまで怖い攻撃ではない。
ただし、体力が低い時は非常にやっかいモノで、通常の毒と比べて掠っただけで猛毒状態となり、毒の3倍以上のダメージと2倍以上の継続ダメージが加えられる。
付加効果の追加効果を含めれば猛毒状態=死と言っても過言ではない。
一応、回復用のアイテムは存在しているが、サービス開始からは課金アイテムとなると噂されている高額商品である。誰だよ、このレベルデザイン考えたヤツ……と、ツッコミを入れざるを得ない。
レベル上限に到達しているプレイヤーが掛かる状態異常で最も死亡率が高いのが猛毒攻撃なのだ。
現在は敵に猛毒を与えるという効果は存在しないが、あったとしたら対人戦においていかに猛毒状態にした方が勝つ。みたいなことが起こり得そうなくらいだ。
毒霧が収まるまで10秒ほど、俺たちは身を屈め壁と盾を両手に持ったシャッハに張り付く。
「遠距離でチクチクやれば簡単に倒せるミッ○ーがこんなにヤバいとは思わなかったッスよ」
ミソスープがため息交じりにそう言った。
その言葉に全員が素直に納得する。
「それにしても、まだこのマップの2割程度しか進んでいないのにこの状況ってすごく嫌な感じよね……まだしばらく5層でアイツ等が遊んでてくれたらいいんだけど……」
と、姉は毒の霧が収まるのを確認して立ち上がった。
「ってか、気になってたんッスけど、この悠久の塔の敵ってドロップ無いッスね」
「ホント、せめて多少なりと素材とか弾とか回復アイテムとか落としてくれればいいのになんっにも落とさないわね」
「プレイヤーに対しての嫌がらせがメインだったりしてね」
「カレン、ありえそうだからそれは言っちゃダメよ」
「あら、るかちもそう思ったの?」
「思ってても言わない方がいいってこともあるでしょ……ともかく、先へ進みましょう」
姉の言葉に皆それぞれ思いつつも立ち上がり先に進む。
次に選択したのは○ッキーを倒したことで通れるようになった正面と右側にある通路だが、俺達が進んだのは正面側の通路だ。
しばらく真っすぐの道が続き、相変わらず敵が出ないことで警戒だけで神経をすり減らす仕様に辟易となる。
進むこと2分ほどしたところで正面に扉がある場所へやってくる。
ミソスープが罠を確認し、特に問題が無いことが分かるとソッと扉を開ける。
ギィィィィィ――
相変わらず洋館モノのいい音で扉が開いていく。
「また分岐かよ……」
そう言ったのはシャッハだ。
扉の奥は左右に長い通路が続いており、雰囲気は相変わらず暗くどちらに進むにしても慎重に進まねばいけないのは敵の姿がまったくもって見当たらないからだ。
「あまりにも敵配置が少ないのって何か意図があるのかなぁ?」
アコちゃんが相変わらずやや腰が引けた状態でそう言った。
こういう風に敵の配置が少ないマップというのは、罠だったり、特定の場所に大量に敵が配置されていたりするためにあえて配置していないというパターンが多い。
ワザと狭く緊張感を維持しなければいけないマップ作りがされているところに製作者の意地の悪さが垣間見える。
「ま、いろいろ考えるよりも先へ進むわよ……とりあえず、右側かしら?」
「そうだね。基本的に右回りで問題無いと思うよ」
「できれば、ガンガン敵が出てくれる方がいいんだけど……また○ッキー出ないかしら?」
「またあんな狭いところで出られたら困るだろ?」
「うーん、思ったより余裕があったし、もっとギリギリ感がある方が楽しいんだけどな」
やはり、この世の中で一番恐ろしい存在は彼女である。
俺は数々の思い出を脳内再生しながら、るかちという恐怖の大魔王の存在をあらためて認識するのであった。
姉がゲームにハマりだしたのは彼女が高校を卒業して、祖父に大学入学のお祝いに買ってもらったPCを使い始めてからだ。
それから2年で気が付けばスターファイターでプロデビューまでしてしまうほどにゲームにドはまりしたのだ。
元から身体を動かすことが好きだった彼女がデジタルの方に進んだのは意外ではあったけれど、我らが家族はみなゲームやネット関連はかなり深いユーザーであることを考えれば、ある意味、当然の方向であったのかもしれない。
彼女が一番最初にハマったのは爆弾を投げ合って殺し合う『ボンバー・アサルト ―ザ・サバイバー―』だった。
期間的には一か月くらいの話だが、連日徹夜で規定の休憩以外はずっとダイブし続けてプレイしていたのだ、付き合わされる俺とすれば本当に堪ったもんじゃなかった。
はじめの一週間は『ザ・初心者』といった感じだったのに、翌週には上位ランクのプレイヤーを狩りまくっていた。思い出すだけでも本当に恐ろしい。
そこから、どうやってスターファイターに行き着いたのか分からないが、半年後にはスターファーターを始めていた。
まぁ、彼女がスターファイターと出会ってくれたおかげで、俺も収入を得ているので姉には感謝してもしきれないのだが……。
この二年間で彼女に付き合わされたゲームタイトルは確実に100タイトルを超える。
それにあり得ないほどの時間をそれに費やす。当然、犠牲にするのは睡眠時間やプライベートの時間だ。
しかし、恐ろしいことに大学の単位も落としてないという……いったい、どういう生活を送っているのかかなり謎である。
だが、プロプレイヤーとしてデビュー出来なければ、我が姉はヒキニートレベルで引きこもっていたハズなのだ。どうやって大学の単位を取っているのか不明だが、プロデビューしてからも、今もそうだが、結構いろんなゲームを同時にプレイしている。
まぁ、なんにせよ姉はこうと決めたらどこまでも突っ走っていくスタイルだ。
俺にもそういうところだけは彼女に対しての憧れはあるが、正直巻き込まれるこちらは大迷惑である。彼女と生活時間を合わせないといけないのだから。
(そういいながらも一緒に楽しんでる自分も似たようなモノか)
と、思わず苦笑してしまう。
「まったく、愚弟はまた面倒臭いことを脳内でグジグジと考えてたの?」
「べ、別にそんなんじゃないって」
「ま、いいけど、あんまりボーっとしてるとあんただけ、置いてくわよ?」
「はいはい、ちゃんとついていきますよ姉様」
「うむ、帯同を許すぞ。愚弟、しっかりとついてきたまえ!」
そんなやり取りをしながら、右側の通路を俺たちは進んでいった。
今週はもう1、2話アップしたいと思ってます!
応援、拡散等々お願い致しますぅ~。




