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第一章 悠久の塔 第六層 TRS OBTdate.3 その4

「やっと、屋敷の中央側に向かう扉が出て来たわね」


 姉《るかち》は若干げんなりした顔でそう言った。

 彼女には何か建物の外周を回らされる事に嫌な思い出でもあるのだろうか?

 ふと、しょこらんと視線が合う。彼女はそれを察してか苦笑した。

 しかし、ここでしょこらんが何も言わないということは姉《るかち》にとってどうしても言いたくないレベルの何かなのだろう。


 まぁ、ここはソッとしておいてやろう。


 通路の最奥右側にある扉の周囲にPTメンバー全員が配置に付く。

 ドアを開けるのはミソスープで、突入するのはシャッハ、アコちゃん、俺だ。

 殿は姉《るかち》が務め、カレン、ナギリは前後を確認しながら扉を潜る。


 次にやってきたのは大きめのフロアで右と正面に続く通路が確認出来る。

 そして、中央にはドロリとした黒い粘性の液体が噴出している謎のオブジェが存在する。


「また敵が居ないフロアってことでいいのかしら?」


 姉《るかち》は面白くなさそうにそう言った。

 逆に敵が出ないというのは緊張状態が続くせいで疲労が溜まるのだ。

当然、他のメンバーも面白いとう表情はしていない。


「それにしても、あからさまなオブジェクトだけど……どうするのがいいと思う?」


 これは姉《るかち》が俺に対して「考えるのが面倒だから、いい感じに考えろよ」と、いうことを暗に言っているのだ。俺は小さく溜息を吐きつつ心の中で「まったく、面倒臭い」と呟いてから思考する。


 フロアの広さ的には戦闘をするのにも十分なほどの広さがある。

 謎のオブジェクトは先ほど爆破した壁と同じように黒い粘性の液体が噴き出している。このあからさまな状況で色々考えるより、とりあえず破壊してみよう……とか、考えた方が面倒は無く済むんだろうけど、姉《るかち》的には何か嫌な感じがしたのだろう。

 ギミックとしては破壊する、燃やすことがトリガーとなって敵が出てくる……とかなんだろうけど、そんな単純な作りのギミックをこの開発会社がするだろうか?

 と、いうところがこの罠のキモなのかもしれない。


「騙されてみるものひとつだと思うけどな。それが嫌だから俺に考えろって言ったんだろうけど……」

「斜め上大好きな開発者の掌で踊るなんて真っ平御免よ」


 姉《るかち》はドヤァっとした顔で言う。別にそこはドヤ顔をするところでは無いと俺は思うんだけどな。


「ク、クオンくんっ!? な、何か出てきたよ!」


 しょこらんの驚きの声に全員が身構える。

 フロアに人間が入って一定時間経過したら敵が出てくるパターンだったようだ。


 ギチギチ、ギチギチと虫の関節が鳴る特有の音を鳴らし、全長30㎝ほどの甲虫が黒い粘性の液体が噴き出るオブジェクトから湧き出してくる。


「ひぃっ」

「嫌な音ね……」


 しょこらんがのどをひくつかせる音を鳴らす。ちなみにアコちゃんも同様にドン引き状態だ。

 俺はシャッハと姉《るかち》に目配せして、範囲指定のバフを掛ける。


「黒甲虫《ブラック・バグ》って火が弱点ッスよね。ま、ジャイアントGよりましッスよ」

「そうよ。さっさと片づけて移動するわよ……そうね、出来れば正面――」

「いや、そこは右側からのがいいと思う」


 俺は姉《るかち》の意見を遮るように右側のルートを選ぶように進言する。

 基本的にダンジョン内で外側から内側にウロウロとさせる場合、ショートカットしたい気持ちが強いプレイヤーを罠に掛けるための分岐のハズなのだ。こういう場合の正解ルートは遠回りと相場が決まっている。


「わかった愚弟《クオン》のいう通りにしましょう。じゃ、そこそこ撃破しながら先に進みましょうか」


 彼女の言葉を聞いて全員が一気に行動を開始する。

 しょらんとアコちゃんは若干腰が引けてるけど……。


 俺が全員に防御、攻撃、移動系の強化支援を掛け、まだ虫に対して腰が引けているしょこらんは移動阻害系のスキルを発動させ虫の足を止める。

 移動阻害に掛からなかった敵に対してカレン、ナギリが狙い打って数を減らしていく。

 シャッハはソニックウェイブを中心に一定以上の距離を開けて虫を減らしていく。


「全く虫の数は減らないわね……」


 と、姉《るかち》は呟きつつ剣で虫を薙ぎ払う。


「防壁と攻勢壁出して敵を止めようか?」

「まぁ、確かにそれも手だけどいまSP消費するのは控えた方がいいかもな」

「クオンくんがそう言うなら……で、でも、あまり見てたく無いから」


 Gには似ても似つかない黒甲虫《ブラック・バグ》なのだが、一部ではゴキという愛称で呼ばれているせいでしょこらんはアレがゴキブリに見えるらしい。

 ちなみに俺的な意見はちょっとゴツゴツした雌のカブトムシっぽいんだけどなぁ、確かに角が無いことを考えればクロゴキブリとかに見えなくは無い。


 大量に湧き出る甲虫を排除しながらフロア右奥に続く通路へ向かう。

 時間にして数分で通路側に付き、フロア側にシャッハが殿として盾を構え、槍で虫を排除しながら全員が通路に入るのを確認して俺が攻勢防壁を張り通路への道を遮断する。


「また何も無い通路なのね……まるで通路オンラインって気分だわ」


 と、姉《るかち》は愚痴を零した。


「あら、るかち。ローディングオンラインとかWaitingオンラインに比べれば全然マシだと思うんだけど……」

「確かにそうね。あと、遅延オンラインとかマジ最悪! まぁ、アレに比べれば全然マシね。特にこのゲーム、サーバーというかフレームレートに関しては結構優秀で遅延もほとんど感じないし……あー、今のスターファイターももう少し遅延減らして欲しいんだけど」

「最新版の遅延が酷いって話は本当だったのね」

「ま、こないだのPNOに比べたら全然マシだけどね」

「アレと比べたらダメよ。あ、そういえば今朝の情報でクローズベータさらに2週間伸びて追加のテスター募集もしてるらしいわよ」


 カレンの発言に反応を見せたのはシャッハだ。


「マジで!? 俺にもチャンスがあるってこと?」

「ええ、倍の人数を募集するんだって」

「それはサーバーの負荷テストも兼ねてって感じだな。それならシャッハも当選するんじゃね?」

「おおっ、断然やる気出てきた!」

「ってか、確実にサービス開始したらこのゲームに残るヤツ少なそうだな……」

「あら? 2週間くらいは人がいるんじゃないかしら?」

「あー確かに、PNO始まるまでは確実にある程度の人が残るだろうな」


 カレンの話を聞いてややテンションの上がったシャッハは殿の位置から通路の先へ進む先頭へスイッチする。


「それにしても、敵がほとんどいない通路バッカリ移動してると完全に別ゲーやってる気分なんだけど」

「それは確かにッスね。あ、50メートルほど先で次のフロアに出るっぽいッス」

「また、同じ感じだったらすっごく萎えるわ……」

「姉様《あねさま》、そりゃフラグってヤツッスよ」

「……そんなフラグは叩き折るわ!」


 そうこうしている間に次のフロアに到着する。

 次のフロアは先の部屋よりも狭く、やや暗い。荒れた雰囲気の部屋で部屋の中心に木箱が積まれている。これも何かあからさまな感じで全員が嫌そうな顔をする。


「まったく、嫌な雰囲気よね。絶対に近づくと敵が出てくるとかでしょ?」

「まぁ、ありうるからとりあえず破壊してみる?」


 と、俺も考えるのが面倒になり、とりあえずそう言ってみる。

 シャッハが「そうだよな」と、言って槍で一突きにしようと動く――


 次の瞬間。


 木箱に攻撃が届くより先に巨大なネズミが現れ、フロアの出入り口は鉄格子によって遮断される。


「ビッグラット!?」


 皆が現れたネズミの巨大さに驚く。あからさまに木箱よりも倍ほどもサイズが違うネズミが登場したのだ。レベル的には自分たちより随分と低いが扱いが中ボス設定で非常に体力の高い魔物《モンスター》として、PvEのマップではたびたびご登場する敵だ。


「大○ッキーッスか!? うーん、雑魚っちゃ、雑魚ッスけど、この狭い部屋だと面倒ッスね……しかも、倒さないと出れない系のフロアッスね」


 正式名称は『疫病を撒き散らす大鼠《おおねずみ》、黒鼠《こくそう》』というが、プレイヤーからはビックラットやミッ○ーとかと呼ばれている。腹部から下に掛けて毛の色が赤いことと、耳が大きいことから○ッキーの愛称で呼ばれているレベル自体低いが色々と攻略が面倒な敵として認識されている敵なのだ。


 ただ、中ボスとして配置されているマップが多いせいで攻略方法はそこまで難度は高く無いハズなのだが、狭い部屋の場合に限って攻略難度が一気に跳ね上がる迷惑キャラとして軟性生物《スライム》系と共にある意味では嫌われている敵だ。


 このゲームにおいて、もっとも気を付けないといけないのは認識阻害系、猛毒、腐食など耐性が効きにくいスキル持ちで例えレベル的に圧倒していても状況によれば倒される可能性がある強スキルなのだ。


 そして、ミッ○ーは混乱、猛毒霧、闇霧、腐食の吐息、裂傷、無音と六種類の範囲効果がある状態異常《デバフ》スキルを持っている。しかも、こいつは火炎耐性、毒耐性、腐食耐性、魔法耐性が高く特に魔法系のダメージ値は期待できないというどう考えてもバランスブレイカーな敵なのだ。

 意外と強いってところが非常に使い勝手がいいせいで様々なマップの中ボスとして配置されているのだ。


 そして、ここで一番の問題となるのはフロアが狭いということだ。

 こいつが配置されているマップは基本的に広いために範囲攻撃のモーションに入るのをみてから効果範囲外に移動すればダメージを喰らうことは基本的に無いのだが、ここの狭さを考えると逃げ道は無い。完全に初見殺しの罠だ。


「しょこらん、耐性バフ。愚弟《クオン》はしょこらんの支援に回って!」

「りょーかい!」

「シャッハ盾メインでタゲ管理! 魔銃士《ガンナー》メンバーは後ろ取って!」

「おうっ!」

「了解でござる!」

「行くわよミソ!」

「任せるッスよ!!!」


 姉《るかち》の指揮によって全員が素早く動く。

 俺は全体の動きが見えるようにしょこらんのやや後ろについて彼女に支援魔法を掛け、前方に魔力障壁を張る。混乱と無音の効果だけは魔力障壁で防げるので定期的に壁を作りながらしょこらんをサポートする作業だ。


「アコちゃん、私に合わせて!」

「うん、わかったよ!」


 姉《るかち》は魔銃士《ガンナー》メンバーが特殊移動を使って○ッキーの攻撃を回避しつつ後方へ移動していくタイミングでシャッハがスキルでタゲを取り、それに合わせるように左側へ駆け出す。

 それを見てアコちゃんも双剣を構えて駆ける。


 このネズミの厄介な点がもう一つ。

 普通はヘイト管理さえしっかりしていれば、ターゲットが即座に変わるということはあまりないのだが、此奴に関してはちょっとのダメージでターゲットが変わるというメンドクサイタイプの敵なのだ。

 故に盾が全面に張り付いてこちらの攻撃に合わせてスキルと攻撃を含めてタゲを取り続けるという面倒な作業をしなければいけない。一瞬でも油断すれば、裂傷や腐食系の攻撃を受けてしまう可能性が高い。

 特に腐食に関しては蓄積値が乗っていくので攻撃は防げても武器や防具の耐久値が減っていくというクソ仕様だ。


 ただ、素早い攻撃に合わせて順番に攻撃していけば一定まではハメることが出来るのでその点は救いである。

 姉《るかち》、アコちゃん、ミソスープ、カレン、ナギリとタイミングを合わせながらダメージを稼いでいく。そして、ある程度のダメージを与えた時にシャッハがタゲをスキルで取り直す。


「猛毒霧来るぞ!」


 敵のモーションを判断して俺は警戒を促しつつシャッハの前面に防御壁を張る。

 それを見て、魔銃士《ガンナー》メンバーは特殊移動でこちらに戻ってくる。敵が猛毒の霧を吐き出すのとギリギリのタイミングで滑り込んでくる。

 姉《るかち》とアコちゃんはシャッハの後ろに隠れ、しょこらんは自身の前に防御壁を張る。


 猛毒の霧はミッ○ーを中心にバフゥッと広がり一瞬で消えるが壁がなければ確実に毒状態となるこのゲームでもトップ10に入る基地外スキルである。

 ちなみに通常の毒霧は3秒間停滞する霧+Dotダメージという結構強力なスキルだ。強力といえど、耐性をあげると毒状態になることはほぼないので低レベルでなければ、そこまでは怖いスキルでは無い。だが、この猛毒霧はダメだ毒耐性100%を持っていても無視され猛毒に対しての耐性スキルは存在しない為にほぼ確実に毒状態にして、なおかつ、猛毒状態という付加効果によって追加効果によって毒ダメージが10倍になるという意味不明なヤツだ。

 ちなみにバリエーション違いに麻痺毒霧というのもあるが、今はいいだろう。


 猛毒霧に耐えると次は攻撃強化のモーションに入り、隙を作ってくれるのだが、攻撃力があがるのは実は結構面倒なモノで各スキルの攻撃力も上がり、なおかつ――ここがクソなのだが――効果が重複していくという超クソ仕様なのだ!


「こんなところで時間を使いたくはないから……あと2セット内にオリスキ込みでブチ倒すわよ!!!」


 そう言って、姉《るかち》は手に持った刀を鞘にしまう。

 さぁ、全力を持って○ッキーをブチ倒そうじゃないか!!!


来週はもう少し頑張ろう。

気持ちだけでも。

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