第一章 悠久の塔 第六層 TRS OBTdate.3 その2
重たい木の軋む音が響く――
リアルで考えると建付け悪すぎるだろう。
過剰演出だと思うけれど、雰囲気から言えば概ね問題無い感じだと思いながら、扉の奥を観察する。
薄暗い通路が続いており、奥はどうやらT字路になっている。
「まったく、T字路の多いゲームッスね」
ミソスープはそう言いながら、姉の指示でフラッシュグレネードをT字路左側に投げ込む。
しばらくの沈黙の後、グレネードが爆発し爆発時に発生する光、轟音と煙がT字路に広がる。
「反応なしッスね。逆サイドもやるッスか?」
「念のため、お願い」
そして、ミソスープは再びフラッシュグレネードを放り投げる。
ミソスープのスローイング技術はレギオン内では最も高く、別のゲームでは爆弾魔と仲間内で呼ばれていたという話もあるくらいだ。
再び、爆発の煙が上がり火薬の匂いが充満していく。
「火薬の匂いの再現度って結構凄いわよね」
「まぁ、海外のゲームでも多く使われてるしリソースが多いんじゃないかな。ハリウッドのVR映画とかでもよく使ってるみたいだし」
「そう言われればそうよね。ま、匂いがずっと服に付いたままとかにならないから、どうでもいいんだけど」
「そこをリアルにされたら、迷惑極まりないでしょ」
俺と姉の会話を聞いて元気が出てきたのかアコちゃんが会話に混ざってくる。
「匂いといえば、匂いで犯人を見つけるってゲームあったじゃん」
それに反応を示したのはナギリだ。
「匂い探偵シリーズでござるな」
「そうそう、アレって一作目しかやったことないけど、結構、強烈な匂いがあって大変だったんだよね……」
「どちらかと言えばコメディ路線が強い作品でござったからなぁ。二作目以降は女子高生の匂いとか、禿げたおっさんの香りとか。最新作では一話分の間、ずっと生ゴミの匂いがついたままで苦しむという展開があったでござるが、絶賛炎上中でござる」
「それはキツイ……」
皆が生ゴミの匂いを想像して厳めしい顔をしながら、俺たちは慎重に前進する。
T字路に差し掛かったところで、シャッハが姉に視線を向けると、彼女は左側を指さして進行を指示する。
シャッハは壁に身体を寄せ、角で盾を構えて止まる。
それに続くのは姉でその後方からミソスープが魔銃を構えて飛び出す。
それと同時に俺が後方について右側の通路を確認する。
「クリア!」
「クリアッス!」
俺とミソスープはほぼ同時に何もいないと判断して声を出す。
「何もいないなんて、らしくないわね……」
姉はそう言いながらT字路の左右がよく見える位置に移動しながらそう言った。
狭い通路のT字路でホラーゲームっぽい作りの場合、どちらか、もしくは両方に敵などがいる可能性が高い。
残念ながら、グレネードで倒された敵も破壊されたオブジェクトも存在しない。
「なんだか、嫌な感じ……」
そう言ったのはカレンだ。
そして、同意するように皆も不安な視線で周囲を確認しつつ、警戒を解く。
「ホラーの基本ってのは人を如何にして驚かせるか……だからなぁ。ある意味一番洗練されたエンターテインメントとも言える。たぶんだけど、罠があるように思わせて、何もないってのがミソなんだろうな」
「全く底意地の悪い……」
姉はそう言いながら右側の通路の奥を見つめていた。
「姉様、何か見つけたッスか?」
「左側の通路はスグに行き止まりっぽいけど、右側の通路は思ったより長い……奥の方は暗くてよく分からないけど、かなりの長さがある気がするのよね。しかも、どうみても途中に扉とかも無さそうだし……」
「じゃ、私かナギリがサーチしようか?」
と、カレンはそう言ってイベントリを確認し始める。
そして、姉は腕を組んで少し考えてから口を開く。
「じゃ、カレンには熱源探索、ナギリには霊体探索……あ、愚弟は魔力探索で……距離があるし、魔銃のスコープのがいいかもしれないわね。まったく、慎重にいかなきゃいけないけど、時間かけすぎるとアイツ等も上がってくるかもしれないから、面倒ね」
「確かにそうッスね」
姉がそんなことをボヤいている間に俺はスキル<魔法探索>を発動させる。
<魔法探索>は一定の距離範囲にある魔法的物体を探索するスキルで魔法が掛かっている罠などの存在を見つけることが出来るスキルだ。
PvE用のクエストステージでは重宝するスキルで、キャラ育成においてPvPをあまりしない面々においては取っておいた方がいいスキルだという評価だ。
だが、このゲームのメインは対人コンテンツなので全体から言えば取得率の低いスキルであるが、壁系の魔法スキルや一部罠を察知できるので意外と使える支援魔法だと俺の中では評価の高いスキルだ。
「俺がサーチ出来る範囲では何も無いな。奥のほうは分からないけど……まぁ、そこはまた少し進んだところでスキル使えばいいか」
「拙者のところも見える範囲では霊体系の敵は見えないでござるな」
「こっちも何もいないわね……暗視スコープもあるから、一応見てみるわね」
「カレンっち、そんなレアパーツ持ってたんッスか!?」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「うむ、拙者も初耳でござる」
暗視スコープはテスト実装の装備ガチャで魔銃限定ガチャの大当たり装備で排出率は0.01%だったかの超レア装備パーツだ。ちなみにクローズテスト時には課金は出来なかったので、ガチャチケットが配られていた。
なお、サービススタートと同時に見た目が変わる装備品や強化武器、特化武器や特殊武器パーツなどがガチャとして実装されることが先日公式webページに掲載され、SNSや情報サイトなどでもその情報が出ていた。
「あー、前回クローズの最終日の終了数分前に装備ガチャ回して出たヤツだから、まだ一度も使ったことないのよね」
「ってか、あの時ッスか!? 確かにガチャショップに入っていったのは覚えてたッスけど……」
ちなみに、俺としょこらんも一緒に行って余っていたガチャチケットをすべて使ったんだが、俺は大爆死でしょこらんは魔杖士防具ガチャで大当たりを引いて現在かぶっている頭装備『セントバルーンハット』を出していた。
カレンはあの時、特に凄いものが出たとは言っていなかった気がする。
まぁ、しょこらんの大当たりに俺とカレンが大盛り上がりだったのは覚えているが、カレンは自分で出した装備をあまり見ていなかったのか。それはカレンにしか分からないことか……。
「実はガチャ演出スキップしちゃって、実は結構テンパってた時にしょこらんが大当たり引いて変な声あげて呆けてたせいでちゃんと見てなかったのよ……ログインした時に思い出してちゃんと確認したらイベントリにあったんだもん」
「あ、だからガチャ回してた時に微妙な顔してたんですね。てっきりクオンくんと同じで何も出なかったのかと思ってたよ」
しょこらんはあの時、カレンの表情に何か違和感を感じていたようだ。
「そんなことはいいから、カレン暗視ゴーグルの性能を確かめなさい」
と、姉は呆れたようにそう言った。
カレンは魔銃のスコープを超レア武器パーツである暗視ゴーグルに変更し、スコープを覗き込んで通路奥を確認する。
「シューティング系のゲームにあるリアル装備に比べて不鮮明な感じね。最新の暗視ゴーグルなんて昼間と全く変わらない映像で見れるのに……まるで旧世代の暗視ゴーグルって感じだわ」
「ふむ、2000年代はじめの近代装備のような雰囲気でござるか?」
「あ、そんな感じ、時代錯誤過ぎてちょっとガッカリ感強めね。はぁ、特に何も無い気がするけど少し集中するわね――すぅっ」
カレンはそう言ってから少し黙る。そして、息を止めて集中し始める。
ほんの数秒のことだが、カレンが集中しているのが伝わってくる。そして、小さく息を吐いて魔銃をソッと下す。
「パッと見は何もなかったわ。それに最奥はどうも行き止まりみたいね……奥まで行くかどうかはるかちの判断だと思うけど」
「なるほどね。どうしようかしら? 他に意見はあるかしら?」
と、姉は再び腕を組んで首を傾げる。
「できれば、行きたくないかなぁ」
「もう、ホント怖がりね……アコちゃんってば」
どうやら、まだアコちゃんは立ち直ったわけでは無いらしい。
俺的には行っておいた方がいいと思うが、ナギリも行かないで済むのであれば無視してもよいのではないかと言う。
俺、シャッハ、ミソスープは行った方が良い派。アコちゃん、ナギリは行かないでもいいんじゃね派。しょこらん、カレンは姉の判断に任せる派で意見が分かれた。
「そうね……迷ってる場合じゃなさそうだし、私が決めるか」
と、俺、シャッハ、ミソスープの意見はさらりと無視され、姉判断で決定されることになった。一応、俺たちの意見も姉の中では脳内には入っているようではあるが、時に斜め上の最終決定を下すのが彼女の恐ろしいところなのだ。
「じゃ、ひとまず隊を二手にわけて、通路の両側を確認して戻ってくるでいいかしら?」
ちょっと考えたけど、隊を分けるのは危険だと思い口にしなかった案を姉は口にするのだった。
「近い方は愚弟、味噌、アコちゃんで、向こうの奥側は残り全員で行くわよ。ざっとみて何もなさそうなら戻ってきてここに集合で!」
真っ暗な方からアコちゃんをソッと外すところが姉らしい優しさだが、役に立ちそうに無い前衛を引いて中衛二人で別行動って意外とリスクがある気がするんだけど、あえて文句は言わない。
言っても仕方ないからだ。どうせ、俺とミソスープがいればどうにか生き残るだろう。とか、考えているに違いない。
ミソスープと俺は肩を竦めながら視線を合わせ、移動を開始する。
その後ろを焦ったようにアコちゃんが付いてくる。
「今のところ、罠っぽい物はなさそうッスね」
「そうだな。さっき使った魔法探索の範囲内だから問題ないんだが、ここから先が問題だな」
「じゃ、ひとまずストップして安全確認しますか~」
そう言ってミソスープはイベントリ内を確認する。
「これッスかね……」
彼は掌に四角い物体を乗せて楽しそうにそう言った。
取り出したのはサーチライト・キューブというアイテムで全職業使用可能なアイテムで近距離しか探索できないが、熱源・魔法・ギミックなどありとあらゆる仕掛けを発見することが出来るアイテムである――のではあるが、プレイヤーが設置したあらゆる罠、魔法などを察知することが出来ない。また、効果時間が2秒という本当使えないと言われている。
「いやぁ、買い込んどいてよかったッスよ。ちなみにイベントリ重量もほぼ掛からない優れものッス」
「幾つ買ったの? アレって安かったっけ?」
アコちゃんが不思議そうにそう言ったが、サーチライト・キューブは2Gしかしないので、イベントリの所持上限の999個買っても大した額ではない。
「と、いうか……そんなに持ち込む意味はあるのか?」
「まぁ、ショートカットに入れて連射したら目隠しとかにも使えるかと思ったッスよ」
もうひとつ、効果として発動時にカメラのフラッシュが焚かれたような効果エフェクトが発生する。それを見た姉は「これがサーチライトって名前の由来なのかしら?」と不思議そうな顔をしていたのを覚えている。
効果エフェクトから言えば、フラッシュ・ライトの方がしっくりきそうだ。
「効果範囲が1メートル以内とかホント、アホッスね……通路で考えれば結構な数を消費しそうッス。はぁ、ショートカット設定して時短するしかないかぁ……」
そう言ってミソスープはアイテムショートカットを登録して、ジェスチャリング+音声でアイテムを連続消費していくのであった。
「ちょっwww、眩しいって!!!」
「と、いうよりウザい! 煩い!」
俺とアコちゃんは声を上げるが、ミソスープは無視して楽し気にサーチライト・キューブを使っていく。
「ほほほいっ! ほほほいっ! もういっちょ、ほほほいっ!」
無駄に眩しいエフェクトが通路を明るく照らす。
正直、俺たちは何をやっているんだ。と、いう気持ちになるほどに、ミソスープのテンションが高くてキモイ。
そうやって、左側通路の奥までやってきたのであった。
4月からは少し余裕出るか?
うーん、どうでしょう???
ペース上げるにはどうすればいいんですかねぇ……。




