第一章 悠久の塔 第六層 TRS OBTdate.3 その1
体調がどうも優れず、なかなか思うように更新出来ないのであります……
週一では更新したいと思ってますので皆さま応援よろしくお願います。
2時間程度の休憩の後、『悠久の塔』の第五層ロビーに集合していた。
第六層に上がるとUIに『悠久の塔 第六層-邂逅の愚劣者-』という表示がなされる。
「さぁ、新エリアっていうのはいつでもワクドキするわね」
と、姉は楽しそうにそう言った。
ただ、このマップの様相は楽しそうには程遠いほど薄暗く、その壁はまるでコールタールを塗り付けたような表面である。どうやら天井からもポタリ、ポタリとどす黒い粘性の高い液体が落ちていた。
洞窟という雰囲気は全く無く、古い木造の洋館といった雰囲気だ。
「ハッキリ言って、不安な雰囲気だな」
そう言ったのはシャッハだ。
ただ、その瞳はどこか楽しそうなのは彼の趣味的にこの雰囲気は嫌いでは無いということを物語っている。
ここの開発会社が特に得意としている雰囲気たっぷりのマップというだけど、なんとなく嫌な予感がするのは俺だけなのだろうか?
「にしても、ふ、雰囲気ありすぎて……ちょ、ちょっと苦手だよ……」
と、ホラーが苦手なアコちゃんはソッとカレンの後ろに隠れる。
「ちょっと、アコちゃん。さすがに怯えて私の後ろにいるのって、邪魔なんだけど……まぁ、確かにBGMも鳴ってないってのは雰囲気あるけど……」
そう言って彼女は周囲を見渡すような仕草をする。
俺はその様子を見ながらも床に落ちたドロリとした黒い粘性の高い液体を手に掬って、匂いを嗅いでみる。
匂いを嗅ぐ意味は実のところあまり意味は無いのだけど、匂いという感覚は現実世界の数パーセントでの再現が行われている場合もある。
人によると匂いに敏感な人や不快感を覚える人もいるので、設定でOFFにしている場合が殆どだ。
「なんだか、これって油みたいな気がする……」
「油ッスか?」
ミソスープがそう言いながら俺と同じように黒い粘性のある液体を指で掬って匂いを嗅ぐ。データ的にどうやら匂いを感じなくて損をしたというような表情を浮かべる。
「匂いは無いッスね」
「たまーに匂いがあるオブジェクトがあるんだけど、さすがに不快にさせる匂いってのは出さないようにしているんだろうな」
「そういえば、狩猟万歳だと焼いた肉の匂いはちゃんと付いてたわね」
と、姉が会話に入って来る。
彼女も同じように黒い粘性の液体を指で掬って匂いを嗅ぎ匂いはしないのに不快な顔をして指に付いた液体を振り払う。
振り払うだけで液体がスッと消えていくのは非常にゲーム的なところであるが、実際に汚れたようになるのはいろんな意味でゲームとしては困るだろう。
「そろそろ嫌なギミックとかあるステージなのかな……」
シャッハは粘性の液体を避けるように付近の通路を確認しながらそんな事を言った。
確かにここの開発会社の作品は複雑なギミック満載の謎解き系のゲームが多く、ファンタジー系のRPGでも特殊なギミック操作を要求する作品が多い。
後、乗り物に乗る時などは要注意だ。
どんな乗り物でも必ず酷い目に遭うと長いゲームの歴史からも言われている。いわゆる伝統芸能みたいなものだ。
「それにしても、この雰囲気は中々のモノね。ゾンビとか絶対に出てきそうだもの……それにこの通路にしても思ったより狭いのは困り物ね」
そう言って姉は壁やらもペタペタと手で触れて確認していく。
フロア開始時の場所は基本的に安全地帯のようなモノで、そこからフロアを一定まで動かない限り基本的に敵などに関しては配置されていない。
ただし、プレイヤーは別のようである。
これは他のプレイヤーによるSNSへの書き込みによって判明したことである。
現状、レベルが下のプレイヤーの方が多い状況ではあるが、某掲示板勢などネットに頻繁に注目クソゲーとして情報投下を繰り返しつつ初心者虐めのようにフロアから上がって来たプレイヤーの無敵時間抜けタイミングを狙って襲いまわっているらしい。
「で、るかち殿。この階層はどういう風にまわるでござる?」
と、非常に慎重派のナギリは入念に装備確認をしながら言う。
姉は「ふーむ」と言いながら考え込む様子を見せる。
その動きは非常にワザとらしく、考えるフリをしていることは明白で既に何かの方針は彼女の中で出来ているに違いない。
「現状を判断すれば、とにかく進むしか無いってのは確かなんだけど。この通路の先に見えてるのが広いフロアだから、まずはそこに行って探索……かな」
「ってことは、数人で手分けして捜索って感じッスかね?」
「いや、出来るだけ全員が密集した状態を維持した方がいいかな……」
「姉様にしては消極的な意見ッスね」
と、ミソスープが興味深そうにそう言った。
確かに普段の姉であれば、とりあえず各自で捜索して何かあれば集合。と、いったような考えになると思う。しかし、彼女には特殊能力というか、非常に鋭い野生の勘のようなモノが備わっているのだ。
たぶん、嫌な予感があるのだろう。
正直なところ、開発会社が特に得意としているホラーテイストな雰囲気の場所ってだけで、ただでさえクソなこのゲームにおいて嫌な予感がしない方が間違いだろう。
「ともかく、行ってみないと判断は出来ないだろうな」
「確かにそうッスねぇ。それにこのマップじゃアコちゃんは戦力外になりそうだし……」
「そ、そ、そ、そんなことも……な、ないって……」
と、震えた声のアコちゃんは体格差のあるカレンの後ろからひょっこり出てそう言う。
ハッキリ言って隠れられていないのはツッコむべきところなのだろうか、非常に悩むところだ。
「さぁ、行くわよ。先頭はシャッハ、私。しょこらんは愚弟の側でイチャコラしてればいいよ。カレン、ナギリはアコちゃんをカバーしながら、今回、味噌は殿でヨロシク」
「い、イチャコラってるかちさんってばぁ!」
姉の言葉に即反応のしょこらんだが、俺は何も感じないフリをしながら彼女達のやり取りを見つめる。
「ほれ、行くわよ!」
「るかちさーん!!!」
しょこらんは自身の言葉を姉が全く聞く気が無いことを感じて小さな溜息を吐き俺の側にやってくる。
「もう……るかちさんってば……」
「いつものことじゃないか、気にしたら負けだよ」
「分かってるけど……もぉ、絶対にデザート抜きにするんだから」
と、しょこらんはそう言いながらも楽しそうに微笑んだ。
細い廊下を抜けると、広いフロアに出てくる。
このフロアは洋館のエントランスとなっているような場所で緩やかで巨大な螺旋階段があり、この階層は上下に別れたフロアになっているようだ。
「完全にアレだよな」
そう言ったのはシャッハだ。
「洋館モノホラーゲームのリソースはアホ程持ってるだろうからなぁ……完全にアレだよなぁ」
「パッと見だとこのフロアには敵は見えないけど、なんだか嫌な雰囲気よね……アレだし」
カレンは未だにアコちゃんが後ろにオプション化された状態ながらフロアの様子を伺う。
螺旋階段の左右には大き目の扉が見えている。
さらに右側には細い通路があり、その奥は暗くて様子が分からない。
左側には正面の扉に比べると少し小さな扉が二つある。
「これは探索には時間が掛かりそうね……まったく、面倒な階層ね」
姉は本当に面倒くさそうな溜息を吐いてそう言った。
ハッキリといえば、彼女はどちらかと言えば爽快感やテクニカルな対戦要素の強いゲームが好きでホラー系のゲームに関してはあまり好きではないのは知っている。
ただ、ホラーが苦手というわけでは無く、色々と考えるのが面倒くさいという理由から嫌いだと言っていたのを記憶している。
「ひとまず、どっちに進むか決めないとダメじゃね?」
俺の言葉に姉はずごく嫌そうな顔をする。
以前、ホラー系のシューティングをやっている時と同じ表情だ。
とても考えるのが面倒な時にする表情だと分かった俺はとりあえず幾つかの方針を姉に提案することにする。
「まずはセオリー通りに下層のフロアを捜索する。基本的にはこの階層がアレと同様のホラーゲーム的なフロアだとすれば、フロアを虱潰しに歩かされる仕様になってると思うんだ。たぶんだけど、上層から見て回ってもいいけど、結局のところ下層のどのフロアにも行かされる……って、感じになっていると思う」
「……まぁ、そうよね。分かってるからこそ、面倒なのが予想出来るというか……」
「まぁ、現状の選択としては右側から攻めるか、左側から攻めるか……っていうところだと思う。正面はたぶんだけど、鍵が閉まってるような気がするんだよな」
「なるほどね……んー、あんたがセオリー通りって言うならその通りにするのがいいかもね。ただ、あの狭い通路側に行くのって凄く嫌な感じがするから、まずはこのフロアの扉をすべてチェックってところかしら?」
「まぁ、それでいいんじゃね」
俺の返事を聞いて姉は「よし」と小さく気合を入れる。
「じゃ、左側の奥から確認に行きましょう。隊列はそのままで……」
姉の声に皆はコクリと頷き、警戒態勢のままフロアの端を通るようにして移動して行く。
マップギミックを警戒する時はフロアの壁伝いに移動するのは鉄則なのである。
時にここの開発会社はそれさえも逆手に取るゲームを作ることもあるが……このゲームにおいてはバランス類や敵の設定はおかしいがマップギミックはある程度、王道な作りが多いので多分ここも王道な感じなのだと思う。
そんな事を考えていると――
完全に例の洋館を移動するように緊張感が漂う中で、ふと壁に窓があることに気が付いたシャッハが「ちょっと確認させて」と、言って窓に近づく。
大きな窓からは外の様子が伺えるようになっており、外には暗い森が広がっている風景が見える。しかも、現実の時間とは全くリンクしていない暗さで嵐が来ているのか凄い量の雨が降っているように見えた。
「雰囲気作りだというのは分かってるけど、よくできた背景だな……」
「奥行きが見えにくいように木々が配置されてるけど、かなり広範囲に見えるように作ってるのは何となく分かる。しかも、まるで実写みたいな感じだ……ってか、この窓の縁にも黒い液体がべっとり付いてるよ……」
と、シャッハはそう言って指で掬った黒い粘性の液体をこちらに見せる。
「別に見たくないから見せなくてもいいんだぜ? 窓ってどうせ鍵が掛かって開かないんだろうなぁ……あ、一応、破壊可能か殴ってみる?」
「それは確かめておきたいところだな」
シャッハは俺の言葉を聞いて、窓の鍵を確認してからさらに開けようと試みて開かないことを確認する。
その後、槍を持ち換えて窓に向かって攻撃をする。
――ガキンッ
と、金属音が響き、窓含め壁さえも全く攻撃を受け付けていないことが確かめられたのだった。
「ま、予想通りだけど……」
少し期待外れだと言いたげなシャッハであったけど、普通は壁を破壊して進むなんてことは想定していないハズだ……とも、言えないのだけど、国産の作品ではそういうのは基本的に考えないように作られている為に壁周りは破壊可能オブジェクトでは無い場合が殆どだ。
その所為で海外プレイヤーからは【結界】とか【謎の壁】となどと言われ出して随分と長い年月が経っている。
米国産……と、いうか祖父の時代から登場したハリウッド型の開発を未だに続けているかの国と小中規模に近しいくらいの開発資金でなんとかやっている日本国産のゲームを比べるなと思わず言いたくもなる。
まぁ、ここの開発はハリウッド型に近い作り方をしてはいるんだけどなぁ……。
「ちなみにだけど、奥の森が実写みたいってのはあながち間違いじゃ無いと思うぜ。テクスチャにしても基本的に写真から取り込んだりするわけだし。まぁ、三次元スキャンを使って森を再現してる……とか、バカなことはしてないと思う」
「うわぁ、ここなら――」
と、シャッハは苦笑いを浮かべながらそう言ったが、姉が遮るように声を発する。
「まったく、寄り道してたら他のプレイヤーが上がって来るかもしれないから、サッサと確認してしまうわよ……」
「だよな」
俺はそれを聞いて、他のプレイヤーが来てくれた方がやり易いのではないかと少し思いつつもそれは口にせずに頷いた。
プレイヤー間でギミックのスイッチが共通な気がしていたからだが、時と場合によってはプレイヤーかパーティーに紐づいている可能性もあった為に間違った判断となるのは後々面倒臭いことが起こるのでいう必要は無いと思ったのだ。
少し速足になりつつも、俺たちは左奥の扉の前までやって来た。




