第一章 悠久の塔 第三層 TRS OBTdate.2 その4
「ったく、面倒なヤツらだわ」
愚弟以外のメンバーが私の元にやってくる。
シャッハは槍持ちに変え盾を全面に構えて敵の前に立つ。すぐ後方に私は位置を変え牽制にモンクのスキル<気功弾>を撃ち込む。
<気功弾>は敵の盾役の戦士が盾で受け止め、敵側からも同じように射撃による攻撃が返ってくるのをシャッハが盾で受け止める。
盾役の後ろでは前衛と回復が集まり、魔銃士達は動き回りながら射撃で牽制し合う。闘技場で幾度も戦ってきた同士であればチーム戦での基本戦術として皆、同じ戦略をとる。
ただ、こちらの支援が足りない分、火力や速度が若干足りない状況で非常に不利だ。
どうにかして敵の隙を衝きたいところだが、彼らも非常に手練れ――と、いうか私達と何度も戦っているので戦い方を知っている。
敵は2パーティー編成の為にこちらの方が人数的にも不利でカレン、ナギリも多少被弾している状況でミソスープも銃撃戦に参加している。
「シールドブレイクしたらマズイぜ……ったく、アイツらめ」
シャッハはシールド値を確認しながら舌打ちをする。
みんなが『アイツら』と言っているのは某SNSのゲームコミュニティ系の人たちで、様々なゲームの話題をする為に色々なゲームをしている人達だ。彼らのプレイスタイルは何でもアリで、一部のゲームでは『荒らし』とも言われているがただのノリの良いゲーム馬鹿だ。
当然、色んな作品を渡り歩いているので全員プレイヤースキルは平均して高い。
ただ、某SNSで『すごいクソゲーのβテストがある』と話題にならなければ彼らはこのゲームにやってくることも無かった。彼らの多くは第二次βテストの後半にあった1週間の無料公開時から始めたプレイヤーの為に全員がレベル上限に達しているわけじゃない。
特に強力なオリジナルスキルの習得にはレベル上限に達していなければ無理なので、それがあると無いでは大きな差ではあるが、そもそも使える状況でなければどうすることも出来ない。
「手数が向こうの方が多いからキツイわ。そろそろ相手もシールドブレイクするわっ」
カレンは銃弾を躱す為に回避移動を行い、素早く相手の盾に向かって魔弾を撃ち込みつつ声を上げる。
「相手のシールドブレイクと同時に後ろへ下がるわよ!」
私にはひとつの思惑があった。
ただ、それには様々な要因が重ならなければいけない……。
「え? さがるの?」
「姉様がそう言ってるってことは何かあるってことさ。いそげアコちゃん、押し込まれるなよ!」
そう言って味噌汁は武器を持ち替え、火炎爆裂弾を敵の足元に撃ち込み炎の壁を作る。
火炎爆裂弾は魔杖士の<火炎壁>と同様の効果のある特殊弾であるが、魔杖士のスキルと比べるとダメージは低いが延焼時間が長い為に進路妨害として非常に有用である。
ただ、問題も多く爆裂弾は専用の魔銃が必要で武器の持ち替えが必須で重量も重めで他のアイテムスロットを圧迫する為に持ち歩くプレイヤーは非常に少ない。
敵プレイヤー達はたじろぐ事も無く、炎の壁を躱し盾持ちの戦士が左右から盾突貫を使いながら突破してくる。
両翼のカレン、ナギリは緊急回避のローリングを多用しながら盾突貫で突っ込んで来る一向との距離を取り後方へ逃げる。それを見ながら、アコちゃんと私は左右の敵に牽制用の衝撃波を放ちつつ下がる。
シャッハ、味噌汁、しょこらんは合わせるように後方へ下がる。
再びお互いにらみ合うような位置で硬直状態となりつつも、私達はジリジリと後方へ下がっていく。あと少しで考える予定位置に付く……。
「味噌汁頼むわよ」
私の言葉に味噌汁は楽しそうに笑い聖銀狼の傍まで行く。そして彼はボスに向けてオリジナルスキル<散弾ス>を発動する。<散弾ス>は散弾式魔銃を装備時限定で使用できるオリジナルスキルで高速で散弾をばら撒く高火力のスキルだ。
「ふぅ、やっとか……さすがに躱すのにも飽きてたところだ」
愚弟はそう言いながら聖銀狼に向かって単体支援スキル<攻勢増強>を掛ける。
聖銀狼に一定のダメージを与えると後ろに大きくジャンプし攻撃パターンを変える。当然、その時、一番近いプレイヤーに対してターゲットを移す。
敵のプレイヤーのひとりが焦ったような表情を浮かべ、次の瞬間――巨大な狼に踏みつぶされる。巻き込まれたのは魔杖士が2人だ。
死亡したのは1人だったが、瀕死状態の魔杖士はカレンによって確実にライフを削られ死亡する。
「やっぱ魔杖士は柔らかいな……」
「愚弟、常識的なことを言っても意味はないわよ。さ、一気に攻めるわよ!」
私の声に合わせて全員一気に眼前の敵に向かって駆ける。
後方にボス、前方に私達という完全に挟まれている状態で混乱する彼らに対して、シャッハ、アコちゃんがまずオリジナルスキルを発動させ突進していく。後方のボスも次のターゲットに向けて攻撃を放つ。
剣で薙ぎ払われ数人の敵が吹き飛んで行く。飛ばされたのは魔銃士2人と魔杖士1人だ。敵の残り人数は13名となり、構成としては戦士6、魔杖士3、魔銃士4が残っている状態だ。
相手も手練れということもあって、挟み撃ちに対応するように連携しようとしているが、シャッハとアコちゃんを止める為に盾持ちの戦士がオリジナルスキルを使って耐えている。
魔銃士2名がボスに対応する為に向かうがカレン、ナギリがそれを狙撃で阻止する。その所為で他よりレベルの低い魔銃士がボスの攻撃を受け吹き飛び、敵の魔銃士は落胆の表情を浮かべる。
シャッハとアコちゃんがオリジナルスキル終了タイミングを見計らって、再び後方へ移動し、それに合わせるようにカレン、ナギリがオリジナルスキルを発動させる。
味方に射線が入らないように計算されたカレン、ナギリの砲撃が轟音と共に敵の両翼を襲い盾持ちの戦士3人と魔銃士が2名巻き込まれて倒れる。
「左側、ひとりオリスキ使って回避してる!」
カレンはスコープを覗きながら言う。
「気にしなくても大丈夫よ。あの位置はワンコが倒してくれるわ」
私の言葉と同時になんとか回避できた敵魔銃士が攻撃モーションに入っていたボスの攻撃に巻き込まれ吹き飛ぶ。
「残り6人ね。味噌汁いける?」
「姉様が言うならいつでも行けるッスよ。って言ってもクオン、しょこらんのおかげですけどね」
そう言いながら味噌汁は駆けだす。合わせるようにシャッハも両手盾で移動する。これは敵の魔杖士がオリジナルスキル系の長期詠唱を行っているのを確認した為で味噌汁をガードするように射線を塞ぐ。
敵の魔杖士の発動したスキルは魔導師の最強スキルに似た閃光系範囲魔法でカレンのオリジナルスキルと似たような効果のスキルのようだ。
このタイプの高火力の範囲魔法は詠唱が長いデメリットはあるけれど非常に使いやすいスキルでもある。でも、最も問題なのは敵味方関係なくダメージを与えるスキルなので、使いどころが難しい面もある。
このタイミングで使うということは非常に切羽詰まっていると語っていると同意義でここが完全に押し切る最大のチャンスとなるタイミングだ。
そして、シャッハはもうひとつのオリジナルスキル<アルカロイド>を発動させる。このスキルは一定時間、盾スキル<防御波動>の強化版で範囲完全防御系のオリジナルスキルでは人気の設定だ。
<アルカロイド>は前面のみだが3人分くらいの範囲にバリアを発生させ、ほとんどの攻撃を無効化出来る。しかし、スキル使用者に三割ダメージが返るというデメリットもあり、状況によっては非常に運用しづらいスキルでもある。
激しい閃光がバリアに当たり、光が飛び散る。
「ヒット時のパーティクル処理は良く出来るなぁ」
愚弟が激しく飛び散る光線を見つめながら感心したような声を上げる。
我が弟ながらキモイとか少し思ったりしつつ、次の動きの合図を送るが愚弟は見ていないようなので、しょこらんに殴らせる。
しょこらんは戸惑いながらも杖で彼の頭をこつき愚弟は微妙な表情を浮かべ私の方を見る。再び出した合図を確認して頷き支援スキルを発動させる。
敵魔杖士の攻撃が終わる直前に特殊移動で味噌汁が前に転がり出てオリジナルスキル<置き土産>を発動させる。このオリジナルスキルは非常に効果的なスキルで、且つデメリットがあまりないというオリジナルスキルとすればショボいスキルでもある。
味噌汁はスキル発動後に鉄で出来たような円盤を幾つも同時に前面に放り投げる。
円盤は10メートルほどフリスビーのように放物線を描きながら地面に着地しポフッと音を出して煙を吹く。近くに敵がいる場合のみ効果が発動する地雷系のトラップで起動すると5秒間のバインドとランダムで状態異常効果を与えるという嫌がらせに特化したスキルだ。
投げた先に先ほどオリジナルスキルを使用した魔杖士がおり、既に地雷の効果でバインドを受けている。異常に気が付いたもう残りの魔杖士が急いで回復支援を行おうとするが、後ろからやって来たボスの攻撃を受けて私たちの方に吹き飛ばされる。
空中でナギリに撃ち落とされ無様な恰好で地面に叩きつけられ動かなくなるのを見ながら私は一気にボスへ向けて駆ける。
ちなみに先ほどの味噌汁のスキルは発動モーション以外については敵に視認させにくい効果があり、敵には撒かれたトラップを慣れていないと簡単に見つけることは出来ない。
目を凝らせば微妙に空間が歪んで見えるのでトラップがあるということは分かるのだが、動きながらだと見つけることは意外と難しいのだ。
ちなみに異常状態の耐性があれば、別段痛くもかゆくもないのだけど……一瞬、視界を邪魔するだけでも十分な効果が発揮される。
私に向かって生き残っている戦士が攻撃スキルを放ってくるのを私はギリギリの位置で見切ってバックステップで躱し、彼らをトラップへと誘導する。
「あとは、一人と一匹か……」
私は全体を見て、全員の位置を確認する。
一番手前にいる私の後ろにはシャッハ、味噌汁。その後ろにしょこらんと愚弟、左後方にカレン、右後方にナギリ。前面では聖銀狼が私にターゲットを切り替え、攻撃をしてくる。その後ろに最後の魔銃士が隙を狙っているけれど、カレンに牽制され微妙に動けない状況となっている。
「じゃ、いつもの……行きますか」
そう言って、私は狼の攻撃を避けながら剣をしまい、グッと力を込めるように地に足を付ける。
そう、これは儀式……一撃を放つためのジェスチャリングだ。
狼の連撃の剣を身体の限界まで反らせて躱し、起き上がるタイミングに合わせて敵と一番近くなる位置に踏み込み自分の拳をヤツに叩き込む。
「<武神撃>!」
敵にめり込んだ拳からまるでエネルギーが収束するような力が放たれ、敵にダメージを与える。しかし、これでは敵は倒せない。
「からのぉー!」
このタイミングでしょこらんと愚弟が合わせるようにスキルを使って私のSPを全快させ、私はオリジナルスキルを放つ条件のクリアを確認し、最強の一撃を放つ。
色んなボスで確認済みだけれど、このスキルで吹き飛ばないモノはいない。
凶悪な一撃を喰らった巨大な銀色の狼は物理法則を無視したように回転しながら後方へ吹き飛ぶ。
ちなみにその後ろにいた相手も当然巻き込みながら……。
「ふぅ、お片付け完了かしら?」
地面に着地し、地揺れを伴った物凄い音が響く。
「完了ッスね」
と、味噌汁が後方の扉を確認して言った。
「微妙に苦戦しましたな。るかち殿はほぼ無傷のようですが……」
「多少はダメ喰らったわよ。こまめに回復されてるだけだから。まったくダメージを喰らってないのに瀕死の人もいるけどね」
「クオン殿は致し方無いと思うのですがw」
「ま、あの子は自虐大好きっ子だから、仕方ないわね」
と、楽しそうに言うと愚弟がカンベンしてくれと不機嫌そうな表情を浮かべていた。
「さんざんな言われようだね……」
「ま、いつものことさ」
そんな風にダラダラと戦闘の後始末でドロップ品などを回収していると、フィールド全体に声が響く。
『くぉー、絶対にやり返してやっからな! 塔でしっかり待ってろよ!』
「わざわざシャウトで言ってくる必要あるのかしら? フレ登録してあげてるんだから、TELLしてくればいいのにねぇ」
シャウトとは全体にメッセージを送る機能だが、これをする為にはサービス開始時には課金アイテムとなるアイテムが必要となる。現在はクエストで手に入れることが出来る一応レアアイテムだ。
「俺たち全員に言ってるんじゃないの? それにワザと『塔で』って言ってるのはより混沌を楽しもうとしてるフシがあるんじゃないかな」
「なるほど、さすが愚弟ね……アンタも煽っていくスタイルだしね」
「酷い言われようだ……まったく」
そんなことを言いながら私たちはボスが最ポップする間に次の階層へ進んだ。
次回更新は月曜日です!
来週はストック作りのためにゆっくりペースの更新になりまーす。




