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第一章 悠久の塔 第三層 TRS OBTdate.2 その3

 第三層へ転送され視界が開けて行く。

この瞬間から一定の間は無敵時間なのだが仕様上攻撃なども出来ない。

ちなみに第三層は別のPTが既にユニークボスを撃破しているという話をミソスープがネット上での書き込みがあるのを発見し、ボス攻略の方法など様々な情報を既にPT内で共有済みである。

たぶんだが、攻略したPTは同レベル帯のプレイヤーである某ネット掲示板勢のプレイヤーだろう。



そして眼前に広がる光景は第一層、第二層と同様でプレイヤーと魔物《モブ》でごった返している状態だ。

このタイミングで攻撃して排除出来ればと、皆は思っていることだろう。


 様子を伺った感じではプレイヤーのレベル帯も40台ばかりなのは変わらなかったが、第一層、第二層をクリアしてきただけ、戦い慣れた雰囲気はあった。


「にしても、このコンテンツはダメだな。プレイヤーの殆どがレベル上限《キャップ》になったらどうするんだよ、絶対に過疎るぞ……」

「そもそもここまで人数が来ること自体が想定外なんじゃないの?」


 軽い調子でアサルト式魔銃を構えながらミソスープは言った。


 第三層は一層、二層とあまり変わらない雰囲気のマップで、出現する魔物《モブ》は骸骨闘士《スケルトンウォリアー》、骸骨魔術師《スケルトンメイジ》、闇色狼《ダークウルフ》、蠢死体《リビングデッド》、粘質生物《スライム》だ。どの魔物《モブ》もレベル帯でいえば30~40くらいで、特に苦労する特殊なタイプは粘質生物《スライム》くらいしかおらず、ごり押しでも倒していける。


「ホント、こんだけ人がいたら混雑ってレベルを超えてるわね……」


 そう言いながら姉《るかち》は回転系のスキルで付近のプレイヤーと魔物《モブ》をまとめて排除していく。

彼女は面倒くさそうなセリフを吐きながらも彼女は無双状態を楽しんでいるのは誰が見ても分かるほどである。


 シャッハ、アコちゃんも同じように出来るだけ多くの敵を巻き込むように攻撃を繰り出している。


 付近のプレイヤーがやっと異常事態という事に気が付いたようで、みなダンジョンの奥の方へ蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていく。


「そっちに逃げるのは得策じゃ無いけどなぁ……」


 俺は思わずそう呟いてしまう。

 それを見ていたミソスープも「確かに」と言った後に姉《るかち》の方を見る。


 彼女はその視線に気が付き、悪い笑いを浮かべる。


「みんなの言いたいことは分かったわよ。ま、当然……追いかけて殲滅よ!」


 現在地から移動したところはボス部屋の手前のフロアに続く道で、姉《るかち》に聞いたところによると通常ボスは複数パーティーが乱入出来る仕組みになっているそうなので、ボス共々プレイヤーも倒してしまえばいいでしょ。と、いう計画だ。ちなみにボスを倒した後は数分後にボスは再びポップする設定だ。


 このボスは聖銀狼《セントシルバーウルフ》という厨二病っぽい名称の巨大な狼の魔物《モンスター》だ。討伐された情報によれば、ユニーク時は複雑な動きと三段階のパターン変化を持っている。これも詳しく攻略Wikiに情報が載っており、且つ丁寧に動画までアップされていた。


見た感じは動きさえ見切ってしまえばそこまで怖いタイプの敵では無いという印象だ。


 正直、第一層の敵がある意味、一番の脅威であった。


これから戦う聖銀郎《セントシルバーウルフ》のように動きが複雑な敵の方が自分たちのプレイヤースキル次第で簡単に攻略出来てしまうというパターンもゲームではよくあることだ。

 すでに開かれたボス部屋では必死に戦いを行っているプレイヤーが20人程度いるようで、ボスをごり押しで倒そうとしているが吹き飛ばし攻撃により幾人かが吹き飛ばされ、俺たちの傍に飛来してくる。


「るかち、どうするの?」

「アコちゃん、ちゃんと言ったでしょ? 殲滅って♪」


 そう言いながら、彼女は容赦なく立ち上がろうとしているプレイヤーのトドメを笑顔で刺す。


 一見恐ろしい映像に見えるが彼女はどこまでもゲームと割り切って考えている。

当然、対人用のこういったゲームでの残虐行為において世間では犯罪を引き起こすと訴える人たちもいる。そんな人たちは数十年以上前から存在し、この手のゲームやアニメの愛好家は皆、犯罪予備軍だと声高々に言っていたそうだ。


 ちなみに随分と昔からゲームやアニメ、または映画の残酷な体験や鑑賞によって自身が犯罪行為をしたい思う人はほぼおらず、映画鑑賞やVRでの追体験することによって暴力的な欲求が抑えられることも多くの検証データから分かっている。


 そもそも犯罪行為をする人物は元より精神的、または環境的な問題があるのでゲームやアニメのようなコンテンツだけが原因でそういった事件を引き起こすわけではないのは考えれば分かることだろう。


「ちょっと、愚弟《クオン》! ボーっとすんな! さっさと支援!」

「クーさん、相変わらずだなぁ」


 俺は「へいへい」とぶっきらぼうに言いながら皆に支援スキルを掛ける。

 前衛《アタッカー》勢は吹き飛ばされて来たプレイヤーを完全に始末し、ボスへ向かい進む。カレン、ナギリはボスと戦闘中のプレイヤーのモーションタイミングを見計らいながら魔弾を放つ。


「ちょ! マジかよっ!」


 ボスの攻撃を受け止めようと盾を構えていた戦士《ストライカー》が声を上げる。

カレンの放った魔弾が彼の腕を打ち抜き構えていた盾の位置が変わりボスの攻撃がそのままヒットし、彼は吹き飛ばされ壁に激突する。


 ナギリも同様にボスの動きに合わせて他のプレイヤーの動きを止め戦場を撹乱していく。

 そこにシャッハ、アコちゃん、姉《るかち》、ミソスープが雪崩込みプレイヤー達を排除していき気が付けばボスと俺たちだけとなっていた。


「見慣れた光景だけど、考えると残酷だね……」


 しょこらんはそう言いながら、回復系支援スキル、補助系支援スキルを冷静に全員に掛けていく。


「ま、そういうゲームだからな」

「そうだね」


 彼女は優しく微笑んでそう言って、前衛《アタッカー》との位置を合わせる為に移動する。

 俺も次のボスの動きに合わせる為に前線へ移動する。

この聖銀狼《セントシルバーウルフ》は鋭い前足での攻撃と噛みつき攻撃が序盤のメイン攻撃で、とにかく動きが早く複雑な攻撃パターンを持っている。


 まずは他のプレイヤーを除去したことにより盾《タンク》役のシャッハへ敵の注意を引き付け、敵の攻撃を防御《ガード》。それに合わせて前衛《アタッカー》が連携して攻撃。


 敵の移動に合わせて散開して、再び同じパターンで防御《ガード》して攻撃を繰り返す。


 パターン変化が来るとマップ中央に突き刺さっている巨大な剣を咥え、斬撃攻撃に変わる。こういった斬撃攻撃はこのゲームでは避けるのにちょっとしたコツがいるので、斬撃パターンになったタイミングで俺がスキルを使ってボスのタゲを取り、攻撃を躱し続けて後方から味方がボスを攻撃するという方法を取る。


 このボスはひとつのターゲットに対して集中的に攻撃をする特性があるらしく、他の攻撃を受けてもヘイト値は上がらない。これはユニーク時に検証されている動きで、このフロアに上がる前にみた動画どおりだ。


「ユニークは三段階だったけど、これは二段階なんだよね」


 アコちゃんは巨大な狼の脚元で攻撃を放ちながらミソスープに言った。ミソスープは相変わらず軽い感じで「そうそう、まぁ、情報が正しいかは不明ッスけど、もう一息っすよー」と悪い笑いをする。


「いやいや、ミソさんその笑いどういうこと!?」

「えー、なんのこと?」

「ちょ、まだ何かあるの? ちょっと、不安になるじゃん……」


 ミソスープは戦闘中に多々アコちゃんを困らせて遊ぶ傾向がある。

どう考えても嘘や冗談であってもアコちゃんは素直に受け止めてしまうことがあるので、その反応がどうにも楽しいらしい。


「にしてもクーさんの回避能力って意味不明だよね」

「ま、アレを見てるとあの人の弟ってのが納得できるよな」


 アコちゃんとミソスープの会話にシャッハも攻撃をしながら混ざってくる。


「そうそう、クオンって前衛《アタッカー》での攻撃センスはからっきしなクセに回避行動だけは異常反応なんだよな……」

「ちなみに射撃……特にスナイプは実はカレンくらい上手いらしいぜ」

「マジかよ、見たことないぞ?」

「確かにスナイプ技術は凄いわよ……でもクオンは基本、場所移動せずに芋るから」

「なんだよ、芋砂かよ」


 ちなみに芋砂とはシューティング系のゲームでスナイパーがずっと芋虫のように転がっていることから名付けられている。


「ちなみに芋ってるの見つかると、立ち砂に変貌して前線へ走ってくわよ」

「マジかー、カレンは他のオンゲでも一緒にプレイしてたことがあるんだっけ?」

「まぁね、確かに腕前は凄いけど、浮き沈み激しくてシューティング系はソロ思考が高くて立ち回り的には上手いとは言えないわ。RPG系だと地味に大活躍なのにね」


 カレンはボス部屋に侵入してくる他プレイヤーを排除しながらニヤニヤと笑う。


「ってか、お前ら好き勝手言いやがって、丸聞こえなんだぞ……」


 俺はそう言いながら聖銀狼《セントシルバーウルフ》の連撃をギリギリのポイントで躱す。

 縦軸の攻撃は横の範囲が狭い為に避けるのはそこまで難しくはないが、その後にくる薙ぎ払いはしゃがむことでギリギリ躱せる攻撃とジャンプか特殊な方法を使わないと避けきれない攻撃の二種類あり距離によって使い分けてくる。


「よっと……」


 今回は位置的に中段攻撃でしゃがむことで躱す。

刃と衝撃波が通り過ぎた瞬間に立ち上がり、次のポイントへ位置を変える。ボスはジャンプして一旦、位置を変えるのだがこの時に一番近くのプレイヤーにタゲが移ることがあるので、他のメンバーも敵から出来るだけ離れる為に移動する。


 聖銀狼《セントシルバーウルフ》は低い唸り声をあげ、咥えた巨大な剣は青く光り輝く剣気を帯びていき再び唸りをあげながら首《こうべ》を回転させるように振り上げ高速で剣を振り下ろす。


 剣が地面に激突し轟音が鳴り響く。


 この攻撃は直線的であり普通は避けるのはそこまで難しくは無いが、この攻撃はギリギリの回避だと衝撃波によるダメージがあるようなので、回避タイミングは敵が剣を振り上げたタイミングでダメージ判定の無い場所へ移動するしかない。


 こういった時に一番の問題は位置の確認を含めた位置取りだ。


 敵は攻撃後、再びその高い身体能力で移動するが、その時にパーティーメンバーの誰よりも早く敵のタゲを取らなければいけない。


 俺は攻撃回避と同時に<転移移動《テレポートムーブ》>で次のポイントへ一番近い場所を狙って移動する。空間転移から抜けたところから30メートルほどの場所に聖銀狼《セントシルバーウルフ》が着地しひと唸りする。


「面倒くさいわね……」


 姉《るかち》はボソリと声を出し、ボス部屋の入り口側へ走り出す。


 どうやら幾つかの他パーティーが侵入してきたようで、シャッハ、カレンに指示を出し、3名で迎撃に向かう。俺はそれを見ながらボスのところへ駆けつけ<フラッシュライト>を使いターゲットを取る。


「ただでさえボスの体力意味不明なくらい高いのに他のプレイヤーを抑えながら戦うのってどうなんだろうね……」


 アコちゃんは攻撃の手を緩めることなく連撃を放ちながらそう言った。

 ミソスープ、ナギリも同調し、文句は言いながら黙々と攻撃を繰り返す。


 真剣な戦闘ではみな黙るが、そこまででは無い時はみな雑談をしながらも戦うのは俺達のスタイルだ。時にはオープン会話で駄弁りながら戦闘を楽しむこともあるが、他のプレイヤーから警告を受ける事もあるので、可能な限りパーティー会話《チャット》かレギオン会話《チャット》で話すようにはしている。


 一応、俺は紙装甲なので、敵の攻撃を引き付けている時は出来るだけ会話はしないようにしている。以前、ミソスープのしょうもないギャグがツボに嵌って大笑いして回避ミスをしてしまったのが原因で全滅したことがあった為だ。


 こういう時に周りが盛り上がってしまうと、心の中でミソスープの文句を言うようにしている。


 一層のボスは弱点属性があった為に姉《るかち》の属性込みのオリジナルスキルによって簡単に撃破したのだが、このボスは弱点属性が無く体力も一層のボスに比べて大幅に多い。

 ちなみに二層のボスは一層のボスほど強くも無く、あっさりと終わり……あまり語るべきところも無い。


 面倒で言えばこのボスは全然楽ではあるが、それは自分たちだけで戦っていればの話である。他のプレイヤーの介入がある場合、ヘイトのコントロールが利かなくなる為にボスへ近づくプレイヤーを排除もしくは近づけないようにしなくてはいけない為、違う意味で面倒な状況になっている。


 オリジナルスキルを使用してサッサと片付ければ済むと短絡的に考えるのは問題で、確かに前衛《アタッカー》のオリジナルスキルの火力は非常に高い。しかし、他のプレイヤーいる場合は使った後のリスクを考えなければいけない為に使用するタイミングが限られる。


これによって、全体的に火力が下がり倒す為に時間を掛けなくてはいけなくなっているのが今の現状だ。


「はぁ、オリスキを回せばそこまで時間掛からないのになぁ……」

「だよな。しょこらん、クオンがいるだけでオリスキ簡単に回せるけど、盾《タンク》役が確実にしょこらんをガード出来ないと動けないのがウチらの弱点だよなぁ~」

「るかち殿が他のプレイヤーを止めてる間に倒しきれるように頑張るしかないよ」


 と、ナギリは文句を言い続けるアコちゃん、ミソスープに対して声を掛ける。


 ナギリは普段から非常に冷静であまり喋らないが高いプレイヤースキルを持っており、その判断能力も高く皆の気を遣い動けるいいヤツである。


 リアルでの知り合いでは無いが、俺は時折ナギリとネット上でプライベートな会話をすることもあり人間的にどういう人かというところは他のレギオンメンバーより彼の事を知っている。


「あと3週くらいで姉様《あねさま》のオリスキ圏内だからポジションローテした方がいいんじゃないの?」


 俺がそう言うと、不機嫌そうな声で即座に反応が返ってくる。


『はぁ、そうなの? ったく、面倒なヤツらが来てるから下がれそうにないんだけど。出来れば味噌汁としょこらんにこっち来てほしいくらいなんだけどぉ』


 返事を返せるだけの余裕はまだあるらしいが、どうやら三人で相手をするには問題があるパーティーが攻めてきていると推測できるが、こちらも戦力を削るわけにもいかない。


「じゃぁ、しょこらんだけそっちに行かせるので対応できない?」

『えー、んー……ったく……仕方ないわね。とりあえずシャッハ、カレン引くわよ! ボス倒して真面目にあいつ等の相手をするわ!』

「え? こっちくんの?」


 姉《るかち》は自分で決めたことを他人にどういわれようと考えを変えることは絶対に――とは言えないが基本的に無い。そう彼女は強情で意地っ張りで自己中心的で超が大量に付くほどの負けず嫌いだからこそ、彼女は強い。


 それを皆知っているから、彼女のその言葉を聞いて口々に「マジかよ」などと文句を言いながらもそれぞれ対応した行動を取るために動き始める。


 彼女の意図を完璧に理解しているのは普段から姉《るかち》と一緒に過ごしている彼女《しょこらん》と弟であり姉《るかち》に散々振り回されている俺だろう――と、苦笑しながら次の動きへ移る為に皆に合図《ハンドサイン》を送る。


 俺が送った合図《ハンドサイン》はターンバックと呼ぶ作戦で簡単に――いや、そのまんま『方向転換』である。


 俺以外の全員は急いで姉《るかち》が向かってくる方向に向かって移動し、俺は真逆の方向に聖銀狼《セントシルバーウルフ》を引っ張って行く。

 姉《るかち》はシャッハ、カレンと共に敵パーティーを引き付けながらアコちゃん、ミソスープ、ナギリ、しょこらんと合流し隊列を組み直す。

パーティーメンバーの殆どが他のプレイヤーと戦う構図なのだ。


 とりあえず、前面は聖銀狼《セントシルバーウルフ》によって視界が遮られており、音声以外では姉《るかち》達の状況は分からないが俺が巨大な狼を釘付けにし続けなければいけないのだけは確かであった。


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