第12話 「魔王様、現地に到着する」
前話のあらすじ:王女から要請を受けました。
私は……やってしまった。
そう……やってしまったのだ。
大丈夫だと、そう思っていたのに。
気を付けてはいたのだ。
それなのに……やってしまった。
──おねしょを。
ありえない。
こんなこと、絶対にありえない。
ありえないんだと……確信していたのに。
プリメラとの集合場所へと移動中にて、朝目覚めると、シーツに地図を作っていたのである。
……ああ、恨めしい。
理性とは裏腹に、自由の効かないこの幼き身体が。
まさか、この身体がここまで自制が効かないとは、予想外だった。
油断していたわけではないのだが。
気の緩みがあったと言われれば、否定は出来ないだろう。
それでも、寝る前には、ちゃんとトイレを済ませていたのだ。
それなのに……
なぜ……
どうして……
羞恥心でどうにかなりそうであり、死にたい衝動に駆られてしまう。
退化の呪いとは関係なく、自我が崩壊しそうな感覚に。
移動中の馬車の幌に取り付けられた地図を描くシーツが、風を受けてまるで戦旗の如く勇ましくはためいている。
「「「「………………」」」」
アテナは無表情で何も言わず御者の職責を全うし、車内にいるダミアンも視線を逸らすだけで我関せずを貫き、レングルブは興味なさげに二度寝をしており、レアンは痛ましそうな目を一瞬してから目を閉じていた。
それぞれが、それぞれの想いで無言を貫いており、肝心の私はというと……
「ああ……今日はいい天気だなぁ」
この忌まわしい記憶を遠くの彼方に忘却することに決め、今朝の出来事を永遠に封印するのだった。
………
……
…
「攻略から戻られるまでには完成させます!」
そんな意気込みを見せてくるアルペンの言葉を信じて彼女宅を後にした私たちは、これといった障害もなく(せいぜいが野良魔獣との遭遇)、目的地──集合場所である迷宮入り口付近へと到着していた。
「これは……」
私は、眼前の光景に目を見張る。
以前と違い、冒険者のテント村は剣呑な雰囲気に包まれていたからだ。
「殺気立ってるじゃねぇか。緊張感がこっちまでビンビンに伝わってくるぜ」
「疲れてるヒトたちも多いですね……」
まるで戦争の最前線のような様相を前に、レアンが愉快げに口笛を吹き、ダミアンが口元を引き締める。
レングルブは興味ないとばかり、大きな欠伸をひとつだったが。
「ロード種や上級種が出始めたことで、難易度が跳ね上がったためでしょう」
御車を務めるアテナが淡々と指摘してくる。
「リスクが上がってもこの場に留まる気概だけは、認めてもよろしいかと」
「まあ、そうだな」
冒険者ギルドも黙って事態を見ているわけではなく、少しでも魔獣被害を抑えるために国と連携して、魔獣討伐の報奨金を跳ね上げたのである。
とはいえ、毎回ではないがロード種が現れるのだ。
怖気つく冒険者も少なからずいるようで、以前に見たテント村の規模と比べると、かなり縮小されていた。
きっと、他の出入り口でも同じような光景になっていることだろう。
馬車置き場に馬車を停めると、どうやら影馬に牽引させる馬車というのは目立つ存在だったようで、すぐに私たちのもとに数人の武装ドワーフたちがやってきた。
「クレアナード様ご一行とお見受けいたしますが」
「ああ」
「プリメラ王女殿下がお待ちです。こちらへどうぞ」
「わかった。案内頼む」
案内されたのは、テント村と化している場の一角。
立派な天幕が中央に、その周辺に複数の同型の小規模天幕が立っており、その間をドワーフたちが忙しなく行き来していた。
案内されたのは、当然というべきか、その中央にある立派な天幕である。
その天幕の出入り口には屈強なドワーフ戦士が警備で立っており、さすがに中に入ることを許されたのは私とアテナだけであり、他のメンツは外で待機だった。
「おぉー! 待ってたよ! クレアさん!」
「キシシ……やはり来ましたね。よほどトラブルがお好きと見える」
出迎えたプリメラが破顔し、ザオームが心外なことを言ってくる。
私は、これ見よがしに溜め息を。
「ザオーム。ドワーフ国の次期統一王からの要請を蹴れるわけないだろうが」
「キシシ! 本音はどうあれ、貴女が協力してくれることは素直に嬉しいですよ」
「ん? お前、少し印象が変わったのか?」
「キシシ……私は出来る人間ですからねぇ。状況と立場によっては、立ち振る舞いも変わるのですよ」
「なるほどな」
「なので、前回最深部まで一緒に到達できた貴女の協力は、プリメラ側の人間として在り難いのですよ」
「……評価を受けるのは嬉しいが、いまの私の状態を知っていてもか?」
「貴女の強さは、戦闘力だけじゃないですからねぇ」
「だよねー。安定の経験値っていうのかな? なにかと頼りにできるから、だから名指しの指名をさせてもらったんだよー」
「まったくお前たちと来たら……幼女を酷使しないでほしいな」
意外と高評価なことに、私はまんざらでもない感じで苦笑い。
そんな私の傍らにて静かに佇むアテナが、やれやれとばかりに。
「ちょろいですね、クレア様は」
「ん? 何か言ったか? アテナ」
「いえ。ただの独り言です」
「なんか、悪意のある呟きだったような……」
「気のせいでしょう」
澄ました顔で言ってのけるアテナに私が怪訝そうに眉根を寄せると、プリメラの侍女(ラランとかいう名前だったか)が、飲み物を運んできた。
そこで、私たちがずっと立ったままということに気付いたのだろう。
「とりあえず、適当に座ってー」
プリメラに促された私たちは、置いてある木製の椅子に腰かけることに。
渡された飲み物も、木製椅子の脇にある簡易テーブルに置く。
プリメラたちも木製椅子と比べれば少し豪華な椅子に座り、こほんと咳払い。
「えっとね、レングルブさんも来てるって聞いたんだけどさ?」
「ああ、付いてきている。さすがに我関せずは出来なかったみたいだな。いまは外でおとなしく待っていると思うぞ」
「……ちょっと聞きたいんだけどさ、レングルブさんって……安全っぽい?」
「安全、とは?」
「いや、だってさ、人間に害する生物の最上級──魔物でしょ? いまは魔獣のアラクネになってるみたいだけど。今まではなんか場の流れでスルーしてきたけどさ、一応、安全なのか改めて聞いておかないとと思って」
「ああ……なるほどな」
よそよそしい彼女の態度に合点がいった私は、アテナに視線を向ける。
「私は安全な部類に入ると思うが、お前から見て、レングルブはどんな感じだ?」
「そうですね……人畜無害とまではいきませんが、自由奔放というか気まぐれ感の強い方ですね。ただ、信用は出来ると判断できます。悪い方ではないでしょう」
「そっか……クレアさんだけじゃなくアテナさんもか。……えーっとね? 戦場での報告を受けてからさ、ちょっと警戒しててさー」
戦場での報告というと、ハダック王子を倒した時のことを指しているのだろう。
レングルブが戦場に立体型の蜘蛛の巣を張り、無双したと。
まあ、彼女のことをよく知らない者からすれば、そんな報告を受けたら警戒しても無理らしからぬことだろう。
(私だって彼女の人となりを把握してなかったら、警戒していただろうしな)
キシシ……と、ザオームがいつもの不気味な笑みを浮かべてくる。
「お二人にそのような評価を受けるということは、そのアラクネ──もとい、魔物のレングルブ氏は信用できるのでしょう。プリメラ、懸念材料が消えて安心材料が増えてよかったですねぇ」
「だねー……なんかほっとした気分だよ。あ、それでさ、クレアさん。レングルブさんって迷宮の主なんだよね? もしかして迷宮への影響力ってあったりする? たとえば、蜘蛛魔獣が襲ってこないとかさ」
「そういうのはないと言っていた」
「え? なんで? 迷宮の主なんだよね?」
同じようなやり取りをしたなと思いつつ、不思議がるプリメラに説明してやる。
「人間でも、生んだ子供を自由に操れないのと一緒ということらしい」
「あぁ、そういうことかぁ……残念。んでさ、もういっこ聞きたいんだけど、迷宮が活性化? してる原因って何か言ってなかった?」
「それもわからないらしい」
「マジで? 役に立たないねー」
「はっきり言ってくれる」
手厳しい発言に私は苦笑。
だいぶ性格が矯正されてはいるが、根本的にはまだまだなのだろう。
「だってそうじゃない? 主なのに何も知らないとかさ、在り得なくない?」
「キシシ……まるで誰かさんですかねぇ? ねえ、次期統一王のプリメラ陛下?」
「ちょ、お姉サマ! ワタシは目下いろいろと勉強中だから今は無知でもいいの! 引き合いに出さないでよぉ! お姉サマのイジワルぅ!」
「キシシ! 頑張ってくださいよ」
「もう、お姉サマったら……で、クレアさん。レングルブさんは、ほんとに何一つもわからない感じなの?」
愛情を帯びている揶揄いにプリメラは頬を赤らめつつも、話題を戻してきた。
やはり、何でもいいから今回の件についての情報が欲しいのだろう。
まだまだ未熟な面が目立つが、責任者として少しでも務めを果たそうとしているのかもしれない。
「いや、ひとつだけ仮説を立てていた」
「仮説?」
「ああ。残してきた半身が暴走してるかもしれないと」
「暴走って……そんなことがあるの?」
「さあな。だがまあ、専門機関ですら魔物というか魔獣の生態はよくわかっていないからな。本人がそう言うってことは、その可能性もあるんだろう。というか、その本人が外にいるんだから、直接聞いたらどうなんだ?」
「ぅえ?! え、えーっと……あーっと……それはまあ、後程かな? 攻略時には一緒に同行することになるんだろうしさ」
「キシシ……素直に怖いと言えばいいじゃないですか」
「だ、だって! やっぱり怖気つくよ! 心の準備とかいろいろしないと……」
しどろもどろのプリメラを前に、私は内心で思っていた。
(……怖い、か)
彼女の態度から、冗談ではなく本心なのだろう。
私は一度として、レングルブを怖いと思ったことはないのだが。
まあ、あの戦場での事は、敵に回さなくて良かったとは思ったが、怖いという感情まではなかったのだし。
「アテナ。私の感覚がおかしいのか?」
「はい」
「ちょ、即答とか。少しは躊躇してくれないのか」
「恐らくクレア様は、元最強だった頃の記憶に起因して、相手に対する恐怖心みたいなものが希薄なのでしょう」
「……そういうもんなのか?」
「それに。レアンさんやダミアンさんも怖がっている様子はないですし、私も同様です。なので、一定レベル以上の者ならば、大したことはないということです」
「……ふむ。いまの私は記憶のおかげであり、いまのお前は一定以下レベルだから勘違いするなと、暗に言っているように聞こえるんだが?」
「よくわかりましたね。オブラートに包んだのですが」
「伊達にお前との付き合いは長くないからな。──というか、相変わらず、ちょいちょい私を貶めてきてくれるよな?」
「それほどでも」
「褒めてない」
溜め息交じりでそう答えてから、ひとつの可能性に気付く。
「となると、プリメラ王女も──」
「一定以下ということですね」
図らずも私が振ってしまったわけだが、本人を目の前によくまあ堂々と……豪胆というか恐れ知らずというか。私は感心半分呆れ半分である。
当のプリメラはというと、憤慨するどころか恥ずかしそうに照れ笑い。
「前回の攻略でさ、ワタシって半人前だって自覚したしねー。今更その程度のディスリで怒ったりしないよ。身の程を知ったって感じかな?」
成長したものである。
これもザオームの教育の賜物なのかもしれない。
(ザオームに人材育成の素質があったとはな)
飴と鞭の使い方が上手なのだろう。
”飴”部分を想像してしまい……ぶるっと身震い。
「こほん」
やや脱線し始めた場の流れをまとめるように、プリメラが大きく咳払い。
場を仕切るなど、本当に成長したといえるだろう。
あの我が儘し放題だった頃が、まるで嘘のようである。
「とりあえず。クレアさん、要請に応えてくれてありがとう。攻略にはもう少し準備とか情報収集とかがあるから、本格的に潜るのは明後日あたりになると思う」
「そうか、わかった」
「あ、泊まるところが必要なら場所を提供するけど?」
「いや、私たちには馬車があるからな。だから寝泊まりに関しては問題ない」
「そっか。んじゃま、何かあったら遠慮なく来てね。攻略が始まるまでは、ワタシたちはこの天幕にいるからさ」
「ああ」
「キシシ……頼りにしていますよ、クレア氏」
「ま、乗り掛かった舟だ。最後まで見届けるさ」
こうしてプリメラたちとの面通しが終わった私たちは、彼女たちの天幕を後にするのだった。
※ ※ ※
現地に到着して一夜明けた朝。
「……ん。朝、か……」
朝日が漏れ込んでくることで朝だとわかったが……
レングルブがまだ気持ちよさそうに眠っているのを見ると、私もまだ眠たいので二度寝を決め込もうと目を閉じる──
「レアンさん! さすがにやり過ぎですってば!」
「うっせぇな! こいつらが悪ぃんだろぉがよ!」
何やら外が騒がしかった。
しかも聞こえてくるのは、ダミアンとレアンの物騒な声。
それに混じって、何人かの男たちの呻き声。
「なんだ……?」
車内にふたりの姿がないので、外に出ているのだろうと判断。
アテナは精神世界に帰っているので私が召喚しないと出て来ないので、姿がなくても不思議ではなく。
外がにわかに騒がしいのは、荒くれの冒険者達が多い場所のため別に珍しくはないのだが、その騒ぎの中に2人の声が混じっているのは、いただけなかった。
「……はあ。朝から何なんだ」
さすがに放置はできなかったので寝ぼけ眼で外へと出ると、数人の男が地べたに這いつくばっており、そんな彼らを前にレアンが鼻息も荒く佇んでおり、その彼女をダミアンが制止しているようだった。
遠巻きには他の冒険者連中が様子を伺っているようだったが、巻き込まれるのが嫌らしく、ただの野次馬と化していた。
「何の騒ぎなんだ?」
「あ、クレアナード様!」
「ああん? クレアか。先に言っとくぜ。オレは悪くねーからな」
「……どういうことだ?」
状況的に判断するに、伸びている男たちはレアンに叩きのめされたようだが、理由がわからなかった。
「ダミアン、説明を頼む」
「あ、はい。えっと、レアンさんが日課にしている朝練をしてると、このヒトたちがナンパしてきたらしいんですよ」
「ナンパ、か」
「マジでしこくてよ、こいつら。この辺りで獣人の女が珍しいらしいってんで、オレに”相手”しろってよ。笑わせてくれるぜ。つーか、イミわかんねーし」
「相手……か」
その”相手”という意味合いは、レアンが容赦なくブチのめしていることから、想像に難くはないだろう。
「俺もまだ寝てたんですけど、外の騒ぎに気付いて慌てて止めに入った次第です。ちょっとばかり遅かったですけど」
「なるほどな」
私はまったく気づかなかったけどな! と内心で意味もなく胸を張る。
……本当に意味がないが。
全ては幼女化したせいであり、寝起きが悪いからではないのである。(決して)
「ケッ! オレを抱こうなんざ、100年早ぇっての!」
レアンは吐き捨てると、白目を剝くひとりの男を蹴り飛ばす。
ようやく私は状況を把握した。
要は、珍しい女獣人に手を出そうとして、返り討ちにあったということだろう。
「5人……か。これをひとりで倒したのか?」
「ったりめぇだろ。ま、準備運動にもならなかったけどな」
「……さすがだな」
リスクが高まったこの場に留まる以上、こいつら冒険者も腕にはそれなりの自信があるのだろう。
そんな連中を相手に、たったひとりで圧勝してしまったのだ。
レアンの実力は、こちらが思っている以上に高いというわけだ。
「その様子だと”獣化”すらしてないのか?」
「使うまでもねぇ」
「そ、そうか」
「ったくよ。クソガキを連れて来なくて良かったぜ。あいつなら、簡単に手籠めにされてっぞ」
「ウルはまだ子供だぞ?」
「そういう趣味のある奴もいるだろーがよ」
「確かに」
姉の顔を見せるレアンに共感を覚える私は、眠気に我慢できずに欠伸をひとつ。
「だらしねぇ欠伸だな?」
「そう言うな。まだ眠いんだよ」
「クレアナード様。まだ朝早いですし、もう一度寝られては?」
「そうしよう」
「即決かよ」
「言ったろ? 私はまだ眠いんだ。後のことは任せるぞ」
言い捨てて車内に戻った私は布団にすぐ横になり、あっさりと夢の中へと──
………
……
…
ついに、満を持しての地下迷宮再攻略が開始される。
メンツは、私たちとプリメラ一行。
それに追随するは、プリメラ配下の少数精鋭部隊。
補給専用の輜重隊まで配備していることから、準備万端ということなのだろう。
「クレアナード」
「ん? どうした、レングルブ」
アラクネ状態の彼女に名前を呼ばれた私は、彼女の背に騎乗したままで応じた。
幼女の私では、まともにダンジョン攻略する体力がないからである。
別に構わないとのことで彼女から了承を貰っているので、こうして堂々と騎乗移動というわけだ。
「われの背に乗るのは構わないけどねぇ……」
何やら含みのある口調だった。
「われの背で”おねしょ”は勘弁しておくれよ?」
「おねしょ? なんのことだ……?」
なぜそんなことを言ってくるのか。
おねしょに関する記憶がない私は、小首を傾げるのだった。
※ ※ ※
※ ※ ※
「ちい! 前衛突出しすぎるな! 左右の隊と連携しろ!」
戦場となっている平原にて、グーボ王子の指示が飛ぶ。
今までにないくらいの大きな”穴”が平原に開いたとのことで、部隊を率いて塞ぐ為に現地に赴くと、そこからロード種が出てきたのである。
「遊撃隊は上級種共を抑えろ! 可能ならば撃破しろ!」
鋭い声で指示を飛ばしながら、グーボ自身もが冷気纏う大斧を武器に、牙を剝いてくるクモ・ロードへと猛攻をしかけていく。
戦力差もあり戦況は、どうにかグーボたちが優勢だった。
しかし……
『ギギィィイイイイイイィイイ!!!!!』
2体目のロード種が”穴”から這い出てきたことで、戦況は一変することに。
「な……っ!? 2体目だと……っ」
さすがにグーボとて絶句する。
彼だけではなく、部隊の面々もが愕然とする。
「2体のロード……っ」
「なんで……っ」
「このままじゃまずいぞ!」
「グーボ王子! ご指示を!!」
動揺を隠せないようで、戦線が乱れ始めた。
負傷する者が出始めたことで、戦局はさらに悪化の一途を辿っていくことに。
「くそが! 新たに現れたロードは俺がひとりで相手をする!」
吐き捨て、単身でロードへと突っ込んでいくグーボ。
勇猛果敢とはよくいったもので、彼は必死の形相でロードと交戦する。
もはや部隊に指示を出す余裕もないので、副官らしい男が引き継いでいた。
「ぐう……っ」
奮戦するものの、やはりロード種相手にひとりというのは厳しいものがあったようで、ロードの攻撃を受け損ねたグーボは負傷してしまう。
片膝を地面につける彼へと、ロードが情け容赦なく牙を剝く──
その刹那、戦場に銀光が駆け抜けた。
重厚な斬撃は、グーボを狙っていたロード種の頭を一刀両断に。
一撃で即死したロードが、その場に力なく崩れ落ちる。
「な、なにが……」
「大丈夫か?」
大剣を軽々と操るは、狼獣人──勇者レオだった。
「レオ! 横!」
「ああ」
身体から浮き出た女精霊の声を受けるレオは、慌てることなく真横に大剣を振るっており、飛び掛かってきていた上級蜘蛛を一刀のもとに切り捨てていた。
鮮やかな手並や精霊が身体から浮き出た事実を前に、グーボは思わず呟く。
「勇者……なのか」
「まあ、そんなところだ」
「どうしてここに……?」
「類を見ない大穴が出現したと聞いたのでな。どうやら、来て正解だったようだ」
「ああ、助かったよ。貴君のおかげだ」
「だが、まだいるな。動けるか?」
「無論のこと。俺はまだやれる」
「そうか。では、残りをさっさと掃討しようか」
勇者レオの参戦によって1体のロードが屠られたことで、その場の戦況はがらりと変わることに。
その後もレオを中心とした戦いでもって、猛威を振るっていたロード種や上級種が瞬く間に全滅する。
どうにか生き延びられた者たちが安堵の息を吐く中、大剣を背中の鞘に戻したレオのもとに、肩で息を吐くままでグーボが歩み寄った。
「強いな。これが”勇者”の力なのか」
「勘違いしないでくれない? レオが強いのは勇者ってだけじゃなくて、日々の弛まない鍛錬による成果よ。勇者ってだけで強くなれるなら、苦労しないから」
女精霊が怒りを見せてきたことにグーボは軽率な発言だったと、すぐに謝罪。
当のレオが気にした様子がないので、グーボは早速話を切り出すことにした。
「勇者レオ殿。貴殿の腕を見込んで、ぜひとも頼みがある。急な頼みで申し訳ないんだが、しばらくの間、俺たちに協力はしてくれないだろうか」
「貴殿に?」
「いま、次期統一王であるプリメラ王女が、地下迷宮を再度封印するべく攻略中なんだ。じきに、この騒動も収まるだろうが、それまでの間、力を貸してほしい」
「なるほど……しかし、大丈夫なのか? 攻略難易度は高いと聞いたが」
「強力な助っ人が協力してくれることが決まったらしい。俺としても、”彼女”が協力してくれるならば、問題ないと思っている」
「そうか。そういうことであれば、微力ながら俺も協力しよう」
「助かる」
男たちで話がまとまりかける中、待ったをかけたのは精霊のミゲル。
「待って待って! 協力する報酬額の提示をしてもらわないと困るわ! こっちだって慈善事業じゃないいんだから」
「ミゲル、何もこんな時に金銭の要求など……」
「私たちもお金が必要なのは変わらないでしょ」
「それはそうだが……」
「いや、しっかり者の精霊のお嬢さんの言う通りだ。こちらとしても協力を要請する以上、先に報酬額を提示しないのは礼儀に反していた、すまない」
「そ。じゃ、金額の話し合いをしましょう」
下手に出るグーボとマネージャー顔のミゲルの間で、交渉が始まる。
「これくらいかしら」
「なっ!? これはさすがに高いぞっ!?」
「正規の報酬よ」
「いやいやいや! 馬鹿を言うな!? もう少し安く……」
「レオは安くないわよ」
「だ、だが、これはいくらなんでも……」
「今日この時、私たちが来なかったら貴方たちの部隊は全滅してたわよね?」
「それは……いや、しかし……」
「ミゲル。そのように足元を見るのは──」
「レオはちょっと黙ってて。いま大事なところだから」
「う、うむ……」
「ごめんなさいね? 横やりが入って。さ、交渉を続けましょうか」
「ぐう……」
その後も、あーでもないこーでもない、と舌戦が。
徐々に2人はヒートアップしていき、その様子をレオは溜め息交じりに、他のドワーフたちは困惑顔で眺めており──
「……わかった。では、折衷額として、これでどうだ?」
「……へぇ、そうきたのね。……うん。ま、これくらいで許してあげましょう」
ようやく金額の折り合いがついたことで、グーボが心底疲れたような溜め息を吐く。戦闘時よりも、明らかに消耗しているようだった。
「……レオ殿。ほんっっっとに、しっかりとした相棒を持っているようだな」
「俺が金銭に疎いからな。その分、ミゲルが頑張ってくれている。頼れる相棒だ」
「レオったら。こんな公然の場で惚気ないで。照るわ」
頬を染めて乙女チックに照れて見せるも、つい今しがたの舌戦を目にしているだけに台無しである。
「では、地下迷宮を封印するまで貴殿らに協力しよう。よろしく頼む」
「あ、ああ。こちらとしても、頼りにしている」
グーボ王子と勇者レオが握手を交わす。
クレアナードと面識のあるふたりは、しかし現段階では彼女の情報を共有していないために、この場では彼女の名前が出ることなく協力関係となることに。
とはいえ、元最強魔王クレアナードが関係していることは、夜営中の酒の席ですぐに判明することに……
酒の席は無礼講です。
※またひとりバイト辞められ、そのせいでこっちの負担が倍増なので、申し訳ないですが更新がさらに遅れます<(_ _)>




