第5話 「魔王様、襲撃する①」
前話のあらすじ:ドワーフの一個部隊を預かりました。
林道を進むは、ザム国の村から接収した食料等を運ぶダイ国軍の輜重部隊。
荷馬車が3台であり、その周囲を武装するドワーフ戦士たちが守っており。
先頭の荷馬車にはこの隊の指揮官らしい、他のドワーフが纏う鎧とは違う鎧を着るドワーフの姿もあった。
「……ん? なんだ……糸、だと……?」
いつの間にかに林道に張り巡らされていた無数の糸を前に、指揮官が胡乱げに眉根を寄せる。
気づけば頭上すらが糸で覆われており、輜重部隊の面々が不気味そうに周囲をキョロキョロさせており。
「何かおかしい……全員、止まれ!」
指揮官の指示で輜重部隊がその場に緊急停止すると。
「──くくく!」
頭上から笑い声が。
「ようこそ、と言っておこうかねぇ。われのテリトリーに踏み入った者たちよ!」
妙に芝居がかった言い回しで頭上に無数に張り巡らせた蜘蛛の糸から、逆さまの状態で糸を伝って現れたレングルブが、眼下のドワーフたちを睥睨してくる。
「アラクネだと……!?」
「なんでアラクネがこんな場所に……っ」
「ここがアラクネの巣になってるなんて聞いてないぞ……」
動揺を見せる輜重部隊の面々。
「狼狽えるな! 相手はたった一匹! 油断さえしなければ──がぁ……っ」
指揮官の声は、途中から断末魔へと変わる。
枝から飛び降り様にダミアンが飛び掛かっており、反応できなかった指揮官の首を短剣で切り裂いていたからだ。
「隊長!?」
「し、襲撃だぁ!!!」
「荷を守れーーー!」
輜重部隊の面々は愕然とするものの、すぐに臨戦態勢に移行しようとするが何人かが影から伸びた黒の手に動きを封じられており、それに伴い間髪入れず、林道の両脇から私率いるドワーフ部隊が飛び出していく。
たちまち乱戦となるその場。
とはいえ、戦況は圧倒的に私たちが優勢だった。
輜重部隊は指揮官を失った上に、何名かが影の手で動きを制限され。
それでも輜重部隊の面々は必死の反撃をしてくるが、統制のとれていない動きの為に、対応も容易かったのである。
「あ、アラクネの糸が目に……っっ」
「このチビ、すばしっこくて攻撃が……っ」
「影からの手がぁ……!」
等々、輜重部隊の面々の動きは悪く。
しかしそんな中でも、窮鼠猫を噛むこともあったようで、予想外の攻撃によって私配下のドワーフひとりが負傷してしまう。
そのことでバランスを崩しており、そこへと、必死の形相の敵が槌を振り落として来る──
直後に上がるは、鈍い金属音。
寸前でフォローに入っていた私が、腕輪の能力を発動して物理障壁でもって受け止めたのである。
と同時に蒼雷刃を閃かせ、目の前の敵の腕を切り裂く。
タイミング的に喉を掻っ切ることもできたが、あえて攻撃力を奪うのみ。
腕を切られたことで槌を落とし、その敵が後退するのをしり目に、振り返った私は尻もちをつくドワーフの脇に片膝をつく。
「油断はするな。戦闘でそれは命取りになるぞ」
「す、すみません……」
申し訳なさそうに顔を俯ける彼の傷を治療魔法で癒しながら、表面上は冷静さを保ちつつも、私は内心でドキドキしていたりする。
(あっぶな……借りてる人員を死傷なんてさせられるものか)
ましてや、末端まで手が届かない大軍というわけではなく、頑張れば手が届く程度の兵数なのだ。
これで死傷者を出してしまうなど、私の矜持が絶対に許さないのである。
そして──
レングルブによる陽動&かく乱。
ダミアンの指揮官への奇襲&それに続く翻弄。
アテナによる拘束&妨害。
そしてドワーフ精強部隊による後詰めの強襲。
私の陣頭指揮のもと、その場の戦闘は早々に終了することに。
「くそ……っ! 撤退! 撤退しろーー!!」
「荷は諦めろ!!!」
負傷兵を引きづりながらも生き残ったダイ国ドワーフたちが、積み荷を置いて逃げていく。
追撃して殲滅することもできたが、私はあえて追撃はしなかった。
無用な殺戮が目的じゃないからである。
とはいえ。
極力無駄に命を奪うことはしないが、戦の以上、命のやりとりなので仕方なく、この戦闘においてダイ国ドワーフには何人もの戦死者が出ていたりする。
負傷した者たちの傷を私が治療魔法で癒す間に、他の者たちが戦死した者を手厚く弔っているのだが……
(ちょっと、負傷者が多いんじゃないのか……)
現在配下の彼らを治療しながら、私は内心で眉根を寄せていた。
ラオ国王子のグーボが精鋭というぐらいなのだから、この程度の戦闘で負傷者が続出するなどは考えられなかったからだ。
しかし現に、彼らは大なり小なり──主に軽微なものが多かったが──傷を負っており。
このメンツでは治療魔法を使えるのは私しかいないので、私が治療をしているのだが、なぜか治療を受けるドワーフたちはウキウキした様子でいて、順番が来るのを今か今かと心待ちにしている面持ちであり、逆に治療が終わると残念そうな顔で順番を譲っていたりする。
(まさかわざと傷を……いや、まさか、な……)
そんな私の内心を察したのか、いつの間にか傍らにいたアテナが私の肩に手を置いてくる。
「モテる女は辛いですね」
「……おいおい。それじゃあまるで、わざと傷を負ってるみたいな言い方じゃないか。さすがにお前の発言は不謹慎だろう」
私の言葉を受けて反応を示すのはアテナではなく。
いま治療を施しているドワーフであり、順番待ちをするドワーフたちだった。
バツが悪そうに視線を逸らすか、ごかます様に頬を掻いたりなど、よそよそしい雰囲気に。
(……おいおい)
内心で嘆息ひとつ。
まあ、今は私の指揮下にあるので、責任をもって彼らの傷を治療はするが……
そんなやりとりの一方では、ダミアンやレングルブが戦利品を物色中。
「解せないねぇ。なんで現物のままで輸送なんだい? 冒険者がよく使っている魔法の道具袋に入れれば、こんなにかさ張らないってのに」
「きっと、そこまでの余裕がないんですよ。というか、冒険者とか特別な地位にいるヒトは比較的持っていて当たり前の物ですけど、一般的にはそこまで普及されてる物じゃないですし」
「そういうもんなのかい」
「だからクレアナード様の指揮下にある彼らも、持ってるヒトいないですよね」
「ああ、確かにねぇ」
やがて全員の治療が終わり、奪回した物資は私たちが有効活用することに。
これらが接収されたであろう街に戻すのが筋だろうが、しかし今はダイ国の占領下にあるために、いまの私たちの戦力だけでは奪還は不可能なので、かといってこのままここに放置ではもったいないので、配下であるドワーフ部隊の維持に使わせてもらうことにしたのである。
竜車に喜々として物資を運び入れるドワーフたちを見やりながら、私やダミアンも携帯する道具袋に食料品を確保していく。
「……なんか、複雑な心境になりますね」
食料を手に動きを止めたダミアンが、ぽつりと言ってきた。
「本当なら、この食料品もちゃんと代金を支払った上で手にするはずなのに……」
「そうだな……これが、戦争ということだ。利益を得るのは軍人や上の人間だけであって、被害を被るのはいつも無辜の民ということだ」
「クレアナード様……これ、本当にタダで貰ってもいいんでしょうか?」
「気持ちはわかるが、この場に放置して腐らせてしまう方が、民の犠牲を無駄にしてしまうだろう」
「……それはそうでしょうけど」
「くくく! ダミアンは甘いねぇ。貰えるもんは貰える時に確実に貰っておく。生きていく上で、生物の基本だろうに」
「レングルブさん。人間には、常識というものがあるんです」
「くくく! 出たよ、種族差別発言」
「あ、いや、俺はそういうつもりじゃ……」
揶揄うように嗤うレングルブを前に少し慌てるダミアンに、アテナが無表情ながらもジト目を向ける。
「ダミアンさん、がっかりですね。貴方からそのような事を聞くことになるとは」
「いやいやいや! だから、俺はそういうつもりで言ったわけじゃ……」
「あぁ……われは、心無い一言にひどく傷ついちまったねぇ。この心の傷を癒すには、人肌で一夜を過ごすしかないねぇ」
「ちょ、ドサクサに紛れて何を……っ」
「ダミアンさん、繊細な乙女心を傷つけた責任は、男として取らないといけないんじゃないですか?」
「いや、だから──」
「クレア様からも何か言ってあげてください」
「……私に振らないでくれ」
さすがに私にはダミアンを揶揄う趣味はないので、返答に困ってしまう。
それを受けて、アテナはさも不思議そうに小首を傾げてきた。
「おや? 意外ですね。ショタをイジメることに喜びを感じるクレア様にしては、消極的な反応ですね?」
「勝手に私に変な性癖をつけないでくれるか」
「私は寛容ですので、特殊な性癖を恥ずかしがる必要はないですよ。すべてまるっと受け入れましょう」
「私の話を聞いていないようだな」
「さあクレア様。共に幼気なショタを揶揄いましょう」
「だいたいな、ダミアンはショタってわけじゃないだろう……」
「おや? クレア様は、ダミアンさんに大人の男を感じていると?」
「いや、そういうつもりの発言じゃないが……」
ダミアンが嬉しがるように頬を紅潮させ。
一連のやり取りを前にレングルブが面白そうに笑っており。
戦争に介入したとはいっても、私たちはいつも通り、通常運転なのだった。
※ ※ ※
ザム国とダイ国の防衛線を巡る攻防は、拮抗状態となっていた。
ザム国も防衛戦を維持するので手一杯の様子だったが、ダイ国も補給が滞り始めているために無理な進撃が難しくなってきていたのである。
外周部──国境境のダイ国が占領した拠点はラム国が解放した上で、ダイ国本国からの援軍も阻止。
内周部──ダイ国軍主力により近い拠点からの補給物資は、私率いる少数精鋭でもってゲリラ戦で襲撃。
地味とはいえ確実な兵糧攻めによって、準備万端、戦力面では勝っているはずのダイ国軍主力は、ある意味では窮地に立たされていたのだった。
とはいえ、すべての輜重部隊を私たちだけで襲撃することは出来ないので、少なからずの補給物資がダイ国軍主力に送られているために、戦争は悪戯に長引いてしまっていた。
ダイ国も、もはや引き返すという選択肢がないからなのかどこまでも意固地であり、頑なにザム国への侵攻の手を止めず、それがまた泥沼の様相の原因とも言えたのである。
こうしてみると、一見すればザム国が有利と言えなくもないのだが……
それも綱渡りと言えるだろう。
すべては、ラオ国の態度次第なのだ。
今はとりあえず味方となってくれてはいるが、寝返れば戦局は一変してしまうだろうし、ダイ国本国の援軍がラオ国軍を突破してしまえば、また然りなのである。
つまるところ。
時間があまりないという状況は、どちらの国にも言えたのである。
「……埒が明かないな」
馬車内にて、私は忌々し気に呟く。
夜営中の私たちは、肩を並べて今後の事を話し合っていた。
ドワーフ部隊を率いることで出来ることが増えたので戦況は上々だったのが、それでもやはり限度というものはあるようで。
ダイ国軍主力への補給を困難にはするものの、それが決定的な一打にならないことに、私は少々苛立ちを覚え始めていたのである。
防戦しか維持できないザム国も不甲斐ないと言えなくもないが、初手の奇襲で痛手を負ってしまった以上は、まあ仕方がないのかもしれないが。
むしろ、よくぞここまで耐えていると褒めたほうがいいのかもしれない。
いずれにしても。
ザム国、ダイ国、ラオ国の三国が抱える事情や状況により、戦を悪戯に長引かせているということに変わりはないだろう。
戦争が長引けば長引くほどに、苦しむのは民であり。
ならばこんな無益な戦争、早々に終わらせる必要があるだろう。
だとすると、何をするべきか……
「リスク覚悟で、少し無茶をしてみるか」
「クレア様からの無茶発言……これは、死者が出ますね」
「おいおい。アテナよ、私を何だとおもっているんだ」
「ですけどクレアナード様。無茶って、何をするつもりなんですか?」
「ちまちま輜重部隊を叩いてもキリがないからな。だから、ダイ国軍主力が保有する兵糧をまとめて焼き払う」
アテナが「ほう……」と無表情で反応し、ダミアンは逆に絶句する。
ダミアンの反応は、至極まともだろう。
なにせ主力軍なのだから、その警備網も厳重だろうからだ。
かなりの無茶なのは承知の上なので、私はこれといって気にしない。
「何も、無策で挑むわけじゃないさ」
そう応えてから、レングルブに視線を向ける。
「蜘蛛型に戻った時、俊敏性はどれくらいある?」
「俊敏性……? まあ……馬よりは早い自信はあるかねぇ」
「そうか。今回の作戦は、お前をひとつの”武器”として使わせてもらいたいんだが……構わないか?」
「われを武器……? くくく……何を考えているんだい?」
「もちろん、リスクは私も追うつもりだ。ダミアン、お前にも重要な役割を任せることになる」
「クレアナード様の命だったら、俺は構わないですけど……」
「クレア様。私の名前が出ませんか?」
「お前には私の背中を任せるよ」
「なるほど。大役ですね」
「ああ」
私は、一同に作戦を披露する──
………
……
…
その夜、ふいに目が覚めた私は、気配に気が付いた。
どうやらレングルブが御車席におり、ぼんやりと夜空を眺めている様子だった。
「どうした? 眠れないのか?」
「ん? ああ……まあ、ちょいとねぇ」
何やら含みのある口調に違和感を感じた私は、気になったのでその場に居ることを選択する。
「眠れないのなら……話し相手になろうか?」
「……クレアナード。アンタのそういうところ、けっこう好きだよ」
「なんだ急に」
「ま……話し相手が欲しかったというか、誰かに聞いてほしかったってのもあるかもねぇ」
珍しく苦笑いをしたレングルブは、夜空を見上げて溜め息ひとつ。
「感慨に耽っちまってたのさ」
「感慨……?」
「意外かい?」
「まあ、ちょっとな」
「くくく。われとて、いろいろ思うところはあるのってことさ」
今度は苦笑を見せ、再び溜め息。
「外の世界──人間の世界が、楽しいと思っちまってねぇ」
「楽しい、か」
「魔物時代は、そりゃもう荒んでたからねぇ。戦って戦って、戦うだけの毎日さ。人間は狩りの対象で、それ以上でも以下でもなく。こうして呑気に会話をするなんて、まず在り得なかったってもんさ」
「……そうなのか」
「深手を負って地中に潜り、再起を図ってたところで封印ときたもんだ。封印直後は、そりゃもう人間への復讐心で頭がいっぱいだったもんだよ。だから眷属が人間たちを殺す様は見ていて痛快ではあったけど……まあ、そんな人間たちを見ているうちに考え方も変わっちまったわけだけどねぇ」
何百年も動くことが出来ず、ずっと人間の生きざまを見てきたことで少なからずの影響があり、その蓄積が彼女を変えたということなのだろう。
「当時は一方的に狩る側だったってのに、いまのわれは狩られる側でもある……くくく。弱くなるってのは、愉しみが増えるんだねぇ」
「……弱くなったのが愉しいのか?」
「アンタは違うのかい? 最強の頃なんて敵はいなかった。自分が勝つことが前提の消化試合ばかり。結果が見えてる殺し合いに、何の意味があるってんだい? 勝敗がわからず、互いにリスクがあるからこそに、戦いってのは己の全てを賭せるもんだろう?」
「私は別に、戦いに意味なんて見出したことなんてないけどな」
「くくく。まあそのへんは、人間と魔物の違いなんだろうけどねぇ」
レングルブはそういって微笑するものの、私とてわからないわけではなかった。
最強魔王の頃には、私には敵なんていなかった。
血沸き肉躍るような戦闘──別に望んではいないが、退屈な戦闘ばかりだった。
そんな中で、唯一まともに戦い、勝利したことが嬉しく思ったのが……
最強勇者との最期の死闘である。
……まあ、その結果として。
私は最強の称号を奪われたのだが。
(だがそのことで、今の私は勝敗がわからない戦いに身を置くことが多くなった)
それが吉なのか凶なのかは、微妙なところだろうか。
ギリギリの戦いを愉しむような危ない趣味は持ち合わせてはいないので、出来ることならばリスクある戦闘は回避したいというのが、本音と言ってもいいだろう。
勝敗がわかりきっている戦闘は確かにつまらないが、だからといって負けては意味がないのだが……
(私は、あの頃の強さに……)
苦い想いが、私の口を自然と開けさせていた。
「レングルブ、お前は昔の強かった自分に戻りたいとは思わないのか?」
「んん? 戻ったところで、それと引き換えに”自由”を無くしちまうんだ。こうして”自由”を身をもって知っちまった以上、いまさら”強さ”と引き換えに”自由”を失うって選択肢はないだろうねぇ」
「……そうなのか」
確かに、いまの私は”強さ”を失ったからこそ、いまの”自由”があるわけであり。
強いままだったならば、こうして好き勝手に動けてはいなかったことだろう。
”王”という立場は、見えない鎖で繋がれているようなものなのだから。
行動ひとつで国の利権に関わってくる上に、国民の命すら関係してくる……なんて窮屈だったことだろう。
そんな重責を妹に負わせてしまったのは、本当に申し訳ないと思うが……
まあ、ラーミアの手腕ならば私以上にうまく立ち回れるだろうし、何か困ったことがあればすぐに私も協力するので、それほど心配はしていないが。
なので、いま一番に考えることは──
(冒険者のままで最強を取り戻せるのが一番だが……さすがにそれは、我が儘か)
自由のままで強さを取り戻す。
最強でありながら、国とは一切関係がない。
いつしか私の中には、そんな我が儘な考えがあったりする。
というか、レングルブとのやり取りで気づかされてしまったわけだが。
「……まったく。レングルブ、お前のせいで私は我が儘なんだと気づかされたぞ」
「なんだい急に……まあ、よくわからんけど、いまのアンタいい顔してるねぇ」
私は微笑していたようで、レングルブも同じように柔らかく笑んできた。
「人間ってのはまあ、面白いねぇ」
その後も私たちは、静かな夜空の下、他愛のない会話を楽しむのだった。
※ ※ ※
※ ※ ※
ダイ国軍の輜重部隊へのゲリラ戦が終了後、戦闘で負った傷を治療してもらうべく、ドワーフたちがクレアナードの前に列を作っていた。
「やはりお美しい……」
「間近で、しかも肌に触れてくださるとは……」
「役得しかないな、この任務は」
などなど、仲間内で小声で言い合う。
種族が違えども、その氷の美貌は誰もが納得するものだったのだ。
だからこそ、出立前の仲間たちからの嫉妬や羨望の視線も、ある意味では当然のことなのである。
「意外とまつげが長いのな」
「なんかふんわりと良い匂いがしたぞ」
「まじか」
「次、俺も匂いを嗅いでみようかな」
「バレないようにしろよ」
「警戒されたらもう治療してくれなくなるぞ」
種族に関係なく、元魔王クレアナードの氷の美貌によって、ドワーフたちは魅了されていたのである。
そのために、わざと怪我を負う者さえ。
ラオ国王子が誇る精鋭にあるまじき行為なれども、所詮は彼らも”雄”ということなのだった。
「モテる女は辛いですね」
「……おいおい。それじゃあまるで、わざと傷を負ってるみたいな言い方じゃないか。さすがにお前の発言は不謹慎だろう」
女精霊とのやり取りでクレアナードが発した言葉に、後ろめたい気持ちもあるドワーフたちがビクッと震えてしまう。
とはいえ、こんなご褒美を辞められるはずもなく。
彼らは素知らぬ顔や態度でもって、列から外れることはなかった。
………
……
…
その夜、街道脇にて野宿をすることになり、食事が終わったあとは、各々が自分たちの馬車内で思い思いの時間を過ごす──
「そういや。出立する前、あいつら俺らを羨ましがってたよな」
「そりゃあそうだろ? あのクレアナード様のお傍にいられるんだぞ?」
「ああ。帰ったら一生自慢できる」
その言葉に一同が同意を示す中、ひとりがぽつりと呟く。
「今度……股をわざと怪我してみようかな。俺の股にクレアナード様が……」
その瞬間、場の空気が一瞬だけ止まり。
「「「それはアウトだろ!!!」」」
皆が声を揃えて、そのドワーフにツッコミを入れていた。
下心満載でも最低限度の節度は守るようでした。




