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勇者を討伐した魔王様は魔力を封じられた為に解雇される。  作者: 吉樹
第7章 『ドワーフ国編②』
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第4話 「魔王様、戦争に巻き込まれる」

前話のあらすじ:蜘蛛の穴を塞ぎました。

 ダヌンを中心に、クエスト(主に魔獣退治)をこなしつつ早数日。

 その日は、あまりにも唐突だった。



「ダヌンが制圧されただと?」



 いつものようにクエストを終えてダヌンへと戻った時に、街の違和感に気付きダミアンを偵察に行かせたのだが、彼からの報告は予想を超えていた。



「はい。信じられませんけど、ダイ国軍に制圧されてました」

「ダイ国だと……まさか、三か国協議を反故にしたのか……」



 となると、制圧されたのはダヌンだけではないだろう。

 ダイ国と国境沿いにあるザム国の拠点は、すべからく陥落しているはずである。

 覚悟をもった開戦ならば、私ならば同時侵攻でもって拠点を落としつつ、確実に補給路を確保しながら首都へと向かうからだ。


 とはいえ。

 開戦となると武装した連中が行き来することになるわけであり。

 ドワーフ族が信仰する土着信仰はどこへいったのか……

 自分たちならばいいという、身勝手極まりない解釈なのかは知らないが。



「制圧を維持するためなのかダイ国軍の一個部隊が駐留しているみたいで、街への出入りは禁止されてまして、街にいた冒険者も身動きがとれない状況みたいです」

「そうか」



 荒事に慣れている冒険者なのだから、その気になればすぐに外へ出られるのだろうが、いまは下手に動かない方がいいとでも判断しているのか、おとなしく様子見をしている、といったところなのだろう。



「たまたま外にいた私たちは、運がよかったってところか」



 野良魔獣討伐のクエストを受け、別に期日が決まっているわけでもないので、のんびり馬車で何泊かした後、完了報告をするためにダヌンに戻ってきたのだが……



「私の日ごろの行いの賜物ですね。クレア様、どうぞ私に盛大な感謝を」

「……どこをどう判断したら、そういう解釈になるのか」



 根拠のない自信で胸を張って両手を広げてくるアテナに溜め息ひとつ。



「しかし戦争か……こうなると、ザム国も戴冠式どころじゃないだろうな」



 国境沿いの拠点をあっさり奪われてしまったのは、戴冠式の準備で忙しかった上に、ダイ国が三か国協議の結果を反故にするとは思っていなかったからだろう。

 だからといって、ザム国とて無能ではないはずである。

 初手こそ先手を取られただろうが、すぐに応戦準備に入っているはずであり。

 ザム国の準備が整うのが先か、ダイ国がどこまで攻め込めるか。

 どちらが先かが、この戦の勝敗の鍵となってくることだろう。



「くくく。人間ってのはまあ、往生際が悪いねぇ。ま、そういうねちっこいのは嫌いじゃあないけどねぇ」



 さも可笑しそうに嗤うレングルブは、完全に他人事だった。

 まあ、ドワーフ同士の戦争など、私たち(部外者)にとっては関係のない話だろうが……



「とはいえ、だ。私たちも、気楽にクエストをこなしている場合じゃないな」



 そもそもが。

 街に入れなければクエスト受注どころか報酬の受け渡しも不可能なのである。



「……クレア様」



 両手を広げたままの姿勢のアテナが、私に非難めいた視線を向けてきた。



「私のこの広げた両手、どう始末をつけるおつもりですか?」

「ん? いや別に、普通に戻せばいいんじゃ……」

「はあ……やれやれ」



 小馬鹿にするように、アテナは嘆息ひとつ。



「私が拗ねると、面倒なことになりますよ」

「……ったく。拗ねなくても面倒な奴だな」



 少し乱暴気味なれどアテナの頭を撫でてやると、彼女はまるで子猫のように目を瞑り、無表情ながらも嬉しがる雰囲気に。



「たまに、お前のことがよくわからなくなるよ」

「女には秘密にしている顔が、いくつもあるのですよ」

「なるほどな。意外と甘えん坊なところがあるってことか」

「……面と向かって言われると照れますね」



 そんな私たちのやり取りに、レングルブが愉快そうに「くくく」と笑っており。



「えっと。それで、クレアナード様。今後、どうしますか?」

「……んー……」



 ダミアンに問われた私はアテナの頭を撫でるのを止めて、顎に手を当てて考え込む。そのことでアテナが少し不満げな態度になるが、彼女の要求には応えたのだから、もうスルーでいいだろう。



(どうする……か。これはドワーフ国内の問題なのだし、どこか一国に肩入れする気はないんだが……)



 魔王時代から変わらぬ考え。

 しかし……と、私は考えを改める。


 今回の件(地下迷宮)で、プリメラ王女は三か国協議で決議された《神の槌》を、それこそ命をかけて手に入れたのである。

 そのことは素直に称賛されるべきことであり。

 逆に、三か国協議を反故にしたダイ国に非難があるのは、日の目を見るよりも明らかだろう。


 だから……


「私は──プリメラ王女を支持しようと思う」



 私の答えにダミアンが驚き、レングルブが面白そうに眉根を動かし、態度をいつも通りに戻したアテナが私の瞳をじっと見据えてくる。



「クレア様。そのご判断で、本当によろしいのですね?」

「ああ。むろん、魔族国の総意というわけじゃなく、あくまでもいち冒険者としてだけどな。だから、ラーミア(妹の現魔王)には何の連絡もしないつもりだ」

「……なるほど。私はてっきり、これはドワーフ族の問題であり関わるつもりはない、と仰られるのかと思っておりました」

「本当はそれが良いんだろうけどな。だが今回の戦は、明らかにダイ国に非がある。三か国協議に合意しておいて、この始末だ。だから私は、プリメラ王女──ザム国に協力しようと思うんだ」

「クレア様がそうご判断なのでしたら、従者である私に異論はありません」

「お、俺も同じです!」

「われは、なんでもいいよ。所詮は、暇つぶしに過ぎないからねぇ」



 こうして私たちの行動方針は決まったわけだが。

 いざ行動するとなると、何から手をつけていいものかと思案していると……

 ダヌン方面から爆音が聞こえてきた。

 それに続いて聞こえてくるは、物騒な戦闘音だった。


 いま私たちがいるのはダヌンの西門を遠巻きにする位置であり。

 どうやら戦闘音は、北門方向から聞こえてくるようだった。



「なんだ……?」



 一瞬、街にいる冒険者たちが反旗を翻したのかと思ったのだが、その考えはすぐに打ち消されることになる。

 北側から迂回する形で、とある集団が姿を見せたからだ。


 翼のない竜──地竜が引く竜車を駆る集団。


 何台もの竜車を駆る集団──武装したドワーフ族の一団は、遠巻きにする私たちを歯牙にもかけず、そのまま西門へと攻勢をしかけていく。

 ダヌンを制圧下に置くダイ国の部隊も必死に応戦の姿勢を見せるものの、あまりにも数に差がありすぎた。


 その場の戦力差だで言うならば、

 ダイ国軍が一個小隊とするならば、そのドワーフたちの戦力は一個大隊であり。


 外門を巡る攻防は、あっさりとダイ国軍側の敗北で終わっており、突破を果たしたドワーフの一個大隊が街へと入っていった。



「……何が起こっているんだ?」

「ザム国の反撃でしょうか?」

「クレアナード様。俺が様子を見てきましょうか?」

「ああ、頼む。だが、くれぐれも気を付けてな」



 密偵ならではの身軽さでもって、ダミアンが再びダヌンへと駆けていく。

 その背を見送りながら、レングルブが期待している瞳を私に向けてきた。



「なんか、面白くなりそうな予感がしないかい?」

「……面白いかどうかはともかく。何かが起きているのは確かだな」



 ややあって。

 戻ってきたダミアンは、神妙な顔つきをしていた。



「ダヌンを巡る攻防は終了。ダイ国側の戦力は沈黙しました」

「そうか。まあ、元々が戦力が違うからな」

「それで、奪還といっていいのかわからないですけど、ダヌンを開放したのはラオ国軍でした」

「ラオ国だと? どういうことだ……?」

「えっと、それでなんですけどね……」



 なぜかダミアンは言いよどむ。



「俺、完全に気配を消してたはずなんですけど……見つからない自信があったんですけど……気づかれたんです」

「なに? 誰にだ」

「……ラオ国のグーボ王子です」

「グーボ王子が来ているだと……」



 ますます状況がわからなかった。

 とはいえ、とりあえずは納得できる部分もあったりはする。

 隠密に優れているダミアンを発見するなど、容易い事ではないだろう。

 しかしその彼を発見したのがグーボ王子というのならば、まだしも納得はできるというものだったからだ。

 (グーボ王子)の実力が高いのは知っているので、話通りだったということなのだろう。



「それでクレアナード様。なぜかグーボ王子は、俺がいまクレアナード様に仕えていることを知ってまして、すぐに呼んできてくれと言われまして……」

「……そうか」

「如何いたしますか? クレア様」

「呼んでいるというのであれば、行くしかないだろう。とはいえ、何が起きるかわからんからな、警戒はしておいて損はないだろう」

「警戒、ですか」

「ああ。まさか硬派のグーボ王子が、だまし討ちや不意打ちといったことをしてくるとは思えないが、用心するに越したことはないだろう」



 最大限の警戒を払いつつ、私たちは解放されたダヌンへと赴くことに。




 ※ ※ ※




「おお、待っていたぞ、クレアナード殿」



 私たちの警戒とは裏腹に、出迎えたグーボ王子は破顔してきた。


 場所は、街の中央広場。


 多くのドワーフ戦士が行き交っており、事後処理に奔走しているようだった。

 住民の姿がないのは、戦時中ということで家々に引きこもったのだろう。

 冒険者の姿もないところを見ると、こちらも今回の一件には下手に関わらないようにしているのかもしれない。

 従軍医師らしき女性含むドワーフたちが負傷兵の手当てを行っており、その中には生き残りであるダイ国の戦士の姿もちらほらとあった。

 

 たったいま刃を交えたはずの敵兵(ダイ国戦士)にも治療している光景を気にしていると。



「不思議か?」

「……まあ、な」

「なにも難しい話じゃない。降伏して投降してきた以上は、無闇に命を奪う理由もない。それだけのことだ」

「なるほどな」



 疑問が解消したことで、私は別の疑問も問うことにした。



「なぜダミアンが私に仕えていると知っていたんだ?」

「情報収集は当然だろう? ましてや、ザム国のプリメラ王女関連だ。ならば貴女のことを調査するのも当然だと思うのだがな」

「……そういうことか」



 抜け目がないというかなんというか。

 案外、この男はただの脳筋じゃないのかもしれない。



「それでグーボ王子、なぜ貴君がこの場に部隊を指揮して来ているんだ?」

「ダイ国の暴挙は、事前に情報を入手していたのでな。だから、こうして我等ラム国は行動に出たというわけだ」

「行動……?」

「諸外国から見ても、今回のダイ国の暴挙は非難の的となることだろう。今後の国家間での関係についても、大きなマイナス点となろう。約束すら守らん国だとな」

「確かにな」

「ラオ国の総意は、我等ラオ国が軸となる統一国になるのではなく、ドワーフ族がひとつに団結することにある。ゆえに我等は、三か国協議によって決議した結果を重んじようということになったわけだ」

「それで、ザム国に援軍ということか」

「まあ、それはひとつの建前でもあるがな。ここでザム国恩を売っておけば──」



 グーボ王子が、にやりと笑って来た。



「将来的には、うまく立ち回れるかもしれんだろう?」

「……強かだな」



 ゆえに、ダイ国の暴挙情報を事前に入手していても、ザム国に注意喚起はしなかったのだろう。

 まあ、油断していたザム国にも非があるので、ラオ国の行動を一概に非難は出来ないだろう。



「思い通りに事が運ばぬからと駄々を捏ねる方が、ガキだという話だ」

「確かに。しかし、だ。もしザム国が負けた場合はどうする気だ? すでにこうしてダイ国と事を構えた以上は、このまま泥沼の戦争になるんじゃないか?」

「そうなる前に、こちらも全軍をもって攻勢に出る用意もしている。それに、だ。ザム国との戦争でダイ国もただでは済んでいないだろうしな。悪いが、漁夫の利を得させてもらう魂胆でもある」

「……グーボ王子。私は貴君を勘違いしていたようだ」

「脳筋だけが取り柄じゃ、王子なんて務まらんのでな」



 そう述べてきた王子は、しかし急に双眸を鋭く細めてくる。



「とはいえ、だ。俺とて悔しい気持ちがないわけじゃない。統一国になるのは、先祖代々からの悲願なのだからな」

「……悲願、か」

「だから、今回の件でザム国を見定めるという意味合いもあったりするわけだ」

「見定める?」

「この程度のことであっさり負けるようでは、統一王の器はないということだ。だからこそ、ラオ国は最低限の援護しかしないつもりだ」

「最低限の援護……?」

「ああ。このまま両国の国境沿いを進軍し、ダイ国が制圧した拠点を開放する」

「なるほど。ダイ国軍の補給線を絶ってくれるというわけか」



 戦況を聞くと。

 どうやら双子の王子が率いるダイ国軍の主力はザム国領土の奥深くにすでに侵攻しており、現在は急きょ編成されたザム国軍の防衛線にて交戦中とのことだった。


 だがザム国軍は明らかな準備不足が否めず、突破されるのは時間の問題であり。


 逆に、ダイ国軍は制圧した各拠点から安定した補給を受けながら侵攻を、というのがいまのところの戦況らしかったが、この状況が覆るとなると、戦況もわからなくなってくることだろう。



「とまあ、ここまでが大まかな経緯というわけだ」



 こっからが本題だとばかりに、グーボは表情を変えてきた。



「思惑はいろいろあれ、俺としても悔しい気持ちはあるが、だからといって命を懸けて《神の槌》を入手したプリメラ王女に、敬意も抱いていることは確かなんだ。性格(我が儘)はともかくとして、女ながらにあっぱれ、とな」



 硬派な漢らしい意見を述べてから。



「そこで、クレアナード殿。貴女の出番というわけだ」

「私のだと?」

「貴女のことだ。このまま黙って見過ごすなんてことはしないだろう?」

「それはまあ、そのつもりだが……」



 何かしらの手助けはしてやりたいとは思うが……

 如何せん、いまの私はいち冒険者にしかすぎず、魔族国の力を借りるつもりもない以上、いまの私に出来ることは少ないだろう。



「クレアナード殿。貴女に、俺直下の精鋭である一個部隊を預けよう」

「なに……?」

「”個”ならば出来ぬことも”集”ならば出来ることも増えるだろう」

「どうして私に……」

「貴女の指揮下ならば、かえって俺の下にいるよりも生存率が高いかもしれん」



 苦笑いしてくるグーボは、その瞳の奥には悔しさも混じっていた。

 私はというと……困惑である。



「買いかぶり過ぎだ。いまの私は弱体化しているのだから──」

「純粋な戦闘力と指揮能力は違うと、俺は思うのだがな?」

「それは……」

「悔しいが、こればかりは経験値の差だろう。俺と貴女では、潜ってきた修羅場の数が違うからな」



 確かに、年齢でいうのであれば、グーボは私よりも年下なので、経験値の差と言われればその通りだろう。


 魔王時代は前線にて陣頭指揮を執り、人族国と何度も刃を交えているのだから。


 ……なので。

 私が年増だから、という理由ではないということだけは明確にしておくとして。



「クレアナード殿、俺が出来る協力はここまでだ。後は、貴女次第だろう」



 私に告げてから王子が指示を出すと、すぐにその場に一個部隊が招集される。


 グーボ自身が精鋭と呼ぶだけあり、招集された面々は皆が精強兵といわんばかりの頼もしい面構えをしていた。



「お前たち! 死ぬ気で働き、ラオ国のことをクレアナード(現魔王の姉)殿にアピールしろ!」



『『『オオオオオオオオオオ!!!』』』



 裂帛の雄叫びを上げる一個部隊の面々。

 周りにいる戦士たちが何やら羨ましそうな視線を向けてくる中。



「おやおや。下心が丸出しですね」

「まあ……そういうな。兎にも角にも、これで出来る事が増えたということに変わりはないからな」

「くくく、人間の戦争かい。地上で暴れ回ってた昔(神々の黄昏戦争)を思い出すよ。愉しみだねぇ」「不謹慎ですよ、レングルブさん。クレアナード様の評判が下がるようなことはやめてくださいね」



 こうして思わぬ展開でドワーフ精強兵一個部隊を預かった私は、プリメラ王女──ザム国を援護するべく、行動に移るのだった。




 ※ ※ ※


 ※ ※ ※




「ラオ国が介入してきただとっ?」



 ダイ国主力軍の本陣にて、もたらされた報告にハルゼス王子が声を荒げていた。

 報告したドワーフは、恐縮した様子ながらも、自らの責務を果たすべく続ける。



「これにより、ザム国東に展開していた制圧部隊が壊滅。その後ラオ国軍はグーボ王子の指揮のもと南下をしており、その進路から狙いは、我等が制圧下に置いたザム国の拠点の解放ではないかと……」

「こちらの補給路を分断するつもりか……っ」



 これは、ハルゼスにとっても完全に予想外の事態だった。


 ラオ国もこちらと同じく、ザム国が軸のもとに統一国となることは、面白く思っていないだろうと思っていたからだ。

 そのため、非干渉の立場をとるか、もしくはこれ幸いと、こちららと足並みを揃えてくるだろうと思っていたのだが……



「兄者……」



 弟のハダックが不安げな眼差しを向けてくるも、ハルゼスはその弟にではなく、この場にはいないグーボ王子へと忌々しげに吐き捨てる。



「これだから愚直な奴は面倒なのだ。あの我が儘王女の下につくことを良しとするようならば、ラオ国にも統一国としての資格はない。やはり、我がダイ国しかドワーフ族を導く国はないということだな」

「どうするつもりなのだ? 兄者」

「いまさら後には引けん。こうなれば、なんとしてでも統一王の証たる《神の槌》を手に入れる!」



 野心や闘志を新たに、ハルゼスが円卓をバンっと叩いた。

 そのことで、その場にいる者たちの視線が集まる中。



「補給路が完全に断たれる前に勝敗を決する! いつまでも急造な防衛戦に時間を取られている場合ではないぞ!!!!」



 独り興奮するハルゼスなれど、場の空気は重苦しく。

 しかしそんな中で、声を上げたのは弟のハダックだった。



「兄者が統一王となるために! 歴史に、我等ダイ国の名を残すんだ!!」



 その発言が功を奏したのかはともかくとして。

 戸惑いの雰囲気が徐々に氷塊していき、その場の者たちも頷き合い。



『『『オオオオオオオオオオオオオ!!!!』』』



 本陣に、力強い雄たけびが木霊するのだった。




 ※ ※ ※




「マジで在り得ないんだけど!?」



 ザム国王城の一室に、プリメラ王女の怒声が木霊する。

 戦争に関しては素人も同然のため、作戦指令室の本部から蚊帳の外を喰らっている彼女は、自室で待機という状況になっていた。



「お、落ち着いて下さい、王女様……っ」

「あ~もう! うるっさいわよ、ララン!」

「ひい……っ」



 八つ当たりを受けた侍女が身を竦ませるものの、一方からは「キシシ」と不気味な笑みが聞こえてくる。



「プリメラ。面白くないのはわかりますけどねぇ、ラランさんに当たるのはどうかと思いますよ?」

「お姉サマ……でも……!」

「まあ、貴女の気持ちもわかりますけどねぇ。戴冠式まであと少しというところでの奇襲による開戦。しかもザム国が劣勢と来ているのです。不機嫌になるなという方が、無理でしょうねぇ」



 キノコを肩に担ぐザオームの服装は、冒険者仕様の単衣姿ではなく、きりっとした軍装仕様だった。

 これは、彼女がプリメラ王女の近衛隊長に就任していたからである。

 前近衛隊長(ジジン)は王女の我が儘にほとほと嫌気が差していたようで、あっさりとザオームにその役職を引き継いで、さっさと現役を引退していたのだ。



「ほんっとにさぁ! 何のために命を危険に晒してまで《神の槌》を手に入れたと思ってるのさ!? こんな不毛な利権戦争を回避するためじゃなかったのって話なんだけど!?!」

「キシシ……無駄な努力でしたねぇ」

「で、でもでも王女様! なんか情報だと、ラオ国が味方してくれてるみたいですし! なんとかなるんじゃ……」

「それもさぁ、どうなんだろね? ほんとに味方してくれるってんならさ、なんでアホ王子(ダイ国双子王子)たちが指揮してる主力軍とぶつかってくれないのって感じだよ! 制圧された拠点の解放は後でいいからさ、まずは主力を叩けって感じじゃん!? 拠点解放したってさ、こっち(ザム国)が落とされたら元も子もないんだよっ?」

「キシシ。まあ、貴女の言っていることもわからないわけじゃないですけどねぇ」

「だよねお姉サマ!」

「まあラオ国にも、思惑というものがあるのでしょう」

「思惑……?」

「とりあえずは、本気でアテにはならないということですよ。ダイ国の補給路を断ってくれるだけでも、儲けものと思った方がいいでしょうねぇ」



 ザオームの言葉を受けてもプリメラの怒りは収まらない様子であり。

 ソファに座る彼女は背もたれに思い切り背中を預けると、地団駄を踏むように手足をバタつかせる。



「なんにしてもさ! 私が《神の槌》を手に入れたんだよ!! ってことはさ! 私が偉いってことだよね!!? なんでそれにイチャモン付けられなきゃならないのって感じなんだけど!!!」

「お、王女様落ち着いて下さい……! そんなに暴れられると、ソファが()()壊れてしまいます……」

「っっさいわね!!!」

「ひい……っ」

「キシシ!」



 ダイ国の往生際の悪い足掻きに、三者三様の態度をとる面々だった。




その後、前線への出征を命じられました。

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