第12話 「魔王様、最深部へ」
前話のあらすじ:骸骨の正体を知りました。
「ここが最深部か……」
そこは、高い天井の大広間だった。
まさに、ここが最深部と言わんばかりの広大な部屋であった。
「あ! あれが女王蜘蛛なんじゃない!?」
プリメラの驚きが混じった声に視線を向ければ、部屋の中央にはロード種とは比べ物にならない程に、巨大な蜘蛛の石造が鎮座していた。
「おや? 何やらあの石造の背中が輝いていますねぇ」
「あ! あれが《神の槌》だよ!!」
ザオームの指摘に王女が目を輝かせると。
「……賑やかというよりも五月蠅いな」
底冷えのするような声だった。
いつの間にか蜘蛛の石造の足元に、闇がわだかまっていたのである。
宣教師風の出で立ちの、漆黒を纏うひとりの男。
髪と同じ色の金の瞳にはまるで生気が宿っておらず、異様に不気味さを醸し出していた。
明らかに、纏う空気が人間のそれではなかった。
人外──というのは、生易しいかもしれない。
人智を越えた存在。
そう形容するに足る異質さを持っていた。
ネミルのような明るさはなく、ただただ混沌でいて、底のない闇を連想させられてしまう……
「ひ……っ」
プリメラが小さく息を呑み、ザオームの背に思わずといった感じで隠れる。
ザオーム自身は変わらずの不気味な笑みを見せてはいたが、まるで彼女のいまの心境を代弁するかのようにキノコから触手が伸びており、警戒するようにうねうね蠢いていた。
(こいつが魔人、か……ネミル殿や翁とは、まるで感じが違うな)
対面しているだけで、私も冷や汗が流れてしまう。
威圧感や圧迫感が凄まじかったのだが……しかしそこで、黒の宣教師の違和感に気が付いた。
(憔悴感がある……? ということは、やはりまだ消耗しているということか)
だとしたら、いまの私たちだけでも十分に勝算があるだろう。
……まあ、なくては困るのだが。
「チッ」
私たちを睥睨してきた黒の宣教師が、忌々し気に舌打ちをしてくる。
「あの役立たず……命を捧げろとは言ったが、命をもった者を連れて来いとは命じていないぞ」
「黒の魔人よ。私たちは別に、お前に明確な恨みがあるわけじゃない。だから、初代王の魂を開放してくれるというのであれば、私たちはお前と戦う理由はない」
私の言葉を受けて、プリメラが驚いた顔を向けてきた。
ザオームは私の判断に異を唱えるつもりはないのか、沈黙。
「初代王を開放した上で私たちの邪魔をしないのであれば、私たちはお前に干渉する気はないんだ」
リスクを避けられるならば、避けるに越したことはないだろう。
どうしてもこの黒の宣教師を倒さねばならない理由はないのだから。
この魔人の処遇については、もうネミルに丸投げである。
「……クックック……」
黒の宣教師が、低く嗤って来た。
「下等生物が何を言うかと思えば。所詮貴様らなど、餌に過ぎん。家畜は黙って頭を垂れ、おとなしくその命を捧げていればいい」
あからさまな頭ごなしな侮蔑や嘲笑だった。
これを受けて、恐怖に震えていた王女が怒りで顔を真っ赤にしてくる。
いくら改心したとはいっても、根幹はやはり向こう見ずな勝ち気なのである。
「はあっ!? なに言ってんのよアンタ!! こんな穴倉に逃げておいて何を偉そうに!?! バッカじゃないの!!! 魔人だか何だか知らないけどさ! いまのアンタは弱ってんでしょ! お見通しなんだからね! せっかく見逃してやろうって言ってんのに、頭足りないんじゃないの!? 低能なんデスカーっ?」
黒の宣教師の双眸が冷たく細まるものの、怒りに火がついた王女は止まらない。
「クレアさん! お姉サマ! こんな奴さっさとぶっ殺して、《神の槌》を持ち帰ろうよ!」
「キシシ……さすがに餌呼ばわりは気持ちのいいものじゃないですからねぇ。ぶっ殺す意見には、賛成ですよ。自分がいかに思いあがっているのかということを、思い知らせてあげましょう」
「……家畜共が」
両手に漆黒の細身の剣が現れた。
まさにもう、一触即発である。
こうなるともう、話し合いなど不可能だろう。
必然性がなくリスクが高い戦いは、避けられるならば避けたかったのだが……
「交渉決裂……か」
私は嘆息ひとつ。
こうなるともうやるしかないわけだが、私は”保険”をかけることにした。
「その家畜共の相手は、当然お前ひとりなんだろうな? まさか初代王に応援を頼むなんて無様な真似、高貴な魔人様はしないだろう?」
嘲笑を込めた私の挑発に、プリメラが驚いたように目を丸くする。
「クレアさんがそんな挑発するなんて……」
「キシシ! 私はそういうの嫌いじゃないですよ」
自我を失った初代王が呼び寄せられれば、最悪の事態となることだろう。
見た所、黒の魔人はプライドが高そうなので、その事態を避けるためのブラフというわけである。
私の狙い通り、案の定──
「ほざくな家畜。餌の分際で、見苦しく口を開くな。役立たずの応援など、必要あるはずがない」
挑発に乗ってきたことで、私は内心でガッツポーズ。
とはいえ、安心はできないだろう。
向こうがその気になれば、いつでも支配下に置いた初代王を呼ぶことが出来るのだろうからだ。
(バムクル殿、少しは耐えてくれるだろうが……)
彼が支配に耐えている間に、決着をつける必要があるだろう。
「私とザオームが前衛、プリメラ王女は後方から援護射撃を頼む」
「オッケー!」
「おや? 今回の前衛は、クレア氏もですか?」
「さすがに、二人がかりじゃないと厳しいだろうしな」
「キシシ……確かに」
戦闘体勢をとる私たち。
(アテナ。お前の薬、使わせてもらうぞ)
彼女印のドーピング剤をごくりと飲む。
力が漲ってくるものの……これでもう私には、切り札がなくなったわけであり。
しかし相手は弱っているとはいえ、人智を越えている魔人なのだから、弱体化しているいまの私には温存する余裕などあるはずもなく。
チャージが終わっていたペンダントも発動して、さらなる戦闘力の底上げを。
「相手は魔人だ。最初から全力でいくぞ!」
こうして地下迷宮最深部において。
女王蜘蛛の石造のおひざ元を舞台に、魔人と戦闘を開始する──
※ ※ ※
「いっけえええええええええええ!」
開戦の火ぶたを切ったのは、プリメラだった。
解き放った火炎球が、黒の宣教師へと強襲していく。
続くように駆け出す私とザオーム。
漆黒の一閃で火炎球を吹き散らした黒の魔人へと、左右から同時攻撃を。
繰り広げられるは肉迫戦。
黒の宣教師は漆黒の双剣で私たちの攻撃に完全に対応しており、しかも強烈な反撃まで叩き込んでくるために、数の利があるはずの私たちは攻めあぐねてしまう。
「く……っ、これで弱ってるというのか!」
「キシシ! とんだバケモノですねぇ」
「だからってこんな奴に負けたくないよ!」
怒りを宿す双眸のプリメラが、速度重視の光弾を撃ち込む。
漆黒の一閃で撃ち落とされるが、その間隙をついてキノコから触手の群れが。
舌打ちと共に飛び離れる黒の宣教師なれど、回り込んでいた私の蒼雷刃がその身体を捕らえていた。
回避か防御が遅れた黒の身体から、黒き血が飛び散る。
「──っ」
「まだだ!」
「家畜が!」
追撃した私だったが、片方の細身剣でからめとられてしまう。
逆に、そのことで体勢を崩したところへ漆黒の一撃が送り込まれてくる。
咄嗟に盾を展開するものの──あろうことか、一瞬の遅滞なく砕かれていた。
「な──ぐう……ッ」
左太ももに激痛が。
まずは、私の足を止めるためなのだろう。
漆黒の刃に貫通された私へと、黒の宣教師がトドメとばかりにもう片方の漆黒刃を突き込んでくる。
しかしその瞬間、漆黒刃に光弾が炸裂しており、軌道がそれた刃は私の頬を浅く裂くに終わっていた。
私は激痛に耐えながらも黒の魔人の腹に蒼雷まとう拳を叩き込んでおり。
拳から鈍い感触が伝わると同時に、蒼雷を弾けさせていた。
蒼雷の爆発。
黒の宣教師は声なく吹き飛ばされ、それでも足から着地したところへと、着地直後を狙っていたザオームがキノコ爆弾の雨を浴びせる。
連続する小爆発の中にその姿を消す黒の魔人なれど、すぐに爆炎の中から飛び出してきており、真っ直ぐにザオームへと疾駆。
肉迫と同時に閃く漆黒の斬撃をキノコで受け止めるザオームだったが、黒の宣教師が宙を舞っており一瞬で背後に回り込まれ、反応が遅れた彼女の背中は切り裂かれてしまう。
「あぐぅ……っ」
「まずはひとり」
「お姉サマから離れろおおおおおおおおおお!」
トドメとばかりに漆黒剣を翻す黒の魔人へと、王女が光弾を叩き込むのだが。
「鬱陶しい」
無造作に投擲された漆黒剣が光弾を撃墜しており、そのまま直進した漆黒の刃が、咄嗟に動けないプリメラの身体へと──
次の瞬間、プリメラの鮮血が宙を舞う──ことはなく。
宙に刻まれるは、蒼雷の一閃。
駆けつけていた私が、直前で切り払っていたのである。
負傷した太ももは籠手の加護で自動的に回復していたために、すぐ動けたのだ。
「く、クレアさん……っ」
「あの傷ですぐに動けるだと──ぐふ……ッ」
「キシシ! 油断大敵ですねぇ!」
わずかに驚きを見せていた黒の宣教師は、背を向けていたザオームからの奇襲が直撃しており、大きく弾かれていた。
キノコからの触手の乱撃が、その黒の全身に炸裂していたのである。
吹き飛ぶ黒の魔人は、しかし片手で床を叩いた反動で体勢を直すものの、そのまま私たちから大きく距離をとっていた。
意外なこの行動により、私たちは一旦一か所に集まる。
「ザオーム、背中を見せろ。治療する」
「キシシ……お願いします。痛いのは好きじゃないので」
「……ねえ、ワタシ思ったんだけどさ。なんかこれ、本当にイケそうじゃない?」
「ああ、そうだな。私たちの攻撃は、確実にあいつにダメージを与えている」
「ですねぇ。じゃなければ、ああして距離はとらないでしょう」
そんな私たちのやり取りを前に、黒の宣教師は空いていた片手を見下ろすと、ぎゅっと握り締めた。
「……さすがは、最深部まで到達してきた、ということか」
さっきまでのあからさまな侮蔑や嘲笑は成りを潜めてはいたが、私たちを見下す態度は相変わらずである。
「ヘッヘーーンだ! 今頃気づいたか、このアホ! 間抜け! ワタシは偉いんだから、アンタみたいな奴に負けるわけないじゃん!!!」
「キシシ……いつもの調子が戻ってきましたねぇ」
「……まあ、いいんじゃないか? 戦闘中に意気揚々とするのは、悪いことじゃないしな」
勝算が見えてきたことでプリメラが調子に乗り始めたようだったが、怯えてうまく動けないよりはマシだろう。
とはいえ、黒の魔人から感情の欠片もない冷たい双眸でジロリと見据えられたことで、思わず「ひっ」と小さく悲鳴を零したのは、まあご愛嬌である。
「増長するな、家畜共。貴様らが餌であることに、変わりはない」
床に転がっていた漆黒剣が闇に呑まれると、空いている手も闇に包まれており、闇が晴れるとその手には、漆黒剣が出現していた。
こうして戦局は、第2ラウンドへ──
※ ※ ※
プリメラの援護射撃を背に、私とザオームが左右から同時に飛び掛かる。
対する黒の宣教師は、漆黒の双剣で迎え撃ってきた。
飛来する光弾を打ち払い、キノコの触手を薙ぎ払い、蒼の斬撃を受け弾く。
プリメラへと剣身から黒の衝撃波を放ち、私に漆黒撃を叩き込み、ザオームへは強烈な蹴りを。
回避するほど俊敏じゃない王女は杖で受け止めるもののそのまま弾き飛ばされてしまい。
漆黒刃を蒼刃で受け止めざまに近距離から火炎球を解き放つが躱されてしまい。
キノコで防いだザオームなれど火炎球を飛び退いて躱しざまに翻った黒の一撃が決まってしまい。
プリメラとザオームが倒れ込み。
唯一立っていた私へと、黒の魔人が襲い掛かってくる。
(試してみるか)
黒の衝撃波が放たれてくるので、私は回避するつもりの体勢で、少し試してみることにした。
展開されるは、髪飾りによる魔法障壁である。
黒の衝撃波と魔法障壁が接触した刹那、一瞬だったが遅滞が生じ──あっけなく突破されることに。
とはいえ、すでに回避体勢になっていたので、私は難なく回避。
(あれは魔法に分類されるってことか)
もし物理に類されるならば、魔法障壁が何ら反応しないからだ。
となれば、この籠手の出番だろう。
だが懸念材料がないわけではない。
魔法障壁が突破されてしまった以上、果たして吸収しきれるか、である。
(まあ、ランクが違うから大丈夫だとは思うが……)
さすがにドワーフ族最強の初代王が使っていただけに、その品質は髪飾りよりも高性能というわけである。
──ギィイン!
ひと息に肉迫されたことで、私と黒の宣教師が真っ向から剣劇戦を。
飛び散るは、蒼雷と闇の火花。
剣技はほぼ互角なれど。
女と男の差か、あるいは人間と魔人の差なのか。
膂力の差によって私は劣勢に立たされてしまう。
とそこへ、立ち直ったザオームが参戦してくる。
プリメラも援護射撃を再開しており。
再び戦局は、3対1の様相に。
漆黒の双撃や強烈な蹴りで弾き飛ばされる私とザオームだが、即座に食らいつく様に飛び掛かり、こちらの間隙を縫うように王女が攻撃魔法を。
一進一退の攻防戦。
腕や足に裂傷が刻まれ、致命傷だけは避けるものの、全員が大なり小なりのダメージを蓄積させていく。
接近戦をする私とザオームは言うまでもないことだが、離れた距離にいる王女にも黒の衝撃波が浴びせられているだめだ。
黒の魔人も同様であり、身体のいたるところに負傷が目立ち始めていたりする。
(まあ、私はすぐに回復しているんだけどな)
常に籠手が発動して傷を再生するので、この場で唯一、私だけが無傷の状態を維持していた。
無傷という言い方には語弊があるだろうが……
ちなみに。
黒の衝撃波も籠手で吸収できることが先ほど判明したために、籠手による治療が途絶えることはなく、私は常に万全の状態で戦いに臨むことができていた。
(傷は即座に治療できるが……)
だからといって、体力までは回復するわけではなく。
いつしか私の呼吸は、看過できないまでに乱れ始めていた。
現状、私の体力が尽きてしまえば、そこで終わりとなることだろう。
3対1という戦況だからこそ、辛うじて拮抗しているのだから。
なので、私の体力が尽きる前にケリをつける必要があった。
魔人との熾烈な攻防戦の中、漆黒刃とかみ合わせた蒼雷刃を爆発させたことで、一瞬なれど、その視界を塞ぐことに成功する。
「ザオーム!」
「大盤振る舞いですよ!!!」
大きく膨張したキノコから、無数のキノコが吐き出される。
狙いは言うまでもなく、私が足元めがけて放った氷魔法を飛び退いて躱していた黒の宣教師。
逃道のない、広範囲を覆うキノコ爆弾の雨あられ。
着地直後の魔人は、舌打ちと共に2条の黒の衝撃波で応戦するも、再び私が放っていた氷魔法を躱すことは出来ず、床に足が張り付くという状態に。
「プリメラ!」
「準備できてるよー!」
すでに杖の先端に魔力を溜めていた王女が、大きく息を吸い込み。
「どっかあああああああああああああああああん!」
極大魔法を解き放っていた。
膨大な破壊の嵐は、一点──黒の魔人へと吸い込まれていき。
壮絶でいて濃密な爆発が魔人の姿を呑み込んでいた。
爆炎と爆風が室内を吹き荒れ、爆発寸前に身を伏せていた私たちは、ひたすらに暴威の嵐を耐え忍ぶ。
いまの無駄のない連携は、第2ラウンドが始まる前に素早く打ち合わせをしていたのである。
ここが最下層であり最深部、そして天井が高い大広間であることから、極大魔法を放っても問題ないと判断していたのだ。
案の定、女王蜘蛛の間は崩壊することはなく床がえぐれた程度であり、爆発の余波の直撃を受けただろう蜘蛛の石造すらもが、微動だにすらしていなかった。
「直撃ぃいいい! どーーだあああああ!」
「さすがに、あれを喰らったのならば……」
「だと、いいんですがねぇ」
三者三様の私たちが見守る中……
爆煙から飛び出してきた黒い影が、私へと急迫。
「ぐうぅ……っっ」
「クレアさん!?」
「クレア氏!」
宙に舞うは鮮血。
身体に奔るは激痛。
背中から飛び出すは漆黒の刃。
全身から煙をあげる黒の宣教師の攻撃が、回避が遅れた私の腹を貫通していたのだった。
※ ※ ※
※ ※ ※
「だぁかぁら! マジな話なんだって!」
地下迷宮の入り口は、騒然となっていた。
原因は、突如現れた謎のアンデットである。
「とんでもないバケモノなんだよ!」
「あんなのに勝てるはずがない!」
「不死の上に瞬時に再生とか、チートすぎるわ!」
その情報は、冒険者たちの間に瞬く間に拡散されることになる。
「そのアンデット、俺も見たぞ。速攻で逃げたけどよ」
「クアッソのパーティが挑んで全滅したとか……」
「レオーサのパーティも帰ってこないわね……」
「とんでもない分、レア級の部位とかもってんじゃね?」
「なんか、ドワーフ族の精鋭部隊も逃げ帰ったって話だぞ……」
「おいおい、どうなるんだよ、このダンジョン」
「うま味のあるクエストだったのによ……」
一攫千金を狙う冒険者たちなれど、命と金を天秤にかけたらどちらが優先度が高いか、という話なのである。
中には、果敢にもそのアンデットを狙ってダンジョンに潜っていくパーティもあったが、多くは躊躇を見せ始めていた。
と、そんな中。
「おい! あれってドワーフ族の……」
ほぼ同時期に、ラオ国側とダイ国側の入り口に、王族一行が姿を見せる。
「待っていろよ、アンデット。このオレ様に無様な逃走をさせたことを、後悔させてくれる」
「王子、油断召されないよう。いくら武装を整えたとはいえ……」
「皆まで言うな。このオレ様に二度の敗北など在り得ん」
警告してくる近衛隊長に、豪胆に笑うラオ国王子のグーボだった。
その一方、ダイ国側では。
「思いのほか、時間を喰ってしまったな」
「兄者。今後こそ、おれたちはあのアンデットに勝てるんだろうか……?」
「何を不安げな顔を。そのためのこの装備だろうが。とにかく、我々は無駄に時間を取らされた。早々にあのアンデットを駆逐し、攻略を再開しなくてはならんぞ」
双子の王子──ハルゼスとハダックも、前回とは違って完全武装をしていた。
そんな両国の王族一行の武装を見て、冒険者たちがざわつきを見せる。
「あれって対アンデット装備……!」
「本腰を上げたってわけかよ」
「ドワーフが本気を出した以上、そのアンデットもすぐ討伐されるなこりゃ」
「そいつが倒されるまで待ってるほうが賢いわね」
冒険者たちが打算を巡らせる中、王族一行が満を持してダンジョンへと──
しかし。
それは、王族一行がダンジョンに入る直前だった。
突如として、全身を震わせる激震が起こったのである。
立っていることすらままならず、全員が成す術もなく転倒してしまう。
そして──
地上だというのに、地の底から聞こえてくる重複する咆哮が。
『『『『GIIIIIIIIIIIIIIIIIIII!!!!!!!!』』』』
地下迷宮に息づくすべての魔獣が、一斉に同時に咆哮したのである。
まるで、自分たちの”主”を迎えるかのような大合唱。
全員が耳を押さえて、戦慄に身を震わせる。
動揺、狼狽、驚愕、困惑。
冒険者達のみならずドワーフ王族一行すらもが、この事態に当惑している様子。
そんな中で、事態を把握していた者がひとりいた。
「ありゃぁ……面倒な事になっちゃったねぇ」
姿を消して空に浮遊している女魔族──ネミル。
「なーんか、クレアちゃんに言い忘れてたなぁって思ってたけど……ま、仕方ないっか。人生、何が起きるかわからないってネ! にゃはは~♪」
相変わらずに能天気でいて、まったくの他人事だった。
王族一行は様子見の為に攻略を見合わせたようです。




