第4話 「魔王様、地下迷宮攻略中。前半戦②」
前話のあらすじ:質の悪い冒険者たちに襲われました。
「ザオームさん! クレアナード様になんてことを……!!!!」
「キシシ。あの状況では仕方がないでしょう」
私が予備の衣服に着替えている間、ダミアンの怒声が木霊し、応じるザオームの声には、何ら反省の色はなかった。
「それにダミアンくん。私を糾弾しているようですが……私は知っているのですよ? あの時、クレア氏の裸体を思いっきりガン見していましたよねぇ」
「なっ……そ、そんなこと……」
「嘘はいけませんよ、ダミアンさん。私も目撃しておりました」
「アテナさんまで……っ、俺に味方はいないんですか……っっ」
悲嘆に暮れるダミアンの声。
そして彼は、死角で予備の衣服に着替え終えた私に気付くや。
「あ……クレアナード様! その、俺……違いますから!」
慌てて弁明してくる少年に、私は静かに頷く。
「ん、安心しろ。私はお前を信じている」
「っ……あ、ありがとうございます……」
私の信頼の言葉を受けたダミアンは、なぜか視線を逸らした。
その様を見て、ザオームとアテナが容赦なく指摘してくる。
「キシシ。罪悪感、ですかねぇ」
「おやおや。シラを切り通せないあたりが、まだまだですね」
「ふたりとも、その辺にしておけ。あんまりダミアンをイジメるな」
私としては、別に裸を視られようが大したことではなく、いまさらその程度の羞恥心などはないのである。
ダミアンに嘘を吐かれたことに関しては。
(本人を目の前にしてガン見してました、なんて言えるわけもないしな)
なので、別にスルーしてもいい案件といえるだろう。
私はそこまで器の小さい人間じゃないのである。
「キシシ。クレア氏はお優しいですねぇ……まさか、ショタ属性が?」
「何でそうなる」
「ビンゴです。リサーチによればクレア様は、年下が大好物とのことです」
「おい、アテナ。本人を無視して勝手に断言するな。私はノーマルだぞ」
「おや? 私のリサーチに不備はないのですが」
「いやいやいや。不備だらけだろうが。というか、悪意すら感じるぞ」
「心外ですね。私は常にクレア様のことを第一に考えているというのに」
「だったら、少しは私を立てる事を言ってくれ」
「おやおや。クレア様ともあろう御方が、心にもない賛辞を受けたいと?」
「心にもないのか」
「言葉の方便です」
いつも通りのやり取りをする私とアテナを前に、ザオームは面食らったように目を丸くしてきた。
「噂には聞いていましたが……実際に目の当たりにすると、不思議な感覚になりますねぇ」
「そうなのですか? 私にとってはいつものことなので、何も思うところもないのですが」
「キシシ。傲岸不遜な精霊メイド。貴女のことは、けっこう有名でしたよ」
「おやおや、そうだったのですか。私とクレア様は、単純に遠慮が必要ないフレンドリーな関係というだけですよ」
「私としては、少しくらいは遠慮してほしいところなんだがな」
「なるほど……では、クレア様。いまの発言は、聞かなかったことにします」
「おいおい……」
呆れながらツッコミを入れるが今更なことなので、これといって何も思わない。
「しかし……このダンジョンには、質の悪い冒険者が多いな」
息絶えている襲撃者たちを見回す。
命を奪ったことについては、当然の結果なので罪悪感などは皆無だった。
もし私たちが敗北していたならば、今頃は肉欲の宴の真っ最中であり、事が済んだ後は、屍を晒していたのは私たちの方だったからだ。
まあ、アンデット化されても困るし、腐敗臭をまき散らされても嫌なので、魔獣の遺骸同様、この場にて焼却する必要があるだろう。
「それだけ、多方面から冒険者が集まっているということなのでしょう」
「ただの魔獣退治ですけど、報酬額が他の国でのものよりも割高ってのもあると思います」
アテナの指摘に同意するダミアンの言葉に、ザオームも同感といった様子で、にたりと笑ってくる。
「だから私も、ここでひと稼ぎしようと思ったわけですしねぇ」
「なるほどな。確かに同じ魔獣退治でも、報酬額が違うなら少しでも高いところを受けるか」
果てしてそれが、ドワーフ国にとっては吉と出るのか凶と出るのか。
少なくとも私にとっては、いまのところは凶と働いていたが……
※ ※ ※
通路と通路を結ぶ小部屋にて、うまい具合に空腹中枢を刺激してくる甘美な匂いが立ち込めていた。
小休憩中ということもあり、組み立て式簡易キッチンにて、アテナが食事を作っていたのである。
「キシシ……まさかこのようなダンジョンの中で、こんなに香しい匂いを嗅ぐことが出来るとは、思いませんでしたねぇ」
「私にとっては、もう当たり前の風景なんだけどな」
「クレアナード様。さすがにそれは、他からしたら当たり前じゃないと思います」
敷物に座るザオームが目を細め、同じく座る私の感想にダミアンが苦笑い。
「そうなのか……まあ、言われてみたらそうかもな」
それだけ、私は恵まれた環境にいたということなのだろう。
いつもアテナが傍にいて、どんな場所でも、美味な料理が出されてくる。
いまでは当たり前のように感じていたが……
私はいつしか、贅沢な思考になっていたのかもしれない。
(反省しないとな……)
優秀な精霊メイドに感謝の念を抱くものの、それを伝えると増長するのが目に見えているために、あえて何も言うことはしないが。
と、そこで私はふいに思い出したので、ザオームへと目を向けた。
「そういえば、あの時相棒がいただろう? あいつはどうしているんだ?」
「相棒……?」
心底不思議そうに小首を傾げてくるザオーム。
「私の相棒は、ギーノくんだけですが……?」
「いや、あの時は魔獣使いがいただろう?」
「……ああ、あのおっさんのことですか」
ようやく合点がいったらしく、ザオームは小さく息を吐いた。
「知りませんよ。あの場で別れて以来、もう会っていないので」
「相棒じゃなかったのか?」
「同僚だったってだけの関係です。別に親しい間柄でもないですし……それにあのおっさん、エロいから気持ち悪かったんですよねぇ」
「エロい……か」
思い出されるは、あの時の戦闘。
確かに、あの魔獣使いからは下卑た視線を受けていた記憶があった。
別に気にしてはいなかったが、こうして言われてみると、確かに気持ちが良いものではなかった。
「隙あらば私をベッドに誘おうとしてくるのです。あまつさえ、少しでも油断すると当たり前のように痴漢すらしてくる始末。最低のおっさんでしたねぇ」
「まじか」
「ギーノくんにしか、この身を委ねる気はないというのに。私を満足させることが出来るのは、ギーノくんしかいないのですから。キシシ……」
「……それについても、まじか」
「なので。あのおっさんがどこで何をしてようが、まったく興味がありません」
断言だった。それはもう迷いがなかった。本心なのだろう。
(満足……か。キノコがどうやって……)
思い至るは、やはりあの触手なのだろうか。
………
……
…
想像してしまった私がかぶりを振ったところで、アテナの料理が完成する。
どうやら今回は、ドワーフ国原産品をメインにした料理らしい。
「この国の原産品は、少々味が濃い目のようです」
アテナが料理の説明をしてくる。
「原住民には合っているのかもしれませんが、魔族には少しキツイと思うので、調味料を使い、少しだけ薄めておきました」
「……なるほど、な。ちょうど良い味付けだ。さすだな、アテナ」
「本当においしいです、アテナさん」
「キシシ。噂には聞いていましたが、ここまでの腕前とは……恐れ入りましたよ」
「喜んでいただけて光栄です」
私含む全員からの賛辞を受けたアテナは、相変わらずの無表情だったが、どこか嬉しそうであり。
料理の種類はいくつもあるようで、簡易テーブルに次々と並べていく。
そして、他愛のない雑談を交えつつの食事タイムが。
時折、この部屋を行きすぎる冒険者たちが羨ましそうに見てきたりする。
……さすがに、襲い掛かってくる者はいなかったが。
「ふう……」
料理を平らげて満腹となった私は、大きな溜め息を吐く。
いつもながらに、アテナの料理の腕には感無量である。
(報酬の魔力が跳ね上がっているのがけっこうキツイが……まあ、納得はできるといったところか)
それだけ、アテナは有用なメイドということである。
「クレア様。食器を洗いたいので、水の魔法をお願いします」
「ん、わかった」
生活魔法のひとつである水魔法を発動。
汚れた食器の上の空間に、ヒトの頭ほどの大きさの水玉が生まれ出た。
洗剤が付いたスポンジを手にするアテナは、その水玉からその都度必要分の水を取り、食器を手慣れた様子で洗浄していく。
「あ、俺も手伝いますよ!」
「そうですか? ではご厚意に甘えましょう」
進んでダミアンが手伝うものの、私とザオームはこれといって何もしない。
……まあ、正直な話、面倒くさいという思いが強かったからである。
「キシシ。クレア氏は、すっかりアテナ氏におんぶにだっこのようですねぇ」
「……否定はしない」
苦い顔になってしまうが、私には家事が向いていないと断言できる以上、どうしようもないだろう。
(私が誰かと結婚して主婦とか……想像もできないな)
内心で苦笑。ありえない未来だろう。
話題を変えようと、私は天井を見上げた。
「しかし……思っていた以上に広大だな、このダンジョンは」
攻略を始めてから、かれこれ数時間は経ったと思うのだが……いまだに地下2層なのだから、辟易してしまう。
しかも迷路になっている以上、ザオームの先導がなかったらもっと攻略に時間を要していたことだろう。
下手をしたら、まだ2層にも到達していなかったかもしれない。
「私に感謝してくれてもいいのですよ? キシシ……」
「ああ、感謝するよザオーム、ありがとう。お前が居てくれて助かるよ」
「──っ──」
なぜが言葉に詰まったザオームは、改めて私を見つめてきた。
「失脚してもなお、貴女への支持が高かった理由がわかった気がしますよ」
「ん? どういう意味だ?」
「キシシ。これが”器”の違い、というやつですか。ブレアの旦那では、ハナから勝ち目はなかったみたいですねぇ」
勝手に納得するザオームだった。
※ ※ ※
食事の後片付けが終わったものの、私たちはまだ移動はしておらず、その場にて小休憩中だった。
「あふ……」
私は大きく欠伸をひとつ。
満腹になったことで、今度は、疲れからによる睡眠が来てしまったようである。
「クレア様。地下迷宮の中なので時間の感覚が狂いがちですが、確認してみるとすでに夜中みたいですね」
懐から出した時計で時刻を確認したアテナが言ってくる。
「夜中、か。どうりで眠たいはずだ」
天井や壁が光を発しているせいで感覚がマヒしていたが、体内時計は正確だったということなのだろう。
「今日は、このままここで夜営したほうがいいかもしれないな」
弱体化して体力低下も著しい私にとっては、強行軍など出来るはずもなく、体力だけでなく気力の面でも、今すぐ休みたいという気持ちが強くなってくる……
「ですがクレア様。さすがここでは、いつ襲撃があるかわからないのですが」
「確かに、な」
「あの、クレアナード様。俺が見張ってましょうか?」
寝ずの番を申し出てくるダミアンなれど、さすがにそんなことを命じられるほど、私は鬼ではない。
そこで私が”交代制”という案を口にしようとすると、その前にザオームがにたりと笑って来た。
「ここは、ギーノくんの出番ですねぇ」
天井に放り投げたキノコの先端が天井にくっつくや、ひだから伸びた無数の触手が床へと刺さる。
しかも触手の先端の幅が下に向かうにつれて広がりを見せており、そのことにより具合よく簡易テントと化していた。
「これは……なんというか、便利だな」
思わず圧巻された私が言うと、ザオームは満足げに笑んでくる。
「キシシ。下級魔獣程度ならばギーノくんだけでも追い払える上に、ギーノくんには睡眠という感覚はないですからねぇ。この中に入れば、まず安心して眠ることができますよ」
なるほど、と私は思う。
このキノコがあったからこそ、ザオームは単身でもダンジョンに潜れたというわけなのだろう。
「さ、遠慮なく中へどうぞ」
ザオームが触手をかき分けて入り口を作り、促して来る。
少しだけ抵抗があったものの、私は中へと。
「……ほう」
広さはそれなりにあった。
4人の私たちならば、十分に横になって寝られることだろう。
しかも柄の部分が光を発しているので、ちょうど良い感じの照明となっていた。
「ん? これは……」
よく見ると、地面もが触手で覆われていたりする。
つまりは、この空間は完全にキノコの”内側”というわけだ。
「どこから蜘蛛が出てくるかわかりませんからねぇ。ですがギーノくんが、完全に私たちを守ってくれるというわけです。安心して、夢見心地を味わってください」
「すごいですね、ギーノくん」
「ええ! ええ! ギーノくんは、私の最高の相棒ですよ!」
素直に感想を漏らすアテナに、ザオームはうっとりとした表情で触手の壁に頬づりをすると、まるで喜ぶかのように触手の壁が身震いを。
「……心地いいな」
膝をついて触手の感触を確認する私は、あまりの手触りの良さに眠気が襲ってくるというものだった。
このふわふわ触感の中で眠れば、どれほどの快眠を得られることか……
(この状況で二度寝なんてしたら、最高だろうな……)
思わず涎が出てしまう。
そんな私の内心を知ってか知らずか、ダミアンが小声で耳打ちしてきた。
「俺は熟睡しないんで、クレアナード様は安心してお休みください」
「ダミアン……それじゃあ、お前が休めないだろう」
「心配無用です。身体を横に出来るだけでも、俺は十分休めるんで」
なんとも出来た仲間の気遣いに、私は心打たれる。
睡魔に襲われてすでに意識が薄れてきていたこともあり、私は甘えることに。
「すまないが、お前の善意に甘えようと思う。だが、無理はするなよ」
「はい。お心遣い、ありがとうございます」
「礼を言うのは私の方だ」
壁際に寝そべって背中を向けていたザオームを横目に、私も横になったところで、アテナが口を開いてきた。
「では、私は精神世界に一度戻りましょうかね」
「そうか。では明日──ということになるのかな? とにかく起きたら、呼ぶよ」
「はい。では私はこれで──」
お辞儀した彼女だったが……いつまで経っても、その姿が消えることはなく。
その事態に、アテナ自身が戸惑っている様子だった。
「……おや?」
「アテナ……?」
「どういうわけなのか、戻れませんね……?」
「戻れない、だと?」
「何か、壁のようなものに邪魔されてしまいます」
「どういうことだ……?」
今までにない経験を前に、私とアテナは困惑する。
そんな一方では、すでにザオームからは小さなイビキが。
「もしかしてなんですけど……」
ある可能性に気づいたようで、ダミアンが指摘してきた。
「このダンジョンって、魔獣の巣窟になってる割に外へは出ませんよね? その理屈はわかりませんけど、もしかしてその原因が作用して、精霊のアテナさんにも影響を及ぼしているんじゃ……」
「まじか」
「それは……困りましたね」
無表情のアテナは、お腹を軽く押さえる。
「戻れないと思ったら、なんだか急にお腹が空いてきました」
実体化するにも魔力を消費するために、本来の場所であるあちらに戻れば消費を押さえられるのだが……
「クレア様。まだ報酬を頂くつもりはなかったのですが……」
「……まあ、仕方ないな」
「では、遠慮なく」
淡々としながらも喜々として、アテナが私に向かってくる。
(予定外のタイミングで、魔力を消耗することになってしまったな……)
アテナに魔力を吸われたことで、猛烈な睡魔が襲って来た。
もともとかなり眠くなっていたところに”これ”なのだから、私に抗することなど出来るはずもなく。
あっけなく、私の意識はブラックアウトする──
※ ※ ※
※ ※ ※
《地下迷宮》地下10層──
その場は大広間であり、東西南北にそれぞれスロープが見えていた。
3つのスロープは上り用であり、残り1つのスロープが下り用である。
そんな場所にてドワーフ族の一団が野営中であり。
討伐した蜘蛛の遺骸を焚き火の材料にしており、各々が肉等を焼いている模様。
冒険者たちが彼らを刺激しないように移動しつつ、上層か下層へと。
その光景を、簡易椅子に座りながら肉をかじりつつ睥睨するは、狡猾そうな瞳の男のドワーフ。
ダイ国の王子──ハルゼス。
彼が纏う鎧も傷だらけであり、傍らに置いている大槌が、彼の得物なのだろう。
「兄者、よいのか? ここで呑気に待機していて」
訊ねてくるは、第二王子のハダック。
外見がハルゼスと瓜二つなのは、彼らが双子の兄弟だからである。
しかし兄とは違い、彼からは愚鈍そうな印象を受ける雰囲気が感じられた。
「すでにラオ国の王子一行は、下層に向けて出発しているが……」
その言葉を受けた第一王子は、小馬鹿にしたように鼻を鳴らしてきた。
「わかってないなぁ? 必要なのは、誰が最後に《神の槌》を持ち、地上に出るかだ。わざわざ最下層に苦労して行って取りに行くこと事態は、求められていない」
「ということは……」
「この10層は各入口すべてに繋がっており、これより先が共通の迷宮となっているわけだ。つまり、だ。《神の槌》を持ち帰るには、どうやってもこの場を通らねばならんというわけだ」
ずる賢い笑みを見せてくるハルゼスは、肉を食いちぎる。
「妨害暗殺なんでもござれだしな。最後に勝つのは、頭の回る奴というわけさ」
ダンジョン内では、何が起こるかわからない。
それを承知で潜る以上は、すべてが自己責任となってくる。
気に喰わない奴を殺すもの良し。
身ぐるみはがして殺すも良し。
女ならば嬲ってから殺すも良し。
そして……《神の槌》を苦労して持ってきたライバルから奪うのも、また良し、というわけなのだ。
「俺たちはここで悠々と陣取り、英気を養っておこうじゃないか。持ち帰ってきた連中は、さぞかし疲れ果てているだろうしなぁ?」
「さすがは兄者。智の王としての器を持ってる」
「馬鹿正直に戦うだけが、”戦”ではないということだ」
素直に感心してくる双子の弟に尊大な態度で応じてから、立ち上がった王子は配下を見回した。
「聞いての通りだ皆の者! 来たるべく戦に備え、準備を整えておけ!」
配下の面々が頷いてくる中、下層へと繋がるスロープから何やら騒音が。
「なんだ……?」
騒音と共に姿を見せてきたのは、血相を変えているドワーフ族たちだった。
その中に見覚えのある顔がいたことに、ハルゼスが嘲笑を浮かべる。
「グーボ! 何しに戻ってきた? まさかとは思うが、無様に逃げ帰ってきたのではあるまいな?」
最下層に到達して戻ってくるには早すぎると判断したので、ハルゼスは嘲笑ったのである。
しかし対するグーボは激高するどころか、真っ青な顔で叫んできた。
「お前たちも早く逃げろ! とんでもないバケモノが出たぞ!!」
見れば、グーボの鎧はズタズタになっており、全身にも様々な傷を負っていた。
彼が率いる配下も同様であり、中には冒険者たちの姿もちらほら混ざっていた。
ハルゼスが何かを言うのも待たずにグーボ一行や冒険者たちは、一目散に上層へと駆けて行く。
あまりの醜態を前に、その場にいた者たちが呆気にとられる中、我に返ったハルゼスが愉快げに吐き捨てた。
「臆病風に吹かれおって! おい皆! 見たかあの無様な姿を!? なんと情けない! やはり統一王には、俺のように頭の回る者でないと──」
「兄者、何やら異質なものが」
ハダックの指摘に振り向けば、下層へのスロープから姿を見せていた者がいた。
立派な鎧をまとう1体の骸骨。
双眸にて揺れる光がなんとも不気味だったが……
「骸骨……アンデット? 蜘蛛型ばかりだと思っていたが……」
怪訝そうにその骸骨ドワーフを視界に収めるも、やれやれと嘆息ひとつ。
「たかだが1体のアンデット如きに情けない。あんな後継者しかいないのならば、ラオ国に将来はないな」
「兄者、どうする?」
「無論、向かってくるならば叩き潰すまでのこと。皆の者、さっさとその見苦しい骸骨を仕留めよ!」
『GUUUUUUUUUUUUUUUUUUU----!!!!』
低い咆哮を轟かせた骸骨ドワーフが、慢心を見せているドワーフの一団へと襲い掛かっていく──
慢心は内なる敵です。




