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勇者を討伐した魔王様は魔力を封じられた為に解雇される。  作者: 吉樹
第5章 『魔族国編②』
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第11話 「魔王様、一時の休息をする」

前話のあらすじ:少年と別れました。

「うーむ……さっぱりわからんな」



 村を後にした私達は、その後真っすぐに魔都へと向かっていたのだが、村から魔都へは距離がある為に、いま時刻は夕方であり、それゆえに夜営中だったりする。


 アテナが夜ご飯を作っていてラーミアと彼女付きの女官が手伝っており、手持無沙汰となっていた私は、押収した資料に目を通していたのだが……


 別に、私に理解力がないというわけではなく。


 ”魔物”の血液と人間の血液を混合させるというのはわかったが、それ以上のことは、やはり専門知識を持っている者でないと、無理だということなのである。



(しかし……魔物の血液、か)



 恐らくは、消し飛ばしたあの巨大な肉塊のことだろう。

 どうやって入手したのだろうか。

 そして、その技術は自前なのか、あるいは背後に誰かいるのか。



(あいつを逃がしたのは、痛かったな)



 まあ、そうはいってもあの男(ドバン)が逃げる先などは、魔王城しかないだろう。

 ならば、ブレア(元魔王)を倒すがてら、あの男の身柄を今度こそ押さえるだけである。


 専門用語だらけの資料で頭が痛くなってきた私は、傍らで同じく暇つぶしで資料に目を通すダミアンへと視線を向けた。



「ダミアン、お前は何かわかるか?」

「……すいません。俺も、完全に専門外ですから……」

「謝る必要はないさ。私だって、さっぱりだからな」

「ねえねえ、クレアナード様! わたしには聞いてくれないんスか?」



 ダミアンと同じく資料に目を通していたリングが催促してくるのだが……

 私は、最初から彼女には期待はしていなかった。

 なぜならば、彼女は最初から理解することを放棄していたからである。


 資料に目を通すだけなのに、なぜ逆立ちをしなければならないのか、という話だった。



「……リング。一応聞いてやるが、何かわかったのか?」

「まっさか! こんなもん、専門職じゃなきゃわからないッスよ!」

「……だよな。じゃあ、なんで催促してきたんだ?」

「ボッチは嫌っス」

「……そうか」

「あ! こいつ面倒くさいな……とか思ったッスよね!? いま!?」

「…………」

「先輩、ここは空気を読んだ方が……」

「ちょ!? 後輩君!! ここは先輩の顔を立ててフォローする場面じゃないっ?」

「内容がない会話を続ける自信は、俺にはないんで」

「ヒッドー! 後輩君ってさ、そういうドライな所あるから絶対にモテないよね」

「……いまは、そのことについては関係ないと思いますけど」

「フッフーんっだ。わたしを敵に回していいのかな? 君の想い人の事、うっかり口を滑らしちゃおっかなー?」

「──っ。先輩、ちょっとこっちに来てください」

「うえ……っ?!」



 半眼になったダミアンに首根っこを掴まれたリングは、私から離れていった。

 そして離れた距離に移動した彼らは、何やら言い争いを。



(ダミアンにも、想い人がいたのか……)



 まあ、ダミアンだって年頃なのだ。

 居ても不思議はないだろう。

 何やら寂しい気持ちもしてしまうが……



(まあ、誰かは知らんが応援くらいはしてやろう)



 そんな一方では、料理を作る女性陣には華が咲いていたりする。



「このタイミングでこれを入れると、こういう仕上がりになるわけです」

「わぁ~、すごくいい匂いがしてきましたわぁ……」

「……なるほど。これは、勉強になりますね」



 ぐつぐつ煮える鍋にアテナが調味料を入れと、ラーミアが感激の声を上げ、女官がメモをとっていた。

 基本的にアテナは料理が好きなので、その料理を褒められることはやぶさかではなく、相変わらず無表情ながらも機嫌が良さそうであり。

 手際よく料理を作りながらも、普段の傍若無人ぶりがどこへ行ったのかという具合で、妹と女官に親切丁寧に事細かく教えていた。



「ここで隠し味の投入です。これを入れることで、風味に奥深さが増すのです」

「本当ですわ! 香りがぐっと引き締まりましたわ!?」

「……なるほど。そのようなものが隠し味になるとは」



 和気あいあいとする女性陣を横目に、私は感心していたりする。



(さすがだな、アテナ。食材はかなり心もとなくなっているはずなんだが……)



 黒エルフ領にて物乞いたちに食料を分配したことが影響しており、しかもそれから今日まで補給をする場所もなかったために、はっきり言うと食糧難と言っても刺し違えない状況なのである。

 にもかかわらず。

 舌が肥えているであろうラーミアたちを唸らせる出来栄えを誇っているようなのだから、アテナの料理に関する技術は神懸かっているということなのだろう。


 そして、そうこうしている内にアテナが料理を完成させる。


 地面に敷いた敷物に簡易テーブルを置き。

 その上に所狭しとアテナ自慢の料理が並べられ。

 テーブルを囲むように座る私たちは、和気あいあいとした食事会を。

 時刻的に少し暗くなってきていたので私たちの周囲には、魔法で照明用の明かりをいくつも浮かべて、視界を確保していたりする。



「はあ~……おいしいですわぁ」

「ですね。味見の段階で、かなりのものだとは思っていましたけれど……」

「毎日こんなにおいしい料理を食べられるなんて、お姉さまが羨ましいですわ」

「同感です。お抱えの料理人顔負けですしね。彼らも一流の腕なのですけれど」



 ラーミアが蕩け顔で、女官も頬を紅潮させながら、絶品料理を堪能。



「さすがアテナっち。わたしの舌を唸らせるなんて、やるじゃん」

「何様なんですか、先輩は」

「先輩様だし?」

「意味がわからないですって」



 胸を張ってくるリングに、ダミアンが溜め息交じりでツッコミ。



「クレア様」



 皆が一様に舌鼓を打つ様子に無表情ながらも満足気なアテナは、静かに私の横に移動してきた。



「この人数ですと、食材が明日の昼食分までしか残っておりません」

「そうか、いよいよどこかの街で補給しないとならんな」



 ラーミアたちが合流したことで、食材の消費も大きくなったということだろう。

 まあだからといって、妹たちが厄介者だと思うほど、私は心が狭量ではないが。



「お姉さま。この先を行ったところに、街がありますわ」

「シュミットという、街道沿いにある中規模程度の街です。朝一で出立すれば、昼過ぎくらいには着けるかと」



 ラーミアの言葉に女官が補完する。

 それを聞いた私は、顎に手を当てた。



「ふむ……街道沿い、か。そういえば、ここらあたりにひとつ街があったっけな。シュミットという名だったか。名前までは覚えていなかったが」



 魔王時代の知識を思い出すが、ぼんやりとしているために、いまいちはっきりとは思い出せなかったが……まあ、無理もないと言い訳をさせてもらう。

 街や村はいくつもあるのだから、それらすべてを網羅してずっと覚えていることなど、無理があるというものだろう。

 ましてや今の私は冒険者に過ぎないのだから、覚えていろという方が酷である。


 だというのに……



「クレア様。今度、ボケ防止の効果が高い料理を作りましょう」

「……私をボケ扱いするか」

「今から予防しておかないと(将来)が心配なので。嫌ですよ、ボケた方に仕えるのは」

「ふむ……時に。精霊メイドには、介護という仕事もあると聞くな」

「ですね。そのようなことを仰られるということは、ボケていることをお認めになられると?」

「いや、別にそういうわけじゃないが」

「おや、そうなのですか。暗に、ボケた私を介護してくれ、と仰られたのかと」

「お前はどうしても私をボケ扱いしたいようだな?」

「ボケた方は、頑なにその事実を認めないものです」

「しつこいな」

「それほどでも」

「だから褒めてないぞ」



 いつものやり取りを交わす私とアテナを前に、ラーミアたちが苦笑いしているのだった。



 

 ※ ※ ※




 街道沿いの街シュミットに到着した私は、早速市場にて食材等の補充をする。

 買う食材の選別は料理番(アテナ)に一任しているので、付き添う私はサイフ役。

 どんなに大量購入したとしてもA級品(品質保全魔法)の道具袋があるために、かさ張ることもなく、アテナは次から次へと食材等を買い込んでいく。



「これとこれ……ああ、そうそう。こっちのも必要ですね」

「おいおい。本当にそんなに必要なのか?」



 調味料なのだろうが……よくわからない私は、思わず眉根を寄せてしまう。

 料理に関してはアテナに全幅の信頼を寄せてはいるが、さすがに買い過ぎではないかと思ったからだ。



「全ては、どのような状況下にあろうとも、クレア様の舌を満足させる為です」

「そ、そうか」



 真顔でそう言われては悪い気はしないので、サイフ役に徹することにした。



「しかし……そうですね。言い値で買うというのも無駄な出費になりますか」



 呟いたアテナは、食材と調味料らしいものを両手にとると、壮年の店主と交渉を始める。



「店主、これらを買うので値引きをして頂けませんか?」

「精霊のお嬢さん、そいつは出来ない相談ですね」

「では、そちらの調味料もついでに買いましょう」

「いや、だからね……?」

「私のリサーチでは、これらの値段は、あちらに店舗を構える店よりも一割ほど高いですよね。これはいったい、どういうことなのでしょう?」

「いや、それは……」

「勉強して頂けないのでしたら、これら全てをこの店で買おうと思っていましたが、あちらの店で買おうかと思うのですが」

「むむむ……」

「残念です。では、これらの商品は返却いたします。()()()が立たないよう、祈られることをお勧めしておきます」

「い、いや! ちょっと待ってくれ! わかった! アンタには負けたよ……っ」

「そうですか。では、そちらの食材も購入しますので、さらに勉強のほどお願いいたします」

「そんな!? さすがにそれを値引きすると、うちの利益ってもんが……」

「そうですか。では、これらの商品は返却──」

「ああもう! わかったわかった! お嬢さんには負けたよ! もってけドロボー!」

「ありがとうございます」



 投げやり気味で値下げ交渉に応じる店主を前に、アテナが私に親指を立てた右手を向けてくる。



(ほとんど脅しじゃないか……)



 隣で様子を見ていたダミアンの顔が引きつっていたが、こちらの出費が抑えられる以上、私としては口を出すつもりはなかった。


 その一方では、女官とリングを伴うラーミアが、物珍しさで目をキラキラさせていたりする。

 妹が物欲に負けて何か買おうとしていたようだったが、眼鏡をキランと光らせる女官が窘めていたので、無駄買いをすることはない様子だった。



「もう。ヘンネったら、頭が硬すぎますわ」

「ラーミア様の無駄な出費を抑えているだけです」

「あはは! さっすが金庫番!」



 可愛らしく頬を膨らませるラーミアに、しかし女官(ヘンネ)は屹然とした態度で応じており、頭の後ろで両手を組んでいるリングが楽し気に笑っていた。


 ちなみに、雑多だというのに妹が抱いているゾーイがおとなしかったのは、どうやらこんな状況でも寝ているようだったからであり。

 将来大物になりそうな予感、であった。


 その後、市場で必要物資を仕入れてから武器屋に寄って手頃な剣を調達した帰り道、冒険者ギルドの前に差し掛かったところでラーミアが、素通りしようとしていた私へと声をかけてきた。



「お姉さま。魔獣の部位を換金なさらないのですの?」

「換金、か」

「ええ。森道で魔獣の部位を回収しましたわよね? 冒険者は、ギルドで換金すると聞きましたわ。違いますの?」

「いや、間違いじゃない。ただ私は、この国(魔族国)では冒険者登録ができていないんだ」

「え? どうしてですの?」

「ブレアが根回ししたらしい」

「そんな……あの筋肉ダルマ……っ」



 基本的に魔獣の部位取り引きは、冒険者という職種でなければ出来ない仕様になっているのである。

 なので、冒険者カードが提示できなければ、取引きは出来ないのだ。

 この仕様は、冒険者資格のない一般人が安易に魔獣狩りをしないためであり、魔獣は危険な生物であるので、下手をしたら命の危険すらあるからだ。



「あの、クレアナード様。俺が冒険者登録して、換金しましょうか?」



 ふいに提案してきたダミアンに私は意表をつかれたものの。



「ダミアン、いいのか?」

「はい。別に登録したところで、何も困ることはないですし」

「そうか。じゃあ任せる」



 魔獣の部位が収められている道具袋をアテナから渡されたダミアンは、すぐにギルドへと入っていった。



「ついでだし、わたしも登録してこよっかなー」



 気楽に言い放ったリングも、ダミアンの後を追って中へと。

 その場に残った私たちは、しばし何気ない話題で談笑して時間を潰す。


 そんな中、通りを行き交う男たちから好奇の視線が向けられてくるのは、まあ仕方がないだろう。

 私はもとよりアテナも美貌を誇っており、女官も眼鏡美人のジャンルに分類されるだろうし、ラーミアも私とは正反対の印象をもつ美麗なのだから。


 こんな美女たちがたむろしているのだから、見るなという方が無理な話だろう。


 私同様に、アテナと女官も視線を気にした素振りは微塵もなかったのだが、ラーミアだけが気にしているらしく、ちらちらと周囲に視線を飛ばしていたりする。



「ラーミア、気にしていたら身が持たないぞ」

「それはそうですけれど……どうも、こういう視線は落ち着かなくって。お姉さまは、平気なんですの?」

「もう慣れた」

「むしろクレア様は、見られることに興奮を覚えられておりますので」

「アテナ。お前はまた適当なことを」



 嘆息交じりな私を前に、妹がクスっと笑い、女官が申し訳なさそうに口元を隠して笑っていた。



「あ! アテナじゃない!? どうしてこんなところに……」



 ふいに声をかけてきたのは、メイド服に身を包む女──髪が緑色なことから、精霊だということがわかった。

 名前を呼ばれたアテナは、無表情ながらもわずかに眉根を動かした。



「おや、貴女は。お久しぶりですね。貴女のほうこそ、どうしてこの街に?」

「私は主様のお使いで、この街でしか売ってない食材の調達に……あ! そちらにおわすのは、クレアナード様!? ご、ご機嫌麗しゅう──」



 慌ててお辞儀をしようとする精霊メイドに、私は軽い仕草で片手で制す。



「ああ、そういうのはいい。いまの私はただの冒険者だからな」



 私には彼女との面識はないのだが……もしかするとあったのかもしれないが、記憶がない私はアテナに目を向けた。



「アテナ」

「はい。彼女は、魔王城で働いていた頃の同期です」

「なるほどな」



 私からすると彼女はその他大勢の中のひとりでしかないために、私が覚えていなくてもある意味では当然というわけである。

 ……決して、私の記憶力が悪く、ボケているというわけではない。



「クレア様、少し彼女と話して来てもよろしいですか?」

「ああ、構わない。行って来い」

「では」



 私に遠慮してか、私たちから離れたアテナは、声が聞こえない程度の距離で何やら話し始め。

 相変わらずアテナは無表情ながらもどことなく楽しそうであり、対面する精霊メイドは表情豊かに笑っていた。



(同期、か……友達といったところか?)



 改めて考えてみると。

 果たして私には、友達と呼べるような存在がいるだろうか?


 ………


 ……


 …


 なんだか悲しい気分になってしまったのは、まあご愛嬌である。



「クレアナード様、お待たせしました」



 やがてギルドから、換金した金銭が入っている皮袋を手に持つダミアンが。



「これをどうぞ」

「ん、すまないな」



 私が皮袋を受け取ろうとした時に、リングが悪戯めいた笑みを浮かべてくる。



「よくもまあ堂々と渡せるねぇ、後輩君ってばさ」

「え……? どういう意味ですか、先輩」

「君がちょろまかしたこと、わたし知ってるんだからね~」

「な……っ!?!」



 絶句するダミアンは、両目を丸くした。

 そんな彼を前に、リングはますます意地の悪い顔に。



「お金をくすねておきながら、おくびにも出さない。よ! 詐欺師!」

「ちょ、何を言うんですか先輩! さすがに笑えないですよっ、そのジョーダンは!!」



 慌てふためく彼は、私へと必死の弁明をしてきた。



「違いますからねっ? 俺はそんなことしてませんからね!!!」

「落ち着け、ダミアン」



 あまりの慌てぶりを前に、私は不謹慎ながらも思わず苦笑してしまう。



「お前がそんなことをする奴じゃないのは、わかっている」

「クレアナード様……っ」



 私の信頼を受けてダミアンが言葉に詰まり。

 お腹を抱えて笑いを我慢しているリングの頭に、軽いげんこつが。



「リング。いまの悪ふざけは、さすがに行き過ぎですわよ?」

「はーい、すんませーん」



 ラーミアにげんこつされた頭を撫でながらも、リングは反省した素振りはないのだった。




 ※ ※ ※




 シュミットを後にして魔都へと向かうものの、まだ着かないために私たちは、時刻的なこともあって夜営中だった。

 しかし距離的に言えば、明日には魔都に着けることだろう。

 なので、これがラーミアたちとの最後の夜営、といえたのである。


 ちなみに。

 アテナの同期であるあの精霊メイドは、まだ街で用事があるとのことだったので、あの場で別れていた。

 どうせ目的地(魔都)が同じなのだから、道中も一緒にと思っていたのだが……

 恐らくというか間違いなく、(前魔王)に恐縮していたのだろう。



(私は別に、なんとも思っていないんだがな)



 そして思い出すは、魔王城での日々。

 確かに、私は多くの面々から様々な視線を向けられてはいた。

 その中には、最強魔族だった私に対する恐れを抱く者もいたことだろう。

 要するに、いつも私に対して横柄な態度のアテナが、特殊だったというわけである。



(まあだからこそ、アテナを私専属のメイドにしたんだけどな)



 私とて、所詮はただの人間なのだ。

 自分を恐れている者を近くに置く趣味は、ないのである。



 バチっと焚き火が爆ぜる。



 魔法の明かりの中でアテナが作った料理を食べ終えた私たちは、思い思いのことをしていた。



 ここは街道沿いの脇に停めているので見晴らしはいいのだが、何が起きるかわからないのが世の常のために、ふたりの密偵(ダミアンとリング)が交代で仮眠と警戒に当たっており。

 アテナが食事の後片付け、その手伝いで女官が。

 私と就寝中のゾーイを抱くラーミアは、焚き火を前にしていた。

 


「お姉さま……」



 妹もこれが最後の夜営ということはわかっているようで、それゆえに話題も、自然とこの先の展開のことに。



「ん? どうした?」

「お姉さまは、あの筋肉ダルマ(現魔王ブレア)を排した後、再び魔王には戻られませんの? 皆、それを待ち望んでいると思いますわ。私自身も」

「魔王、か……」



 同じことをマーズにも聞かれたなと思いつつ。



「私は、次期魔王はマイアスが適していると考えている」

「マイアス……ですの」



 妹は、何か含みのある態度だった。



「どうかしたのか?」

「あ、いえ。彼が……それを望むかどうか」

「なるほどな。だがあいつ以上に、魔王に相応しい人物はいないと思うんだ…」

「それはそうですけれど……」

「お前からも説得してほしい。きっとマイアスならば、良き魔王になれると思う」

「……お姉さまが、そこまで仰られるのでしたら……」


 

 そう答えるものの、ラーミアの含みのある態度は、結局変わらないのだった。


 その後。

 これといって話題もなくなった私たちは、焚き火をぼんやりと眺めており。


 眠るゾーイを抱く妹が、ちらちらと私を盗み見るものの、何も言ってこない。

 さすがに不審に思った私は、私の方から切り出すことにした。



「どうした? 何か私に言いたいことか、聞きたいことでもあるのか?」

「あ、いえ……その……」



 なんとも歯切れが悪い。

 ますます私は眉根を寄せて胡乱げに。



「ラーミア──」

「クレア様」



 問い詰めようとした時、ふいにアテナに声をかけられた。

 どうやら料理の後片付けを終えたようである。



「どうした? アテナ」

「私もそろそろお腹が空きました。ご飯(魔力)を頂いてもよろしいですか?」

「ちょっと待ってくれないか? いまラーミアに……」

「待てません」

「は? なぜそんな急な話になるんだ?」

「頂きます」

「ちょ、まだ話が──」



 一方的にアテナに魔力を吸われたことにより、魔力を急激に失ったことが原因となる憔悴──睡魔に襲われてしまった私は、成す術もなく夢の中へと──




 ※ ※ ※


 ※ ※ ※




 アテナが女官と目を合わせると、頷いた女官が意識を失ったクレナードを背負い、馬車の中へと連れて行った。

 

 ふたりだけ(アテナとラーミア)となったことで、アテナがラーミアの横に静かに座り込む。



「さて」



 一息吐いたアテナが切り出してきた。



「少し無理を通してでも、クレア様には退場して頂きました。これでラーミア様、気兼ねなくお話ができるかと思うのですが」

「……さすがですわね、アテナ。お姉さまはその、私の前では決して弱音を吐かない方ですので。ですから、真正面から聞いても素直に答えてくれるかどうか、迷っていましたの」

「私は出来るメイドですので。空気を読むことなど、造作もありません」

「ふふ、頼もしいですわね」



 微笑したラーミアは、無表情のアテナの目を見つめる。



「これが最後の夜営ですので、どうしても聞いておきたいことがありますの」

「何なりと。私が答えられる範囲内であれば」



 アテナに促されたラーミアは、ひと息の間を置いた。



「いまのお姉さまは……幸せですの?」

「幸せか……ですか」



 予想外の質問だったようで、アテナはすぐには答えられない様子だった。



「お姉さまはずっと自分の事を犠牲にしてきましたわ。魔王になる前は私のために。魔王になった後は国民の為に。だから……いまのお姉さまが、満ち足りた生活を送られているのか、気になりますの」

「なるほど。そうですね……」



 ラーミアの真意を吟味するように、アテナは答えるのに一拍の間を置く。



「私の心証ですと、クレア様はようやく肩の荷が降りたのではないかと」

「肩の荷、ですの?」

「はい。いまのクレア様は、自由に伸び伸びとしておられます。何にも縛られることなく、思うがままに。それが幸せなのかと問われると、私の心証では幸せと感じておられるのではないかと」

「そう、ですの……お姉さまにとっては、魔王という立ち位置は重荷だったのですのね……」

「クレア様は、良くも悪くも責任感がお強い方ですからね。それはもう、本当に、良くも悪くも」

「同じセリフを二度も。まあ、私も同感ですけれどね」

「クレア様には、もう少し遊び心が欲しいところです」

「ふふっ……」



 柔らかい笑みを見せたラーミアは、やがて決意した表情に。



「いまのお姉さまにとっては、魔王というのは枷でしかない……でしたら」

「ラーミア様?」

「私も、()()を決めなければなりませんわね」



 何やら勝手に覚悟するラーミアを前に、意味がわからないアテナは小首を傾げるのだった。



彼女の覚悟とは……

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