第9話 「魔王様、目的を果たす」
前話のあらすじ:あってはならない失態を犯しました。
『ッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』
ロード改の左肩を食いちぎった火炎竜がそのまま直進した先には、巨大水槽が。
直後、激突。
濃密な爆発が巻き起こり、爆散された水槽の破片が周囲に散乱し、肉片は爆炎によって燃え尽きる。
猛烈な爆風が屋根上に布陣する兵を吹き飛ばしていき。
爆煙が一瞬立ち込めるものの、風によってすぐに吹き散らされていく。
広場の跡に残ったものは、黒い煤と残骸の山のみだった。
『ガアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
薄っすらと残る爆煙の残り香が風に流されていく中、左肩を消失していながらも佇んでいたロードが、これでもかというほどの声量で雄叫びを上げてくる。
生き残ったぞと勝ち誇っているのか。
左肩を喰われたことに怒り狂っているのか。
どちらにしても。
現状での難敵は、今も尚、敵意を持ってその場に居たのである。
一時の感情で切り札を安易に失ったことが、本当に悔やまれる……
(……仕方ないだろう。私だって”女”なんだ……っ)
言い訳を述べた所で切り札を無用に失ったことに変わりなく、焦燥感がこみ上げてくる。
(私もまだまだってことだな……)
自嘲すると共に気づく。
いつの間にか、ドバンの姿がなくなっていることに。
恐らくは、先ほどの爆煙に紛れて逃走したのだろう。
あの肉片が蒸発したことで、この場を死守する意味がなくなった、といったところだろうか。
(逃がしたか……聞きたいことがたくさんあったんだがな)
ドバンという人物は、本当に謎だったからだ。
半魔人の技術はもとより、ロード種へと進化させる特異能力等。
はっきり言って、人外の知識といえるだろう。
それらが独自の知識なのか、あるいは背後に何者かがいるのか。
(いますぐに追えば追い付けるかもしれないが……)
敵意丸出しでこちらを睨んでくるロードが目の前に居る以上、そうさせてはくれないだろう。
手負いの獣は凶暴になるとはよく言ったもので。
左肩を消失しているロードは、まさに半狂乱となっていた。
あるいは、使役者が逃走したことで暴走したのか。
いずれにしても、ロードは雄たけびを上げながら、私へと襲い掛かってくる。
『ガアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
「ち……っ」
私は舌打ちと共に迎え撃ち、たちまち近接戦闘が。
しかしながら、いまのロードは左手を失っているために手数が少なくなっていることもあり、アテナと妖精の援護を受ける私は、先ほどと比べるとかなり余裕が出来ていた。
それゆえに、いまの私は防戦だけではなく、反撃も行っていたりする。
徐々にだがロードの全身が蒼の斬撃で切り刻まれていき。
大振りの右の拳を躱しざまに懐に飛び込み、蒼刃を送り込む──
その一撃は見事、ロードの身体を貫通していた。
だが……
「ちょ、抜けな──っ」
引き抜きざまに追撃を加えようとした矢先、肝心の剣が抜けないことに私が焦りを見せると同時に、吼えたロードが右手を繰り出して来る。
咄嗟に私は、刃に纏う蒼雷を爆ぜさせる──
蒼の爆発。
吹き飛ぶロードと私。
『ガアアアアアアアアアアアア……ッ』
胸に大きな穴が開くも立ち上がるロードとは対照的に、私は舌打ちひとつ。
いまのは、失策だったと判断したからだ。
私の得物である剣は、その切っ先が半分となっていた。
本来ならば耐えうるはずなのだが、恐らくはロードの液体に触れたことで脆くなってしまっていたのだろう。
リーチが短くなったことで私の攻撃感覚も狂うだろうから、これ以上戦闘が長引くのは望ましくなかった。
どうする──そう思案しようとした矢先、視界に映り込んでくるのは、ロードの頭上から飛び掛かるダミアンだった。
どうやら、屋根裏に布陣する敵を一掃し終えたようである。
先程の火炎竜による爆発も影響しているのだろう。
何にしても、彼が参戦してきたことで戦況は大きく変わるだろうが……
「ダミアン! これを使え!!」
彼が持つ短剣では致命傷を与えられないと判断した私は、新たに蒼雷を纏わせた半壊している剣を、彼めがけて投擲していた。
宙をくるくる回る剣が、狙い違わず空中にいるダミアンへと──
これでもし、彼が受け取り損ねてダメージを負ってしまうと目も当てられないが……心配することはなく、彼の反射神経をもってすれば容易のことであり。
短剣を投擲してロードに牽制の一打を浴びせると同時に私の剣を受け取ったダミアンが、降下しざまに蒼の一撃を叩き落していた。
しかし──
『ガアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
「な──っ」
果断の一撃は見事にロードの右目を深々と切り裂くものの、致命傷には至っていなかったようで、咆哮したロードの右の拳がダミアンに炸裂。
寸前で半壊している剣を盾にしており直撃は避けたようだったが、それでもその衝撃で、彼は吹き飛ばされてしまう。
「あれでもまだ仕留めきれないのか……」
私の剣で貫き、ダミアンに顔面を切り裂かれ。
それでもロードがまだ倒れないことに、私はさすがに戦慄を覚える。
こうなってくるともう頭部を粉微塵に吹き飛ばすしかないのだが……いまの私は切り札を失っており、下級程度の攻撃魔法ではロードの頭を吹き飛ばすだけの火力があるはずもなく、他の面々にしても同様だろう。
いまのダミアンの攻撃を見ても、ロードには斬撃や殴打が効きづらく、何か爆発力がある強力な一撃が必要なのだが……
(そうか!)
思いついた私は、その名前を呼ぶ。
「レビー! 来てくれ!」
「はぁい?」
ロードとダミアンが戦闘を展開するのを目にしつつ、私は近寄ってきた妖精に蒼雷を二重掛けした。
妖精に纏う蒼雷はそれまでの比ではなく、バチバチと激しい蒼のスパークを飛び散らせる。
(ち……やはり、魔力消費が大きいな)
このやり方は、攻撃力は上がるのだが、それに比例して、付与する際に必要とされる魔力消費が大きくなるというデメリットがあったりするのだ。
そのため、弱体化しているいまの私としては、極力自身の魔力を消費したくはなかったのだが……
(ありえない失態を犯してしまった以上、そうも言っていられない、か)
「ふわぁっ!?」
自身の変化に戸惑いと驚きを隠せないようで、妖精が両目を丸くしてきた。
「これって……!?!」
「攻撃力は跳ね上がるが、その分、効果時間も劇的に短くなる。だから攻撃チャンスは一度きりと思ってくれ」
「どういうことぉ?」
「レビー。お前が、あのロードの頭を吹き飛ばしてくれ」
「ふええっ!?」
「現状では、お前しかいない」
「で、でもぉ……」
ちらりとマーズを見やると、彼が頷いてきたので、妖精はしぶしぶといった感じで了承。
無手となってしまったので、私は攻撃魔法を唱えるべく身構えた。
「私たちであいつの隙を作る。チャンスは一度きりだ」
「レビー……任せてもいいかな?」
「……もう! わかりましたよぉ! やればいいんでしょぉ!!」
投げやりに叫んだ妖精の声を合図として、私は前線へと身を投げ出す。
ダミアンと攻防を繰り広げるロードはすでに満身創痍ながらも、それでも闘志を見せており、そこへ私が参戦したことで、さらにロードの全身は傷だらけとなっていく……のだが。
『ガアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
咆哮を轟かせたロードが、もはデタラメな攻撃をぶちかまして来る。
その全ての攻撃に毒を帯びていることが凶悪性を増しており、数で勝っているはずの私たちは苦戦状態だった。
「く、こいつ……っ」
「脳まで腐って、正常な判断もできない、か」
「憐れを通し越して、もはや見苦しいですね」
それぞれの反応をする私たちは、直接攻撃としてダミアンが前衛、中衛は魔法による間接攻撃の私、後衛は影術のアテナという陣容でもって、乱心状態のロードと相対。
一撃でも喰らえば即アウトというスリリングな交戦が展開され。
それでも絶妙のタイミングでアテナが影術で援護をしてくれるので、どうにか私とダミアンはロードの攻撃を防ぐことができていた。
時間にするとどれくらいだろうか。
ついに、その好機が訪れた──
ダミアンの攻撃が直撃するも意に介さないロードの胸板に、私の火炎球が爆裂する。
その衝撃でバランスを崩したところへ、アテナの影術がその全身を拘束した。
「マーズ!」
「はい!」
私が名を呼んだだけで察してくれたマーズが、両手を握って絶叫。
「レビーーーー!!」
「はぁい! レビー! いっきまぁああーーーす!!!」
マーズの掛け声を合図として、二重掛けされた蒼雷を纏う妖精が、ロードへと突貫していく。
『ガアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
咆哮したロードが自身を拘束する影を吹き散らしてしまうものの、すかさず私が氷結魔法を展開。
ロードの足元が凍り付き。
さらには飛び掛かったダミアンが左目も切り裂いていた。
視力を失い、身動きも出来なくなったロードが絶叫を迸らせる。
『ガアアアアアアアアアアアアアア!!!!』
「とりゃああああああああああああぁ!」
そこへと、蒼雷纏う妖精が突っ込んでいき──
蒼の爆発が、ロードの頭部を吹き飛ばしていた。
※ ※ ※
ぐずぐずと溶解していくロード。
身を翻した妖精が、マーズのもとへと。
「マーズ様ぁ! わたし頑張ったよぉ!」
「えらいえらい」
頭を撫でられて、気持ち良さそうにうっとりとした表情に。
そんな一方では、駆け寄ってきたダミアンが半壊している剣を私に手渡してくるが、苦い顔だった。
「クレアナード様、剣が……」
「ああ。まあ、仕方ないな」
私はこれといって気にはしない。
確かに直接的な攻撃方法は”剣”だが、だからといって私の本当の武器は”蒼雷”だからだ。
所詮剣は、その媒介に過ぎないのである。
すると、場が落ち着きを見せたのを見計らったようなタイミングで、リングが現れた。
そして彼女の後ろには、解放されたのであろう面々が。
種族や性別、年齢が見事にバラバラであり、ただひとつ共通していることが、皆が皆、憔悴しているところだった。
「クレアナード様、けっこう不味い状態ッス」
「ん? どういうことだ?」
「手遅れの人もけっこういたんスけど、この子だけはまだ間に合うかもと連れてきたッス」
リングはひとりの小柄な少女を抱きかかえていた。
腕には応急措置だろう布が巻かれていたが、出血が止まらないのか真っ赤に染まっており。
意識はすでになかったようだったが、その顔面は蒼白だった。
その彼女を視認したマーズが、大声を上げて駆け寄っていく。
「アイリ!?」
駆け寄ったマーズは、騒然とした様子でリングを見上げた。
「なにがあったんですか!? どうしてアイリがこんな……っ」
「ちょ、落ち着いてってば! そんなに揺さぶっても……」
「少し落ち着け、マーズ」
慌てふためくマーズを優しく引きはがした私は、少女の腕の傷を治療魔法で癒してから、彼女を抱きかかえるリングへと冷静に問う。
「状況を説明してくれ」
「わたしが見つけた時、すでに血を抜かれてたんスよ。とりあえず手近にあった布で止血したんスけど……」
「……血が足りない、か」
「はいッス」
魔法で傷は治せても、失った血液まではどうにもならないのである。
このままでは、この少女は出血多量で命を失うことだろう。
「アイリ……っ」
「マーズ様ぁ……」
声に詰まるマーズを前に、心配げに妖精が声を震わる。
このままみすみす見殺しにする気もない私は、すぐにダミアンに指示を出しており、彼が連れてきたのは血相を変えて走ってくるラーミアだ。
騎士たちも随伴しており、そんな私たちのやりとりを、置いてけぼりとなってしまっている解放された人間たちが、遠巻きでざわつきながら見守っていた。
彼ら自身が、この後どうすればいいのかわからなかったのだろう。
とりあえず、いまは彼らのことはスルーするとして。
私が脱いだ外套を地面に敷き、そこに寝かされた少女の状態を診断し終えたラーミアは、渋い顔になる。
「血液が足りませんわ」
「どうにかならないのか?」
「さすがに魔法にも限界がありますわ。いま出来ることと言えば、緊急輸血しか……」
「マーズ、この娘の血液型は?」
「えっと……確かO型だったはずです」
「マーズ君、”はず”じゃ困りますの。違う型を輸血した場合、拒絶反応で命を落としてしまいますわ」
「そ、そう言われても……さすがに、血液の話なんてしたことないですし……」
「仕方ありませんわね」
言い訳をするマーズをしり目に、ラーミアは布に付着していた少女の血液をペロリと舐める。
しばし口の中で吟味した後、確信をもった口調で断言。
「O型ですわね」
「舐めてわかるのか。さすがだな」
「これくらいは、治療師の心得として当然ですわ、お姉さま」
かなり高度な技術だと思うのだが、妹は何ら自慢も慢心もすることはなく、表情を真剣なものへと。
「これから緊急輸血を行いたいのですけれど、この中にO型の方はいらっしゃいませんか?」
首を横に振る面々。悔しそうにしながらもマーズも首を振っており。
ラーミアの視線が解放された面々に向けられるものの、彼らは動揺と戸惑いの表情で押し黙るのみだった。
これだけ人数がいるのだから、ひとりくらいはいそうなものだったが……
それは妹もわかっていたようで、誰も手を挙げないことに怒りを滲ませてきた。
「ちょっと貴方たち! 人命に関わることなのですわよ!」
「ラーミア、落ち着け」
「ですけどお姉さま!」
「無理もないだろうさ」
せっかく助かった命なのだ。
それを、輸血という手段で自分の命を危険に晒したくはないのだろう。
屑だなとは思ってしまうが、理解もできるので私は妹程に怒りを表現はしない。
「私もO型だが、種族の違いによる影響はあるのか?」
私がO型なのだから、妹であるラーミアもまたO型である。
しかしながら、この場で唯一緊急輸血を行うことが出来る妹は、論外だろう。
失血による影響は思考力低下を招くからだ。
となると消去法で、私しかいないのである。
「人間という種であれば、種族の違いは影響ありませんわ。同じ赤い血なんですもの。まあ、型による差異はありますけれど」
「ならば、私が血を提供しよう」
「……よろしいのですの? 失血は、お姉さまご自身にも負担を強いますけれど……」
「クレアナードさん……」
震える声で私を見上げてくる彼に、私は安心させるように彼の肩に手を置いた。
「心配するな、マーズ。ラーミアの治療師としての腕は本物だ。緊急輸血も必ず成功させてくれるさ」
「……あの、そういうことではなく。どうしてなんですか? どうしてそこまでして……」
「困っている者が目の前にいる。そして自分に出来ることがある。ならば、迷う理由があるのか?」
「クレアナードさん、貴女というヒトは……」
仮面で直接的に目は見えなかったものの、マーズの熱い視線が感じられる。
ひとつ頷いた私は、妹へと。
「時間がない。ラーミア、私の準備はいつでもできているぞ」
「わかりましたわ。ではお姉さま、これで腕を切り、血液を彼女の口に流し込んでください」
妹から手渡されたナイフを受け取り、私は言われた通りにする。
「──っ──」
ナイフで腕を切った痛みに顔をしかめるものの、流れ落ちる血液は無事に少女の口の中へと。
それと同時にラーミアが魔法を発動しており、血液が魔力の光に包まれていた。
「…………」
魔法を発動しているラーミアの額には、いつしか汗が。
それだけ、この魔法が高度なものということである。
皆が固唾を呑んで見守る中。
魔法の効果により、口腔内から流れ込む血液が体内へと吸収されていき……
失血により顔面蒼白だった少女の顔に、血色が戻っていく。
「──くっ……」
「おっと、大丈夫ですか? クレア様」
「すまない、助かった」
眩暈に襲われた私はふらついてしまうものの、いつの間にか横に移動していたアテナが支えてくれており、少女の状態が安定したことを確認したあと、妹が私の腕の傷をすぐに治療してくれていた。
「あ、ありがとうございます、クレアナードさん……本当に、本当に……っっ」
声に詰まるマーズに、私は片手を挙げるのみで応える。
そして視線を、横たわっている少女へと。
「すう……すう……」
死にかけていた彼女は、いまは安らかな寝息を立てているのだった。
※ ※ ※
※ ※ ※
工場だった村から、巨大な火柱が立ち昇っていた。
「キシシ……」
樹木のてっぺんにて、その光景を眺めていたザオームが不気味に笑う。
彼女はいま、ひだから伸ばした触手で器用にバランスをとっているキノコから上半身だけを出しており、両腕を口の淵に置いて完全に傍観者と化していた。
「位置的に、あの水槽が破壊されましたか。まったく。ドバンの旦那も、口だけでしたねぇ」
まるっきり他人事のように嗤う。
「こうなるともう、ブレア政権もお終いですかね。身の振り方を考えたほうがよさそうですね」
ブレアが失脚すれば、当然ながら彼に加担した自分も断罪の対象になるだろう。
なにせ、直接的に手は下していないものの、非人道的な行為を知っていながらも協力していたのだが。
すると、心配するように触手の一本が伸びてきて、彼女の頬を撫でてきた。
その触手をうっとりした顔で優しく握った彼女は、すぐに表情を不敵なものに。
「大丈夫ですよ、ギーノくん。私は要領がいいですからね。とりあえずは、様子見といきましょう。ブレア政権が勝つのならば何食わぬ顔で戻るだけ。負けるようならば……そうですね、冒険者にでもなりましょうか。そうすれば、食い扶持には困らないでしょう」
それがいい! とばかりにキノコから伸びる触手が妖しく蠢くと、ザオームが艶めかしく吐息を吐いた。
「ギーノくん、いま私は貴方の”中”にいるのですから、そうやって動かれると気持ちよくなってしまいます」
ごめんよ、とばかりに再び触手の一本が伸びてザオームの頬を撫で。
頬を赤らめる彼女は、まるで恋する乙女のような顔で、その触手を優しく握る。
キノコが喜悦するように震え。
その震えによってザオームが、さらに愉悦に双眸を細めていた。
その一方、彼女たちがいる樹木の真下では、恐らく村から逃げ出してきたのだろう数人のローブ姿たちが、野良の魔獣に襲われていたりする。
「た、助けてくれ!!」
「まだ死にたくな──ぎゃあああああああ」
「こ、こっちにくるなあああああああ!!!」
まさに血の饗宴。
非戦闘員である彼らでは、抵抗しても魔獣にはまるで敵わない様子だった。
「うるさいですねぇ。おとなしく餌になっていてくださいよ」
まるで助ける素振りを見せないザオームは、面倒くさそうに吐き捨てる。
彼らがこの場に逃げてきたのは、ただの偶然の産物なのだろうが……助ける義理はないのである。
真下から聞こえてくる悲鳴や絶叫、そして魔獣の遠吠えをBGMに、彼女は小さく溜め息ひとつ。
「傷に響いてきますね……」
クレアナードから受けたダメージは、まだ完治はしていないのだ。
「ギーノくん、またしばらく頼みますよ。私は少し、眠ります」
OK! とばかりに触手が蠢き。
ザオームはキノコの中へと、すっぽりその姿を隠すのだった。
キノコには意志があったようです。




