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勇者を討伐した魔王様は魔力を封じられた為に解雇される。  作者: 吉樹
第5章 『魔族国編②』
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第8話 「魔王様、生産工場へ」

前話のあらあすじ:立ち塞がる敵を撃退しました。

 廃村を目前に、私たちは馬車を停車して打ち合わせをしていた。



「何が起こるか、さすがにわからないからな。ラーミア、お前たちはここで待機していてくれ」

「ですけど、お姉さま……」

回復要員(治療師)であるお前の役割は、大きいと思ってくれ」



 ついてきたそうな顔をするラーミアに、私はきっぱりとそう言い放つ。

 妹が心配だからというのもあるが、言葉通り、回復要員である彼女は、まさに私たちの生命線なのだ。

 それゆえに、万一の事が起きた場合はラーミアだけが頼りとなるだろうから、彼女には比較的安全圏に居てもらわないと困るのである。



「……わかりましたわ」



 しぶしぶ納得してくれた妹に頷いてから、私は騎士たちへと目を向ける。



「ラーミアとゾーイを頼むぞ」

「お任せください、クレアナード様。身命を賭してお守り致します」


 御車の騎士が力強く応え、ふたりの騎士たちも同様に頷いてきた。

 するとそこで、唇をきゅっと引き締めていたマーズが私の袖を引っ張ってくる。



「クレアナードさん」

「ん? ああ、そうだったな。リング、ちょっといいか」

「はい? わたしッスか?」



 名前を呼ばれたことに驚きながらも近寄ってくる彼女に、私はペンダントを手渡した。



「これはなんスか?」

「これで、攫われた人物がどこに居るのかわかる」



 馬車内で、マーズから渡されていたものである。



「恐らくは、他にも囚われているヒトたちがいるはずだ。お前には、彼らの救出を頼みたい」

「それはまあいいッスけど……でも、あちらさんも警戒しまくってますよね? さすがにそんな厳重警戒の中じゃ、厳しいものがあるッスねぇ」

「それは心配ない。私が囮となるからな」

「囮ッスか」

「ああ。堂々と正面から私が行けば、向こうも無視はできないだろうからな」



 当然ながら騒ぎが起こるだろうから、その騒ぎに乗じれば、救出もぐっと楽になることだろう。


 ちらりとマーズを見やると、すでに話済みのために彼も小さく頷いてきた。

 私としては、彼にもラーミアたちとこの場に待機してほしかったところなのだが、想い人が近くにいるかもしれないのに、じっとなんかしていられないと言い張ってきたのである。



(まあ、気持ちはわからないでもないけどな)



 それになんやかんやで、彼が使役する火の妖精は蒼雷を纏えば十分な戦力になるので、同行を許可したというわけだ。

 ただし、アテナの傍から絶対に離れないという約束のもと、だったが。

 妖精はともかくとして、彼は戦闘経験のない、非力なただの少年だからだ。



「アテナ、頼むぞ」

「お任せを」



 アテナが無表情で親指を立ててくる。



「私は嗜虐趣味のあるクレア様と違い、幼気な少年が傷つく姿は、見たくありませんので」

「またお前は、意味もなく私を貶めて……って、マーズ。本気にするなよ」

「え、あ……は、はいっ」

「じとー……」



 声がやや上擦るマーズと、半眼で私を見てくる妖精。

 私はコホンと咳払い。



「とにかく。何が起こるかわからないからな。皆、気を引き締めてくれ」




 ※ ※ ※




 目抜き通りだろう一本道を進む私たちは、これといって襲撃もなく、明らかに異様を誇っている物体を目指して中央広場へと。



「これはこれは。お久しぶりですな、クレアナード”殿”」



 生産工場と化している廃村の中央広場にて、私たちを出迎えてきたのは、フードを目深にかぶっているドバンだった。

 その傍らには、1体の腐乱死体が控えていた。


 廃屋の中にちらほらといくつか真新しい建物が見えるが、恐らくはそれらが半魔人の生産に関する施設なのだろう。

 そして廃屋や施設の屋根には何人もの弓を構えるドバンの私兵が布陣しており、皆が皆、緊張した面持ちだった。



(そういえば、こいつも魔獣使いだったっけな)



 腐乱死体を控えさせるドバンを前に、私は思い出していた。

 ランデ同様に腐乱死体を使役できるのだろうが、現状で1体しかいない以上、もはやこの場にはこれ以上の戦力はないのだろう。


 1体など物の数ではないが……油断は禁物だろう。



「ああ、久しいな、ドバン。あれ以来か」



 周囲に警戒を払いながら私が応じると、フードで額を隠しているドバンはニヤリと笑って来た。



「状況が状況なんでね、単刀直入に行きましょう」



 僅かな身振りを交え。



「クレアナード殿。私と手を組みませんか?」

「なんだと……?」



 まったく想定してなかった提案に、私は思わず戸惑いを覚えてしまう。

 そんな私の態度を気にした様子もなく、ドバンは言葉を続けてきた。



「私には半魔人の技術があります。まだ完成はしていませんが、それでも十分な戦力となりましょう。そして貴女には、いまでもなお、絶大なカリスマがある。私たちが手を組めば、魔族国を今以上に巨大な強国にすることだって出来るでしょう」

「……何を言うかと思えば。そうなると、お前はブレアを裏切ることになるぞ?」

「裏切るというのは、的確な表現じゃないですね。協力していた、だけですよ」



 どうやらドバンは、事ここに居たって、裏切る算段をしていたようである。

 なかなか懸命な判断と言えなくもないが……



(半魔人の技術、か)


 

 半魔人の技術は、実に魅力的と言えた。

 これがあるだけで、魔族国の戦力が底上げされるのだから。

 完成していないということから、完成すれば犠牲を必要としないことも可能かもしれない。



「…………」



 マーズが無言ながらも、何やら不安そうに私を見てくる。

 私が寝返るのかもと、懸念したのだろう。


 私は彼を安心させるように彼の頭を撫でた後、ドバンへと視線を向けると鼻を鳴らした。



「状況によってコロコロ態度を変えるような奴は、信用できないな。だからドバン。お前の提案は受け入れられない」



 当然の反応だろう。

 むしろ、この男を信用して手を組めというほうが、無理がある。

 状況が不利になりつつあるからと簡単に寝返るような奴になど、安心して背中を任せられるものではないというものだ。


 私に拒絶されたドバンは、唾を吐き捨てた。



「……愚かな。所詮は、失脚させられた低能か」



 片手で合図を出すや、控えていた腐乱死体が前に進み出てくる。



「まあいい。交渉が決裂するのは予測済みだしな」



 目深にかぶるフードを脱いだドバンの額には、何やら見覚えがある紅の石が埋まっていた。



(あれは……)



 脳裏を過るは、以前にハルス村で相対した魔獣使い。

 確かあの男の額にも、同じような石があった気がする。



 私は嫌な予感がしたが……それは、的中してしまうことに。



 額の紅の石が眩い光を発するや、その光に包まれた腐乱死体に変化が訪れた。

 腐肉が盛り上がり、全身が赤道色へと変色し、虚ろだった双眸に凶悪な光が。




『ガアアアアアアアアアアアア……!!!』




 咆哮を轟かせる腐乱死体。

 一方で私たちは、驚きを隠せなかった。



「なんだと……」

「赤道色って、まさか……」

「ふむ、ロード種ですかね」

「そんな……っ」

「ふぁ……!?」



 それぞれの反応を示す私含む面々。

 そんな私たちを前に、ロード(腐乱死体)を従えるドバンが勝ち誇ってきた。



「くくく……素晴らしいな! この力は!? ──っう……なんだ、この異様な空腹感は……だが! これでこちらの戦力は上となったぞ、クレアナード! 取引に応じなかったことを後悔して死ぬがいい!」



 ふらついて胃の部分を強く押さえるものの、自分の有利を確信している様子。

 廃屋の屋根にて布陣している兵士たちも、ロード種を生み出したドバンに畏敬の念を抱きつつも、彼らも自分たちの優位性を確信しているようだった。



「……まさか、そんな切り札があったとはな」



 ロード種を生み出すなど、まさに人智を越えていた。

 半魔人の技術に加えて、ロード種を生み出す能力……

 もしかすると私は、ドバンという男を過小評価していたのかもしれない。

 まあ、だからといって。

 この男と協力なんてことは、絶対に在り得なかったが。



「私がロードを相手にする。アテナは援護を。マーズもアテナの傍から援護を頼む。ダミアンは、屋根の連中を片付けてくれ」



 こちらの戦力を鑑みた結果、戦術を決める私に、異論がないようで他のメンツが頷いてくる。



「えーっと……れ、レビー? だったか? こっちに来てくれ」

「はぁい」



 再び火の妖精に蒼雷を纏わせてから私が抜剣したのに合わせ、他の面々も武器を構えた。



「恐らくはゾンビ種の類に分類されるとは思うが、皆、重々警戒してくれ」



 ラーミアを連れて来なかったのは失敗だったかと思うが、今言っても仕方なく。

 それにまあ、ここは小さい村なのだし、急げば外で待機しているラーミアにすぐ合流できるだろう。


 ドバンが背にしている巨大な水槽に浮かぶ肉塊が気になるものの、いまはロードを撃退することが優先なので、私は気持ちを切り替える。



「──よし。いくぞ!」



 こうして私たちは、ロードと化した腐乱死体と交戦することに──




 ※ ※ ※




 開幕と同時に、雨のように降ってくる弓矢。


 私は体捌きと蒼刃で切り払い。

 アテナとマーズはアテナの影術で共に防ぎ。

 ダミアンは持ち前の身軽さで回避。

 

 そしてダミアンは疾駆しざまに一件の廃屋の壁に短剣を投擲しており、突き刺さったそれを踏み台に跳躍して屋根上へと軽やかに移動・そのまま敵の殲滅へ。

 村ということもあって家々の間隔は近いので、一件の屋根にさえ上がってしまえば、あとはもうダミアンの独壇場となることだろう。

 家々の距離は離れているとはいっても、彼の身軽さならば簡単に飛び越えられるからだ。



(さすがだな)



 頼りになる密偵に感心すると共に、私もやるべきことをするべく、意識を集中させる。

 ロードを倒すのは当たり前ながらも、如何せん、弱体化しているいまの私では厳しいと言わざる得ないだろう。



あいつ(ザオーム)との戦いで魔道具を消耗してしまったしな)



 魔道具はまだ回復しておらず、最上級魔法を発動できる指輪も、避けられたらそれまでなのである。

 なので、いまの私がやるべきことは、ダミアンが屋根上の敵勢力を殲滅してこちらに合流するまで、時間を稼ぐことだった。


 だから私は無理に攻めるようなことはせず、防戦を主体とした戦い方を展開。


 アテナの影による拘束も、さすがはロード種というだけあって一瞬で吹き散らされる上に、屋根上からの射撃が邪魔をしてくるために、やはりこのロードを倒すのはダミアンが合流してからとなるだろう。



(鬱陶しいが、いまは待つしかないか)



 屋根上からの射撃に気を付けながらアテナと妖精の援護をもとに、私はロードと真正面から相対する。

 先ほど戦った腐乱死体共とはさすがに一線を画しており、その戦闘力は飛躍的に上がっていた。

 動きはそこまででもないが、硬い拳による一撃一撃は重く、剣で受け止める私の両手が悲鳴を上げるほどである。



『ガアアアアアアアアアアアア……!!!』


「いくらロード種とはいえ!」



 防戦に専念する以上、いまの私でも、とりあえずは無傷を維持することはできていた。私ひとりではとっくにダメージを負っていただろうが、アテナと妖精による援護の賜物である。


 しかしそれが面白くなかったのだろう。

 芳しくない戦況を前に、ドバンが顔をしかめてくる。

 涎が垂れていたのだが、無意識なのか、気づいている様子はなかった。



「まさか、”あの最強”がそんな消極的な戦い方をしてくるとはな……」



 私とて不本意甚だしいが、弱体化している以上は仕方なく。

 今の私には、出来ることと出来ない事の線引きが、はっきりしているのである。

 ならばこそ。

 仲間を信じて、矢面に立って時間を稼ぐのみ。


 ちらりとダミアンを見やると、まだ屋根上の敵勢力は健在のようで、殲滅には今しばらく時間がかかるだろう。

 だが彼が屋根上にいることで敵勢力の注意が分散していることもあり、地上の私たちへの射撃の雨が緩やかなものになってはいた。



(ダミアン、早く頼むぞ……)



 私が激励を送る一方では、ドバンはようやく気づいた様で口元の涎を拭う。



「様子見は終わりだ。早々にケリをつけようか。……早く何か食べないと、気が狂いそうなんでな」



 そう宣言した瞬間、ロードの全身に変調が。

 全身の筋肉が膨張すると共に両目が赤黒く染まり、私が斬りつけていた箇所と口元からも赤黒い煙が立ち上り始める。



「おいおい……2段階変身とか、反則じゃないか?」



 状況が悪くなったことが見て取れたので、私の顔は引きつってしまう。

 傷口や口元から赤黒い煙が出ていることから、ロードの体液が何かしらの効果を帯びたことが推測できた。

 ポピュラーなところでは、毒といったところだろうか。

 噛まれること以外にも、警戒要項が増えてしまったということである。



「さあ! その女を殺せ! 我がロードよ!!!」


『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』


 


 眼が血走り始めたドバンが言い放ち、大きな咆哮を迸らせたロード改が私めがけて飛び掛かってくる。

 その動きは先ほどまでの比ではなく、かなり俊敏になっており。



「ち……っ」



 アテナと妖精の援護を背に防戦する私だったが、ロード改の攻撃力が飛躍的に上昇しているようで、先ほどと同じような展開というわけにはいかなかった。

 一撃でも喰らうわけにはいかないために、私は全神経を攻防に集中する。



『ガアアアアアアアアア!』



 ロード改による拳の連打と、毒の息。

 毒と高威力が込められた乱れ撃ちを前に、私は体捌きと蒼刃でどうにか受け捌くものの、防戦に専念とか言う前に、()()()()()()()()状況になっていたりする。

 下手に欲を出して攻撃など繰り出そうものならば、即座に毒の攻撃を受けてしまうだろう。



(く……これは予想以上だな……っ)



 ふたり(アテナと妖精)の援護で辛うじて防いでいたが、ロード改による劣悪な猛攻を前に、私は完全に劣勢に。



(ダミアン……まだかっ!?)



 叫びそうになるのを必死で堪える。

 彼とて無能ではないのだ。

 奮戦しているのに急かしてしまえば、いらぬ隙を作ってしまいかねないだろう。

 それでダミアンが倒れてしまうと、まさに本末転倒である。


 他力本願ということなかれ。


 私とて、出来ることならば自分の力だけで決着をつけたいのだ。

 しかし……弱体化している現状では、どうにもならないのである。

 情けなく思うが、今は自嘲している場合でもなく。



『ガアアアアアアアアアア!!』


「やかましい! いちいち叫ぶな!!」



 八つ当たり気味で私も怒鳴るが、そんなことを気にするロード改ではなく。

 飛来してきた弓矢を切り払った直後の間隙を狙い、私へと拳を繰り出して来た。

 辛うじて躱す私だったが、ロード改が身体構造を無視した形で噛みついてくる。


 この辺りは、さすがは生者ではないから、なのだろう。


 とはいえ感心している場合でもないので、かといって回避直後の身体では新たに動けるタイミングでもなく、私は顔を背けることで紙一重で事なきを得る。


 だが、あろうことか。


 ロード改は、風に流れた私の髪に食らいついており、ぶちりっと髪が食いちぎられてしまう。

 痛みで涙目になってしまう私は、ロード改に蒼雷纏う蹴りを叩き込んで盛大に蹴り飛ばしていた。



「乙女の髪になんてことをしてくれるんだ!!?」



 ”髪は女の命”とはよく言ったもので。

 怒り心頭の私は、絶叫する。


 これでも、髪にはかなり気を遣っているのである。


 細かいケアも欠かしていないので、だからこそ艶やかな髪質を保っているのだ。

 それをこうも無残に食いちぎられるなど……怒るなというほうが無理があった。



「誰が乙女なのですかね……?」



 ぽつりとアテナが呟いてくるが、完全スルーした私は指輪の力を発動していた。



『ッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』



 召喚された火炎竜が、重厚な咆哮と共にロード改へと襲い掛かる──


 次の瞬間。


 ロード改に直撃──はしなかった。

 回避行動をとっており、左肩を消し飛ばされながらも、ロード改を倒すには至らなかったのである。



「しまった……っ」



 ハッと我に返る。

 私は、一時の怒りで冷静さを欠いたことで。

 唯一の切り札を外してしまったのだ。



 あってはならない失態だった……




 ※ ※ ※


 ※ ※ ※




「……そうか。マーズは、まだ見つからぬか……」



 豪勢な一室にて、壮年の男が嘆息を零していた。

 そんな彼の前にて恭しい態度の男が、額に汗を浮かべながらも頷く。



「目下全力で捜索しているのですが……もしかすると、国内にはいない可能性すらあるかと」

「どこへ行ったというのだ……」

「先日、女中のひとりが行方不明になったと騒いでいたので、もしかすると単独で国外に捜索に行かれたのでは……?」

「在り得ぬ。代わりがいくらでもいる女中のひとりだぞ? しかも、仕事に嫌気が差して音信不通になる者など、しょっちゅうではないか」

「それはそうですが……」

「マーズが何も言わず、国外に行った他の可能性はないのか?」



 壮年の男が尋ねるものの、恭しい態度の男は内心では「自分の息子のことを他人に聞くな」と吐き捨てながらも、そんな想いをおくびにも出さないで、真摯な表情を浮かべる。



「好奇心旺盛な御方ですので、知的好奇心に駆られて、ではないでしょうか?」

「むう……”私”の後継者というだけに、いろいろ英才教育を施してきたからな。知識は武器となるという我が教えが、暴走してしまったということか」



 遅くに出来た子のために、別に急いでいるというわけではないが、後継者に相応しい人物へと育成するべく、幼いころからあらゆる教育をしてきたのである。



「さすがに国外となってしまうと捜索も困難となってしまいますが……マーズ様は聡明な方でいらっしゃられます。無謀なことはなされないと思われますので、ご心配は無用かと」

「無論だ。私は心配はしていない。だが……妻が騒ぐのだ。眼に入れても痛くないほどに溺愛しているからな」

「心中お察しいたします。ですので、捜索には全力を尽くしております」

「……まさかとは思うが、魔族国には行っていないだろうな?」



 そう述べる彼自身が半信半疑のその可能性は、即座に否定されることに。



「それはないでしょう。人族と魔族の関係性を考慮すれば、まさに魔獣の巣窟と称しても差し支えありません。物見遊山で気楽に行けるような場所ではありません」

「さすがに我が子も、そこまで愚かではないか」

「はい。ですので、魔族国以外の国へと捜索の手を伸ばしております」

「心配はしていないが……何かあってからでは遅い。一刻も早く、発見してくれ」

「重々承知しております」



 親の顔を覗かせる壮年の男に対し、恭しい態度の男は深々と頷くのだった。




 ※ ※ ※




「……そうか」



 自室にて、マイアスは重々しい表情だった。

 そんな彼の前には、報告を持ってきた近衛騎士隊長の男。



「いまから援軍を向かわせるのも手遅れなので、ブレア陣営も戦々恐々としている様子です」



 すでにマイアス陣営は半魔人の生産工場を特定しており、襲撃するべく準備を整えている最中、クレアナードが先に襲来していたのである。


 この事実(特定したこと)を、ラーミアはまだ知らない。


 それも無理はなく。

 彼女が、姉を出迎えるべく出立した後のことだったからなのだ。

 こちらの動きを気取られるわけにもいかないために、傍受される事も懸念して、結局ラーミアには何も伝えてはいなかったというわけである。



「まあ、義姉さんのことだ。きっと工場は破壊されるだろう」



 マイアスは確信をもって述べる。

 近衛隊長も同感の様子だった。



「そうですね。これでブレア陣営の戦力低下は免れません」

「そうなると、ブレアも焦るだろうね」

「はい。では……いよいよ動かれるのですか?」

「……そうだね。僕の目的は、君も知っているだろう?」

「はい。重々承知しております」



 深く覚悟を決めている彼を前に、マイアスは申し訳なさそうな顔に。



「君には迷惑をかけてしまうけど……」

「滅相もありません。マイアス様のおかげで、いまの自分が在るのです。ですのでこの命、最後までマイアス様に捧げる所存です」

「……すまない。助かる」

「では自分は、いつでも部隊を動かせるよう、準備に入ります」



 恭しく頭を垂れ、近衛隊長の男が静かに退出する。

 部屋にひとりとなったマイアスは、窓辺に移動して、そこから見える街並みに目を馳せた。


 さすがに首都だけあって、活気に溢れている城下町。


 義姉(クレアナード)が魔王だった頃は、今以上に活気付いていたのが、脳裏を過る。

 いくら目を光らせていても、現魔王ブレアには黒い噂が絶えず、それゆえに街の活気に影を落としていたのである。


 街の繁栄は、すなわち魔王の権力の象徴でもあり。

 この差は、義姉とブレアの覆すことのできない、絶対的な差ということなのだ。



「魔王……か」



 窓から街並みを見やるマイアスは、魔剣の柄を握りしめ、どこまでも遠い目をしていたのだった。



どこまでも遠かったです。

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