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勇者を討伐した魔王様は魔力を封じられた為に解雇される。  作者: 吉樹
第5章 『魔族国編②』
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第2話 「魔王様、雨の中で妹と」

前話のあらすじ:妹と再会しました。

 降りしきる雨の中、二台の馬車が街道脇に停められていた。


 陽が出ていなければ影が生まれないために、アテナの影術による影馬を作れないので、私の馬車が身動きがとれなかったためだ。


 妹の警護役の騎手たちも、今は馬を固定して、街道脇の森へと雨宿り中である。

 

 雨の勢いが強まっていく中、せっかくの機会なので、魔族国の近況やそれに付随する事柄を、ラーミアから説明を受けていた。


 主な内容は、いかに現魔王(ブレア)が愚王かということの証明だったが……。



「それ以外でも、気になることがありますの」



 そう前置きした妹は、魔族国以外のことにも触れてくる。



「人族国にも不穏な動きがあるんです」

「人族国……か」



 私の呟きに、ラーミアが真剣な表情で頷いた。



「いま確認がとれているのは、国境が隣接するビブリンドっていう人族の王国だけなんですけれど、そこで、質の低い勇者が量産されているようなんですの」

「質が低い勇者?」

「はい。普通だったら上位精霊の意思が介在する同化というのは、もうわかっている事と思いますけれど、その量産される勇者は、人工的に生成された意思のない疑似精霊とらしいんですの」

「なるほどな。それで、質が悪くなる──劣化するっていうことか」

「時期的に見ても、筋肉ダルマが半魔人を量産し始めたすぐ後ですので、もしかしたらこちらの動きを察したその王国が、対抗するために試験的に導入したのかもしれませんわ。まだ数が少ないのも、試験段階だから、量産体制が整っていないのかもですわ」

「……なるほどな。しかしラーミア、よくそこまで調べ上げたな」

「当然ですわ、お姉さま。いくら魔族国の問題を解決したとしても、そこを人族国に攻められたら困りますもの。ですから、人族国の情勢は常に把握しておかなくてはなりませんわ」



 混迷しつつある魔族国だけでなく、敵対関係にある人族国の情勢にも目を向けている手腕に、私は素直に感服だった。

 ラーミアは為政者向きと言えるだろう。ある意味、私以上に。

 きっと今後も、その広い視野でマイアスを支えて行ってくれることだろう。


 私が内心で感心していると、「なので」と自慢の妹は話題を戻してきた。



「その王国の試験結果によっては、他の国も導入してくるかもしれませんわ」

「それはまずいな……全ての人族の国でそんな事をされたら、魔族と人族の拮抗が崩れるぞ」



 とはいえ、質の悪い勇者──劣化勇者という戦力を手に入れた人族が、すぐに魔族国に攻めてくるとも考えづらかったが。


 なにせ人族国は魔族国とは違い、ひとつに統一されてはいないからだ。


 いくつもの国が乱立しており、領土争いによる小競り合いが頻繁に起きているのだ。そこで劣化勇者という戦力を手に入れたならば、まずは自国の領土を増やすべく、侵攻戦に投入することだろう。


 そんな状況ながらも人族国(乱立国)魔族国(統一国)が拮抗していたのは、ひとえに、人族と魔族の人口と領土の差だった。


 乱立する全ての人族の国をひとつとして分類するならば、その領土は魔族国の優に5倍はあることだろう。

 なので、もし人族国が統一でもされてしまい、その総力でもって攻めてきたならば、間違いなく魔族国はすぐに滅ぼされてしまうだろう。

 とはいえ、現状は国境と隣接するいくつかの国付近だけであり、いますぐ統一されるというわけもないので、当面の間は心配ないだろうが。



「しかしどういうことなんだ? 確か勇者に関する技術は、聖王国が独占しているんじゃなかったのか?」



 聖王国ラザローン。

 乱立する人族国内において、不可侵とされている中立国家である。

 勇者技術を確立させたことからも、他国からは一目置かれているという。

 多くの勇者を抱えているために、領土争いに明け暮れる他国としても、下手に手を出せないのだ。

 そして聖王国自身が領土拡充を目的としていないため、中立国家として認められていたというわけである。



「劣化勇者とはいえ”勇者”なのだし、その技術もまた聖王国のものじゃないのか?」

「さすがにその辺の事情はわかりませんけれど……聖王国に何か思惑があるのか、あるいは正規の方法じゃないから劣化した勇者と成った、とかじゃないですの?」

「……ふむ。どちらにしても。こうなってくると、魔族国としても、半魔人の技術は確立させたほうがいいのかもしれないな」

「でもお姉さま、もしそれが民の犠牲の上に成り立つのでしたら……」

「……そうなんだよなぁ……」



 私は頭を悩ませる。

 国を守るために民を犠牲にするのでは、まさに本末転倒だろう。

 国とは、民あってのものなのだから。


 まあ、まだ半魔人と行方不明者が繋がる証拠が見つかったわけではないが、状況的に見ても限りなくその可能性が濃厚なのは、もはや言うまでもないだろう。


 もしかするとブレアは、追い詰められるあまり、パンドラの箱を開けてしまったのかもしれない。

 人族国に劣化勇者という戦力を、誘因する結果になってしまったのだから。


 これまで劣化勇者が実装されなかったことからみても何かしらデメリットがあるのかもしれないが、それでも試験的に実装に踏み切ったのは、やはり半魔人という技術に手を出した魔族国に対抗する為と考えた方が、時期的に見ても自然だろう。



(ネミル殿が居てくれれば、もしかしたら何かしら助言をくれるかもしれないが……)



 魔人である彼女ならば、犠牲のいらない方法で半魔人を生産できる技術を知っているかもしれない。



(というか。そもそもが、ブレアはどうやってその技術を入手したんだ……?)



 私が知っている情報が少ないために、現状では答えの出ない疑問だった。


 まあ、いずれにしても……



「人族国の情勢は気になるが、まずは魔族国だな。足元が疎かでは、出来る事も出来なくなる」

「……ごめんなさい、お姉さま。本当はお姉さまの手を煩わせる前に、筋肉ダルマを失脚させるはずでしたけれど……」

「いや、変に気にするな。お前たちが頑張ってくれていたからこそ、いままであいつの暴走が抑えられていたんだからな。むしろ、そんな状態にしてしまった私に落ち度がある」

「お姉さま……」

「だからまずは、人族国の情勢に気を配りつつ、ブレア政権を打倒してからだな。半魔人の技術を解析し、犠牲なく運用できるならばその方向で。ダメならば代替案を早急に構築しなければ」



 半魔人の技術が犠牲を必要としないものであれば、話は早いのだが……

 そうなってくると、私が出張ってブレアを失脚させる必要性もなくなってくるのだが、ラーミアから聞かされた現魔王の言動を鑑みるに、どちらにしても、このままあの男に魔族国を任せておくことはできないだろう。


 それに、人族国が不穏な動きを見せていることからも、いつまでも二大派閥による足の引っ張り合いをしている場合ではないのだ。

 一致団結して事に当たらねば、魔族国に未来はないだろう、



(ブレア……お前は、ただ王になりたかっただけなのか……?)



 気づいたら王になっていた私が他人のことは言えないが、それでも王になった後は、その責任を果たすべく、国や民のために尽力してきたつもりなのだ。

 それなのに、あの男と来たら……



(全ては、私の不甲斐なさ故のことか)



 あの男の本性に気付き、私が最強だった頃に決着をつけておくべきだったのだ。



(私()愚王のひとりだったんだな……)



 ぎゅうっと拳を握りしめる私を、ラーミアが心配そうに見つめてくるのだった。




 ※ ※ ※




 雨は尚も降り続き、以前として私たちは足止めを喰らっていた。

 この空模様から、当分は止むことはないだろう。

 断続的な雨音は小気味よいのだが、身動きが取れないというのは、なかなかにストレスが溜まるというものだった。



「……ぜんぜん止まないな」

「そうですわねぇ。でも、私は嬉しいですわ。こうやってお姉さまと、ゆっくりお話が出来て」



 抱いているゾーイに母乳を与えているラーミアが、息子を気遣いながらも、私の呟きに答えてくる。



「昔は、これが普通だったのですけれどね」

「そうだな」

「当たり前の日常というものは、失ってみて初めて、その尊さに気付かされるものなのですわね」

「当たり前の日常……か。私の日常も、大きく変わったもんだな」



 魔王としての日常から、冒険者としての日常へ。

 その差は、言うまでもないだろう。

 権力こそあったものの自由がない魔王と、権力はないが自由がある冒険者。

 比べることではないが、いざ比べてみると……



(しがらみのない自由っていうのも、なかなか悪くない、か)



 そんなことを思っていると、車内の隅から密偵たち(ダミアンとリング)が。



「後輩君さ~、興味あるのはわかるけど、授乳してるラーミア様をガン見とか、マジデ引くんだけどー?」

「! へ、変な言いがかりはやめてくださいよ、先輩。俺、見てないですから」

「相変わらずウソが下手だねぇ。ほれほれ、ガン見してましたってゲロっちゃえよ~?」

「……やめてください、頬をツンツンするの。それに、俺は無実ですから」

「わたしの目は誤魔化せないよ? エッロい目でジト~って盗み見てたくせに」

「ダミアン……」

「ちょ、ラーミア様! そんな目で俺を見ないでくださいって! 違いますからね!?」

「後輩君もオトコの子だしねぇ。エッロい目で見たくなっちゃうのもわかるけどさぁ」

「だぁかぁら! ちらっと見ただけじゃないですか! エロい目でなんて──」

「はい! 言質取れましたぁ! 見たんだね?」

「……っ……」



 顔が引きつったダミアンは一瞬だけ私を視界に収めると、何を勘違いしたのか、まるで私の視線から逃れるかのように立ち上がると。



「ちょっと、森の中の様子を見てきます!」



 言うや否や、降りしきる雨の中に飛び込んでいった。

 


「ありゃま、逃げちゃった。雨降ってるってのに」



 肩をすくめながら戸を閉めるリングへと、私はやれやれと息を吐く。



「お前が揶揄いすぎるからだろうが」

「この程度でキョドってるようじゃ、オトコとしてはまだまだッスね」

「リングさん、ダミアンさんを揶揄い終えたのでしたら、少しお手伝い願えませんか?」



 アテナは暇つぶしも兼ねて組み立て式のキッチンでお菓子を作っており、「はいよー」と気楽な調子で応えたリングが手伝いに。


 とりあえずは場が落ち着いた事で、私は再び授乳するラーミアへと目を向けた。


 

「しかし……本当に母乳が出ているんだな」

「別に不思議なことじゃないですわ。お姉さまだって、赤ちゃんを産めば出るようになりますわ」

「……私が授乳とか。想像すらできないな」



 まったくイメージが出来なかった。

 むしろ授乳は恥ずかしいとさえ思ってしまうのだが……そこが、独身女と母親の違いなのだろう。


 息子(ゾーイ)が満腹になったのを見計らったラーミアは、慣れた動作で服の胸元を直す。



「せっかくですし、授乳の真似だけでもしてみます?」

「真似といっても。その、こういう場で胸を出すのはな……」

「慣れてしまえば、どうと言うことはないですわ」

「……母は強し、だな」

「ええ、そうですわね。我が子がお腹を空かせていたら、恥ずかしいとか言っていられませんもの」

「そうか……私には、とても真似できないな」

「お姉さまだって母親になれば、きっと私と同じになりますわ」

「母親……か」



 先程も述べた通り、私にとってはまったく想像ができなかった。

 私が黙ったことで自然とラーミアも沈黙したところで、食欲をそそる匂いが車内に立ち込める。

 どうやら、アテナが作っていたクッキーが焼きあがったようである。



「いま、紅茶も淹れますね」



 アテナはクッキー作りと並行してお湯も沸かしていたようで、手早く人数分の紅茶を用意する。


 お菓子と紅茶があり、暇を持て余す女性陣だけとなると、自然とガールズトークに華が咲き。

 多少下品な話で盛り上がることもあったが、そこは女しかいない場ということもあり、ご愛嬌だ。


 昔からムードメイカーなリングは何かと話題豊富なこともあり、ジメジメする雨のせいで気が滅入る中、私たちは楽しい時間を過ごす。


 話にひと段落ついたところで、紅茶を上品に一口飲んだラーミアが、懐かしそうに瞳を細めた。



「前はよくこうやって、4人でお喋りしましたのにね」

「そうだな。アテナが作ったお菓子を片手に、な」

「懐かしいッスねぇ」

「そうですね。あの頃は楽しかったですね」



 昔のことに思いを馳せる一同。


 激しくなってくる雨音に、しばし耳を傾けてから。


 それぞれの紅茶が減っていることに気付いたアテナが、注ぎ足す為に簡易キッチンへ。

 ダミアンが戻ってこないことが気になったのか、リングが戸口から外の様子を覗きに行き。

 手持無沙汰となった私が一枚のクッキーを口の中に放り込むと、こほんと咳払いしたラーミアが上目遣いで私を見てきた。



「お姉さまは、いいなって思っている男性はいらっしゃいませんの?」

「……残念ながらいないな」

「私、思いますの。そろそろお姉さまも、身を固められたらどうなのかと」

「……まあ、妹のお前がすでに身を固めているわけだしな。姉の私が、いつまでもというわけにもいかないのはわかるが……」

「そういうことではなく。少し言い方を間違えましたわ。”女”という生き物は、子供がいることで強くなれると思いますの。たとえどんな状況になろうとも子供がいることで、前を向いて生きていけるのですわ。現に私は、この子(ゾーイ)のおかげで……強くなれたのですから」

「ラーミア……?」

「少し脱線してしまいました」



 妙な迫力を醸し出す妹に私が気圧されると、それに気づいた彼女は気まずそうに苦笑い。



「とにかく。昔のお姉さまならひとりでもぜんぜん平気だったのでしょうけれど、いまのお姉さまは弱体化しているのですし、何か心の支えになるようなものがあれば、と。もちろん、それが男性であれば、直接的に守ってもらえるわけですし、私としても離れていても安心できるのですけれど」

「……お前に心配をかけるのは申し訳ないと思うが、如何せん、私の周りにはロクな男がいないんだよな」



 こればっかりは、男運がないとしか言わざる得ないだろう。

 年下は除外するとして。

 マザコンか、あるいは犯罪者か。



「私の周りで、まともな男と言ったら……」



 私がちらっと脳裏に思い浮かべると、ポットを手に持つアテナが代弁してきた。



「マイアス様ですかね」

「え……っ」



 絶句するラーミアの空になったカップに紅茶を注いでから、私のカップにも紅茶を注ぎつつ、いつもの淡々とした口調でアテナが言ってくる。



「クレア様。いっそのこと、寝取ってみてはいかがでしょう?」

「……相変わらず、お前の冗談は重すぎるな」

「それほどでも」

「褒めてない」



 動揺と戸惑いを収めるように新たに注がれた紅茶を喉に流し込んだラーミアが、ぎゅっとカップを両手で握り締めた。



「お姉さまが本気になられたら、私じゃ勝ち目ないですわ……」

「いやいやいや」



 思いのほか思い詰めた表情になったのが、意外すぎて逆に私が驚いてしまう。



「ラーミア、私がそんなことするわけないだろうが」

「でもぶっちゃけッスけど、クレアナード様が本気になったら、落とせないオトコはいないんじゃないッスか? 悔しくなるくらいの美貌なんッスし」

「リングまで……言うまでもないと思うが、私にそういう趣味はないぞ」



 確かに私の周りにいる男で、唯一ともいえる”まともな男”は義弟(マイアス)だけだろう。

 しかしだからといって。

 彼は、眼に入れても痛くない妹の夫なのだ。

 だからこそ、絶対に在り得ない選択肢なのである。



「というかラーミア、お前もお前だぞ? もっとマイアスを信じろ。一番まともなあいつが、お前に不義理を働くわけないだろうが」

「……もちろん、信じたいと思ってますわ。でも、相手がお姉さまとなると……」

「お前とゾーイが悲しむことを、私がするわけがない」

「お姉さま……」



 揺れる瞳で私を見つめてくる妹に、私は大丈夫だと力強く頷く。

 その一方では、アテナがリングに脇を小突かれていた。



「ちょっとアテナっち。揶揄うのはクレアナード様だけにしてくんない?」

「以後、気を付けましょう」



 ラーミアだけじゃなく私にも止めてくれよ、と思っていると。

 そこへ、ダミアンがようやく戻ってきた。



「ただいま戻りました」

「ん? ダミアン、誰を背負っているんだ?」



 見ると。

 雨で濡れている彼は、ぐったりとして意識がない何者かを背負っていた。




 ※ ※ ※ 


 ※ ※ ※




 雨の森にて、一本の幹に着地したダミアンは、苦い顔を隠せなかった。



(クレアナード様の前でやらかした……あの冷めた目。きっと俺に呆れたんだ)



 あの時のクレアナードにとっては、ただ見ていただけなのだが……

 罪悪感から彼にとっては、自分を責めるように見えていたのである。



(そもそも先輩が悪いんじゃないか。しつこく詰め寄るから、つい口が滑って……)



 八つ当たりしていると、ふいに眼下で動く人影を発見する。

 職業柄というべきか、ダミアンはすぐに気配を殺していた。



 目元を隠す仮面に、目深にかぶったフード。



 小柄な体格から、少年、あるいは少女なのだろうが……明らかに怪しかった。

 しかしその人物は怪我を負っているようで、脇腹を押さえる手が赤く染まっており、雨粒によって流れ落ちていた。

 野良魔獣にでも襲われたのかもしれないが……

 怪しいということに、変わりはなかったが。



(どうしよう……)



 別に放置してもよかったのだが、明らかに怪しい人物を、このまま見過ごしてもいいものか。

 ダミアンが迷いを見せていると、その人物がふいに片膝をついた。

 見る見るその足元が赤く染まっていくことから、見た目以上に傷が深いのかもしれない。



(迷ってる場合じゃない、か)



 きっとこのような状況下ならば、あの人(クレアナード)だったら迷う事はしないはず、と判断を下す。


 枝から飛び降りたダミアンは、片膝をつく仮面の人物へと駆け寄った。



「大丈夫ですか!」



 こんな森の中で声をかけられたことに驚く仮面の人物なれど、その人物は”違う事”に過敏に反応を示す。



()()……っ」

「え……?」



 思いがけない拒絶の言葉に、思わずダミアンが足を止めた。

 しかし仮面の人物は意識を保っているのが限界だったようで、しかも言葉を発したことが影響してしまったのか、その場に崩れ落ちてしまう。



「……考えるのは、後だよね」



 いまはとにかく、深手を負っているだろうこの人物を、治療魔法が使えるクレアナードの元に連れて行くことが先決だと判断する。

 雨のせいでただでさえ体温を奪われているのだから、その上出血もとなると、このまま放置すれば確実に命を落とすことだろう。

 ここで怪しいからと見捨ててしまえば、それこそ敬愛するクレアナードに顔を向けることができなくなってしまう。



「よいしょっと」

 


 意識を失っている彼(?)に簡易的な応急処置をしてから背負う。


 そこで気づくは、この人物が少女ではなく少年であることだ。


 背中に、女性特有の胸のふくらみが感じられなかったからだ。

 ……まあ、控えめな胸なのかもしれないが。



「……俺もつくづく、厄介事に巻き込まれるよね」



 苦笑しつつ、ダミアンは馬車へと帰路をとる──



寝言で何か呟いたようですが聞き取れませんでした。

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