No,3 本の魔人
「――て! 起きて!」
「んぐぅ...あと9時間......」
「9時間も寝ていては日が昇ってしまいますよ!」
そんな可愛い声の怒号に起こされた。
「もう下校時間ですよ。」
もう下校時間...てことは授業時間丸々寝ていたのか。
「じゃあ帰るか。」
荷物を纏め、学校を出る。
―――――
「おい!」
突然玄関前で呼び止められ、何かと後ろを向く。
朝の男子生徒か...
「どうしたの?」
「オレ様と勝負しろ!」
「やだ。」
そう言い、立ち去ろうとするが、尚も止めてくる。
「待てって...言ってんだろ!」
そう言い、杖を取り出し、魔法を放ってきた。
成程。杖タイプの魔術士か。
少年は火を放ってくる。
放たれた魔法が僕に届くまでに考える。
どう怪我をさせずにこの場を収められるか。
選択肢1、わざと食らって大袈裟にリアクションする。危険すぎる。
選択肢2、打ち返す。威力を間違えたら相手が死ぬ上に事が大きくなる。
選択肢3、移動する。これが1番丸いな。
シャーヴェリアをお姫様抱っこした上でテレポートを使う。
《移動》
――ドサッ!――
く...苦しい......
急いで転移魔法を使った影響か、僕のベッドの上で僕はシャーヴェリアの下敷きになったようだ。
「きゃ!ごめんなさい!」
そう言い、僕の上から退いてくれる。
「い...いえいえ。こちらこそ急にごめん。」
「エド〜? 凄い音がしたけど――」
心配で母様が僕の部屋のドアを開ける。
「エド...あなた入学初日でガールフレンドとそこまで...」
恐らく嬉しさだろう。母様はドアの傍で涙ぐみ、口に手を当てている。
「誤解だよ母様! 猫ちゃんが危ない所で咄嗟に」
急造の言い訳を並べる。ちょっと苦しいと自分でも思う。
「初めましてお母様! わたし、エドワードくんのお友達のシャーヴェリア・セントリクスと申します。」
何でこの人平静なの?!
あの後、舞い上がった母様を説得し、シャーヴェリアを家に帰し、やっと安息が訪れた。
なにせ、相手が王女様だ。気を遣い過ぎる。
「はぁ〜...」
今日は気が疲れた。
「ご主人疲れた?」
「あぁ。少し休ませ――」
ベッドから飛び起きる。
今の…誰だ…?
辺りを見回すと、黒髪全裸の女性が手の甲を舌で舐めている。
「ま...まさかくーか?!」
「うん! くーだよ、ご主人!」
まさかとは思うが...くーは人獣種だったとは。
というか...
「くー、服を着てくれ。目のやり場に困る...」
「なんで? くー、いつもこれだよ?」
「だからって人の姿でまで服を着ないのはダメだ。」
そう言い、僕はメイドを呼ぶ。
「お呼びでしょうか。」
「ウィル、この子に服を見繕ってくれ。」
「はっ。承知しました。」
「くー、ウィルについてって服を貰え。」
はーい!と元気良く返事をし、2人は僕の部屋を後にした。
にしても...くーが人獣種だったとは。
入学初日から色々あり過ぎだろ…
―――――
深夜、自室を抜け出し、地下書庫でのいつもの勉強をしている。
ふと、昔に母様に言われた事を思い出した。
『地下書庫には禁書の棚があり、そこには魔人が住んでいる』とか
禁書の棚...どうも気になる。
勉強の手を止め、本棚に手を染める。
この書庫は無き母様に婿入りした父様の趣味らしい。
ここには歴代の国家法務書、おとぎ話、魔導書、様々な本が置いてある。
無き父様...会ってみたかったな。
書棚を辿る。
ふと、床が少し外れている事に気が付く。
外してみると、下にはハシゴが続く。
降りてみると封をされた本が連なっている。
これが…禁書庫。
1冊、手にして分かる。こいつに染み込んだ魔力や魔術師の経験を。
――ズオオォ!――
中から漏れ出る闇の魔力。這い出る魔人。
「そなたか...忌々しき我が封印を解いたのは...」
何かやばいの出てきた〜!
やばいやばいやばい! えっと封印は...
まごまごと戸惑って居ると魔人は空気を揺らす。飛び出す本の数々、壊れる母様と父様の思い出。
その数々に僕は静かに怒りを抱く。
「やめろ」
その後数分の記憶が無い。
後に残ったのは元通りの書棚と魔人だった。
「ごしゅじ〜ん!」
「おわぁ?! くー、どうしたの?」
「ご主人怒ってない?」
「お...怒ってないけど...」
「よ゛がっだ〜...」
泣きついてくるくーを横目に魔人を見るとマスコットの様な見た目になっていた。
「申し訳ありません。」
「いや、良いんだ。どうやらちゃんと直してくれた様だし。」
「それで、何をお望みでしょう?」
「ん? 望みって?」
「魔導書を開く者は須く何かを求めて開くもので...」
生憎、今は欲しいものが無いからな。
「じゃあ、お前の時代の魔法を教えてくれ。」
名前:アシュワード・クランゲイン
家族:夫 義息子
種族:人間
固有魔法:自然魔法
備考:辺境の土地を任された一応の領主。
夫は病で急死しており、行き倒れたエドワードを拾い育てた張本人。
夫が大の本好きで、地下に王宮並の書庫がある。




