No,15 お試し
翌日の放課後、先輩達に論文を見てもらおうと訪れていた。
「イオラさん、ハリー先輩、ちょっとお時間いいですか?」
「ん? いいよ。どうしたの?」
「はい、実は論文を書いていてその評価をしてもらいたくて。」
「いいよ、先輩達に見せてみ。」
フムフム、と2人は僕の論文を読んでいる。
「エドくん、そもそもとして魔冊と刻印の違いを説明できる?」
「はい。魔冊は紙に術式を書き込み、任意のタイミングで魔力を流す事で発動できます。それに対して刻印は書き込んだ術式そのものに魔力を込め、任意のタイミングで発動する。」
「刻印の最大の利点は使用者が魔力を消費しない点です。故に欠点は多使用に耐えうる紙等が無い点が魔術的空論と呼ばれている理由です。」
「分かってるならOKよ。その上でこの論文の問題点をあげるならば技術が確立されると確実に戦争に使われるって事。」
「つまりは?」
「この論文が禁書扱いされるわ。」
「それどころか国家反逆罪かも...」
うーん...これじゃあ機械人形治癒自立型が作れない...
そう悩んでいると、1つのアイディアが浮かぶ。
なら魔冊の様にアクセサリーに治癒魔法を刻めばポーションがかさばらずに済む!
「イオラさん! 刻印に関する書物ってありますか!」
「あるも何も、ハリーちゃんは1年生の時に刻印の研究で賞とったよ。」
「うん、でもあれは人間には無理ッスよ。」
「それは...どの様な理由です?」
「単純明快ッス。魔力が足んないんスよ。」
そうか、じゃあ僕に繋いで...いや、向こうの印を維持する魔力が無いのか。
「そもそも、魔剣だって使用者の魔力を吸って魔法使ってるんスから。」
「どっちみち無理ですか。」
「そういうことッス。」
結局多重詠唱はダメ、刻印もダメか。前線で人を助ける無人の機械人形、機械人形治癒自立型、さてどうしたものか。
せめて前線で動く回復者をサポートする複数使用可能な転移魔冊を作ろうかな。
「先輩、刻印に関する先輩の書いた論文ってありますか?」
「それなら、ウチの書棚に過去の論文をまとめたゾーンがあるッスよ。」
「それじゃ、早速行ってきます。」
―――――
さすがに多いな...
目の前には天井まで届く程の本棚にびっしりと論文がしまわれていた。
えーっと...あった。『刻印の現実的可能性と現状での有用的活用法 著者:ハリー・ウェッソン』
フムフム...要約すると『現時点では不可能。魔冊が限界』と...やっぱり無理かな〜
でも面白い物は作れそうだな。
早速戻って作ろっと♪
―――――
「出来た!」
プラチナの指輪に移動用魔冊の術式を刻んだ簡易魔道具!
「おめでとうございます。主様。」
「あぁ。手伝ってくれてありがとう、ディーク。」
「はい、ですがその魔道具は冒険者ギルドにでも試用させてみては?」
確かに、貸し出してみて、いざ使って失敗は済まされないからな。
「分かった。明日にでも行ってみるよ。」
―――――
「すいません、魔道具の鑑定をお願いしたいんですけど...」
「はい、どちらでしょうか?」
「これです。」
そう言い、昨日作った魔道具を渡す。
「少し持って行っても?」
「えぇ。大丈夫ですよ。」
にしても、自分で作った物がちゃんと機能するだろうか。少し不安だな。
そう思っていると、奥から悲鳴と轟音が響く。
もしかして...失敗!?
なら大変だ!
カウンターを乗り越え、急いで奥に行くと水晶が影も無く輝いていた。
「ど、どうしたんですか!?」
「か、鑑定水晶にかざした所、魔力量の多さに水晶が光を辞めず...」
このままだと暴走してしまう!
「ディーク! 封印を!」
「はっ。」
《封魔儀辞》
光が闇に包まれ、僕の目の前に留まる。
目の前の"それ"はディークが治まっていた指輪に入っていく。
「あ、ありがとうございます...」
そう感謝する受け付けにいた女性は尚も放心状態だ。まぁ、そうだろうな。
見知らぬ子供が持って来た魔道具が魔力量の多さに暴走を始めたんだ。
悪い事をしたな...
「すみません。迷惑かけてしまって。」
そう言い、指輪を持って立ち去ろうとする。
すると、女性僕の服の裾を掴む。
「どうしました? まさか怪我でも?!」
「い、いえ、ですが是非ギルドマスターにあって貰いたく!」
「ギルドマスター?」
確かギルドの長をやってひと人だったはず。
そう考えていると、1つの声が掛かる。
「その必要はないよ。」
――!
後ろを振り返る。
そこには僕の作った移動魔法の指輪を手に取り、まじまじと眺めているシルクハットを被った男性が居た。
「そ、それは危ない――」
「ほうほう、これが。」
そう言い、目の前の男性は指輪をはめる。
「これは...普通の指輪じゃないか。」
そりゃそうだ。指輪は普通の指輪だからな。
「刻印に似せた術式を刻んでいるので、指輪は普通の物ですよ。」
「成程。言い方にして君が作ったのか。」
ば、バレた...
「そうですけど...」
「キミはこれをもう一度作れるのかい?」
「まぁ、労力と生産性を考えて1日1個ですかね。」
「素晴らしい! 是非これを売ってくれ!」
「だ、ダメですよ! 安全性も耐久性も確認してないんですから。」
「安全性も耐久性も今しがた確認する。」
そう言うと、目の前の男性は消える。
「あの人がギルドマスター?」
「えぇ。気になることは何でも自分で試す人で...」
そう言って頬に手を当てている。
相当苦労してるんだな。
と思っていたらいつの間にか帰って来ていた。
「凄いねこれ、魔力が移動魔法の3分の1で済むよ。なのに耐久性もあって安全性も担保されてる。」
「これ、金貨10枚でも足りないくらいだよ!」
うーむ、だとすると...
「持つ人を限らないとマズイかもしれませんね」
「そうだね。だから魔力消費を通常の5倍の品を作れるかな?」
真意は...何となく分かる。
「分かりました。でしたら、明日5つ持ってきますね。」
「いきなりごめんね。」
「いえ、突然持って来たのは僕の方ですから。」




