10.川辺
「ぽひゃー! つかれましたよ! エーヴェ、疲れました!」
システーナに地上に降ろしてもらいながら叫ぶ。
どのくらいアミョーの首につかまってたか分からない。
結局、かけっこは誰が勝ちとも決まらずに、お互いを追い合って遊んでるだけになった。
人を乗せていないアミョーが軽々と先頭集団になってたけど、後ろに回ったり横を走ったりするのも好きみたい。
お骨さまは砂漠じゃなくても速かった。
テーマイも一時は、先頭を走ってたと思う。
ストストは群れを盛り上げつつ、ちゃんと誘導しててすごい。
そして、さっき、少し高い丘の上でみんな止まった。
……やっと一休みです。
「おー、おちび、頑張ったぞ」
システーナはぽかぽかした顔。
――アミョーの背に乗っていただけなのじゃ! 何を頑張ったのじゃ!
「お屑さま、アミョーは弾んで走りますから、しっかり捕まえないと体が放り出されてしまうんですよ」
マレンポーの顔も赤い。
……やっぱり、アミョーに乗るのは大変なことです。
「お屑さまみてーにかぎ爪でつかまれねーんだよ」
お屑さまのかぎ爪はとても便利で、かちゃっと止めると力を入れなくても取れない。
――ぽ! なんともヒトは不便なのじゃ!
お屑さまがぴこんぴこんしてるけど、気にせず地面にひっくり返った。
せっかくここまで来たけど、この後もアミョーにつかまり続けるのは無理かも。
顔に影が差した。
――エーヴェがひっくり返ったのじゃ。
お骨さまが寄ってきて、かたっと首をかしげる。
地面に近づいたから、ントゥがさっと飛び降りてきた。
匂いをかいだり、いろんな方向に耳を向けたりしてる。
……お骨さまに乗るのは、アミョーに乗るほど大変じゃないのかな?
「テーマイもよく走ったなー」
アミョーたちにちょっと遅れて、テーマイがたどり着いたみたい。
近づいてきた顔を下から見る。
……テーマイのこの角度は初めてです。
「おわ! テーマイ!」
鼻と口元周りのヨダレの付いた毛で触られて、慌てて起きる。
「エーヴェは疲れてますよ。そっとしときますよ!」
ぶふっと鼻を鳴らされた。
テーマイが長く走るところは見たことなかったけど、今の様子だと全然余裕みたい。
すっかりサイズの戻ったペロが、ントゥと追いかけっこを始めてる。
ふと見ると、両腕が細かくぶるぶるしてた。
「おお……エーヴェ、手がぶるぶるしてます」
お腹や足もぷるぷるしてる気がする。
「見せろ」
ニーノがやって来て、腕ぷるぷると足ぷるぷるに何か塗ってくれた。
「すーっとします!」
手と足だけじゃなく、鼻もすーっとする。
そのまま、じっとニーノを見てみた。
「……なんだ?」
「ニーノもちょっとぽかぽかしてますか?」
ニーノはマレンポーへ視線を向ける。
……なんと、無視ですよ!
「距離はあとどのくらいだ?」
「もう目の前ですよ。ほら、あそこに」
マレンポーが指さした。
遠くに青く見えてた山がだいぶ近くなり、そこに到るまでのなだらかな丘がある。
「あの丘の麓に水が湧くんですよ。まあ、あそこまで行かなくて、そこに」
ぐっと近くの草原をマレンポーが示す。
「あ! 川ですよ!」
全体に薄緑や枯れ草色に覆われた地面の中に、黄色い土色がむき出しになっているところがある。
くぼみの底に水が流れてる。
「んー? なんかいねーか?」
少ない水の側に、二頭の動物の姿があった。
――おお! あれはスベンなのじゃ!
お屑さまがぴこんっと伸び上がる。
「スベン? スベンザと似てます」
「見た目もちょっと似てるぜ。スベンザより毛がふかふかしてんな」
システーナは手をかざしてうかがってる。
スベンザはお泥さまの座で見た獣で、水牛みたいな角があった。
――うむ! スベンとスベンザは近い仲間なのじゃ! どちらも立派な角があるのじゃ! 草が大好きで始終もぐもぐするのじゃ! スベンは水辺よりも乾燥したところが好きなのじゃ! あれは親子じゃが、おそらく近くに群れがおるのじゃ! 探すのじゃ!
「ほほう」
見回してみると、スベンの親子から少し離れた場所に、一頭のスベンがいて、じっとこっちを見つめてた。
――おれたち、スベンが水飲んでから水飲みに行くぞ。
ストストが首を下げて、顎をかきながら言った。
「順番だね」
ペードが相づちを打つ。
アミョーたちはそれぞれ体をかいたり、くちばしで整えてだした。
休憩と言えば、羽づくろいなのかも。
「貴様は食事だろう」
ニーノが見下ろしてきた。
「はい。エーヴェ、お腹空きました」
水筒と干したラオーレを渡されたので、岩の上に腰かけて食べる。
岩から太陽の熱が伝わってきて、体がまたぽかぽかした。
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