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11.深い海

なかなか再開できず申し訳ありませんでした。

定期更新の再開に向けて調整していきます~

 走り比べで全力で走り回って、野原でひっくり返って、一休み。起き上がったらまた走り回っての、大変な一日が過ぎた。ぜえぜえ息切れしてるのに、口を開けちゃダメとおくずさまに怒られるのはとっても理不尽。

 おくずさまは激しく動いて息も絶え絶えなことってないのかな?

 カウとペードに笑われながらストストに船に戻してもらったけど、立ち上がる力がなくてシステーナが食堂に運んでくれた。頭の中が騒がしくて、ご飯はちょっぴりで寝台に横になってる。

 瞼を閉じても目の前を通り過ぎるのは、つやつやピンクの脚。綿毛が取れたアミョーのヒナの足は磨いたサンゴみたい。だんだん色が濃くなって、蹴爪だけがそれぞれの別の色になる。ヒナたちは鳥だから、くちばしがへの字に見えて仏頂面だけど、今日一日一緒にいて、瞼を上下させて興味津々にこっちを見る顔を何回も見てたら、かわいい気がしてきた。


 みゃ! みゃ!

 みゃうみゃう!

 ――エーヴェはよく走ったのじゃ!


 瞼の裏にはピンクの足、耳にはヒナの声とおくずさまのやんやの励ましがこびりついてる。ヒナたちがひっきりなしに啼いてるのは数もたくさんだから当たり前だけど、長いかけっこの間、ひたすら応援してるおくずさまは偉大。


「――でも、ちょっとうるさいです……」


 口に出したのか、頭の中だけだったのかわからない。目の前にチラつく光景がだんだん遠くなっていく。



 こー――ぽろろろろ……


 音がする。音というか、大きな洞の中、がらんどうの音みたい。


(む? みゃうみゃうじゃないですよ)


 お昼に聞いたヒナたちの声からやっと解放されたらしい。

 ほっとしたけど、むくむく疑問がわいてくる。


 ……じゃあ、今、聞こえてるのは何の音かな?


 はっと目を開けた。

 顔の表面を、たくさんの柔らかくてふわふわしたものが滑って上って行く。

 目を開けたはずなのに、何も見えない。


 ふわふわした感触に、アミョーのヒナの産毛(うぶげ)を思い出したけど、軽く動かした手の感触でどきっとした。

 動きが重い。腕だけじゃなく、体全体が動かしにくい。体に布がまつわりつく感触や顔の前を通り過ぎるごぼりごぼりとした感触。


 ――水の中です!


 暗い水! 恐怖でじたばたして、ふと気づく。

 息が苦しくない。

 口や鼻から泡が上る感覚も体の重さも水中で間違いないのに、息ができてる。

 不思議に思って、ピンときた。


「ここはきっとまどろみどきです!」


 ペロが会った古老さまもそうだった。大きな水の塊の中は明るくて、キラキラしてたっけ。ただ、動くときの感覚は同じ。水の中。水の中のまどろみどき。こんなに真っ暗なのは初めてだけど、深い水かもしれない。

 きょろきょろ周りを見回してみる。

 今までまどろみどきに来たときにはいつでも誰か竜さまに会えた。

 深い水の中といったら、思い当たるのは。


()(めぐり)さまー!」


 叫んだつもりだけど、ぼがぼがと泡になっただけ。息は吸ってないのに、声を出すと泡になるなんてまか不思議。

 とにかく呼吸はできるから、落ち着いて、耳を澄ませる。

 最初に気づいた「こー――」みたいな音が聞こえるだけ。


 ……海巡さま、いないのかな?


(みーめーぐーりーさーまー!)


 今度は心の中で呼んでみる。竜さまたちはまどろみどきの中なら、気持ちだけでだって聞こえるはずだ。

 でも、答えはない。


 ぽろろろろ……


 泡が上っていく音。

 外に耳を澄ましてたはずなのに、自分の心臓の音が強く聞こえてくる。

 いつの間にか十数えた。

 まっすぐ前に両手を差し出して、親指と人差し指を伸ばす。

 窓を作る。

 こんなに早く本番が来るなんて。

 長方形に区切ったところを目でなぞる。暗い水の中だけど、自分の手を伸ばしたところだから、だいたいこの辺だと見当をつける。

 暗い水の向こうに白銀の光がふわりと揺れた。



「りゅーさま!」


 白銀の光を目指して泳いで、四角い窓から身を乗り出す。勢いあまって飛び出したけど、チガヤの白い穂がいっぱいの草原に、でんぐり返しで転げ込んだだけ。


 ――ふむ、エーヴェ? 来たのか。


 原っぱの真ん中でどっしり座って、尾の先っぽだけぶんぶん振ってた竜さまがこっちを見る。尾の先の辺りではチガヤの綿毛がアミョーの綿毛みたいに舞ってる。


 ――古老の教えをよく学んだ。

「はい! エーヴェ、窓を作りましたよ!」


 金の目を細くした竜さまに胸を張ってアピールする。

 竜さまは首を、さっき転げ出た窓に近づける。匂いをかぐみたいに鼻を動かした後、軽く息を吐くと窓が消えた。


 ――海巡のにおいである。


 やっぱり!


「りゅーさま! 海巡さま、いませんでしたよ! エーヴェ、呼んでみたけど、海巡さまの答えがなかったです!」


 泡が昇る音だけが少し聞こえた。


 ――うむ……。急いだほうがよい。


 一生懸命うなずいた。

 地馳さまが言ってた「声がない」ってこのことなんだ。


 ――戻るぞ、エーヴェ。そして、海巡のところへ急ぐのじゃ。


 原っぱから身を起こした竜さまの胸に飛びつく。


「ニーノを説得です!」

 ――うむ。


 竜さまが両方の羽を大きく広げた。

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