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第15話 空白の住所

悟志は、どこから話すべきかを考えた。


涼子の問いは短かった。


「あなたたち、何を記録しようとしているんですか」


だが、その問いに答えることは、ただ研究データの説明をすることとは違っていた。


水鏡神社。

ユグドラシル神殿。

ノア。

黒い修正痕。

現実世界に戻ると薄れていく記憶。


そのすべてを話せば、涼子を巻き込むことになる。


少なくとも、もう普通の保存系トラブルでは済まなくなる。


悟志は一度、朋美を見た。


朋美は静かに頷いた。


真人も止めなかった。


高原は不安そうにしていたが、それでも目を逸らさなかった。


悟志は、ノートを開いた。


「信じなくていい」


そう前置きすると、涼子はすぐに言った。


「信じるかどうかは、私が決めます。先に事実をください」


悟志は少しだけ黙った。


「相変わらずだな」


「余計な感想も後でいいです」


高原が小さく肩をすくめた。


悟志は息を整え、言葉を選びながら話し始めた。


いきなり異世界の話からは始めなかった。


まず、研究所のログに現れた不可解な文字列。

水鏡神社へ導かれたこと。

そこで説明できない現象を経験したこと。

その後、現実世界に戻ると記憶の細部が薄れていったこと。

そして、その記録の一部が、紙や電子媒体から抜け落ち始めたこと。


涼子は途中で口を挟まなかった。


信じたようにも見えない。

疑っていないようにも見えない。


ただ、悟志の言葉を聞きながら、時折、手元の端末に短く何かを打ち込んでいた。


悟志は最後に、黒い修正痕について話した。


記憶の中に現れた、読ませないための黒い塗りつぶし。

それに触れようとすると危険だとノアが止めたこと。

そして、現実世界に戻った後、その現象に似た空白が記録にも現れたこと。


話し終えると、研究室にはしばらく沈黙が残った。


涼子は端末の画面を見つめたまま、静かに言った。


「理解はしていません」


悟志は頷いた。


「それでいい」


「信じてもいません」


「ああ」


涼子はようやく顔を上げた。


「ただ、あなたたちの説明を否定するだけでは、この記録異常は片づきません」


高原が小さく息を吐いた。


少しだけ安心したように見えた。


しかし、涼子はすぐに続けた。


「安心するのは早いです。私はあなたたちの体験談に付き合うために来たわけではありません。見るのは、記録媒体に起きている現象です」


高原は慌てて姿勢を正した。


「はい」


「返事より、記録」


「はい……あ、記録します」


涼子は端末を操作しながら、淡々と続けた。


「現時点で分かることは三つ。ひとつ、外部アクセスの痕跡はない。ふたつ、保存処理自体は正常。みっつ、特定の内容だけが保存後に空白化している」


朋美がノートに書き取る。


涼子はそれを横目で見た。


「紙の記録も残しているんですね」


「ええ。電子だけでは不安だから」


「正解です。電子だけに頼るのは、こういう状況では楽観が過ぎます」


それから、悟志の紙のノートを指した。


「問題の箇所を、私が直接見てもいいですか」


悟志は一瞬だけ迷った。


けれど、ここまで話した以上、隠しても意味がない。


「頼む」


涼子は手袋をつけ、ノートを受け取った。


まるで証拠品を扱うような慎重さだった。


ページを開き、空白になった部分を見る。


しばらく黙っていた。


「不自然ですね」


「分かるのか」


「分かるというより、気持ち悪い」


涼子は淡々と言った。


「普通の空白ではありません。人が書き忘れた余白とも違う。文章の流れの中で、そこだけ情報の圧力が抜けている」


高原が眉をひそめた。


「情報の圧力?」


「比喩です。でも、そう表現するしかない。周囲の文章は、そこに何かがあったことを示しているのに、中心だけがない。削除ではなく、非表示に近い」


真人が静かに言った。


「閉じられている、という表現に近いですね」


「はい」


涼子はノートを閉じた。


「だから、復元はしません」


悟志は顔を上げた。


「まだ何も言っていない」


「言いそうな顔をしていました」


涼子は悟志をまっすぐ見た。


「閉じられたものを見つけた瞬間に開けようとするのは、研究ではなく事故です。特に、何が閉じているか分からないなら、なおさら」


悟志は返す言葉を失った。


朋美が小さく息を吐く。


「涼子さん、言い方はきついけれど、正しいわ」


「きつく言っています。曖昧に止めると、好奇心の方が勝ちますから」


涼子は端末へ視線を戻した。


「境界を叩くのではなく、境界の形を見る。まずはそこからです」


その言葉に、悟志は反応した。


境界。


涼子は、さっきからその言葉を自然に使っている。


黒い修正痕。

閉じられた記憶。

保存できない記録。


それらを、彼女は「境界」として見ている。


涼子は高原に言った。


「同じ内容を三種類で記録します。文字、画像、音声。まず文字入力」


高原は頷き、検証用の隔離端末に紙の記録を入力した。


黒い修正痕に関する部分を書き込む。


保存。


完了表示。


再度開く。


やはり、問題の箇所だけが空白になっていた。


涼子は表情を変えず、次の操作に移った。


「次、画像」


朋美が紙の記録を撮影する。


画像ファイルを隔離端末に保存する。


保存は成功した。


涼子が画像を開く。


一見、写真は正常だった。


だが、拡大すると、問題の一行だけがぼやけている。


文字が読めない。


ピントが合っていないのではない。

周囲の文字は鮮明だった。


その一行だけが、薄い膜に覆われたように滲んでいた。


高原が声を失う。


「写真でも……」


「驚くのは後。次、音声」


涼子の声は冷静だった。


朋美が録音データを再生する。


彼女自身の声が研究室に流れた。


「記録者、小泉朋美。現時点で、悟志、高原、真人、私の記録から同一箇所が欠落していることを確認――」


途中までは聞こえた。


だが、問題の箇所に差しかかった瞬間、音が不自然に沈んだ。


雑音ではない。

無音でもない。


ただ、その部分の言葉だけが、深い水の底へ沈んだように聞き取れなかった。


涼子は再生を止めた。


「媒体を変えても、閉じられる」


悟志は拳を握った。


「やはり、内容そのものに反応しているのか」


「おそらく」


涼子は画面に三つの結果を並べた。


文字は空白。

画像は滲み。

音声は沈降。


「ただし、完全に消えているわけではありません。どの媒体でも、“そこに何かがある”という輪郭は残っている」


朋美が小さく頷いた。


「空白を記録することは有効ということね」


「はい」


涼子は初めて、少しだけ感心したように言った。


「消えた内容を追うのではなく、消えた場所を記録する。珍しくまともな判断です」


高原が悟志を見た。


「先生の案です」


涼子は悟志を見た。


「意外です」


「そこは、意外と冷静ですね、くらいにできないのか」


「できません」


まったく悪びれた様子はなかった。


真人が涼子に尋ねた。


「秋葉さん。この現象に対して、技術的にできることはありますか」


涼子は少し考えた。


「復元ではなく、輪郭保存ならできます」


「輪郭保存?」


「閉じられた内容そのものではなく、閉じられた場所、発生時刻、媒体差、反応条件を独立して保存する。さらに、意味を持つ文章としてではなく、座標やハッシュに近い形で残す」


高原が首をかしげた。


「内容を書かずに、場所だけ残すってことですか」


「そうです」


涼子はホワイトボードに図を描いた。


文章の中に空白があり、その前後に番号を振る。


「たとえば、閉じられた一行を直接保存しようとすると消える。なら、その一行を保存するのではなく、“第三段落の二行目から三行目の間に空白が発生した”という情報を保存する」


朋美が理解したように頷いた。


「空白の住所を作るのね」


「はい。内容ではなく、住所を残す」


悟志はその言葉をノートに書いた。


空白の住所。


涼子は続けた。


「さらに、複数人の記録で同じ住所に空白が出るなら、その一致は強い証拠になります。たとえ中身が読めなくても、そこに何かがあったことは示せる」


高原の表情が少し明るくなった。


「閉じられても、空白の場所は残せる……」


「はい。ただし、内容を取り戻そうとしないことが前提です」


涼子はホワイトボードに、もう一つ線を引いた。


「閉じられたものを無理に開こうとすると、反応が強くなる可能性があります。だから、今は“何が閉じられたか”ではなく、“どこが閉じられたか”を見る」


悟志は涼子を見た。


「なぜ、そこまで“閉じる”という言葉にこだわる?」


涼子は少し沈黙した。


それから、端末の空白部分を指した。


「消すなら、痕跡をもっと汚く残します。壊すなら、周囲にも影響が出る。でもこれは違う。境界が設定されている。ここから先は書けない。ここから先は読めない。そういう処理に見える」


「処理……」


悟志はその言葉を繰り返した。


誰かが処理しているのか。


それとも、そういう仕組みが最初からあるのか。


まだ分からない。


だが、涼子の見方は重要だった。


黒い修正痕を敵と見なすのではなく、境界として見る。


それは、これまでの考え方を少し変えるものだった。


朋美がふと尋ねた。


「涼子さん。もし、黒い修正痕が“閉じるもの”だとしたら、神殿で現れた影は何だと思う?」


涼子はすぐには答えなかった。


悟志は、神殿で影に襲われた時のことを簡単に説明した。


記憶が戻りかけた時に現れたこと。

神殿の結界へ向かってきたこと。

黒い修正痕のように記録を閉じるのではなく、こちらを押し戻すように動いたこと。


涼子はしばらく考え込んだ後、ホワイトボードに二つの項目を書いた。


黒い修正痕。

影。


「別々の現象として見るより、同じ封鎖機構の別モードと考えた方が整理しやすいですね」


「別モード?」


悟志が尋ねる。


涼子は、黒い修正痕の横に線を引いた。


「黒い修正痕は、情報を閉じるもの。読ませない。保存させない。意味へ触れさせない。静的な封鎖です」


次に、影の横に線を引く。


「影は、封鎖に近づく者を押し戻すもの。動く。接近に反応する。排除しようとする。動的な拒絶反応に近い」


高原が小さく呟いた。


「読むな、が修正痕。近づくな、が影……」


「はい。今のところは、その分類が一番自然です」


真人が頷いた。


「修正痕は記憶や記録の封鎖。影は封鎖に近づいた者への拒絶反応。同じ仕組みの、静的反応と動的反応。そう考えると整理しやすい」


涼子は真人を見た。


「ただし、敵と決めつけるのは早いです」


悟志は眉をひそめた。


「襲ってきたのに?」


「襲ってきたように見えた、です」


涼子の声は冷静だった。


「正体不明のものに殴りかかるのは、研究ではなく事故原因です。守るための仕組みが、接近者を危険と判断した可能性もあります。もちろん、それで傷つけられるなら危険です。でも、危険だからといって、悪意とは限らない」


その言葉は、悟志の胸に重く残った。


守るための仕組みが、守るべき相手を押し戻す。


それは、どこかノアの言葉ともつながっているように思えた。


朋美はホワイトボードの内容をノートに写した。


黒い修正痕。

記憶や記録を閉じる静的な封鎖。


影。

封鎖に近づく者を押し戻す動的な拒絶反応。


同じ封鎖機構の別モード。

敵と断定しない。

連動の可能性あり。


涼子はそれを見て、小さく頷いた。


「その分類も、空白索引に入れます」


彼女は隔離端末に新しいファイルを作った。


タイトルは、空白索引。


そこに、淡々と入力していく。


空白一。

発生対象、訓練中に現れた黒い修正痕に関する記録。

媒体、紙、電子テキスト、画像、音声。

状態、空白化、滲み、音声沈降。

推定、内容ではなく境界に接触した可能性。

復元禁止。


分類仮説一。

黒い修正痕、静的封鎖。

影、動的拒絶反応。

同一封鎖機構の別モードとして扱う。

攻撃対象化禁止。

観察継続。


悟志は最後の言葉に目を止めた。


「攻撃対象化禁止?」


「はい」


涼子は当然のように答えた。


「敵かどうかも分からないものを敵として扱うと、こちらの行動が先に歪みます。攻撃は最後です。できれば、最後まで使わない方がいい」


ノアと同じことを言っている。


悟志はそう思った。


ノアは異世界側から、涼子は現実世界の技術側から、同じ結論に近づいている。


無理に開けてはいけない。

敵と決めつけてはいけない。


その一致が、妙に重く感じられた。


その時、隔離端末の画面が一瞬だけ暗くなった。


高原が身構える。


「また……?」


画面に、白い文字が浮かんだ。


鍵は、逃げるためではなく、守るために使え。


前にも見た言葉だった。


だが今回は、その下にもう一行が追加されていた。


開ける者ではなく、選ぶ者。


研究室の空気が止まった。


涼子は画面を見つめたまま動かなかった。


悟志は慎重に声をかけた。


「涼子」


涼子は答えない。


その目は、画面の文字ではなく、その奥にある何かを見ているようだった。


やがて、彼女は小さく息を吐いた。


「……嫌な言葉ですね」


「心当たりがあるのか」


涼子は少しだけ笑った。


だが、その笑いには明るさがなかった。


「私は昔、鍵を逃げ道として使っていました」


高原が聞き返す。


「逃げ道?」


涼子は画面から目を離さないまま言った。


「嫌な現実があると、システムの中に逃げた。人と話すより、暗号を解く方が楽だった。誰かの気持ちを考えるより、閉じた扉を開ける方が簡単だった」


誰も口を挟まなかった。


涼子は続けた。


「でも、開けられることと、開けていいことは違う」


その言葉に、真人が静かに頷いた。


「医療でも同じです。知ることが、必ずしも救いになるとは限らない」


「ええ」


涼子は短く答えた。


「だから、この言葉は嫌いです。正しいから」


画面の文字がゆっくり消えていく。


だが、完全に消える直前、空白索引の下に短い識別子が追加された。


HERMES


高原が息を呑む。


「ヘルメス……」


涼子の表情が、ほんの少しだけ硬くなった。


「神話の名前ですね」


高原が小さく言った。


「ギリシャ神話のヘルメスですよね。神々の伝令で、旅人や商人、言葉や境界に関わる神です。神々の世界と人間の世界を行き来する役割もあります」


涼子は画面から目を離さなかった。


「境界を越える者。伝える者。鍵を持つ者」


その声には、わずかな苛立ちが混じっていた。


悟志は慎重に言った。


「その名前を、どう感じる?」


涼子はすぐには答えなかった。


しばらくして、低く言った。


「嫌なほど、意味が合います」


「受け入れるのか?」


「まさか」


涼子は即答した。


「私は秋葉涼子です。ヘルメスではありません。勝手に役を振らないでください」


その言い方は、森野夫妻と同じだった。


拒否。


しかし、完全な否定ではない。


名前に反応してしまった自分への戸惑いがあった。


朋美が穏やかに言った。


「今は、それでいいと思います」


涼子は朋美を見た。


朋美は続けた。


「私もまだ、自分がミネルヴァだと完全に受け入れたわけではありません」


「それで、よく平然としていられますね」


「平然とはしていません。ただ、慌てると間違えるので」


涼子は少しだけ口元を緩めた。


「合理的です」


「ありがとう」


悟志は涼子に言った。


「巻き込んでしまった」


涼子は首を横に振った。


「違います。私は、自分で見ました」


彼女は端末を閉じた。


「だから、ここからは私の判断です」


「どうする」


「関わります。ただし、条件があります」


「何だ」


涼子はまっすぐ悟志を見た。


「私に都合のいい説明を押しつけないでください。私は、見たものを見たものとして扱います。神話的な解釈は保留します」


悟志は頷いた。


「それでいい」


「それと、危険な記録を勝手に電子化しないこと。必ず私を通してください」


高原が慌てて頷く。


「分かりました」


涼子は高原を見た。


「分かったなら、勝手に試さないこと。好奇心は記録対象ですが、操作権限ではありません」


「はい」


「返事は一度でいいです」


高原は口を閉じた。


涼子はさらに言った。


「空白索引は、私が管理します。内容ではなく、空白の住所を残す。閉じられたものをこじ開けるのではなく、閉じられた形を記録する」


悟志は静かに答えた。


「頼む」


その時、研究室の奥にある管理システムのランプが、一度だけ点滅した。


涼子が即座に振り返る。


「今のは?」


高原が端末を確認する。


「EVE管理領域の監視ランプです。でも、今は何も走らせていないはずです」


涼子はすぐに操作した。


画面に、別のシステムログが表示される。


送信元、不明。

受信先、量子AI実験系管理領域。

状態、遮断済み。

内容、未解析。


涼子の目つきが鋭くなった。


「EVEの管理領域に反応が飛んでいます」


悟志は眉をひそめた。


「EVE?」


涼子が答えた。


「研究所内で試験運用されている量子AI実験系です。中核は管理領域に置かれていますが、完全に外界から切り離されているわけではありません」


「どういうことだ」


「EVEには公開用アバターがあります。街頭ビジョンや仮想空間で歌うAI歌手としても運用されている。外部とは制限付きで接続しています」


高原が頷いた。


「EVE、知っています。サイバーライブで人気のAI歌手ですよね。研究所のプロジェクトだとは聞いていましたけど……」


涼子は続けた。


「ただし、外部から中核EVEへ直接触れることはできないはずです。公開用アバターと中核管理領域の間には、制限層があります」


悟志は画面を見つめた。


EVE。


その名前を聞いた瞬間、胸の奥が小さく反応した。


強い記憶ではない。


だが、どこかでその名を聞いたような気がした。


朋美も同じように、少し表情を変えた。


涼子はそれに気づいた。


「小泉さん。EVEに心当たりが?」


「分からない」


悟志は正直に答えた。


「でも、完全に初めて聞く感じではない」


涼子は少し考えた。


「今日は触りません」


「なぜ」


「反応が出たばかりです。何が橋になったのか分からない状態で、EVEの管理領域を開くのは危険です」


悟志は頷いた。


「分かった」


涼子は端末を閉じ、立ち上がった。


「次回、準備してから確認します。EVEは外部公開経路を持っています。だからこそ、こちらから不用意に呼びかけない方がいい」


高原が小さく言った。


「また、次の扉ですね」


涼子は彼を見る。


「扉という言い方は嫌いではありません。ただし、開ける前に、鍵の向きくらいは確認しましょう」


その言葉に、悟志はノアを思い出した。


無理に開けてはいけません。


異世界の庭にいたノアと、目の前の涼子。


違う場所にいる二人が、同じことを言っている。


悟志はノートを開き、今日の最後に書いた。


涼子は、閉じられた記録を「境界」と読んだ。

空白の住所を作る。

復元は禁止。

黒い修正痕と影は、同じ封鎖機構の別モード。

HERMESという識別子が出現。

涼子は受け入れていない。

ただし、関わることを自分で選んだ。

EVEに反応あり。次回確認。


書き終えた時、研究室の空気は静かだった。


現実世界は、まだ壊れていない。


影も出ていない。

誰かが襲ってきたわけでもない。


けれど、記録の向こうに、新しい境界が見え始めていた。


そして、その境界の前に、鍵を持つ者が立った。

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