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【第98話】ブロとの攻防 その5

『『ガッガッガガガッ』』


 複数の巨体が地面を揺らす!


 白い波から山羊の姿からブロの姿へと変貌を遂げたブロ(A、B、C)がパイン達に迫ってきていた!


(気が付かなかった ・・・)

 獣特有の匂いが鼻につく、こんな強い匂いに気が付かなかった自分が悔しい。波の先にブロの亡骸が所々に広がっているのにも今になって気が付いた。


 そして…。


『ブゥン ・・・ ゥーン』


 まるでパインのことを邪魔だと言ってくるように、ブロ達は鎌を上空に掲げる。しかし進む方向はリンデル。奴らの狙いが彼女なのは明らかだ。


…。


「させるかっ!」

 パインは前へと進み、それの阻止を図る。


『『ブンッ!』』 『シュンッ』


 ブロAの鎌を避け、そいつの鎌を持つ手首を刎ねる。


『『ブモモッ』』


 立ち止まり焦るそいつを無視してすぐ横に来ていたブロBの足元に狙いをつけ水平切りをお見舞してやる。


『スカッ』


(くっそ ・・・)

 頭を振るい幻術を解く。視界がぼやけ、現実に戻る。


 リンデルの方向を見ると、ブロBは鎌を持たない手でリンデルを捕まえようと腕を振っていた。彼女の元に駆ける。


『『バァン!』』


 リンデルはそれを平気な様子でブロの攻撃を躱し、波の中のアルールの駆除を慣行している。


(ちょっと待っててくれ ・・・)


『シュパァ』


(よぉ ・・・)

 波の方を向き、自分の目の前のブロCの両足を水平切り。動きを止める。


『タタッ』


 リンデルの元まで手首の無いブロAと一緒に走る、パインの方が早い。そいつを追い抜いた。


 …。


『シュンッ』


 彼女を捕まえようと必死なブロBの胴体を真っ2つにしてやる。


 後ろを振り返り、ジャンプ。


 ブロAの首を刎ねる。


『『バァン』』


 リンデルの銃が火を噴き、アルールを狩っていく。


「はぁ はぁ まだくるわよ ・・・・」

 後ろから彼女の疲れた声が耳に入る。


…。


 波、羊の群れを見ると今度は5体のブロ(A、B、C、D、E)がこちらへ向かってくるのが見えた。第2波がすでに上がっていた。


(はははっ ・・・ !)

 面白い、暴れてやる!!


 リンデルから距離を取り、5体の前までパインは走った。


 そのまま第2波、ブロAの胸元に飛び込み体を回転、こいつの両手首を切断。


 ブロBに横っ飛び、左足を切断。


(ふへへっ!!)

 2体までなら、相手ができる。しかし首を取る暇はない。


 リンデルまで走る数匹のブロの背を目がけて走る。


「「どこ走ってるのよ!!!!」」


(くっそ ・・・)

 頭を振るい幻術を解く。全く違う方向へ走る自分に気が付く。


(これが厄介なのか ・・・)


 声の方向には3体を相手に施設方向に後ずさりながら必死に身を躱すリンデルの姿。しかし彼女は躱しながらも銃をこちらに向け撃ち、アルールの数を減らしている。

 

 白い波に特攻してアルールを根こそぎ切り倒してやりたい。が、今は無理。


 冷静に対処するリンデルに向け足を走らせる。


「うらぁ!」


 ブロEの肩に飛び乗る。


(間違ってはいけない ・・・)


 自分の頭を小刻みに振りながら奴の首を刎ねる。うひひ。


 そのまま宙を飛びもう1匹(C)、もう1匹(D)の首を刎ねる。


 パインの全身、ありとあらゆる所にブロの血がこびりつく。浴びれば浴びるほど興奮していくようだった。


(あははっ ・・・)


『シュタッ』


 地面に降り、リンデルと向き合う。


「いひひっ」

「うそでしょ ・・・・ きりがない」


 リンデルは血まみれで引きつった笑顔のパインをわざと無視するようにそう呟き、体力剤をグビと飲んだ。


「これで最後」

 リンデルはパインに体力剤を投げた。


 受け取ったパインは勢いよくそれを口に流し込み、手の甲で口を拭う。波を振り返ると7匹のブロがこちらに押し寄せていた。


…。


(ははは ・・・ はぁ ・・・ もう来ないのか?)

 緑の大地はもはや横倒しになったブロそのもの。大地は黒く赤くなっていた。またリンデルのお陰でアルールの幻術は無くなっていた。


 押し寄せるブロよりパインが奴を切り倒すスピードの方が早い。パインの一方的な殺戮がかなりの時間繰り広げられていた。牧場の緑の大地はもはや赤く変色していた。


 またブロ達の血を浴び、パインはもはや彼らと同じか、それ以上に醜くおぞましい姿に変貌を遂げていた。

 しかし通常の羊やヤギ達はそんなパインを最初から笑って見ていた。


(んっ ・・・)

 そして、この刀の切れ味がだんだんと落ちていることが分かった。全力で振らないと硬い奴の首の骨を切断することができなくなっている。

 リンデルも首を横に振っている、おそらく最後のマガジンを銃にセットしている。


 日が斜めに入り、この山の頂上をさらに紅く染めている。


 紅くなった波はポツンポツンと穴が開き、その数は半分程度にまで減ってきていた。


「もう アルールはいないはず ・・・・ でも油断はしないで」


 それにパインは無言で頷き返事をした。


 波から3体のブロが姿を現す。数が少ない。おそらくこれで最後か。そうパインは思い、少しばかり重く感じる刀を地面から抜いた。


(ん?)

 だが、1匹だけかなり小さいのが目に入る。なんなんだあれは。


(あいつが ・・・ 親玉か ・・・)

 そう直感した。


『『バァン』』


「まだ居た ・・・・ ごめん」


 リンデルの銃撃で最後と思われるアルールが倒れる。


『『ドドドドドドドドドドドドド』』 『『メェーーーーメエエエ』』


「んなっ!?」


 突如波から悲鳴と足音が鳴り響き、この山頂でばらばらに散っていく。それを見た2人は声を上げ驚いた。


 しかし…。


 大元の白い波は轟音とともに散り散りに消えていったが、既に山羊からブロになった2匹がこちらに向かってくる。

 そして小さいブロの姿は見えなくなっていた。


(逃げたか ・・・)

 これで、最後なら…。なんとかいける。


 パインは体を2体のブロ(A、B)に向け、身を走らせた。


 いつも通り、ブロAの鎌のタイミングを計り足元に潜り込み、水平切り。


『ズチュ!』 (ん!?)


 ブロAの足の骨に挟まれ、ついにこの刀が止まった。


「「あぶないっ!」」 『ズガァ』 『グゥゥゥゥン』


 パインにブロの鎌が腹に突き刺さった。刀が止まった事でその場に縛られてしまいその攻撃を受けてしまう。そしてそのまま宙に舞い上がる。


「「こなくそぉおおおおおお!」」 『『ズガシャン』』


 腹に突き刺さった鎌を拳で叩き割った。


『スタッ』


 地面に着地。腹から赤い液体が流れ、尻を伝い、地面へとポタポタと垂れていた。


(うへへ ・・・ カンケイない ・・・)


 ブロの足に食い込んだ刀まで4足歩行の体勢で飛ぶ。


『んふっ!』


 すでに足に食い込んだ刀を手に取り、もう片方の手で拳を作り刀の背を思いっきり殴ってやった。


『ぐぎゃっ』


 パインの拳とブロAの足首から鈍い音が鳴る。


『ブゥゥゥゥン』 「「きゃあああああ」」


 横なぎに払われたブロBの鎌をパインは大の字、体で受けた。するとリンデルの悲鳴が耳に入る。


『『バギッ』』


 宙に体が浮くも、鎌の刃を両手で握り潰し、足先で柄の部分を折る。


『スタッ』 


(ふんぬっ!)


 着地し、自分の物となった鎌の刃を柄だけをもつブロBに目掛けて思いっきりぶん投げる。


 …。


 音も立てずに鎌の刃はそいつの顔を2つに割った。


「「きゃああああああ!」」


 2度目のリンデルの悲鳴で後ろを振り返る。


 片足のブロAがリンデルを摘まみ上げている。


(くっそ ・・・)

 急に体が思う様に動かなくなる。視界がボンヤリ。それが夕方のせいか、それとも流れ出た血のせいなのかは分からない。


(こ なくそぉおおお!)


 リンデルまで走り、ブロの背面にしがみつく。


 手の先を凶器にし、奴の背中を突き刺しながらよじ登る。


 パインを払おうとする奴の手にはもうリンデルはいない。


 奴のその手にジャケットだけ預け、首元まで登りきる。


『『ぶもぉぉおおおおおお!』』 


 奴は無我夢中で首を動かす。だが、足で奴の首にしがみつき、踏ん張る。


『『ズッッガッ!』』


 両手でこぶしを作り、渾身の一撃を奴の脳天にお見舞してやる。


『ドゴーーーーン』』


 奴と一緒に地面に転がる。


「がはっ ごほっ ・・・」


…。


--------------------------------------


 やっと終わった…。か?


 身を起こし片膝をつき、辺りを見渡した。


(いない もう いない ・・・ あはは)


 地に伏す何体ものブロと銃を構えるリンデルのみしか見えない。


 長かった。何時間も全力を出した。


「やっと ・・・ 終わったよ ・・・」


 満身創痍。彼女もそうだろう。声をかけた。


「来ないで ・・・・ 来ないで!」」

「えっ? ・・・」


 なんだ。頭がぼやけて意味が……。意味がわからない。震える膝を抑えて立つ。腹からドクドクと血が滴っている。


(やばいかな これ ・・・)


「もう いないよ ・・・ ほら」


『『バァン』』


(あれ ・・・ ?)

 左胸が冷たくなったと思ったら熱く、痛くなってきた。どゆこと?


「こ こないで ・・・・」

 リンデルの目から涙が溢れている。


「もう終わったって ・・・ なっ!」 


『『バァン バァン』』


「「リンデル やめ ・・・ ろ」


( ・・・ ・・・ )

 痛い。痛いじゃないか、なにをしているのか分かっているのか?


『カチッ カチッ』 「「こないでバケモノ!」」


…。


『お久しぶりです コクワン様』


(・・・ んなっ ・・・)

 やめてくれ、追いつかない。頭が…。


 リンデルの後ろから忘れていた小型のブロが姿を現してきた。


 そいつはこの夕日よりも赤く、ニヤとこちらを見て笑ってきた。


(どいつもこいつも笑いやがって ・・・)

 無意識で右手を見て、力を借りようとするも。


(・・・ なんでだよ)


 返事が返ってこない。


『カチッ カチッ』


 リンデルはまだパインに向けて銃の引き金を引いている。


(そういうこと ・・・ か)

 しかし、よく彼女を見ると彼女の黒目が横に伸びていた。この喋りかけてきた奴と一緒の目をしていた。


「参りましょう お嬢さん ・・・」


「うんっ ・・・・」


(待てよ ・・・)


 2人は施設の中に入っていこうとパインに背を向けた。


(させるかって!)


 拳を作り奴に殴りかかる。


(あれっ ・・・)

 途中から力が抜け、体勢を崩して膝をついてしまった。


「あたな様もおいでになりますか ・・・ ?」

 そう奴が話しかけてくる。


「ふざけるなっ! 彼女を放せ!」


 そう言い放ち、立ち上がる。刀を拾うと、奴の背中めがけて突き刺すべく走った。


『おい 止めろ』

 突如として右腕の奴が喋りかけ、自分のそれを阻止していた。


『話を ・・・ 奴と話しをしろ』

 続けて右腕が語りかけてくる。


 すると今までよりもさらに力が全身から引き、刀を持つことすらできないほどの脱力感がパインを襲う。何が起きたのか彼自身理解することができない。


『ガチャン ・・・』

 ついに刀が地面に落ちる。


「「なんなんだよっ!!!!」」

『落ち着け ついていけ 話は後だ』


「くっそぉ ・・・」

(ふざけるなっ ・・・)

 力が入らない。無理やりにでも右腕は自分を抑え込むつもりだ。赤いブロと無口になったリンデルの背を追うことしか今のパインはできなかった。

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