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【第97話】ブロとの攻防 その4

 …。


 重苦しい雰囲気の車内。このストーンパディの田園風景は青空の下。人も車もまばらにして広がる。


 目的地、この町の役所までの道のりで先ほどの1体のブロの他にもう2体始末していた。


 既に亡骸となったブロの存在も車の中から確認できた。おそらく先にこの地来た、またはこの地の冒険者が始末したのだろう。


「すごいよこの刀ぁ!」

「なにCMみたいに 言って ・・・・」

「あはは ・・・」


 パインは冗談を交えて空気を換えようとしたが、失敗している。


 ブロを始末する時、彼女はもはやグレネードを使うのを止めていた。目の悪いブロに対して、数発ハンドガンで挑発するのみだった。


(しかし ・・・)


「なんかブロってリンデルしか見てないよね?」

「そうね ・・・・」

「俺じゃ相手になんないのかな ・・・」

「いいわよ そうゆうの ・・・・ めんどくさい」


 こうして役所までいく道中はブロによって壊された車、被害にあった亡骸となっていた人々。普段では絶対に見ることができない光景が広がっていた。


 地に伏す人々は皆男であった。


…。


 空気は大して変わることが無かった。そして目的地の駐車場に車を止める。


「行くわよ ・・・・」 「うん」


…。


 ここの役所の作りはほぼ自分等の町の役所と同じであった。ただ違うのは。


 駐車場にほどんど車が止まっていないことと。


「すごい ・・・ みんな見てる」


 ぎゅうぎゅう詰めにされ、避難している一般人達の姿であった。


『『きた きたぞ』』 『『ザワザワ』』


 大勢の人をかき分け、仕事をしている人まで歩いていく。期待と羨望の眼差しを受け恐縮してしまう。小回りの利くリンデルを追うようにして歩いていく、それだけでも大変だった。


「どうも 「パイン達」 です」

 受付のお姉さんに、わざとらしくそうリンデルは言っていた。


 「あっ」と気が付いた受付は自分達を奥へと連れて行く。


…。


「はるばるすまないな ・・・」


 またトントの姿が出てくるんじゃないかと内心ひやひやしていたが、今回は違った。


 普通の中年のおじさんが出てきていた。四角い眼鏡に髪を後ろに固めている。しかし、無精ひげが顔全体に細かくちりばめられていた。


 グンザと名乗るこの役所の所長と軽く挨拶を済ませ、リントの話の内容と照らし合わせるための会話を開始する。


「大きな施設はここと学校くらいしかなくてね ・・・」


 避難している人々の事を言っているのであろう。


「現地の冒険者は出払っている 主に救助だ」


 怪我人は病院へ、そうでない人はここや近くの大きな施設に運び込んでいるようだった。


「リンデルさんだよね ・・・」

「はい」

「あのブロ達は女性 ・・・ それも比較的若い女性を狙ってくるようだ」

「この役所も外から見える所には女性は出さないようにしている ・・・ ここもだ」


(やっぱりそうか ・・・)


「どこに? 目的は?」


 リンデルはそれに何も躊躇せずに質問をしていた。


「目的は ・・・ わ 分からない ・・・ 連れ去る場所は ・・・」


 リントが言っていた娯楽施設を言ってきた。


 娯楽施設とはいっても自然観光が主で、この土地一番の名所であるロープウェー周辺を指していた。


 その場所までここから車で1時間ほどであると彼は言う。


 そこまでグンザが話すと彼は困惑したような表情を見せはじめた。


「救援物資はいつだ? 持たないぞ ・・・」

「それはアタシたちの仕事ではないです」

「ちょっと ・・・」


 パインは淡々と喋るリンデルの肩を引いた。


「う すまない ・・・ こんな生活慣れていないんだ皆」

「そうですよね ・・・ 解決できるよう最善を尽くします」

 パインはそう話して空気を和ませた。


「す すまない ・・・ よろしく頼む ・・・」

 所長は今にも崩れそうな様子であった。


…。


「寄る必要なんてあったのかしら?」

「う うーん ・・・」

「連れ去っている場所まで知っておいて何も言わないわよあいつ」

「た たしかに ・・・」

「何か隠してるわ 勘だけど ・・・・」


 ロープウェーまでの道のりも重苦しい空気に押しつぶされそうであった。爪を噛み考えるリンデルの仕草にパインは何も言えないでいた。


…。


 車で移動すること1時間。山の麓のゴンドラの駅と大きく看板が書かれた広場の前に車を停めている。


「ロープウェーは ・・・・ そりゃそうよね」


 ゴンドラは使われておらず、ただワイヤが山の斜面に沿って張ってあるだけであった。ここまで来る時にも1匹ブロが居たが、それは無視して移動していた。問題の把握、もしくは解決が先決とリンデルが話していた。


「ねぇ?」

「なによ」


 パインは1つ疑問がここに来て湧いていた。


「この季節って確か花咲くよね ・・・」

「そうね ・・・・」

「そんなこと後で考えなさいよ あんたこれからやることしっかり頭いれなさいよね!」


 リンデルにそう言われ、頭をどうにか切り替える。


 彼女はライフルのスコープを取り外し、山の斜面をそれを用いてしばらくの間確認していた。


「斜面にもいる ・・・・ 無視したいけど ・・・・ 今何時?」


 パインは上司に時間を伝える。


「はぁ ・・・・」

 彼女はわざと聞こえるようにため息を発し、作戦を伝えてくる。


…。


(こ これはみなぎってくる ・・・)

「あたしはあんたと違って普通の人だからね?」


 作戦を伝え終わるとそう言ってきた。


 彼女の装備はランチャーとライフルを置いてハンドガンのみの軽装になっていた。


 登山なんだから仕方がない。


「あんたが先行って もし見つかったら暴れなさいよ」


 それに「うん」と気持ちよく返事してやる。


「はぁ ・・・・ 」

 彼女は再度のため息の後に大事そうに体力剤と新発売の「みなぎりゼリー」をぽっけに仕舞っていた。


…。


「気持ちがいいね ・・・ 空気がおいしいよ」

「・・・・」


 山の空気は美味しかった。ローカス山よりも北に位置している、ここストーンパディの空気は澄んでいた。尚且つこうしてジャケットを着ていても肌寒い。


 山の斜面は半分歩けて、半分崖になっていた。ただ、普段であればこの季節であれば木々には花がチラホラとついているはずだった。しかし、この時どの木にも蕾すらついておらず、不気味なまでに青々と生い茂った葉がついていた。


(なんか変だなぁ ・・・)

 パインは心のどこかでその違和感を感じていた。しかし、つい最近まで船の上にいたことや南にいたことで自分の感覚がおかしくなっているのかと思い、そのことはとりあえず胸にしまうことにしていた。


 パインが先導し、辺りを確認しながら登っていく。標高は麓から高低差1000m程度といっていたが、なかなかに手ごわい。


 半分も来ていないが、リンデルは言葉を発せずにしていた。


 崖はパインが先によじ登り、リンデルを引き上げる。肩に背負っている刀のほうがリンデルより重い。楽勝である。


(いいねぇ やっぱ山はいい)


 変なスイッチが入り、普段よりも元気になっている。なんでかはよくわからない。


「あっ ・・・」

 半分ほど登ったところで見覚えのある獣が目の先にいた。


『『ギッギギギギッ』』


 しかしそいつはパインと目が合うや否や茂みの中に逃げて行った。


(おろろ ・・・)


「嫌われているみたいね ・・・・ 食べ過ぎよ」


 言われてみると確かに、パインはイボアの肉の味を想像しているのに気が付いた。


「あはは」

「笑えない ・・・・」


 リンデルの額からは汗が流れていた。今にも倒れそうなほどに体力を奪われてしまっている。いつの間にかジャケットを腰に巻き、長そでと首にタオルを巻くその姿に少しだけ同情をしてみた。


「休憩する?」 「するわよ!!」


…。


『カサッ カサカサ 』


『来るわよ』 『うん』


 ここ、少し開けた場所で休憩すること15分程度か、木々の間に奴が姿を現わしていた。


 大ぶりの得物は木々の間では使い物にならないのだろうブロもこちらを認識していた。だがその前にパインが特攻を開始する。


--------------------------------------


 ブロは得物を両手で正面に持ちこちらに振るってきた。


 そんなもの目を閉じていたって避けられそう。


 パインは斜面を下るスピードそのまま彼の体をよじ登るようにして斜めに切り上げた!


『『ブモッォオオオオ』』

 ブロの叫び声と同時に彼の首が本体から分離した。



「「うわっ っちょ」」


 パインは勢いそのまま斜面を転がってしまう。


「「なにやってんのよー 上からも来るわー!」」


 もはや見つかってしまっているのでリンデルは叫んでパインに助けを求めていた。


「んしょ」


 体を起こし、斜面を勢いよく飛んでいく。


 リンデルはブロの股の下を何往復か潜りこんで奴の攻撃を避けていた。


「そりゃっ!」 


 駆け上がるついでにブロの首の高さまで飛び上がり水平切りをお見舞する。


『ぶもっ』 『『ドチャッ』』


「「きゃーーーー!」」


 リンデルの足元に大きな山羊の顔と鎌を持つ手がドサと落ちる。


…。


 みなぎりゼリーを摂取したリンデルは少しだけ元気になっていた。


「「走るわよ!」」 「「うん!」」


 すでに声はブロ達に聞かれている。このテンションのまま山の斜面を登り、山頂まで向かうことになる。


…。



「あんた ・・・・ ほんと ・・・・ オカシイ はぁはぁ」


 こうして見晴らしのよい山頂まで駆け上がることに成功していた。最後のほうはリンデルをほぼ背負って走っていた。


 運が良いのか、斜面を見下ろしてもブロはあの2匹以外遭うことはなく、また追ってきてはいなかった。


 山頂はかなり広く、開けた台地になっており、所々に休憩所などの施設や森、牧場が広がっている。


「ここが ・・・」

「そうよ」


 最初に被害が出た場所であった。


 息が落ち着いたタイミングで散策を開始する。薄くなっているけれども標高の高い山の空気は美味しい。


「あ ・・・・ 」


 リンデルが地に伏す男性を見て口元に手を添えている。


「サリナのとこの冒険者 ・・・・ 元同僚」


(そうか ・・・)


「急ごう ・・・」 『うん ・・・・』


 知らなかった、リンデルが今回の討伐になぜか寂しさみたいなのを匂わせていること。


 その理由が前の組織が壊滅していたということに。リンデルの手を引き、足を走らせる。彼女の手はいつもよりはかなく小さく感じた。


…。


 しかし…。

 行けども行けども見つかるのは男性の亡骸のみ、施設に入るも誰もいない。


 ブロすらここに出てからは姿を消していた。

 そのまま山頂の開けた牧場を散策し、奥の一番大きな建物に足を踏み入れる。大きなガラスの自動ドアがゆっくり音をたてて開く。


「どうゆうこと ・・・・?」

「分からない ・・・」

「手がかりくらいあってもいいじゃない!」」


 その一番奥の施設に入り、そこを探索をする中での会話中に突如としてリンデルが叫んでそう言う。


「ちょっと待ってって!」」

 落ち着かせようと声をかけたが、リンデルはそれを無視して外に飛び出そうとする。


「「待って! ん?」 「「うるさいっ ・・・・ あ」


(まずい ・・・ 今頃になって気が付いた)


「「サリナ!!」」

 リンデルがドアを開けると、そう叫び人が居ない方向に駆けだしていた。


「「リンデル!!!だめだ!!!」」


 頭を思いっきり振りそう叫ぶ。


 視界がボンヤリとした後に、薄くなった山の空気が胸を苦しめた。


…。


(最初から 居たんだな ・・・)


 ドアの向こうに広がる圧倒的な景色。山頂に着いた時には無かった景色。


 この施設を囲むように白い波、羊と山羊の群れが灰色の顔と綿のような白い毛を多量に並べこちらを見ていた。


 そしてその中にポツリポツリと群れの中に混ざって居るピンクと紫の縞模様の羊。


(アルール ・・・)


 紫色の毛並みの羊の獣…。そいつがこちらを笑いながら見ていた。


(くそっ ・・・)

 山の空気とばかり思っていた。

 父から聞いたそれよりも、普通のそれとほんの誤差でしかないこの匂いの正体に苛立ちを感じる。存在を知っていたのにも関わらず「幻術」にかかってしまった自分が悔しくてならない。


(だけどっ ・・・)


 かっ飛ばしリンデルを捕らえる事に成功する。


「やめて!なにしてるの! 離しなさいよっ!!!」

「あそこにサリナがいるじゃないの!」

 脇に抱えるリンデルが羊らを見ながら騒ぎ立てている。


「「幻術だよ! 頭振って! ・・・ 」

「「えっ !? ・・・・ ゴホッ ゴッホ」

「 ・・・・ うそ」


 苦しむ様子を見せるリンデルに安心し彼女を地に立たせた。


『メェェ』 『『メェェエエエメェ』』


「なによこれ ・・・・」


…。


(なぜだ ・・・ 奴らは戦闘向きじゃないはず ・・・ なのに)


 逃げると思ったやつらはこちらを見る目をそのままに煩く鳴いていた。


「!!」 「なっ!!」


 自分達を逃げられないように囲む白い波の中の一匹の普通の山羊がぬっっと体を大きく、色を黒くして立ち上がる。


 山羊がブロに姿を変えていた。次々にブロに姿を変えていく。何匹いるのだろうか……。


 パインはその光景に唾を飲みこみ、背中の刀に手を伸ばす。


「あたしはアルールを あんたは」 「分かってる!」


 その言葉を皮切りに白い波に囲まれた平地で戦闘の幕が開く。

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