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【第96話】ブロとの攻防 その3

 翌朝…。


 日がまだ上らない薄暗い青の空の下、出発する。


…。


「「おい! 起きろ!!!」」

「むにゃ ・・・」


 リンデルに肩を揺らされ目を覚ますと、もうすでに高速を降りており、田園や山の風景が広がる土地に着いていた。


「「いびき!よだれ! 新車なのよ!」」

「「ごめん! もう着いちゃった!?」」

「「付いてるわよ!」」


 シートがあまりに居心地がよく随分寝てしまっていたようだ。しかし、そこはまだ途中であった。あらかじめ行くことを予定していたらしい有名なレストランに来ていた。予定は全てリンデルが組んでいた。


「朝 食べてないのよ! ほら!」


 随分荒れてしまっている彼女からタオルを受け取ると、自分が垂らしたヨダレをそれで拭いた。すいません。


 おずおずとパインはリンデルの後を追い、レストランまで足を運ぶ。


 店頭では営業中の暖簾が風で揺れていた。


(ん ・・・?)


 違和感に気が付いた。ただっぴろい駐車場にポツンとリンデルの車ともう1台の車だけ。赤い4人乗りのオープンカーが停まっている。角ばっていてゴージャス、レトロなそれがかなり高価な車だということは一目で分かった。


「「いらっしゃいませ 2名様ですか?」」


『『アハハハハハハ』』 『『ガヤガヤガヤ』』


「す すいません 実は ・・・・」

 給仕のお姉さんがこっちに顔を近づけ、申し訳なさそうに喋りかけてくる。


 どうやらあの赤い車の持ち主が派手にやらかしているという事をボソボソと伝えてきた。


「いいわよ別に ・・・・ ねぇ?」

 そうリンデルに言われ、相槌を打つ。


 なるべく離れた場所に腰かけ、注文を済ます。


『『ペタペタペタペタ』』


( ・・・ )

嫌な予感がする。


「「おまんた なして ここに?」」


(うわっ ・・・)

 黒のノースリーブのシャツとジーパン姿の女性が1番離れているこの席までわざわざ挨拶しにきていた。


 肩まである髪は綺麗にパーマがかかっており、化粧の下から赤い肌が所々覗かせている。


 相当酔っぱらっている様子だ。それに素足だった。


「ああ ・・・ どうも 仕事で」

「稲でも刈りいくん~? あはは だっさ」

「いえ ストーンパディの ・・・」

「そいがぁー いねやん! ウケる!」


「ださいっていうならそのよくわかんない言葉直してからがいいんじゃないかしら?」


(はぁ ・・・)


「「お おめのおっかさ おっかねぇ~~~~!」」


「稲なんていつの時代よ ・・・・」

 そうリンデルが言うと、よっぱらいの顔が一瞬ピクッと素面に戻っていた。


(あああ ・・・)


「「あああ~すいません ジーサさん だめですって!」」

「「おもっしょ! ああ つかめられたぁ~」」


 スーツ姿の酒を唯一飲んでない風の男が丁寧に謝ってきていた。連絡先を書いた名刺をテーブルに置き、酔っ払いを脇に抱えてその場から連れ去っていった。


『『やんども!!! のむべぇ!!!!』』


 懲りもせず、あの女性の声が店内に響いていた。


 あの男性が止めていなければ、こちらの暴れ馬もどうなっていたか。考えるだけで眩暈がする。食事は多分美味しかった。


 まだ時刻は10時を過ぎたばかりだ。


…。



「あの女のせいで台無しじゃないの ・・・・ ジーサね ・・・・」


 言葉とは裏腹に名刺を見ながら運転するリンデルの顔は半分笑っていた。


…。


「うそでしょ ・・・・ こんな街中に ・・・・」

 運転するリンデルがそう口を開いた。


 店を出て30分ほど足を延ばした市街地、市街地とはいっても自分らの町よりもかなり密度が低いのだが。広い敷地を生かした大きな家々や背の低い雑貨店などが道路に沿って点在している。

 

 ただっぴろい片側2車線の道路の脇のそれまた広く作られた歩道に奴がいた。


 もうすでにその情報は町で共有されているのであろう、道を走らせる車はまばらで、その運転する人々の恐恐とした表情は奴のせいである事は間違いがない。


「作戦通りよ ・・・・ 行くわよ」


 道路脇に車を止め、準備を開始する。


 パインは太刀の入った鞘を手に握る。リンデルは重たそうに武器を手に取る。作戦と言っても、やることはいつもと一緒だ。変わったのは。


--------------------------------------


『『ボシュン』』


『『ドガーーーン!!』』


『チャキ』 『チュワァァン』


 新調したリンデルの武器、グレネードランチャーと。昨日必死に磨いたこの刀である。磨かれたそいつから空気を切り裂くような音が響いていた。


…。


『『ボォオオオォォォォ!!!』』


 リンデルによってもろに胸に弾が着弾したブロから雄たけびが上がり、こちらに勢いよく迫ってくる。


 その身は2mを優に超えている、山羊の顔は悪魔のよう、それに合わせるかのように持つ大型の鎌。父から聞いていたのとほとんど変わらない。


 それは所々折れ曲がりながらも上へと伸び、その先に不気味に輝く曲がった刃がついていた。


 赤黒い腹を見せながら2本脚でカッカッとアスファルトを蹴り弾く姿。


(SFじゃないか ・・・)

 こうして経験を積んでいなければ腰が抜けるのは必須だ。奴が見ているのはリンデル、その前3mほどに自分がいる。


 仁王立ちし、右手に握った刀を地面と水平にさせる。


 ブロは邪魔だと言わんばかりの様子で鎌を遥か上空に抱え、振り下ろす!


(おそすぎる ・・・)


 身を丸くし、奴の足元に転がり、そのまま水平に刀を薙ぎ払う!


『 チュイーーーーン 』


 奴についていたはずの左足、地面からおおよそ50センチ、は音もたてずに本体から離れる。


…。


『ドッサ』


『『ブッブモォ・・・ 『『ダーーン』』


 足が脱落したことで体勢を崩したブロの顔面にリンデルの次弾が放たれていた。


『『ドダダン ガチャ』』『ブモモォ ・・・』


 顔面に放たれた爆発でさらに体勢を崩し、奴はアスファルトの上に仰向けに倒れ込んだ。


 サと跳躍し奴の腹の上に立つ。


 顔面は半壊し、むき出しになった歯が少しだけ笑っているように見えた。ブロはパインを払いのけようとしていたが。


(これが ・・・ Bクラス?)


『チュンッ』


--------------------------------------


 パインはそう思いながら奴の首元に刃を滑り込ませた。奴の払いのけようとする手に体が触れたが、もはや自分を握る力さえ奴には残されていなかった。


(あっけない ・・・ つまらないじゃないか ・・・)


 全身を痙攣させながら奴は笑う顔を横にし息を止めていた。


 フナオーと同じ、思っていた半分以下の苦労で達成感すら感じられない。


「あっけないわね ・・・・」


 後ろを振り返るとリンデルも同じことを言っていた。だが、彼女の自分を見る目が少しだけ変であった。なぜか恐怖の表情を携えているように思えた。


(なんだ?)

 そう思いつつ、鞘に刀をしまおうとする。


「「ちょっと! 最後まで気を抜かないで!」」


 何故か叱られる。


(あ ・・・ そうゆうことか)


 用意していた2枚のウエスを使い、不慣れな動作で刀を拭き、鞘に納めた。


…。


「すごいね グレネード」

「1発で一般人の月の配給分よ ・・・・」

「はぁ まじか 良く分からないことになってるね」

「あんたが言うセリフじゃない ・・・・」


 車へと戻り、口数の減ったリンデルと次の目的地へと向かった。

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