【第95話】ブロとの攻防 その2
「かたなぁ ・・・ !? おまえがか?」
パインはゼンダに。いや、アッシュに連絡を入れていた。なんとなくそれが良い気がしていた。
…。
役所からリンデルに自分のアパートまで送ってもらい、この日の残りは刀の準備に当てることになった。そこで、このコーダンの刀をリンデルが試しに持つといい、このアパートのベランダまで運んでくれたのだが。
「あんた ・・・・ やっぱおかしいわよ ・・・・」
「え?」
「ごめんなさい こんなに重いとは思ってなかったわ ・・・・」
パインはリンデルの言葉に軽く返事をした。両手を引っ張られるようにこの刀を持つ彼女の姿はこの刀の重さを再度実感するに至った。
そして、何かを察知した彼女は「手伝うわ ・・・・」そう静かに言ってきた。
(なんだ?! ・・・)
…。
「つかコーダン刀なんて使うの見たことねぇぞ? 多分だが それあいつのじゃねぇな ・・・」
「はぁ ・・・ 確かに なんか違いますよね」
「つーかおめぇら もう向かってるんじゃねぇの??」
「うっ ・・・」
またリンデルに変われと言われるかと思ったが、この時は違っていた。
「まぁいい そもそもおめぇにやれる仕事じゃねぇよ ・・・ 刀研げる奴は滅多にいねぇよ」
「で ・・・ ですよね」
「あとで専門の奴の事メールしとくからどこか暇見つけて行ってこい」
それに「はい」と返事をする。
「教えないで渡す奴も悪い まぁ 俺に連絡いれたのは悪くねぇよ」
今日は機嫌がいいのか、少ししか怒られなかった。そして、とりあえずの処置を教えてくれた。
まず電話をビデオ通話に切り替え、刀の形状を見せた。
「切れるわけねぇだろ!」と言われ、用意するものを伝えてきた。荒い目の砥石、細かい目の砥石、砥石粉、ウエス。
荒い目の砥石を持っていたので、それをアッシュに見せると、大丈夫と言っていた。無い物はリンデルに伝え、買ってきてもらう事になった。
ビデオ通話越しにアッシュがつらつらと研ぎ方を伝授していく。
バケツに水を張り、砥石を中に沈め、しばらく経ったあとにベランダの荒いコンクリートの地面に置く。
刀の持ち手部分を外し、鉄の塊の状態にする。
「いいか 重いから支えながら動かせよ! 素人がやる作業じゃねぇから慎重にやれ」
そう言われ、丁度携帯のカメラが自分の姿を映し出せるように置いた。
もの凄い体勢での作業であった。ただでさえ重いのにも関わらず、それを地面すれすれで指先だけを用いる作業。
ほんの数分で額から汗噴き出る。それが鼻を伝って地面に落ちる。
「おまえ血すら拭いてねぇのかよ ・・・」
少し離れた位置にある携帯からアッシュの声が響く。それどころじゃなかったとの言い訳は彼には出来なかった。
「角度は一定にな おい! 地面に刀落とすな」
「はぁ こんな感じですかね ・・・」
「とりあえず ・・・ いいぞ 反対側いけ」
車がベランダ脇の駐車場に入ってくる音がした。
…。
「買って来たわよ ・・・・ うわっ」
丁度片面が終わったタイミングでリンデルが帰ってくる。パインの汗だくの姿と、それを携帯で撮っている光景に身を引いて見ていた。
「と とりあえず ここ置いとくわよ ・・・・ 何かあったら呼んで」
それに「うん」と返事をした。
…。
「次行け ・・・ 何へばってんだよ」
サウナにでも入っている気分だった。ただ、この経験はアッシュと出会って早いうちに経験したのを思い出していた。
(あの丸太 あはは ・・・)
いつになっても自分にはこういった作業がつき纏ってくる気がしていた。
…。
次の工程は細かい目の砥石で、荒く削った跡を消す作業であった。それももっと丁寧にやらなくてはならい。これからあの父がやり合った相手をするのにも関わらず、その前から息を上げている。
「ふんっ!!!」
気合を入れ直し、重い鉄板を持ち上げる。
…。
「とりあえず そんなもんだろ ・・・ おもしれ その顔久々に見たわ」
カメラを覗くと案の定笑いながらあんぱんを頬張る教官がいた。
「ありがとうございます ・・・ はぁはぁ」
変なところで癇癪を起すパインはそこにいなかった。
「あと あれだ ウエス2枚用意しろ」
続けてアッシュは血を払ったあとに少し湿らせたウエスで血をよく落とす事、もう1枚のウエスには砥石粉と油を軽くつけて刃先だけ払うように拭けといっていた。
(なるほど ・・・ な)
血が刃をすぐにナマクラにしてしまうらしかった。
「出発は何時だ?」
「4時です ・・・ はぁはぁ」
「あはは! ざまぁねぇな!」
「 ・・・ ありがとうございました」
カメラにはアッシュとその作業台が映っていた。彼も自分と一緒になって何かを作っていたようだ。
「ブロだろ? 今のお前にゃ相手になんねぇよ 思う存分暴れてこい」
師匠から意外すぎる言葉が出てきていた。
「わ 分かりました! はぁ ・・・」
「じゃあ ・・・ あ ・・・」
「あ ・・・ ?」
「鞘はどうなってんだ ・・・ ?」
『『ガラガラガラ』』
「「これでしょ!」」
部屋着姿のリンデルがサンダルを引きずり、ここにやって来ていた。
どや顔で鞘の中身をアッシュに見せびらかしていた。
「随分仲良くやってんじゃねぇか ・・・ 上出来だ もう寝ろ」
2人して会釈して携帯を切った。
携帯の画面には0:50と表示されていた。
…。
「ありがとう リンデルまで付き合ってくれて ・・・」
そう言うと彼女は嬉しそうに「いいのよ」と言ってきた。
(ん ・・・ なんだこの胸騒ぎは ・・・)
片付けを済ませ部屋に入る。
「「うわっ ・・・」」
ものの見事に雑然とした男の部屋が、引っ越してきたばかりの部屋に様変わりしていた。
「いらない物は全部玄関に出して置いたわよ ・・・・」
「ありがと ・・・ う ?」
ベッドの下に隠すように置いていた成人雑誌やお気に入りの映像集は見事に破棄されていた。




