【第94話】ブロとの攻防 その1
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バイクを修理に預け、パインと別れた後リンデルはトボトボと歩いていた。
『あぁ~~~ ムカツク』
1人でいるのに慣れているはずなのに、こうしてソワソワしている自分に腹が立っている。
その腹を埋めるのに何かが必要だと考え、それを実行に移そうとする。徒歩で自宅のアパートまで足を延ばすと、化粧棚の引き出しからチャリンと鍵の束を抜いた。
鍵束にはキレイな羽のストラップが付いていた。
「「ああ~~~~!」」
部屋を見渡すと、余計なものが沢山あるのに気が付いてしまう。悲鳴を上げながら、過去の遺産を物凄いスピードでゴミ袋に詰めていく。
腹を収めるにはまだ時間がかかりそうであった。
『プルルルルルプルルルル』
無造作に置かれた自分の携帯から着信音が鳴り響く。
「「なによ!」」
無視しようと思ったが、頼んでいるのはこっちなのでそれができずにいた。
『こっちのほうが なによだわ』
『なんつー皮してんだよこいつ! 何なのかくらい教えろって』
ターナーの男からの電話。
それを無視するかのように、大事な事は伝えずに淡々と施して欲しい加工を口早に伝える。
『わかったよ ・・・ 葬儀の日程はメールしとくから 確認しとけよ』
「あいあい」と何も考えないようにそう伝え、一方的に電話を切った。
…。
模様替えした部屋の中でチョコンと座り込みため息をつく。
片付けながらも握っていた鍵は自分の手汗でぬるぬるとしていた。
部屋を出て、ゴミ袋を共同の集積場に積み上げ、自分の車まで向かい鍵を差し込んだ。
鍵束についていたストラップはすでにゴミ袋の中だ。
…。
「お客様 これが限界ですって ・・・・」
新車を買いにリンデルは販売店にやってきていた。
「一括なんだからそれくらいできるでしょ!?」
そう言い、車の販売員に憂さ晴らしをするように当たり散らしている。
ピーナツ号で「リーク」によって稼ぎ出した金で目的の車を購入していた。
おまけにシートも特製の白い高級牛革、オーディオも積むことが可能な一番高い物を付けてやる。
白いボックス型の軽はもはや車体以上にオプション代のほうがかさんでしまっていた。しかし、それをすることでやっと今の苛立ちを抑えられた。
(なんで1人で実家に行く必要があるのよ ・・・・)
…。
『あぁあ』
そこでやっと出てきた本音にハッと気が付く自分がいた。
…。
新車を手に入れ、パインの実家まで足を延ばすと彼は外に出てこっちを見てきていた。
彼の表情はあの時水晶玉に映ったあの顔。不気味なほどに活き活きとしている。それを見ると不意に寒気が襲うのが分かった。
( ・・・・ )
サイドブレーキを引き、彼に車に入るよう促した。
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「おぉ〜!」
パインはリンデルの運転する車に初めて乗る。そしてすぐにこの車が新車だということに気がついた。
「うっわ なにこれいいね」
ふかふかのシートから新品の時のジャケットと同じ匂いがしてくる。その事を機嫌を伺うようにリンデルに言った。
このジャケットの匂いをわざわざ嗅ごうとは思わない。所々に少しだけ残った血の跡が付いている。
彼女の買った新車を褒めると共に、比較して自分の着ている服を見ている。
「あらそう」
そう短くリンデルが喋りながら運転している。
(う~ん ・・・)
「うっわ ガラ悪いよそれ」
リンデルは夕方の太陽の陽射しを避けるためサングラスを着用していた。
「あらそう ・・・・」
(何怒ってんだ ・・・?)
…。
「随分楽しそうじゃない ・・・・」
彼女はそう口にしてきた。
「色々聞けたからね ・・・ 興味ある?」
「今は聞きたくない」
「あらそう」
そうからかうように言葉を返してやる。
…。
『『 ヒブッ! 』』
信号待ちの時間に顔を思い切り殴られてしまった。
…。
その足で到着したのが自分達の町、アビファーマの役所。
次の依頼の確認をここでするようにと、トントのスケジュールにメモ書きが表示されていた。
「「えっ!! あっ パイン様 お待ちしておりました!」」
案内の女性が自分の名前を呼んでいる。
彼女はアッシュと最初にここに来た時の女性だ。彼女の巻き毛はそのままだったが、自分を見る目が違っていた。
「す すぅごいですね! 大活躍じゃないですかぁ ・・・・」
お姉さんがお世辞を言いながら役所の奥に案内してくれる。
…。
「いえ 俺はたいしたことしてないと ・・・」
『俺はたいしたことしてないとぉ』
後ろでチビヤンキーがパインの事をからかっている。
「こちらで部長がお待ちですので どうぞ ・・・・」
…。
「「やぁ まってたよパイン君 座り給え!」」
「「!!!」」 「「!!!」」
「では 私はこれで ・・・・」
ここでお姉さんは退室する。
そこに居たのはトントだった。それに2人して驚き、何も喋れないでいた。
「えっ どうしたの君たち ・・・?」
「い いやっ トントさん?」
「「ああ!」」
男はハッと思いついたように、自分の事を話し始めた。
どうやら彼らは3人兄弟で見た目が物凄く似ているようであった。趣味も仕事もほとんど同じになってしまうと弁解するように話していた。
彼の名はリント、トントと同じく冒険者の部門の長をやっているとのこと。
「ごめんね 驚かせるつもりはなかったんだけどね かけてかけて」
早口は変わらなかったが、口調が少しだけ優しい気がした。
そこで次の依頼の説明を受ける。
「サリナとドンジ 2人ともうちの部署で抱える冒険者なんだけど 知ってる?」
「知ってるわ」 「知らな ・・・」
「残念なんだけど多分戦死したんだ ・・・」
…。
「うそでしょ ・・・・ だってあいつら ・・・・」
リンデルの心の雲行きが怪しくなっているのが分かった。
その表情をリントが確認した後、詳細を喋り始めた。
最初の被害は北の町ストーンパディの娯楽施設内に発生した魔獣によってもたらされた。稼働中の施設に突如襲い掛かってきた魔獣に相当数の一般人が死傷したとのこと。
それを現地の冒険者が対応したものの壊滅、敗走してしまった。
その敗走した現地の冒険者からここに応援の要請が入った。
その被害状況からこの役所が抱える最大戦力をそこに向かわせた。それがサリナ達とドンジ達。また彼らはそれぞれ別のパーティーを組んで行動していた。そして、彼女らが被害の確認中にやられてしまった。そこから数日経っている。
「ブロ っていうんだけど知ってる?」
「わかります」 「わかります」
そういうとリンデルが首を傾げてこちらを見てきた。話を聞かなかったのが悪い。
続けてリントが話をする。
ブロなら何回か彼らに依頼を出して駆除してくれた実績がある。万が一の為にその実績のある2組に依頼をした。
「一応あっちの病院からサリナの方の冒険者が連絡を寄こしてきてくれてね ・・・」
「小型のブロが相当に厄介だったようで 自分以外みんなダメだと思うと言ってたよ ・・・」
そうトントが付け足し、喋り終わる。
「それ 小型のブロですが 話だけなら聞いたことがあります」
「本当か!」 「はぃぃ?」
そう喋ると2人してパインの顔を覗き込んできた。
「そうか 期待できるな 君たちに声をかけておいてよかった」
「あと 偵察だけでも結構だ ・・・ かなり手ごわいそうだから無茶はしないでくれ」
「誰がやれるのよ あの2人いないんでしょ?」
そうリンデルが返すとリントの眼鏡が白い光を帯びた。
「うちにもタジマ姉弟並みの隠し玉はいるんだよ ・・・」
(ん ・・・?)
なぜ自分達がタジマ姉弟を知っている事を彼が知っているのか。違和感を感じたが、トントがリントに報告していたと思うことにした。
「まぁ そういうことだ 偵察だけでも結構 ただ現地で救助を待っている可能性もある」
「一般人では対処できないほど強力な魔物だから救助すらできない」
「悪いが ・・・ なるべく早く出発してくれると嬉しいよ」
リントが喋り終わると、リンデルがわざとらしく「はぁ」とため息をついていた。
「分かりました すぐ出発します!」
彼女の様子を無視してそう口にした。
「ありがとう くれぐれも無理はしないでくれたまえ」
お茶には手をつけずにその場を去った。
…。
『『ザワザワ』』
1Fの長い通路を足早に通り抜けようとする。
「「お おーい おめぇさん!」」
換金所の前でスミスに呼び止められてしまう。
「あ どうも!」
「随分立派になったな それに ・・・」
スミスがリンデルを見て、ニヤニヤしていた。
…。
それはさておき、これからストーンパディに向かう事をスミスに告げる。
「サリナのやつ ・・・ 無茶しやがって ・・・」
そう喋り出すと、もし可能なら助け出してやってくれと頼まれる。
それに「はい」と返事をし、握手をした。
『『パインじゃねぇか! 』』 『あ あの女 ・・・』
その他にも何組かの冒険者に声をかけられたが、それを急いでいると言い訳をしてその場を去った。
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リンデルとの相談の結果、明日の朝に彼女の車でストーンパディまで向かうことにした。
装備の準備、あのコーダンの刀の手入れがまだであった。
「期待のエース君は道具の整備もできないのよねぇ ・・・・」
そうリンデルに嫌味を言われたが、この時は何も反撃の言葉が見つからなかった。




