【第91話】リザードマンとの攻防 その2
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「あんたよく そんなんで平気ね ・・・・」
公園をまるまる走り、汗をかいた2人が向かった先は近くのファミレス。
彼らには少しばかり休憩が必要だった。
怪我の手当をここの駐車場で簡単に済ませた。そうは言っても矢は左腕を貫通しており軽傷とはいいがたい。血は既に止まっていたものの鋭い痛みは健在であった。
彼女の言葉に「問題ないよ」と返事をする。
(・・・ ?)
少しだけ睨まれた気がするが、気のせいだろう。
(しかし ここは ・・・)
公園周辺に包囲網が捲かれ、物騒な雰囲気を醸し出していたのにも関わらずこのファミレスの雰囲気はいつもと変わっていない。
人々の楽しく喋る声が頭に入る。むしろ自分達がここに来た時の皆の反応のほうが異常な出来事を見るかの様子を呈していた。
(まぁ ・・・ そんなもんなのか)
冒険者の日常にそろそろ慣れてきたのかもしれない。
落ち着いたBGMが店内に響いている。
ここで作戦会議を行った。
「あんたの武器でしょ ・・・・」
まずは足りなかった道具の買い出し。矢の対策に小型のバックラー、そして細剣。
このコーダンの刀の刀身の幅は10センチ近くある。威力こそ申し分ないのだが、中々切れない相手となると突きを行うしか切り口が見いだせない。
「あのワニ硬かったよ ・・・」
「あんた ・・・・ 冗談でしょ あれ トカゲよ?」
そう言われ、確かに言われてみればそうなのかもしれないと無駄に恥ずかしくなった。
別にどっちでもいいじゃないか。
そして…。
「インカムが必要ね ・・・・」
まだ巣穴すら見つかっていない。2手に別れて行動をするため無線が必要との判断であった。
鶏のからあげを口元に運び、美味しそうに頬張る彼女の口から具体的な作戦が次々に出てくる。
「あと大事なのは ・・・・ やりたくないけど」
彼女の口から飛び出してきた内容に初めは謎でしかなかったものの、なんとか最後まで聞き終えると納得することができた。
「いいの ・・・?」
「あんたが代わりにできるならお願いするけどさ」
彼女は唐揚げを食べ終わった自分の指をペロと舐めていた。
代わってあげたい気持ちはあるものの、確かにそれをする経験が自分には不足しているように思えた。
「思う存分暴れなさいよ ・・・・」
そう言う彼女の口元がいやらしく吊り上がっていた。
食事を頼んでから食べ終わるまでに全ての作戦は立て終わっていた。自分はリンデルの作戦を繰り返し言っていただけ。
ここまで来る間に彼女はすでに頭の中で作戦を練り終えていた。
明らかにパインは経験不足、そして想像力の欠如。言い出したらきりが無い。今朝携帯を彼女に預けた時のアッシュの怒号の意味がなんとなく分かったように思えた。
(俺の今の上司は ・・・)
その後、数十分で2人はファミレスを後にした。
…。
「ご苦労さん 腕大丈夫なのか!? やっぱ違うなぁ ・・・」
準備を終えこうして公園まで来ると昼前に居た男がまだ張り付いて仕事をしていた。
「ねぇちゃん その恰好は ・・・ 大丈夫なのか? うわっ」
男はそう言うと顔を自分達から背けた。
「なによ 失礼ね!」
(そうなるよな ・・・)
「お疲れ様です バイク置かせていただいてもよろしいですか?」
そう聞くと大丈夫との返事が返ってきた。
…。
夕方過ぎの公園。
既に辺りは暗くなっており、包囲網を形作る車や支柱の先から赤のライトがクルクルと辺りを照らしていた。
まだここは街灯が立っていたが、先の公園は景観のためにそれら柱がかなり少なく、もはやほぼ暗闇と化していた。
「俺はもうそろそろ上がるからな 交代の奴に伝えておく 頑張ってくれよ」
そう言われ、準備を開始する。
リンデルの恰好は軽装になっていた。革のセットアップからオーバーオール姿に戻り、靴は底が薄いスニーカーだ。
そして男が顔を背けた要因。
エスニックな香辛料を扱う食品売り場に行き、購入した珍味であるオオトカゲの肝の缶詰。リンデルはそれを服に塗りたくっていた。
「体を張るのはあんただけじゃないの」
そう強く彼女に言われたのを思い出した。
だがもしそれが機能しなければ、もはやこの作戦は水泡に帰す。そうなった場合の彼女のフォローの方が正直自分的には辛い仕事であった。
パインの装備は先ほど購入した丸みを帯びた小さめの盾、バックラー。それと刃渡り60センチ程、刃幅は2センチ程の細剣である。購入時にそれを軽く振ってみたが、あまりの軽さに驚いた。振る姿を見ていた店員も同様に驚いていた。知らんがな。
確かに今まで重いのしか持っていなかったのでそれのお陰なのかもしれない。
しかしもしリンデルの作戦が全て順調であれば、この剣を振るう必要はないのかもしれなかった。
そっちであってほしいと願うばかりである。
彼女の装備も非常にシンプルで腰ベルトに入った小型の銃のみであった。
『大丈夫? 聞こえるわね?』
「聞こえるよ」
「「あんた小声で喋んないと意味ないじゃないのよ!」」
インカムのテストで見張りの男に笑われてしまった。しょうがないじゃないか。
そして暗視ゴーグルの動作をレクチャーしてもらい、いざ暗闇の中に2人で向かうことになった。
…。
『大丈夫 気づかれない ・・・・』
インカムからリンデルの声が耳に入る。
(よかった ・・・)
パインは途中でリンデルと別れて、別の道に進んだ。
どういった技なのか、彼女は足音まで消しているように思えた。
(慣れている ・・・?)
ふと過去にリュックの中身をかすめ取られた事を思い出した。
(逆らうつもりはないけど ・・・)
もしそうなった場合のことを妄想して冷や汗をかいた。
『そっちはどうなの?』
緑色の視界で辺りを見回す。
『いないよ』
お互いに位置情報のアプリで場所を確認している。今リンデルが居る場所はあの最初にリザードマンが居た場所。
そしてパインはそこから南に5分ほどいった場所にきていた。
『そこで待機ね!』
『了解』
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(はぁ くさい ・・・・)
リンデルはお気に入りだった白のオーバーオールから発する匂いに心を痛めている。
それも仕方がないこと。思い入れはあるけど、パインにまた買ってもらえばいいわ。そう思っていた。
(そんなことより 今は ・・・・)
丁度パインが切り倒したリザードマンの亡骸の近くにいる。
それを無視するかのように徘徊する数匹のリザードマン達が周囲にまばらにいた。
何を目的にこんなところにいるのか、武装する目的はなんなのか。
その答えも一緒に探してやるつもりだ。
木や花壇、背の高い草の中を身を屈めて走る。
(ここらへんに あるに違いない)
1度だけリザードマン討伐をしたことがあった。私は巣穴の中に入りこんで、メスを始末しただけ。簡単な割に彼らの皮が非常に高価だったことを思い出す。
美味しい仕事だが、結局組織。固定の金しか毎月入ってこない。
(今は割りに十分合う ・・・・ それに)
ふと雑念が彼女の頭によぎったが、それを払い足を走らせる。
…。
走らせること10分程度。
(!!)
(あれね ・・・・)
円形の花壇の中に1本の大きな木が生え、根本に人が1人潜れるほどの穴が開いていた。
その周囲に少しだけガタイのいい槍を持つリザードマンが2匹立って警戒していた。あそこの中を通してくれるほど馬鹿ではなさそうである。
顔立ちが他の個体とは違って少しだけ理性の欠片のようなものを持っているように思えた。
(それにしても ・・・・)
こうして今まで経験してきた冒険業で出会うことが無い獣ばかりにパインに出会ってから遭遇している。それがいい事なのか彼女は分からずにいる。
だが、そのスリルと危険がもたらす物が前とは比べ物にはないほど高価である。
(いいじゃない ・・・・ 付き合うわよ)
笑顔の口元を月あかりと共に自分の立つ大地の上に落としてしまう。
『いいわよ 始めて』
『ラジャーザッ』
『はぁ ・・・・』
訳の分からない遊びを変なタイミングでするパインにリンデルはため息をもらすもらす。
『『ワァーーーーーー!』』 「「無線切りなさいって!」」
(しまっ ・・・・)
ドジがすぎるパインに反射してリンデルは叫んでしまった。
彼女の声を聞いた穴の前の2匹がこちらに走ってくる。
『ばかやろーーーー!!!!』
来た道を全速力で走る。
走りながら、髪を縛るゴムを解いてやった。
(まぁ ・・・・ いいわ)
…。
(よし ・・・・)
後ろを振り返ってもまだ2匹は見えない。やはりリザードマンは足が遅い。自分の髪を数本引きちぎりその場に置く。
リンデルは逃げてきた道をUターン!しばらく進み小脇の横に飛び、花壇の中に身を潜めた。
再度髪を縛り団子を作る。
『『げっ げっ げっ』』 『げっ!』
彼女の目の前を2匹が通り抜けていった。リンデルの落とした髪の毛の匂いに釣られて彼らは直進していった。
(ふぅ ・・・・)
パインのせいでリンデルは余計な手間を食っていた。
『大丈夫なのそっちは?』
『ダイジョウブ! ごめんね! はぁはぁ!』
作戦通り、パインはリザードマンの群れと追いかけっこを開始していた。
…。
(広い ・・・・)
リンデルは今あらかじめ練った作戦通り、あいつらの巣の中に潜入することに成功していた。
あの2匹もおそらくパインの下に向かったと思われる。しばらく穴にはいってすぐの所で外を確認していたがここに来る気配は無かった。
『槍持ったやつもいる?』
『ザァーー オルッ』
『何かあったら連絡頂戴 私はこれから集中するから ・・・・』
『ハイッ』
ため息をつきながら無線の電源を落とした。
ここに来るまでの穴は小さかった。だけど中はあいつら、リザードマンが立っても余りが十分あるほどに天井は高い勿論それに併せて広い。以前潜ったツガイの巣と比べると数10倍はあるのではないかと思った。そして暗視ゴーグルの視界はさらに奥に通路があることをリンデルに知らせていた。
リンデルは自分の匂いを必死に抑えるため、なんども服についた缶詰の中身を肌や髪に塗り付けた。もはや巣穴の匂いなのかそれの匂いなのか自分でも判別ができないでいた。
(ふぅ ・・・・)
彼女は気分を落ち着けると迷路のような巣穴の中の探索を開始した。
外と比べると少しだけ温かい、土の地面は彼女の想定よりもかなり安定していた。そして幸いにも、あの見張り以外のリザードマンとは暗い通路の中で遭遇するには至らなかった。
リンデルはそのまま一番奥であろう所にまで歩を進めた。
(いた ・・・・)
目に飛び込んできたのは子供服を着た小さなリザードマン、そしてそれを世話または護衛している2匹のメスのトカゲ。
しかし、3匹とも初見であった。
3匹ともメスなのは確か。頭の形状がオスのそれと違い蛇のようにしなやかに細長い。
子供の前に立つリザードマンはメスにも関わらず、背丈はオスほどあり、しかも武装している。普通のメスは2足歩行ですらないのにだ。
そいつらは鉄の鎧のようなものを着ており、得物も大型の剣と盾であった。真っ向勝負で勝てる見込みはリンデルにはない。
さらに子供の方は暗視ゴーグルの緑の視界からでも分かるほどに真っ白に輝いて見えた。
(おそらく あれが ・・・・)
大きな枕の中にあぐらをかいて、手には水晶玉のようなものを持ってそれを楽しそうに覗き込んでいる。
時たまチョロと細長い舌が出たり入ったりしている姿が不気味さをさらに醸し出していた。
(!!)
水晶玉をよく見ると、今まさにパインが走る後ろ姿を映し出していることに気が付く。
(ふぅ ・・・・)
腰ベルトからサイレンサー付きの小型銃を取り出す。
万が一に備えて、あの白角の粉をガンパウダーに混ぜていた。
それが功を奏すと。直感でそう準備しておいた。
(あの時の残りがあってよかった)
リンデルは白トカゲに照準をしぼる。
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おもむろに引き金を引く。
『チュンッチュンッチュンッ』 『ツツツ』
(なっ ・・・・)
万が一に備えて3発連続で放った。
(うそよ ・・・・)
全て命中させたはずなのに、あの白いのは無傷。弾が巣穴の壁に反射し、地面に落ちた。
「「シャーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」」
3匹が同時に攻撃に気が付き、口を顔の3倍ほどにあんぐり開けた。だが、まだこちらの位置までは把握していない。
(逃げ ・・・・ イヤ)
今までのリンデルであったらすぐに逃げているであろう。しかしこの時彼女の体は前に進んでいた。
(スペースは広い ・・・・ いける)
ベルトからナイフを取り出す。そして丁度よく地面に落ちていた拳大の大きさの石を拾い白い奴めがけて投げる。
やっとリンデルに気がついた2匹の大型のメスが剣を抜き、襲い掛かってくる。
『シュッシュッ!』
リンデルは剣劇を避け、股の間に体を滑り込ませ地面に落ちた銃弾を探す。
小型の方はまだあぐらをかいたままリンデルを睨みつけたままだ。
(あった!)
白角弾丸を1つ拾いあげ、2匹を部屋の奥に誘い込む。
「来てみなさいよ ・・・・ ほら」
『『キィーーーーーー!!!』』
挑発を受けた2匹が金切り声を上げる。
そしてチラと横目で小型の姿を確認する。
(やっぱりね ・・・・)
小型は未だに無防備。攻撃の手段も得物も持たずにただリンデルを眺めてるだけだった。
2匹が横なぎに剣を振るってくる!
それをスライディングで下を潜り回避、細かく走る。
そして、小型目掛けてドロップキック!
(っ!?)
ドロップキックを受けた小型はそれをもろに受けて倒れ込む。
硬いものと思って放ったリンデルの渾身のキックが予想に反していた。足から柔らかい感触が伝わっていた。
「「好都合じゃないの!」」
彼女の思い描いた作戦がゲームのように進んでいく。血が頭の中を物凄いスピードで流れ、巡っていた。
2匹は後ろを振り返って小型に迫ろうとする。
(遅い!)
小型の白トカゲに体当たりをし、地面に伏せさせるのに成功する。
こいつの脇に先ほど投げた石を右手で拾う。
(いいじゃない! やってやるわよ!)
そして、白い子供のようなリザードマンのメス。彼女の頭の上に潰れた弾丸を乗せ、それにナイフの先を合わせる。
「ねぇ 遊ぼ ・・・・?」
小型の獣が何か言った気がしたが、リンデルの耳にそれは入らなかった。
彼女は右手でナイフのけつを思いっきりぶっ叩いてやる!
『 ジュンッ!!! 』
(いけ いけた ・・・・)
白いトカゲがダイノジに倒れ込み、ナイフで地面に縫い付けられていた。
即死で間違いない。
白いのが持っていた水晶玉がコロンと音をたて、大型のメス2匹の足元まで転がり込んだ。
『『ガシャンガシャンシャン』』
リンデルが逃げようと思った瞬間、大型の持っていた得物が地面に投げ出される音が耳に飛び込む。
そして自分がそうしようと思っていたのに、彼女らが勢いよく逃げ出そうとしていた。
『『バタンバタン』』
(えっ ・・・・)
そしてその2体の体が急に小さくなり、見たことがあるあのメスのリザードマンの姿に戻っていた。
彼女らは重い鎧で身動きが取れずにいた。見るからに苦しそう。
再度小型の白いトカゲを確認するも、絶命していて間違いなさそうであった。
(あっけなかった ・・・・ 何か言ってなかったっけ この子・・・・)
苦しそうに地面をのたうち回るメスのこめかみに彼女は銃口をつきつけ引き金を引いた。
(なによ ・・・・)
『『 バンッ バンッ 』』
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『こっちは終わったわよ ・・・・』
…。
『もしもし!?』
『『ザァァァー あああなんかなんかこっち武器捨てたよ! 追ってはくるけど!』』
『そっち向かうわ 多分もう連携してこないから相手してもいいわよ ・・・・』
『『わぁぁ 分かった!! 早く』』
(ふぅ ・・・・)
「何よ ・・・・ なんであたしがこんな気持ちに」
誰に言うでもなくそう巣穴の中でリンデルは独り言を言っていた。
子供服を着た白いトカゲと水晶玉を拾い、巣穴をゆっくりと進む。
暗視ゴーグルを降ろすと水晶玉に自分の顔とパインの一方的な殺戮の光景が目に入り込んだ。
(・・・・)
…。
月がその光を静かに、この暗い巣穴の中へと落とし込んでいた。




