【第92話】リザードマンとの攻防 その3
リンデルは巣穴からするすると這い出た。
(あれ ・・・・)
彼女の手には白いトカゲと水晶玉があった。そこで彼女は異変に気が付く。パインを映し出していたはずの水晶玉の映像が公園を走る姿に変わり、そして。
(消えた ・・・)
意図的に水晶玉を操っている何者かがいる。それを瞬時にリンデルは理解した。
一旦この白トカゲを植え込みの中に隠し、最後にパインを映し出していた場所を現在のパインの位置情報から推測する。
そして月である程度明るくなった公園の中を全力をもって駆け抜ける。
走っていく中で次々に地に伏すリザードマンの亡骸が目に入り込んだ。
手や頭が、足が尻尾が様々な部位を辺りに撒き散らしている。
(切れてるじゃない ・・・・ あいつ ・・・・)
『ちょっとあんた 切れてるじゃない どうゆうことよ ・・・・』
『『 アハハ! そう この剣すごい切れ味だよ はぁ! 』』
一番安い細剣を購入したはず。
(まさか あいつ ・・・・)
そんな事を思いつつも、今パインが居る場所とは別の場所を目指して足を走らせていた。彼女は走りながらも水晶玉をしきりに覗き込んでいた。
…。
(追いついた! ・・・・)
(くそっ ・・・・)
今ライフルを持ってきていないので、こうして全速で走ることができたものの、遠目でしか探している奴の姿を確認することができないでいた。
(獣 ・・・ オラータン? でも)
猫背の後ろ姿、長い手を器用に使っている姿はオラータンそのもの。しかし一回り小さい。自分よりも小さいかもしれない。
そして、奴が持っているのはおそらく携帯。耳に当てる動作から誰かと話しているのは間違いなさそうである。
(!!!)
木の影から通常サイズのオラータンらがぬっと黒い影を現わしていた。
(追跡は ここまでね ・・・・ そういえば ・・・・)
リンデルはふとその時ある疑問の正体に気が付きつつある。白トカゲを取りに戻るついでに巣穴に細工を施すことを思いついた。そしてただの透明な球形の石と化したあの水晶玉をポッケに大事そうに仕舞った。
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(おっそい ・・・ 遅すぎるし ・・・)
パインは無防備なリザードマン数匹と対峙していた。
「はぁ ・・・ はぁ ・・・」
何匹切り伏せたのだろうか、もはやその数は数え切れなかった。
後ろに引きながら群れの数を徐々に減らしていく作業は最初の内は楽しかった。だがだんだんと疲労のせいかこいつらの四肢を切断することができずにいた。そして暗視ゴーグルの中は自分の汗で曇って使い物にならない。こうして晴れた空から月の光が差し込んできていたため、それを首に下げて奴らの相手をしている。
(もう 全部終わっちゃう よぉ ・・・・)
生きてパインに襲いかかってくるリザードマンはもう既に片手で数えられるほどになっていた。
「「りゃっ!」」
武器を持たずに爪で攻撃をしてくるこいつらは、今は何の危険性も感じられない。
奴らの左手にベルトで固定したバックラーはもはや飾りでしかなかった。
細剣のスタイルを本来予定していた突きのスタイルに変更し、それを慣行する。
「「げっげぇ ・・・」
もはやこの鳴き声になんの違和感も感じずにいた。
…。
最後の1体の首に刺さった細剣をパインは引き抜いた。
(ふぅ ・・・)
血まみれの剣をベルトに仕舞った。
1時間ほど時間が経ったのではないだろうか。新品の革のジャケットにところどころに黒く映る血が荒事を成したことを物語っていた。
『終わっちゃったよ ・・・』
後半から一気に倒すスピードが落ち、それに伴って疲労が溜まってきていた。
愚痴のようにそう無線で喋ってやった。
「「重くってさ! こっちきて!」」
(やっとかよぉ ・・・)
丘の上にリンデルが立ってそう自分に叫んでいた。何かを右手に持ち、確かに重そうであった。
背景は違えど、彼女のその姿はパインが最初に見た彼女の姿に瓜二つだった。
(あの時はピークックだったなぁ ・・・)
あの時イボアの骨を掠め取られた事を思い出し、彼女に少しの愚痴でもこぼしてやろうと思っていたが、それはしなかった。代わりに少しだけ「ふっ」と鼻で笑ってしまっていた。
「お疲れ!」 「お疲れ ・・・・」
警戒する必要がなくなった彼女に体を向け足を走らせた。
…。
「これ 写真とってメールでトントに送って ・・・・ 討伐完了よ」
「ん? 手だけ?」
「いいから ・・・・」
彼女に言われるがままそれをする。
この手が白い小型のトカゲであること、破損がひどくて手しか残っていなかったこと。それらを文面に入れるよう傍からリンデルが話しかけてきていた。
「あんたぁ もしかしてだけど もしかしないわよねぇ ・・・・」
メールを送信し終えるとリンデルは自分の腰にかかった細剣を見てそう話しかけてきていた。
「ん?」
何事かと思いパインは困惑した。
「あんたゼンダに何教わってたのよ あんな長い時間関わってて ・・・・」
「ちょっとごめん 意味が ・・・」
その後彼女から刃を「研げ」と言われた。余計な出費を出すなとも。
(あ ・・・ ああ ・・・ そういうこと ・・・)
「俺のせいじゃなかったのか ・・・」
「いやあんたのせいでしょ!」
つまり、あのコーダンの刀は今はただの鉄の塊でしかないということ。リンデルにそう言われて少し時間が経ってから刀の切れ味が悪い正体に気が付いた。
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『お疲れ様 さすがだね 後はこっちで処理するから』
翌朝、トントから電話が入り、次の依頼の準備を進めてくれと言われた。
「何か他の事聞いてこなかった?」
リンデルにそう言われても、何も言われなかったからその事を伝えた。
彼女はそれを聞くと少しだけ難しい表情を見せていた。
「まぁいいわ ちょっと寄り道して帰るわよ ここ ・・・・」
…。
そう言われるがままバイクを走らせやって来たのは。
「すっげぇ ・・・」
なめし屋さんだった。
そこには様々な獣や駆除対象外の動物らの皮が壁にかけられていた。入り口に立つ虎のはく製が物凄いインパクトをその店に与えている。リンデルは店員のターナーである男と知り合いであるようで、あの白いトカゲを渡していた。
「なんだ 男連れて来たのかと思えば またすげぇもん ・・・」
「1週間 ないし数日で仕上げてほしいんだけど ・・・・」 「「はぁ!!!?」」
男が怒りの表情を浮かべてきていた。どうやら無理な注文をリンデルは言っているらしかった。
「これでもそう言うの ・・・・ ?」
リンデルは自分の携帯の画面を男に見せていた。
「 ・・・ 」
すると男の口から沈黙という名の彼女に従う意思が発せられていた。何を見せたのか分からなかったが、おそらく金だと思うことにした。
「あとこれは個人的なお願い その子 ペット用の葬儀屋に出してくれない?」
リンデルはそう男に言っていた。
「いいけど 随分 ・・・ 」
男が話すと自分の方をチラと見て、その後の言葉を言わないでいた。
(なんだなんだ ・・・)
「じゃあ よろしく頼むわね ・・・・」
「できたら連絡する ・・・ 次は来る前に言ってくれ」
そうやり取りを交わした後に店を後にする。軽く会釈をするもその時男は自分を見ていなかった。最後にターナーの男が軽くため息をついていたのが少し気になったが、その事は気にしないでおくことにした。




