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【第90話】リザードマンとの攻防 その1

『『ピンピロパン プップー』』


「ふぁっ はっ あっ はい はい ・・・ もしもし」

 パインは携帯の着信で目を覚まし、急いで騒ぎ立てる携帯を掴み取る。


『よぉ ・・・ 準備はできてるのか?』

 突然アッシュのドスの効いた声を聞く事になる。


「 ・・・ 」

「はい これから向かいます」

 別の携帯でスケジュールを確認し、そう伝える。


「お前 ・・・ まさか手ぶらでいくんじゃないだろうな」

 その言葉に頭の中が真っ白になる。


「装備は準備できています ・・・」

「被害は?聞き込みは?相手の対策と作戦は?」

「 ・・・ 」

「代われ 居るんだろ?」


 そう言われ、自分より少しだけ遅れたタイミングで起きたリンデルに携帯を渡す。


 それを受け取るや否やアッシュの怒号がそこから響き、耳に入った。今見る彼女は先日の彼女の姿ではなくなっていた。


 何も考えていなかった。自分達のことで精一杯だった。束の間の休日を思いっきり楽しんでしまっていた。


(悪いことなのか ・・・ )

 そうも思ってしまったが、辺り一面に散らかった食事のゴミが現実を忘れていたことの証拠として残っていた。少なからず反論するリンデルも今となっては黙ってアッシュの話を聞いていた。


『もう2度とこんな事言わせるな 自分の立場をわきまえろ』

『『いいな!!?』』 ブヂッ

 携帯を返され耳を当てるとそう聞こえてきた。返事をする間すら無かった。


…。


「言わせておけばいいじゃない ・・・・」

「来週の月曜の9時に俺んとここいだってさ」

「また待たしてやろうよ 笑 」


 落ち込む自分とは打って変わり強気な姿勢の彼女に少しだけ心が傾いた。それも束の間、彼女の手を払い今日の支度をするべくベッドを這い出る。


(はぁ ・・・)


 コンビニで買った雑誌に載った自分達の写真のページがゴミ箱のすぐ隣で上を向いているのが分かった。


(自分の立場 ・・・)


 コーダンの弟子か!?この国を救う若きエース。誇張した見出しがこの時は自分の胃を縮こませた。


…。


 その後急いでホテルを出た。


 自分の町、アビファーマに帰ってから3日目の朝、依頼の場所までバイクを走らせている。


(あっやっべ)

 トント、先日会った役所の男、今となっては上司からのメールに今更気が付き急いでバイクを停めた。

 被害に遭った人と冒険者、それぞれの住所。また討伐対象の獣の写真と特徴が記載されていた。差し出し日は一昨日の夜であった。


 パインはお詫びの電話とメールの返信をその場で済ませた。


 『あはは! いいんだよ気にせず 討伐が終わったら報告待ってるから』

 そう電話の彼に言われるも、胃は縮んだままだった。


 何も考えずに出現場所まで足を運ぶ予定だった自分の詰めの甘さに苦虫を噛んでしまう。

 その間も後ろの席に座るリンデルは何食わぬ顔でそれらのやり取りを聞きながら腕を組んでいた。


…。


 バイクを走らせる事1時間、2つ隣の県の病院に到着する。


 受付に依頼の件を伝えると看護師さんが案内をしてくれた。


 そこでまずは被害に遭った冒険者に話を聞く。ランクはC、今は同じらしいのだがベテランの方だ。


「リザードマンだ 複数いた 聞いた話は1匹だったがな」

 そのせいで退却を余儀なくされたそうだ。その魔物の攻撃を受け彼はもはや戦うことが決してできない姿になってしまっていた。


「気を付けろ 普通の動きじゃなかった ・・・」

「どんな動きなの ?」

 リンデルがそう聞き返す。


「俺らと同じ 連携を図っているように思えた 皆信じないがな」


 そもそも普通のリザードマンすら写真でしか見たことが無い。リンデルが言うにはD相当の魔獣とのこと。今となっては相手としては丁度いい。怪我の可能性も低いとリンデルは話していた。


「頼んだぞ若いの 気を抜くな ・・・」

 ベッドで横たわる彼から出る忠告に深く「はい」と返事をする。


 退室し、病院を出ようとする。


 メールにあった被害者は軽傷ですでに治療を終えていた。

 その方は夜間に公園をふらついていたら、突然刃物を持つ何かに襲われたそうだ。それをリザードマンである可能性を示唆し冒険者に声が掛かった。先ほどの男性が依頼を受けた冒険者の1人であった。


「あの すいません ・・・」


 看護師の方が病院を出ようとする自分らに声をかけてきた。


 つい先日被害に遭った一般人が別室にいることを今聞かされる。


「そ そうなんですね ・・・」

 恐る恐る看護師の方の案内を受け進み、その1室に案内される。


「あ あなた達 TVで見たわ」

 高齢の女性は全身を包帯でグルグル巻きにされており、顔だけがなんとか無事な様子だった。


「よく覚えていないわ ・・・・」

「主人と公園を散歩しているときに急に襲われたのよ ・・・・ ああ」

 そこから女性はボロボロと涙を落とし始める。


 女性の旦那さんは既にもう他界してしまったことをつい先ほど伝えられたそうだ。これ以上聞ける様子ではなかったためお辞儀をして退室をする。自分達が遊んでいる内にこうして被害を増やしてしまっていた。アッシュが怒る気持ちも嫌というほど分かった。


 この被害者が出て初めて公園は封鎖されたそうだ。トントに連絡すると、その事を聞かされた。


 看護師に挨拶をし、病院を後にした。


…。


「昼にまで出没するとは思っていなかったわ ・・・・」

 リンデルがそう病院の外でぼやく。


 リザードマンはどちらかというと希少な魔物。むしろ贅沢品の材料になるため、依頼が出るとこぞって冒険者が手を挙げる。彼らの革は非常に高値で売れるそうだ。


 彼らはそれなりに知能はあるが簡素な武器を持つ程度。単体かもしくはツガイでメスは基本的に無害であるらしい。極稀にオスが人を襲うケースがあり、そのタイミングでしか依頼は発動しない。彼らは巣穴にこもって生活をするため、そこに入って討伐するのが基本。


 予定として暗視ゴーグルの購入はあった。だが昼間にも出没するとなると、早急な対策が必要だった。


 全員公園の周囲で被害に遭っている。それを踏まえ、これから周辺の調査を終えた後に暗視ゴーグルを購入する予定になった。


 夕方前に出発予定だった自分達を、この時ばかりはリンデルも反省せざるを得なかった。


…。


 公園に到着する。見晴らしのいい小高い丘があり、春の花々が景色を飾っていた。小さな川がガードレールを両脇に挟んで流れている。


 それらの景色に制服を着た警察が異彩を添えていた。彼はその奥へ行く道を阻んでいる。


「すいません 依頼を受けてきた者です」

「やっと来たか 頼んだぞ」


 男性の警察がそう言うと、黄色と黒の簡易的な封鎖用のコーンバーを外しにかかっていた。


 ほとんど彼と話す間も無く、丘の道をバイクで低速で走らせ辺りを調査を開始した。


 パインはまだ緊張していた。討伐というよりも自分の置かれた立場をどう見つめていいのかわからなかった。


…。


 10分ほど走らせると、不意にぷーんと生臭い匂いがパインの鼻に入ってきた。後ろを振り返るとリンデルもその事に気が付いたようだった。


 バイクを止め、武器を携え辺りを散策を開始する。


「いたわ うそでしょ ・・・」


 リンデルが指差す方角を見ると、人の背丈ほどのワニの顔を持った2足歩行の魔獣が3匹こちらを見ているのが分かった。


 こちらの方がやや丘の上になっており、彼らは対面にある丘の下のほうにたむろしていた。


「気づいてる! まずい」


 不意打ちは昼間の見晴らしのお陰で避けられたものの、こちらが不意打ちするには至らなかった。


 離れているのにも関わらず彼らの嗅覚によるものなのか、こちらの存在を自分達よりも早く察知していたようにも見えた。


(人みたいだ ・・・)


 魔獣はそれぞれ、武器を携えていた。前を歩く2匹は冒険者用の剣を携えている。


 後ろの1匹はボウガンのような物を、そして3匹とも防弾チョッキのようなものを装着していた。


「あんな恰好してるのは聞いたことが無い 気を付けて」


 そうリンデルが喋る間に彼らはこちらを目掛けて走ってきていた。短い脚と太い尻尾をせわしなく動かすその姿が不気味であった。


 こちらもそれに応戦するべく脇を固める。自分が前衛なのは言わずもがな。


(自信はある ・・・ けど)

 複数相手の戦闘はパインにとってこの時が初めてであった。


--------------------------------------


『シュン』

 後衛の魔獣がボウガンをパインに向け発射する。それをパインはなんとか避けた。


『『ダーン』』


 リンデルの銃撃。ボウガンを持つ魔獣に着弾。しかし、彼が着ていた防弾チョッキに吸い込まれほとんどダメージが入っていない様子だ。


「くそっ」

  スコープを覗くリンデルの表情は険しかった。目を細めて悔しがっている。


 魔獣は狙われていることが分かっているのか、しきりに動いている。そのためか彼の肌がむき出している部分に着弾させるのは彼女であっても難しいようだ。


 2匹のリザードマンに追われるように丘を下り、足場がやや不安定な芝生の上に降り立つ。


 奴らがパインの目の前に迫り、剣劇を繰り出してきた。


 それをパインは上手く刀でいなす。迎え撃つ準備はできていた。


(よしっ !)

 動き自体は大したこと無い、見て取れた。2匹であっても十分に対処できる。


「あまいっ!」

 奴らの1匹の剣を持つ手を刀で払い上げる!


「「げげっ」」

 不気味な笑い声をそいつが上げる。


「なっ!」

 刀は彼の腕に確かに直撃したはずなのに、硬い彼の皮膚のせいでかすり傷程度のダメージしか入らない。

 もう片方が勢いをつけて剣劇をこちらに仕掛けてくる!

 体を後ろに後退させながらなんとか刀でいなす。


『シュン』

 ボウガンの矢がパインの右腕を掠めた。後衛のリザードマンも丘の上に到着していた。


(あぶなっ ・・・)

 パインは運良く避けることができた。


『『ダーン』』

 リンデルはショットガンに武器を切り替えていた。その銃弾がパインの前にいる奴の剣を持つ手に直撃する。分厚いゴムのような手は砕け、剣を落とした。


(ないっす!)

 その隙をパインは見逃さない!慌てたリザードマンの前に跳躍、全身の力を籠め首元を突く!


『ギギギギギギ』

 硬い物を切り込む感触が刀から伝わった。手ごたえは十分、しかし。


(まずいっ 抜けない!)

 致命傷を負わす事に成功したものの、そいつの首元から刀を引き抜くことができない!


『キシャーーーーー!』

 もう片方のリザードマンの剣劇がパインに襲い掛かってきた。


『『ダーン』』

 リンデルの援護射撃のお陰でなんとかパインはそれを回避した。倒れ込み絶命しかけるリザードマンの首元の刀を思いっきり引き抜く。


『ぶしゃぁ』

 防弾チョッキを着たワニから鮮血が吹き出し芝生を赤く染める。


「はぁ ・・・ はぁ ・・・」


『シュン』 『ガギン』


 ボウガンの矢を刀でなんとか払う。全てを把握していないと、いつ致命傷を負うかわからない状況にパインの頭は悲鳴を上げる。


 だがなんとか数は1つだけ減らした。順番にやっていけばそのうち終わりが見えてくるはずだ。パインは必死に体を動かした。


(よしっ ・・・)

 自分の剣劇を突きをメインに切り替え、深く入らないように細かく浴びせていく。


 ボウガンの矢は目の前にいる奴を盾にして防ぎ、リンデルの援護射撃を合図に少しずつ踏み込みダメージを与えていく。


『『げぇげぇ ・・・』』


 パインの見込みは間違っていなかった。ジリ貧になっていく奴から弱音のような叫びが出る。終わりが見えてきた。


「「パイン 気を付けて!!! 」」

 すると後ろからなぜかこちらに走る足音とリンデルの声がした。


『『ギュンギュンギュンギュン』』

 それを無視し、ほぼ戦意が喪失した目の前の奴のどてっぱらを、防弾チョッキを貫通させる突きを小刻みに何度もお見舞してやる。


「ウラウラウラウラァ!!」」

『げっげっ ・・・』

 パインの剣戟に一溜りもなくなったワニが前のめりに倒れ込む。しかし…。


『シュン』 『シュンシュン』

『『ガギンッ』』 『グサ』


(っった!!)

 1本の矢がパインの左腕に突き刺さった。


 奴が倒れたお陰で視界が開くと、1匹だったはずの後衛が3匹に増え、その後ろからさらに何匹ものワニ顔が丘を下りこっちに走り寄ってきていたのが見えた。


「「だっだめ こっちからも来る とにかく今は走って!」」

 すぐそこまで走ってきていたリンデルが両手を天に向け声を上げていた。


(まじかっ!)

 リンデルの走ってきた方角を見ると確かにあいつらが数匹いるのが分かった。

 腕に刺さった矢はそのまま、彼女と一緒になって公園を走った。


「「げげっげげげげげ!!」」

 不気味な声を上げる魔獣が後ろから追いかけてきていた。


「「はぁ!はぁ」」「「はぁ ・・・・ 」」


…。


「「はぁ はぁ」」 

「「もう来ないわ あいつら足遅くて助かった ・・・・」」

 公園の端まで来ると彼らの姿は見えなくなった。


(何匹いるんだ どうゆうことだ ・・・)


「こ これは たまらないね ・・・」

 ついそう本音を漏らす。


「作戦練りましょう ・・・・ バイクまで走るわよ? いいわね?」

 コクと頷き、回り道でバイクまで奴らが来るであろう道を見越し、遠回りして走ることになった。


…。


 どうにか辿り着き来た道まで2人でバイクに乗ると一番最初の場所まで戻ってきた。


「「おい あんちゃん! 矢刺さってるぞ!大丈夫なんか?」」

「「はぁ はっ はい ・・・ すいませんまだ討伐終わってないです」」

「「むこうから来たら あなたも逃げて下さい 多分撒きましたが ・・・・」」

「「わ わかった! ご苦労だな」」


(っつぅ ・・・)

 矢を引き抜き、再度バイクを走らせた。


「今夜また来ます お手数をおかけします ・・・」

 パインが会釈すると、男が小さく「おう」と返事をしてきた。


…。


 パインにとってこれはあの白い角以来の敗走。情報がいかに大事かを思い知らされることになった。2人は作戦を練り直すために冒険者用の武器防具の販売店まで向かう。

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