【第88話】帰路 その4
夕焼けの赤い空、何重にも並んだ車、信号、人ゴミ。
人々が作り出した様々な臭いを含んだ風が淀んだ光の中を荒くかき混ぜ吹き抜ける。平和の真っただ中にいるのにも関わらず、それらの景色に危険を孕んだ物を感じてしまう。こうして場数を踏んだためなのか、それとも思い過ごしなのか。どちらなのかは今の自分には分からない。
アスファルトの柔らかい振動と緊張して熱くなったリンデル。
信号待ちの後ろを振り返る。
彼女の白い肌に赤い夕陽が差し込み、火照った顔がさらに紅く見えた。色んな景色や思いが頭の中をぐるんぐるんと音を立て、回っていた。
…。
都内の混雑した道を抜け、自分らの町の道を走らせ、町の中のコンビニで足を止めた。
(ふぅ ・・・)
バイクで待つこと数分。コンビニの自動ドアから出てきた女性は少し前のヤンキー姿とは打って変わっていた。
リンデルは上着をあの出航前のパーティーで着ていた黒のジャケットに替えていた。長い髪ピンク色の髪は町の光を受け淡く輝き、胸元の赤い花がそれをさらに引き立てていた。
「なにジロジロ見てんのよ!」
口調はまだヤンキーのままだ。
(・・・ あれ)
リンデルがバイクに跨るとふと金木犀の香が鼻に入った。
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街灯の淡い光が慣れ親しんだ道を照らしている。バイクから見るその景色はあまりにも小さく、あっという間に目の前を通り抜けていく。リンデルにはどうその目に映っているのだろう。その光景を目に焼き付けているようにすら見えた。
「おかえりパイン! ええっとリンネルちゃんね!あら可愛い!!」
住宅街の一画、玄関前の植え込み、車が1台入る駐車場の一軒家。学生まで世話になった、「過去」の場所にパイン達は来ている。
花柄のエプロン姿の金髪の女性がその玄関から勢いよく出てきていた。
「母さんリンデルだよ ・・・」
「あらごめん! なにその髪 地毛なの? キレイね!」
母は平謝りし、リンデルは「いえいえ」と言う。
少しだけ母親が年を重ねたように見えた。
「いえ 染めてます ・・・・ リンデルですよろしくお願いします」
「母さんあんまり時間ないから ・・・」
打合せの通り、その事をまず伝える必要があった。
それを母は無視し、家の中に冒険者2人を招き入れた。
汗をかいたリンデルの手を握りエスコートする。
夕食はかなり豪華に用意していた。
そして母のマシンガントークにリンデルは箸が進んでいなかった。母は彼女の様子に全く気が付いていないでいた。しかし、こんなに楽しそうに喋る母親は初めて見たかもしれない。逆に父は少し難しい表情で対面に腰かける2人の様子を見ていた。
…。
「本気なのか?」
女性2人は自分の映った写真を黄色い声を上げて見ているようだった。ジャケットを脱いだリンデルがようやく空気を掴めたように母と背を並べている。
自分は今こうして父とTVの前に置かれたソファに2人で座っている。
「本気?」
そう返す。
「お前には兄弟がいない それは俺達のせいだが ・・・」
「人に対して失礼な事はしちゃいけない」
「分かってるよ ・・・ 何をいまさら ・・・」
「驚いたぞ TVでお前の姿を見たんだからな ・・・」
その後父は何があったのか聞いてくる。それをかみ砕いて説明していく。
「ある人に世話してもらっているんだ ・・・」
「父さん 「空の時代」って知ってる?」
「 ・・・ 」
そう聞くとパインの父は真剣な表情になり、ただパインを見つめていた。
父は普段着ではなくきちんとシャツを着ている事に今になって気が付いた。
「関わっているのか ・・・」
…。
そう言われ再度の沈黙が父子の間を襲った。
「今夜は止そう また機会を改めて話そう いいな?」
それに「うん」と返事をした。
…。
TVが流行っている風邪のニュースの事を伝えだしていた。それを見ている内に時折聞こえる母の咳が少しだけパインは気になった。
「母さん大丈夫なの?」
それに父は「ああ」とだけ返事をしていた。
「「ねぇパイン今日泊っていくのよね!!」」
母が部屋の奥からそう叫んでいた。
「はい!?」 「え ・・・・?」
冒険者2人が息を飲む。
「「母さん 帰してあげなさい!」」
父が助け船を出してくれていた。
…。
見事脱出を図る事に成功した2人の冒険者は次の目的地に急いで向かっていた。




