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【第87話】帰路 その3

「あれ 間に合うかな ・・・」

 昨日アッシュに昼過ぎまでに行けと言われていたが……。丁度今がその時である。後ろのリンデルが喉乾いたとか言っていたのでこうしてサービスエリアまで足を延ばしてしまっている。


「え なに 時間決めてたの?」

「う うん ・・・」

 その事をリンデルに伝えると、ニヤニヤと笑っていた。


「いいじゃない 少し待たせても ・・・・」

 嫌な予感はしつつも、慣れない服装やバイクの運転の疲れを感じ、貸し切り状態の敷地内で一息ついてしまう。


 タジマ姉弟はありえない速度で先に走っていってしまったため、彼女らがどこに向かってるのかすら聞けなかった。


 そもそもちゃんと自己紹介すらしていないのを今思い出している。


「あんたが本気だしたら ・・・・ 彼女らが本気かは別として」


 リンデルが先ほどの戦闘について喋り出した。

 タジマ姉弟にでも勝てるとの見込みがあるそうであった。


「いやいや ・・・ 無理なんじゃないかな ・・・」

 コーダンに向き合った時と比べれば確かにそういった恐怖は感じなかったものの、かなり手ごわそうである。


「本気でそう思っているように見えないわよ?」


…。


 確かに、この右腕の奴の力を借りれば可能なのかもしれないが、果たしてそれが自分の実力なのか。それがどうも腑に落ちない。


「そもそも俺ら相手にする必要なんてないでしょ ・・・」

 そんな普通の事をリンデルに伝えた。


「それもそうね ・・・・ まぁ でも」

 彼女は貸し切り状態のサービスエリアの様子に一切の不安も見せずに。むしろ心を穏やかにして満足そうですらあった。


 その様子にもう少し道草を食べるのも良いのかもしれないとも思えた。


(でも なんだろうこの胸騒ぎは ・・・)

 さすがにあんまりにも待たせると色々まずい事が起こりそうな気がした。なので、切り上げようと席を立つ。


「なにびびってんのよ ・・・・」

「ん ・・・」

 中々前に進めない状況に少しばかり動揺してしまった。彼女を半分無視して自分等の食器トレーを両手で持ち店のカウンターに運んだ。


「行こう」

「はいはい ・・・・」


 リンデルの手を拾い、バイクに跨る。


…。


 高速にちらちらと車が見えてきた。おそらくインターを過ぎた事で一般人も通行できるエリアまで来ていた。


 何も知らぬ顔で運転する一般人の顔が不気味とすら思えた。


…。


「ふぅ ・・・」 「大丈夫だって ・・・・」


 携帯に送られてきた住所を頼りにこうして都内の役所に辿り着く。


 慣れない地図を確認しながらの運転、都内の蜘蛛の巣状の交通網に悩まされていた。

 案の定大遅刻。時刻はもう夕方を目の前にしていた。

 役所の作りは、やはり自分達の町とは違って敷地が狭かった。駐車場も立体構造になり上空に伸びる作りになっていた。

 そしてそこにパンパンに詰め込まれている車の数にパインは気負いしてしまっている。


 役所の作りも敷地に合わせて、ビルのように縦に長く伸びていた。あのイボアの角を持っていったビルと同じ、20階はあるんじゃないかと思われる高さであった。冒険者と思われる数人の人たちが何組もそばを走り抜けていく。どの人らも自分らに気をつかうでも話しかけるわけでもなく足早にこの建物に吸い込まれる、または出てきていた。それらを見れば見るほど自分が小さく思えてしまっていた。


(でも ・・・)

 コツコツと音を立てるリンデルの靴音だけが心の不安を和らげてくれた。そんな心持ちで高く伸びたエントランスを潜る。


『『ガヤガヤガヤガヤガヤ』』


 役所の中は冒険者でひしめき合っていた。男の汗の匂いが辺り一面に広がり正直いって臭い。建物も元は綺麗であったはずだが、今はこうして茶色く薄汚れてしまっている。


 冒険者が押し寄せることを加味された設計で入り口は2Fにも存在していた。


「ちょっと失礼するわね ・・・・」 『『おい!!!!! 順番!!!!』』


 受付の順番待ちの列をリンデルは無視して案内係のところまで足を運んでいた。止めたが、「大丈夫」と言われ、英雄気取りのチビヤンキーはそのまま、ずかずかと進んでいった。


「すいません お客様 ・・・・ 順番を ・・・・」 

「ピーナツ号での討伐の依頼を受けた者ですが」

 リンデルのその言葉が一瞬にしてその場の空気を止めた。


『おいおい なんだよ まじかよ ・・・』 『あいつら うわ ・・・ まじだ』

 ひそひそと話す声が後ろから聞こえてきた。


「か 畏まりました パイン様ですね? カードをご提示下さい」

「は はい」


 案内の女性にそういわれ返事をすると「少々お待ちください」と言われた。


…。


 すぐに奥から別の女性が現れた。


「案内いたします こちらです ・・・・」

 その女性先頭に冒険者らの波をかき分け役所の奥に案内される。


『ガヤガヤ』 『ザワザワ』


 所員以外立ち入り禁止のドアを潜り、その奥のエレベーターに3人で乗ることになる。


「すいません 遅れてしまって ・・・」

 3人きりになり、やっとのことで謝る機会を得ることができた。


「いいえ 構いませんよ」

 淡々とした返事が返ってきた。


 隣を見るとリンデルも当たり前でしょとの表情を作っていた。こういった駆け引きは彼女に任せよう。そう思った。


 エレベーターを降り、所長室に案内される。


「「おお 君か! 待ってたよ! いや待ちすぎだな! あはは!」」


 部屋の奥の机からワイシャツ姿の男性がそう言ってきた。案内してくれた女性はそこで退室した。


「「そこに かけてくれ! お! おい! お茶を!!」」

「トントだ よろしく!」


 このトントという男性は白髪交じりの髪をオールバックにし、同じく白と黒の交じった髭が短く顔中に広がっていた。握手するも、彼の手から無数に生える毛がどことなく野性的な雰囲気を感じた。身長は自分よりやや高いか同じくらいで、人懐っこそうなちょい悪おじさんとでも言えばわかりやすいかもしれない。ゼンダと同じようなインテリメガネをかけていたが、彼ほどフレームに角はついておらず丸みを帯びていた。あの年代の流行りなのかもしれない。


 その男性に2人して挨拶をすると、事務のおじさんがお茶をコツンとテーブルに給仕してくれる。


「いやぁ 話は聞いているよすごいね2人とも 若いし パイン君は ・・・」

 ゼンダ顔負けの早口であった。


 彼はピーナツ号での自分らの様子を事細かくすでに把握しているようであった。アッシュが伝えたのだろうか?誰がアッシュにこんな事まで伝えたのか。そのような疑問はさておき本題を聞くことにする。


「ここに来るまでにスルーエイプの討伐にも協力してくれたんだってね」

「タジマ姉弟に依頼したんだけどね」

「あの大きさだと下手するとBクラスの獣かもな」

「もうBランク名乗ってもいい気がするけど 君たちもやりづらいよな」

「とりあえずCランク名乗ってもらって構わないよ うん まぁ」

「こうして会えたこと とても嬉しく思ってるよ」

 再び彼が立ち上がり握手を求めてくる。


(Cランク ・・・ )

 それに応えるも、隣のヤンキーはあからさまにじれったそうにしていた。


「ええと 本題だが ・・・」

…。


(・・・ 耳が ・・・ 頭が ついていけない)


 彼の長い話を要約すると、アッシュの仕事の負担を彼が務めるようであった。


「それに必要なのが これ」

 そう言って手渡されたのが携帯。専用の回線でこれから用事が無ければ一々役所に足を運ばなくてもいいようだ。


「タジマ姉弟も実力を認めていたよ 仕事が今すごいことになっていてね 助けてほしい」

 要するに手間を省く分いっぱい働いてくれという内容だ。


「依頼が済み次第連絡してくれ 後の事はこちらが手配する」

「それはいいけど 報酬額は?」

 今まで言葉を封印していたリンデルがそう話を切り出す。


「いやあ 参った そうだよね ・・・ それなんだけど」


…。


 案の定、自分の予想が的中してしまっていた。振り込まれた額はこれからの仕事を加味した前払いであったようだ。


「ふぅーん そう ・・・・」


 リンデルもそう思っていたのか、頭の中でそろばんをはじく音が鳴っている。


「んで携帯の中のスケジュールを確認してほしいだが いいかな?」


 リンデルはそれにため息で返事をしていた。パインは渡された携帯の中身をチェックする。


「とりあえず今はそれだけだけど 緊急の依頼とかお願いするから その時は電話するね」

 そう言われ、案件を確認すると大体3つほど今週にやる必要があるようであった。


「わかりました」

 そう言い、携帯をしまう。


「と いう事だ 長い旅 ご苦労様 バイクの修理もするんだろう?」

 彼がそうニヤッと笑って言ってきた。


(!?)

「随分私らに興味があるようね?」

「そりゃあ アッシュ様から直々に依頼を受けてるしね ・・・」


 彼のメガネが蛍光灯の光を受けて白くなっていた。


 挨拶を済ませ、退室した。


『ほんとムカツク ・・・・』


 リンデルが自分だけに聞こえるようにそう呟いていた。

 そうして喧噪の中来た道を戻っていった。


…。


「で?」


 バイクの前でフルフェイスを脇に持ったリンデルがそう聞いてくる。何かを欲している、または苛立ちの面持ちの彼女に次に言う言葉を一生懸命に頭の中で考える。


…。


「えっと ・・・ 両親が飯作って待ってる ・・・」

「はいぃ?????」


 明らかにリンデルが動揺を見せていた。


「いや聞いてないから! それなんですぐ言わないのよ!!」」

 なぜか急に怒り出す彼女にどうしていいか分からなくなった。


「ご ごめん 嫌なら断るけど ・・・」

「アタシのことも言ってるの?」

「うん」

「・・・・」


…。


「何時にって?」 「6時 ・・・」


『『ボゴォ』』


 リンデルの右ストレートが溝内に綺麗にパインに決まった。


「ぶへっ ・・・ おぇ なんで」

「「あんたもあいつらと同類よ!!」」

「行くわよ 行けばいいんでしょ!」」

 そう言われ、腹を押さえながらバイクに跨った。


(何なんだよ全く ・・・ 良くわかんないなぁ ・・・)

 実家に帰る道のりを走らせるうちに彼女はより強く自分の体を抱いてきた。彼女の体温が厚手のジャケット越しにまで届いてくるほどだった。役所までの道のりよりも緊張している彼女の様子が余計に頭を混乱させた。

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