【第86話】帰路 その2
『なによ できるじゃない』
フルフェイスを被ったリンデルがそう言った。
いつもの団子ヘアーでヘルメットを被ることができなく、今は長いピンク色の髪を風になびかせている。
パインは教習所でしかバイクの運転の練習をしていなかった。初めは乗れるか不安があったが乗ってしまえばなんてこと無かった。
スロットルを捻り「そうだね」と軽く答えた。
…。
高速インターまで走ると、その手前から思わぬ渋滞が出来ていた。
「なによこれ こんなとこで足止めなんて ・・・・」
リンデルがフルフェイスを脱ぎ、そう言う。
「バイクで良かった いくよ」
車の間をかき分け料金所まで走らせた。
…。
「何があったんですか?」
料金所のおじさんにそう聞いてみた。
インターから先は車1つなかったので、何が起こったのか全く見当がつかなかった。
「ああ 申し訳ないが ・・・」
どうやら高速で事故が発生したようで、しばらく処理に時間が掛かると言っていた。
事故の内容を聞くとどうやら自分達で処理できるような内容であった。
「因みに俺たち ・・・」
パインは自分が冒険者であることをおじさんに伝える。そのまま処理に向かうことが可能かどうかを聞いてみた。
おじさんはハッと顔を持ち上げ、携帯をどこかへ繋げていた。
「ええっと君たち因みにランクとか聞いてもよいかな ・・・ ?」
そう言われ、困惑してしまったが。
「パイン あんたそれ脱ぎなさいよ ・・・・」
リンデルはパインの顔を彼に見せた後、スクープ映像も見せていた。
「おお どうりで見た顔だと ・・・ ちょっとまってくれ」
彼女のリークもこんなところで役に立つとは思わなかった。それをおじさんは上に確認し、ここを通してもらうことに成功した。
「大型の獣だ 何やらわざと車を狙って岩を投げてくるらしい 気を付けてくれ ・・・」
おじさんがそう言う。
この時、何故か全くその獣に対する不安は無かった。
この新品のジャケットとバイクに着せられているのか、はたまた後ろから抱き着くリンデルの体温がそうさせているのかは分からなかった。
『『ブゥゥーーーーーン ブンブン』』
いざ走らせようとした時、後ろから2人乗りをしたバイクが止まった。
「「あっれ 依頼は俺らだよな!? なんだこいつら」」
そのバイクには長身の男女2人組が跨っていた。
「「おうおう! ああ見たことあるぞ! なぁ!」」
軽く会釈すると、運転する男がそう言ってきた。
「あら 珍しいわね ・・・・ 横取りする気なのかしらね」
後ろの女性がそう話しかけてくる。
「い いえ そんな訳じゃないのですが ・・・」
なんだか睨まれてる気がしたのでそう弁明してみる。
…。
「なんだ ・・・ 弱そうだし ・・・ チビだし ・・・」
「ださいな」 「ださいわね」
そう2人に言われる。
「はぁ 何よ 言ってくれるじゃないの!」」
パインの後ろのチビヤンキーが2人の煽りに釣られてしまう。
彼らもフルフェイスを脱ぎ小競り合いを開始する。
どちらも長身で、アッシュよりも少し高いとすら思えた。面長な顔立ちでどちらとも綺麗な髪を長く伸ばしていた。
女性の方は茶髪、男性は黒い髪。どちらもセットアップの黒い革のジャケットとパンツを着こなし、見るからに強そうである。その黒い革が日に照らされ白く反射している。そして肩に2人とも長い得物を背負っていた。
「新品だぞ こいつらいっちょ前に革なんかははいちまって」
「ちょっとまって 可愛いじゃない 映像よりイケメンね ・・・・」
「おいおい姉貴 何言ってんだよ ・・・」
威圧する2人にそう言われる。
「ちょっと待ってあなたたち タジマ姉弟 ・・・・ ?」
どうやらリンデルは彼らのことを知っているようであった。
「あら ・・・・ あなたもちょっと可愛いじゃない そうよ」
「姉貴やめてくれって さっさと行こうや」
2人の意見は少しだけ違っているようだ。
「バカにされたまま 素通りされるのも気に食わないんですけど!?」
リンデルがそう食いつく。やめて欲しい。
「あはは 馬鹿にだってよ姉貴確かにそうだな まぁならねぇと思うが ・・・」
「勝負するか?」 「勝負しましょう」
タジマ姉弟がそう言ってくる。鼻からそんな気はない、勘弁してほしかった。
「いいわよ いいわね! パイン!」
「あ ・・・ はい ・・・ !」
「「デコボコじゃないの! 面白い いくわよツルギ !」」 「あいあい コン姉」
そう言われ、立ち往生させている獣の駆除という名目の競争がスタートすることになってしまう。
急な展開にパインは最初こそ困惑していたが、まぁ悪くはない。そうも思えていた。
先にスタートを切った後ろのコンと名乗る女性が自分達に投げキッスを送っていた。
「革に合ってるわよ」、そうも言われた。
…。
(初バイクでこんなトラップだらけの高速は勘弁してほしい ・・・)
岩肌を見せる急斜面に挟まれた道路。ちらほらとそこに飛び散る大きめの岩や一般人の車。パインはさすがに焦り、額に汗をかいている。
『ちょっとアンタ馬鹿にされてるわよ スピード出しなさいよ!』
後ろからそう言われる。そうはいっても相手のバイクは大型だし荷台なんてついてない。道も悪すぎる、そもそも勝てる勝負ではない。
しかし、彼らはスピードを落として目の前で余裕そうに蛇行運転をしている。どうやらからかわれているようだ。
「はいはい 精一杯やりますよ!」
そう独り言のように言い放ち、アクセルを吹かす。
(まじか ・・・)
道に止まりハザードを焚いている車が多く目に止まるようになる。車内で困惑したようにおびえている一般市民がいるのが分かった。
おそらく先にその大型の獣がいるのであろう。
そしてさらに道をいくと被害にあった複数の車両が目に飛び込んでくる。煙を上げる車や火を上げる車も見える。さらには車に大きな岩が刺さったりもしている。怪我をしている人は道路脇で救助を待っていた。
(自分らは救助ではない ・・・)
少しでも被害を抑えられるのであれば、この勝負にもやりがいはある。
助けるというよりも止めるという事が自分らの仕事。そう先の事をパインは考えた。
『ドーーーン!!!』 『ズシーーーーン』
嫌な音が走る先からうっすらと聞こえてきていた。
…。
『『いたわよ!!!!』』
タジマ姉弟のバイクの先に暴れる1匹の獣が目に飛び込んできた。
(なんだあれ ・・・ でかすぎだろ ・・・)
それは車を3台縦に積むほどの大きさをしており、かなりでかい。
昔見た映画の巨大なゴリラを彷彿とさせた。サメとやり合ったことで多少の免疫はついていたが、やはりその異様な光景に緊張してしまう。
そいつは今車を持ち上げ、アスファルトに叩きつけている。中に人が乗っていないのがせめてもの慰みだった。
(早く止めないと ・・・)
バイクを走らせるうちにその怪物がみるみるうちに大きく目の前に迫ってくる。
前のバイクが急な加速を見せ、怪物に迫っていく。負けじとそれに食らいついていく。
姉弟のバイクがキレイにブレーキングドリフトを決め、怪物一歩手前で止まる。しかし、パインは…。
「うわっ ちょっ ・・・」
『『ガガガガガガガッ』』
目の前の岩を避けてバランスを崩し、新車を地面に滑らせてしまった。
「「へったくそぉ!!!」」
そうリンデルに言われたものの、2人とも無事着地には成功していた。
滑ったバイクを目掛けて2人で走る。
リンデルと目で合図し、荷台からそれぞれの得物を取り出し姉弟の2人に加勢しようとする。
彼女にライフルを渡し、パインは太刀を抜く。そのままの勢いを借りて走った。
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怪物は車を得物にして姉弟に対面していた。
弟が持つ得物は先に楕円形の塊が付いた彼の身長ほどもある棍であった。肩に背負っていた時よりも2倍ほどの長さになっていた。おそらくなんらかのギミックがあるのだろう。
※ 棍: 読み方はコン 棒状の武器と思っていただければ幸いです。
姉が持つ得物は同じく彼女と同じ身長ほどの長さの大型の細い太刀であった。
弟は身を屈め棍を両手に、姉はその後ろからモデル歩きで太刀を地面に滑らせていた。
『『バーン!』』
リンデルのライフルが火を噴き、怪物の胸に着弾!バトルが開始する。
怪物は着弾を気にもせず弟を目掛けて車をもったまま右手で殴りかかる!弟はそれを物凄い跳躍を見せ回避する。
「「あたぁ!!!」」
弟は跳躍そのままに棍を垂直に振り下ろす!それは怪物の右腕に直撃した!!遠目でもかなりの威力を誇っているのが分かった。
『『ガァ!!』』 『ズザーーン!』』
怪物は車を手放し、一歩後ろへ後退する。
着地した弟はそのまま前に大きく一歩進み、棍を水平に薙ぎ払う。
「「ほあぁ!」」
昆は怪物の右足に吸い込まれ、『ゴン』と鈍い音を鳴らす。
「「うんりゃ!!」」
身を走らせるパインは姉の横を素通り。体勢の傾いた怪物の足元めがけてダッシュ突きをかます。
(んにゃろ!!)
『『がぁあぁあああ!!』』
怪物の悲鳴を上げる。そしてのけぞるようにして両腕を地面につけた。
『『バンッ!』』
リンデルの射撃が怪物の股間付近に直撃する。非常に痛そうな箇所である。
『『がぁぁあああ!!!!!!!』』 『『ぶぅん!!!』』
突如として怪物が体を起こし、左腕で弟とパインを薙ぎ払う。
パインは大きく後ろに飛ばされるも太刀で防御。弟も防御、パインの一歩前まで怪物から距離を取った。
「いいじゃんかぁ ・・・ 君 いいよぉ」
弟がそう言う。パインはそれに軽く会釈する。
今度は怪物が岩を掴み後衛の女性2人目がけて投げる。
「「危ない!!」」
パインがそう叫ぶも、余裕で彼女らは岩を躱していた。「ガラガラ」と岩がアスファルトを転がっていく。
「君は右側 俺は左」 「はい!」
岩を持つ暇を与えぬよう、2人で挟撃を開始。
「「らぁ!!!」」「「おぉお!!」」
パインは平然とかなりの重さの刀で連撃を放つことに成功していた。弟はそれを横目で見て負けじと棍を打つ。
2人の放つ打撃により怪物は次第に1歩1歩とじりじり後ろに後退していく。両足の毛は膝を中心にむしり取られ、抉れた皮膚や赤い血が至る所に飛び散った。
『『ギャアアアアーーーー』』
2人の攻撃に耐えられなくなった怪物は強烈な雄たけびを上げる。
(うぁっ ・・・・)
それを2人してもろ食らう。耳の奥がキーンと鳴る。
「「おいっ!!」」
弟がパインに叫ぶ。自分の手が止まったことに大きな目を鋭くさせていた。
(しまっ)
そのせいで怪物に逃げる隙を与えてしまう。そのまま奴はくるりとUターン、2人に背を向ける。
「しまっ ・・・ タ?」
『させるわけないじゃない ・・・・』
パインが焦った時、彼と弟の間を何かが物凄い勢いで前方に跳躍していた。
(なっ ・・・)
それが姉だと少しの間をもってパインは気がついた。巨大な背中を目掛けて細い一筋の影が跳躍した。
彼女の跳躍は怪物の頭をも超える。そのまま彼女は身を回転させ長い太刀を怪物の首元に滑り込ませた。
『 チュン 』
円状に刃物の通った跡が日に照らされ輝く。
…。
『『ドスーーーーン!』』 『 スタ 』
…。
怪物はパインに背を向けたまま姉の方に向け倒れ込んでいた。
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「やるじゃないのあんた達 ・・・・」
怪物は頭の無い首から勢いよく血を吹きだしていた。
姉がこちらまで来ると、脚をクロスして太刀に付いた血を払い鞘に納めた。
黒く長細いシルエットがそれまた長い刀を鞘に納めるそんな光景にパインは見惚れていた。
「んなっ ・・・」
刀を収めた鞘がスルスルと縮んでいくのにも、パインは驚いて目を大きくしてしまった。
(かっこいい ・・・)
…。
『シュッシュッ』 『スパァー』
後ろを振り返ると口元の緩んだ弟がタバコをふかしていた。
「ウケル お前らの新車台無しじゃん アハハ!」」
「「おれらの勝ちだよなぁ どう考えても!」」
弟がそう言い、焦るパインの肩にポンと手を乗せていた。
「「ほんとよ! 全く!!!」」
彼の後ろからリンデルが現れパインに追い打ちをかけてきた。
(ああぁ ・・・)
それに両手を合わせてごめんと言う。確かに彼らには1歩及ばなかったように思えた。
「負けです かね ・・・?」
しかし先ほど購入したバイク以外は無事にしてこの怪物の討伐を成功させている。それが一番大事なんだからと自らを慰めた。
「ああ~ もしもし ・・・・」 『シュッ スパー』
姉もタバコをふかす。
彼女は携帯でどこかに連絡を入れていた。「無事依頼をこなした」そう言っていた。その時彼女のまつ毛がキレイに上を向いているのが印象的であった。
彼らとしばらく談笑し、後は処理班に任せて同じ道を走らせることになった。
「借りができちゃったわね また会った時でいいわよね?」
姉にそう言われた。
リンデルは不服そうであったが、パインがそれを諫め「はい」と顔を縦に振る。
…。
早速大きな傷が出来たバイクに2人して跨る中リンデルがあの2人の事を教えてくれた。
大きな冒険者組織と同等の働きをする2人で一目置かれている存在だそうだ。2人ともBランクの冒険者であるとも言っていた。
姉は「コン」弟は「ツルギ」だそうだ。名前を覚えるのが苦手なパインは一生懸命に頭を回転させた。
(そう かぁ ・・・)
そんな2人に肩を並べて戦えている。そして、あの姉の動きにまで目がなんとかついていけた自分に少なからず自信がついてもいた。
また会う機会を楽しみにして、とりあえず次の場所まで行こう。そう思い、風を切り走った。
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「実力は 並みか ちょっと上か ・・・ う~ん」
崖の岩陰に潜む何者かが、携帯片手に言っていた。




