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【第84話】打ち上げと別れ。

 ピーナツ号から荷物を引き上げ、冒険者の5人及び船員達はそれぞれの帰路に着いていた。


『『ピロピロピロ パパッパーン』』

 突如としてオフにしていたパインの携帯から着信音が鳴り響く。


「「は! はい もしもし」

『よぉ お疲れ 頑張ったじゃねぇか ・・・』

 着信はアッシュからだった。

『要件があるけど その前にあの女に代れ』


…。


『『バカヤローーーーー オメェ何してくれてんだよ!!!』』


 リンデルに携帯を渡すと彼の怒号がよく聞こえてきた。


 必死に言い訳をリンデルはしていたが、最終的に問い詰められ萎れていた。


 ピーナツ号の入港をリークしたのが彼女であったらしい。コーダンが連絡を入れてそれをアッシュが意図的に呼んだものとばかり思っていた。

 何が目的で彼女がそんなことをしたのかわからないが、今までに聞いた中で1番の彼の怒号であったように思う。


 口では負ける気がないリンデルもこの時ばかりは手が震えていた。引きつった顔のままの彼女に携帯を返してもらう。


「んで 要件だが ・・・ 都内の役所に来てくれ」

「話は通してある ID見せればそれでいい 明日の昼過ぎまでにな」

 アッシュはそう言った。


 何をすればいいかと聞いたが、手が回らない様子でとにかく説明はそこで聞けと言う。そして場所は後でメールすると言っていた。


 先ほどの怒りが彼にまだ残っていたためこれ以上パインはアッシュに何も聞けなかった。


 それと電話の切れ際にお金を振り込んだ事、車かバイク買って帰ってこいと言っていた。


「だ 大丈夫?」

 パインがリンデルの顔を伺うと、彼女はパインの手を強く握った。一体何が起きているのか全くわからなかった。


--------------------------------------


 出航前のホテルに戻り、軽くシャワーを浴びた。


 これからこのホテルのラウンジで討伐の打ち上げを行うことになっていた。


 1、2週間しか離れていないのに物凄い過去に戻ってきたような錯覚がパインの身に起きていた。前と同じ部屋から望む景色は出航前と打って変わって、外からの白い光が部屋の全体を明るく照らしていた。


 ベットに座りそれをただ茫然と眺めている。


(ん? ・・・)

 携帯を覗くと母からの着信が入っていた。


「もしもし ・・・ どうした?」

『『ちょっとアンタ!!!』』


 話の内容はTVの男が自分かどうかとの問い詰めと、理由を説明しろとの2点張りであった。

 経緯をざっと説明すると父が代わった。


『時間がある時に寄ってこい』

 父からは短くそう言われた。


 断る理由も今は無いのでそうすることにした。


 気になってTVを付けると、30分置きに自分の姿がTVに映っていた。あの船で一々自分の体を見る暇なんて無かったため、TVに映るこの男が自分かと一瞬目を疑ってしまった。


 風呂場に戻り、先ほどは気にしていなかった自分の姿を鏡に映しだした。


(うぉ ・・・)


 引き締まった体、腹筋やら胸筋が線が入っているかのようにそれぞれの丘を作り建てていた。

顔つきまでもが、今まで見てきた自分ではない何者かにすり替わっている。


( う ・・・ )


 正直いいことなのかどうか迷ってしまった。サンベルに言われた事が脳裏によぎった。


(俺は本当に俺 ・・・?)

 こんな短期間でこんな姿になるなんて想像していなかった。はっきり言って、気味が悪かった。


…。


 ベッドに戻り再びTVへと体を向けるも、鏡に映った自分の姿が頭の中から離れることはなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ホテルのラウンジでワイワイ騒ぐ船員達の声がパインの耳を痛くさせた。


 気分が落ちた自分と、同じく気分が悪そうなリンデルが一緒に立っている。


 辺りを見渡してもコーダンとユーシルの姿はそこにはなかった。今回はただ船員達の酔う姿を目で追うだけの作業になってしまっていた。


 物凄く自分達のやった事を持ち上げられたり、からかわれたりした。だが作り笑いをするので精一杯であった。


「おい パイン! 飲めって! うち来いよな!」

 サクラにそう言われる。「はい」とだけしか返事ができなかった。

 

この時、何故か彼らとシンクロすることができていなかった。

「いや冗談だから 大丈夫かぁ?」


 後で聞いた話だが、サクラはもうすでにこの辺りに店を出店し、その日付まで決まっているそうだ。これを聞いた時はさすがに心がはずんだ。

 

…。


「今は何も考えないで ただ休んで」

 とサンベル。


「まぁた しけたツラしやがって!オメェが一番活躍したことになってんのによぉ!」

「あっ?違うよな俺だよな? な??」

「あの石弓を作ったの俺だしよ! まぁ誰も撃てねぇからあとで改良して見張り台にでも取り付けくわ!」

「あああぁ だめだこいつ 酒!おい俺に酒!こいつには青春レモンサワー だろぉ!」」

 とゼンダ。


『『ガハハハハハハハ』』


 仕事が降りてこない中の船員達はゼンダと仲良くしていた。その中で一緒にはしゃいでいるミグーナと包帯グルグル巻きのチャーギが楽しそうで少し羨ましかった。


 リンデルはなんとかそれらに混じっていた。


 今回、せっかくいい打ち上げを開いてくれたのにサンベルやゼンダなど、いや全員だ。お世話になった人との話も上の空になってしまっていたのが申し訳なかった。


…。


「乗りかかった船 ・・・ か」

 エゾマが1人になっている自分に近づき肩に手を乗せた。何も返事が出来ずにいる自分に続けて話してきた。


「終わりが見えていない事のつらさは 良くわかる ・・・」

「もう少しお前さんには時間が必要だろう ・・・ 」

 そう彼が言うと自分にコーラを頼んでくれた。


 ふと彼の顔を見ると、顔が真っ赤であった。あの話の続きをまた聞こうと思ったが彼はフラフラとラウンジの端に足を運んでいく。結局聞けずに別れてしまった。


…。


翌日…。


 ホテルのロビーでコーダンとユーシルを除いて、全員と握手し別れることになった。彼らがどこで何をしているのかはパインも含めて誰も知るすべは持ち合わせていない。だがチャーギ達はここナンテコッタイ周辺の調査を続けるようだった。グルグル巻きのチャーギはそれに慣れているといった様子で普段通りの笑顔だった。

 この時パインは先輩のそんな様子にすら気が回っていない。ただ今の自分のこれからのことを考えるのに必死だった。ただ、それとは別にミグーナがリンデルに熱い抱擁をしていたのがパインの目に強く焼き付いていた。


「あんた ちゃんと守るのよ!」

 そうミグーナに言われた。女神のような笑顔であった。


「はい!」

 昨日の事は忘れて、前に進もうと思った。


「チャーギ あれ渡すんでしょ?」

 続けて彼女がそう言う。


 チャーギが「ああ」と返事をしてごそごそと物凄い量のあの装備の中からあるものを自分に差し出してきた。彼は昨日遅くまで船員達と飲んでいたようで、木の枝のように髪を色んな所に曲げていた。包帯姿と相まってまるで妖怪か何かかと思ってはみたものの、表には出さないでおいた。


「これは ・・・」

 腰高ほどの長さの太刀であった。コーダンに借りたあの時の得物と似ていたが、少しだけそれより軽かった。


「俺がコーダンさんからもらったものだが ・・・ お前にやるよ」

「俺には扱えなかった ・・・ お前に託す コーダンさんも了承済みだ」

 そうチャーギが言う。


「そんな ・・・ 」

 一瞬申し訳ないと思ってしまった。


「ありがとうございます!」

 しかし、明るい陽射しと3人の目線が自分を励ましてくれるのが分かり、そう答えることができた。


「しっかりしろよ!」

 チャーギがそう言い自分に抱き着いてきた。

 

 ミグーナがそれを見て目に涙を浮かべていた。

 彼との経験も一生忘れることはできない。最初はどうなることかと思われた航海も、今こうして終わってみれば全てが順調にいく仕掛けのようにすら思えた。


「「行ってきます!!」」

 2人は先輩達にお辞儀をした。

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