表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/228

【第8話】質屋にて

 パインは見慣れない道をバイクの後部席から眺めている。


 普段外出などほとんどしない彼はしない。少しでも時間があればいけるであろう今アッシュが走らせている舗装されたこの道路は彼にとって見知らぬ景色であった。


…。


 走らせる事10分程度、パインを乗せるバイクはある商店街で止まる。そこの道路脇でアッシュはバイクを止めた。


「おい 羽根出せ」

 このセリフがもし「羽根」でなく「金」であれば完全に危ない人の台詞である。


(こわっ ・・・)

 アッシュは右手をパインに向け、羽根を催促する。


「はい ・・・」

 パインは駆け下りてバイクの荷台から羽根を取り出した。彼がアッシュに渡そうとするも渡しきる前に「さっ」とパインの羽根をアッシュは奪い取った。


(怒ってるのか ・・・ ?)

 何故かここに着いた途端アッシュは不機嫌になっていた。

「お前はそこで待ってろ 少し長くなるかもしれん ・・・・」

 その後ムニャムニャと何か言っていたがパインにその言葉は聞き取れなかった。


(聞き直すと怒られそう ・・・)

 彼は「わかりました」とだけいい、バイクの横に立つ。


 アッシュはバイクを止めてすぐ正面の奇妙な店に入っていった。


 その店は看板が上がっていない、そしてミラーガラスが張り巡らされていた。ドアの取っ手が無ければ「鏡の壁そのもの」と思う人が多いはずだ。アッシュがそのドアを掴んで暗い店内に入り込んだ所でお店だということにパインはようやっと気が付いた。


(そういう事か ・・・)


…。


 そう思い、パインは前を呆然と見つめた。


 ミラーガラスが自分の姿と反対側の商店街の人々で賑わった景色を映し出していた。


(・・・)

 街の賑わいとは対称的な無様な自分の姿が鏡に映っていた。


『 ガヤガヤ ・・・ ガヤガヤ 』


 目までかかるほどの長い金髪、頭を十字に巻いた白い包帯、ぼろぼろのTシャツ。


(・・・)

 まだ20になったばかりなのに、ぽこっとでたお腹。

 目。それだけが、これら自分の姿を意図的に脳に焼き付けようと必死になっている。

 左耳の包帯から血が滲み、赤くなっていることを今、彼は初めて知った。


(・・・)


//////////////////////////////////////


 ここ、今アッシュが嫌そうな顔で入った店の名は「超黒屋」という。

 店の外はミラーガラスが張り巡らされ、明らかに異質の風貌である。ドアノブに垂れ下がっている小さな札に質屋であることと店名が記されている。興味を持つ者がそれを見ない限り、この店が何を扱っているのかすらわからないはずだ。

 この店が人を寄せたいのか、あるいは避けたいのか、そこに関しては店主の頭の中のみぞ知るといった感じだ。かろうじて店の前にオレンジ色のビニールの屋根がかかっているため、太陽光を反射しないで済んでいる。もしそれが無ければ通行人が太陽の反射光で目を塞いでしまうはずだ。一応それくらいの配慮はしているようだ。それを取り付けたのは店が出来た後なのか、苦情がきた後なのかは別として。


 アッシュはガラスケースに入った様々な品物、そのどれもがおそらく高級品。それには目もくれずに真っすぐに進み、カーテンがかかったカウンターに手をついた。


「おい 俺だ いるか?」

「えーと お客様 今は準備中で ・・・・」

 カーテンの奥から面倒くさそうに喋る店主の声がする。

「おれだよ ・・・」

 アッシュがそうボソッとドスの聞いた声で奥にいる店主を呼んだ。


 カーテンが開くと小柄で頭髪が薄く、ちょこんとちょびひげを生やした男が出てくる。


 白いシャツに蝶ネクタイをし、緑色のエプロン姿である。その恰好は彼の真ん丸としたお腹によく似合っている。この男はアッシュと馴染みのようだが、「勘弁してくれ」とでも言いたげな様子だ。


「う ・・・ あ! アッシュ様 お久しぶりでございます」

「おっと 失礼しまして ・・・ 丁度スパイシーな食事を摂った後でございますので 少し お気に障るかもしれません」


 店主は口を押さえながら、自身の悪態を上手く躱そうとしている。


「どうでもいいよ ・・・ そんなん ・・・ それよりこれを見てくれ」

 そうアッシュが言うと、あの羽根をカウンターに置く。彼としてはとっとと要件を済ませたいようだ。

「こ これは ・・・ アッシュ様の指毛ですか?」

 店主が目をくりくりとさせ、そう口にする。

「はぁ? ・・・ どうしたらこれが俺の毛に見えんだよ」

「いやいや 失礼しました あんまりにも立派な物をお出しになるので アッシュ様ご自身の物かと ・・・」


 昼食の後で鈍っていた店主の頭の回転が通常のそれに戻ったようだ。


「冗談はお前の顔だけにしてくれ ・・・」

 このまま店主のペースに持っていかれる気分でないアッシュは嫌そうな顔をしてそう言う。

「はひっ まんまるプリティだと自負しておるんですがね!」

 店主も負けじと舌戦を行う。

「いいから ・・・ もう とりあえずそれ預かっといてくれ」

「かしこまりました しかし 私でも初めて見るもんです 立派な羽根ですよこれは どこでこれを?」

 店主の顔がアッシュに寄る。

「仕事で ・・・ 森の中に入ったとだけ言っておこう 他言はするなよ?」

「もちろんですとも あいかわらず景気が良さそうですなぁ そういえば アッシュ様 ・・・」


…。


 アッシュは店主の話に飲まれ、案の定、しばらくそれに付き合ってしまっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ