【第9話】トラウマ
この世界には休日も平日もない。そこでは、ただ1人1人に仕事が分け与えられ、個人とその部署の判断で休日が設けられる。町ごとに特色こそあれ、国といった概念は薄く各々が自由に生を営む。それにより人々は自分の興味に沿った人生しか歩めない。
…。
パインは耳に手を当て、自分をまだ見つめている。
『ガヤガヤ ・・・ がや 』』
商店街を巡り歩く人々の談笑は彼の耳に入ってこない。彼は過去を思い出していた。
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(・・・)
『『ブゥーーーーーン ・・・ ウーン ・・・』』
工場の換気の音が辺りを包み込んでいる。ステンレスの床と同じ素材の大きなタンクがメートル単位の間隔で並ぶ。蒸気や水、エアー等の配管がいたるところに、血管のように張り巡らされている。天井は高く、そこに秩序正しく並ぶ照明がそれらを白く照らす。
同じく白い衣装を身に纏った人々が無言で機械を操作していた。
「あんたが調剤みすったからあたしがさぁ!」
女性の声が機械の音に交じって、工場内に響く。
「すみません すみません ・・・」
パインはただ体を折り曲げてそう言う。
「分かったから早くあっち行ってよ もう ・・・」
明らかに不機嫌そうに女性はそう言っていた。
「あっ そこ 今その機械調子わる ・・・ 」
週の初めからここ「原料の投入口」に当たる機械から少しの異音がしていた。自分の担当はそこであった。それに気が付いてはいたものの、自分の上司にその事を伝えてはいなかった。そんな「簡単な仕事」ですら彼にとっては億劫でやりたくなかった。
さらにその時、原料の種類を間違えて投入してしまったため、自分の配属が変えられようとしていた。同僚に怒鳴られたことによる彼の緊張と機械の音で彼の言葉は女性に届かなかった。報告をしなければならない事まで彼女にやらせれば、再度怒鳴られる。そう彼は思った。
「何言ってんのよゴニョゴニョ いいからあっちいってよ もう ・・・・」
不機嫌そうな同僚の女性に一礼をし、パインはその場を後にする。
「わ わかりました ・・・」
仕事を失ったパインはうろうろと工場を歩き回る。
皆無言で機械を操作してる。マスクが顔を覆い表情すら伺えない。だが彼らの表情がどんなだったかは分かっていた。
(あっち行けか ・・・)
何をするわけでもなくパインはステンレスの床の上をぶらぶらと歩いている。
ただ、言われた言葉が頭から離れずいつも以上に頭を使っている気が彼はしていた。この仕事に対して何ら「やる気」はない。入って間もない頃は操作を覚えるのに必死だったが、慣れてしまえば何も考える必要がない。
2年はそうした無力感を伴なう時間を過ごしてきた。
(はぁ ・・・・・・)
『『ギャアァアアアアアア!!!』』
そして数分後、パインの耳にこの世の者とは思えない金切り声が飛び込んできていた。
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過去の情景が止み、再び鏡に映った自分をパインは見つめた。
(・・・)
「ギャア」という女性の声が何度も彼の頭の中をまわる。彼の左耳が熱を帯び、疼いた。




