【第78話】真・月下の決戦
「「大丈夫ですかっ?!」」
チャーギの着ている鎧がビクンと動く。
「「気を付けて!その鎧刃物が大量についてる!」」
パインはミグーナと手分けして、甲板の下に沈んだ彼の上半身を引き上げる。
「だ 大丈夫 ・・・ ありがとう ・・・」
チャーギは鎧の中で血を吹いていたがなんとか意識を保っていた。
「ヨクヤッタ チャーギィ ・・・」
「黙ってコーダン しばらくあんたの声聞きたくない ・・・・」
コーダンは仁王立ちのまま海を眺めていた。
(どっちが化物なんだ ・・・)
月の光を受けた彼の歯が白く輝いていた。その姿に一瞬身の毛がよだった。3人で鎧を剥し、露わになった一般人の体を医務室まで運んでやった。
…。
「終わった ・・・・ のよね?」
リンデルがそう傍で呟いている。
先ほど渡したネックレスが彼女の胸の上で緑色に光っていた。
パインがふと辺りを確認する。
空がいつものように船の動きに合わせて動いているように感じた。
雲もグレー色に色づき、暗い空を漂っている。何かがおかしい。
『ザザーン ・・・』
海もまた、小さな波を鼓動のようにして打っている。
(終わったのか? ・・・)
船首を見ると、コーダンはまだ仁王立ちのままであった。
『 ・・・・・・・・・ 』
なにやら呟いていたが、医務室からではその声はパインの耳に入ってこなかった。
「終わりよ あいつはほっといて」
『『ザザザザザ!!!!』』
「「キャア」」
ミグーナがそうこの決戦の終わりを宣言したすぐ後であった。
突風が吹き、海が急に荒れだした。
『まだよ ・・・・』
あの声がパインの耳に入る。
パインは「確かに」と呟き拳を握った。よく分からないが、手ごたえみたいなのを彼は感じなかった。
(「あのサメは形を変える ・・・」)
チャーギがそう言っていたのを思い出していた。
「まだです! やつはまだこの船の近くにいるはずです! 準備を開始してください!」
「「ええっ!?」」 「「あんたまでおかしくなってんじゃ ・・・・」」
女性2人からそう責められるが、自分の直感とあの声を信じている。
「あの鯨の声が耳に入りました まだ やつは生きてます!」
そう言うと2人は顔を一瞬見合わせていたが、コクと頷くとすぐさまその言葉を信じ行動に移していた。
雲の形が線状に横に伸び、もはや白い草原のように空一面を覆い始めた。船の照明が真夜中だということを忘れさせる。
高い波が船を打ち、その身を揺らし始めた。
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『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ』
船の下から鈍い振動が伝わる。
「「クルゾーーーーー」」
船首でコーダンが叫んでいる。後ろの3人も次弾を装填しコーダンの方角に身を構える。
「ありえない ・・・・ あの一撃お見舞して生きているの見たことないわ ・・・・」
ミグーナがそう呟いていた。
『『ガシッ』』
船首の左翼側を巨大なヒレ、それだけで1mは超えている、が掴んだ。
(で でかすぎる ・・・!)
船が怪物の重量を受け、前に傾く。
「「ウオアーー!!」」
コーダンがそのヒレを船首ごと殴りかかっている。
鈍い音が響くが、ヒレの形状はコーダンの攻撃を受けてもなお現状を留めていた。
『ガシッ ブンッ!』』
もう片方のヒレが右翼側を掴み、そのままコーダンをデコピンする!
コーダンはそれを生身の右腕でガードし耐える。
『『ズガガガガガガガガガガガガガガ』』
船首中央に「サメだったやつ」が顔を突き上げる。
(なんなんだ あれ ・・・)
「「きゃーーーーーー!」」
リンデルが叫ぶと、ミグーナと2人でそれに向け銃弾と矢を放つ。それらは音もなくその巨体に吸い込まれていった。
そいつの体の幅はこの船と同じ6、7mはあるのではないかと思われた。
海面からそれが突き出していると考えると体長は10mいや、20mは超えている。
顔は体の幅に合わせるように大きい。
ボーリング玉の2周りほどもある眼球がギョロとつきだし、鼻の箇所は巨大な2対の角、口はサメのように横に大きく裂けていたが歯はついておらずむしろ唇のようになっている。全身には頑丈そうな巨大な鱗が覆いつくされていた。腹なのか首なのか定かではないが、その部分だけがベージュ色の肌のようにたわんでいるように見て取れた。
『『アッハハッハアアアアガアアッハア! これならどうだ にんげん?』』
怪物がそう叫ぶ。叫びの振動だけで後ろの医務室の窓のガラスが割れそうなほど振動している。
「パイン これ あたしなら逃げるわよ ・・・・」
リンデルがそうぼそっと口にしてきた。
「普通なら ・・・」
その後の言葉がパインは浮かばなかった。
「逃げられないじゃない ・・・・」
ミグーナがそう、さらっとつっこむ。
「「やりましょう!」」
パインの口から自然に言葉が出た。
『しょうがないわね』
女性2人が聞き取れないほど小さな声でそう返してきた。
『『ガッチャ』』
慣れた装填を行い。
石弓を撃つ!
『『 シュッ ・・・ ドガーーン! 』』
怪物の肩に着弾し、肩の鱗を吹っ飛ばした。
その間もコーダンと怪物の肉弾戦が繰り広げられている。
まだまだ弾はある。遠距離で3人固まって攻撃をしかける。
…。
『『ザアアアーーーーザァアアアーーーー』』
いつの間にか突風と横殴りの雨が全員に襲い掛かってきていた。その音が自分らの攻撃の音と話し声をかき消していた。
船が揺れるためこの石弓の制御がうまく行かない。数発外してしまっているように思えた。しかし、怪物の剝がれた鱗から赤い血が飛び散っていた。
(再生 ・・・ しないのか!)
確実にダメージを与えているようであった。
「「ぱいんっ!!!!!あれっ!」」
隣でリンデルが叫ぶ、その方向を見た。
怪物の目がこちらを向き、角の先が水色に輝いているのが分かった。おそらくまた遠距離攻撃を仕掛けてくる。
(まずいぃっ!!!)
そう思い、隣に用意しておいた盾を拾い彼女らの前に立つ。
『『チュイーーーン ・・・ 』』
高圧のビームが横なぎに振るわれた。
『『!!!ガ!!!』』
それを上手く盾で防御した。
しかし、辺りの光線が通った部分は綺麗な断面でカットされていた。
「「あっちぃ!!!!」」
この盾はなんとか貫通をさけられたものの、持ち手にまでその攻撃による熱が伝わってきていた。
コンクリート作りの医務室でさえ、なんとか現状を保っているものの、少しでも手を加えれば崩壊しそうな勢いだ。
怪物はその攻撃の反動なのか、背を反り顔を後ろにしていた。
「私達の前にこの船が壊れる!」
ミグーナがそう言う。
「「ウオオオオオオオオオオ!!!!」」
前からコーダンが叫び、彼が空中に飛び上がったのが分かった。
そのままこん棒を垂直に振り下ろした!
船ごと怪物の左ヒレに直撃し、船の一部と怪物のヒレが海に落下していった。
荷重が変わった船が大きく揺れる。
それに耐え、自分達3人も怪物の右側の肩を集中的に攻撃する。
『『ズガーン!』』
自分の石弓がそこを捉える。怪物の右ヒレが根本から切り離される。
「「「やった!!!!」」」
『『ズズズズズズ』』
船を持てなくなった怪物が長い首をナメクジのように器用に使い船首に彼の上半身を乗り上げてきた。
『『ズズーーーン!』』
再び船が大きく揺れ、船首側に再度大きく傾いた!
…。
より近くで見る怪物はまるでタンクローリーの太さの蛇を思わせた。先についていた顔は唇を持つエビのようであった。唇からは手のひらほどの大きさの泡を無数に吐き出していた。
「「だはははははははっ! いってえじゃねぇかああ!」」
泡と共にサメはそう咆哮していた。しかしこの船に乗り上げて登場してきたよりも1周りほど体が小さくなっていた。おそらく自分達の攻撃がダメージを与えている。パインはそう確信した。
しかし、その分蛇のように体をしならせることができるようで、コーダンはその巨大な首に苦戦しているようだった。
物凄い早さで頭の2本の角をコーダンに振り下ろしている。
「「ナンノーーー !!!」」
彼もまた物凄い早さでその攻撃を受けていた。
「「ウリャアアアアア!」」」
『『バギィン!』』
角が1本根本から折れ、甲板に突き刺さった。
「「があああああぁああ!!」」
怪物が悶え苦しみながらウネウネと身を後ろに引いていた。
(い イケル!)
自分ら3人は見張り塔の下まで後ろに下がり、中腹まで階段を上ると攻撃を再開する。
(よ よし もう少しだ ・・・)
石弓に弾を装填し、撃つ!
『『ズガーーーーン!』』
「なにやってんの! しっかり狙って!」」
怪物の動きが速く、パインは的をしぼりきれない。甲板に大穴を開けてしまう。
「「コーダン!!!!」」
ミグーナがそう叫ぶ。
そこには片膝をつく黒い塊があった。
(やられたのか ・・・ ? あのコーダンさんが?)
彼は腹を抑えている。いつのまにやらあの角の攻撃を受けていたようだ。
「「ダイジョウブ モンダイナーーーイ!」」
こん棒で地面を突き、巨体を奮い立たせていた。そして、再度怪物同士の剣劇が始まった。
(まずい ・・・ そろそろコーダンさんでも ・・・)
そう思い次弾を装填しようとすると。
「待って ・・・・」
リンデルがその手を止め、なにやら別の弾を自分に披露してくる。
「あの白い粉 ・・・・ 半分以上それに使ったわ」
最後の1撃。彼女とミグーナの顔でそれが分かった。大事にしまっておいた弾頭をリンデルが手に持っていた。
(外すことができないってことね ・・・)
それを無言で受け取り、装填する。
「あたしが ・・・・ 打つわ!」
「「ダメ リンデルあんた死ぬわよ!」」
ミグーナが話に割り込み、そう口にする。この石弓の反動に耐えきれるのはコーダンとパインのみだ。
「大丈夫 考えたの あたしだってそんなにバカじゃない ・・・・」
「パイン それ持ったままわたしをだっこして!」
「えっ!」
そう反応すると既に彼女はだっこさせるよう自分の前に後ろ向きに立っていた。
「走れるわね? なるべく至近距離でやるわよ!」
(おっけー ・・・ なのか?)
こうしてパインはリンデルをお姫様だっこしながらこの巨大な石弓を持つことになっている。
彼女は身をくねらせ標準とトリガーだけを手に持っている。
確かにこれなら、リンデルはこの弓の反動を最小限でしか受けることは無いだろう。
「「いいわ! いきなさい! 援護は任して!」」
ミグーナが叫ぶ。
リンデルを抱きかかえたまま走り、コーダンの後方まで行こうとする。
「「あぶないっ!!!!」」
船の左翼側を走っていると上からミグーナの声がした。
コーダンと怪物の剣劇の最中、折れていない方の角が水色に輝いていた。
怪物がウネウネと後ろに下がりあの高圧ビームをこちらめがけて横なぎに振るおうとしていた!
「「ジャンプ シロオ!!」」
後ろを振り向いたコーダンがそう叫ぶ。
「「ふぁっふぁい!!!」」
大縄跳びよろしく、2人して垂直にジャンプをする。
『『 ピシューーーーン 』』
嫌な音が耳に入った。
( ・・・ )
もしこれが避けられていなければ着地した時にそれが分かる。
自分とリンデルの体か足が切り離され。地に身を打つだろうとも。それすら想像してしまう長い時間の跳躍であった。
(・・・ たのむ ・・・ ちゃんと着いてくれ ・・・)
『タンッ』
( ・・・ )
(・・・ 大丈夫だ ・・・ 動く ・・・)
なんとか怪物の光線を回避することにパインは成功していた。
(ふぅ ・・・)
リンデルは強く自分に抱きつき、この時ばかりは目を瞑って震えていた。
「大丈夫 避けた!」
『良かった』
小さく彼女がそう答えた。
船の左翼側の手すりのほとんどが無くなっている。怪物とコーダンとの格闘で海に沈んでいた。
そこをパインは駆け抜ける。
怪物は自身の放った攻撃の反動を顔を天に向けながら受けていた。
「「今よ!! コーダン!! 下がって!!」」
ミグーナがそう叫ぶ。
石弓とリンデルの顔を怪物に向ける。
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(大丈夫 わたしなら外さない ・・・・)
こうしてこいつの腕の中なら安心して狙える。
この弓を見た時からパインじゃ不安だった。だからといって私が弾ける代物でもないと、あの撃った反動を見て分かった。だったらそう、こうしてこいつの腕の中で打てばいいじゃない。
こいつが鯨の中から出てきて、海面に浮かんだ時にこうしようと気づいたのよ。
コーダンがミグーナの声で大分後ろに下がった。
怪物は顔を天に向けながらも、うねうねと動いてる。
(でも ・・・・ 外さない)
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『『グ』』
リンデルが引き金を引いた。
その時、パインはいつもと違う感触を体で感じていた。こいつ、石弓の硬い体が鋭く自分の胸に飛び込んでくるだけじゃなかった。
柔らかいリンデルの体がパインの体からそっと引き剥がされるような感覚。それに彼は焦った。
『『 グガガガガガガァー 』』
怪物に弾が着弾したのを見た後にリンデルはまた自分の胸元に戻ってきた。
「「やった!!! やったわよ!!!」」
ミグーナの叫びが耳に入る。
「「オオオオオオオオオオー!」」
コーダンの叫びも聞こえてくる。
怪物は顔を半壊させ、白く爛れていた。角はどこかへ消し飛び、微動だにしていない。
( ・・・・・・ やった! )
「「! ッ」」
感極まったパインは喜びの声を上げることができなかった。
リンデルを降ろし、パインは喜びを体で表現した。
…。
『『ザァーーーーーーーーーーーー』』
横殴りの雨は隣の建物の陰で2人には届いていなかった。
その音を棒立ちになりながら聞いている。
「やったじゃない ・・・・」
「やったねぇ ・・・」
ミグーナがこちらまで駆け寄り、嬉しそうな笑顔をこちらに向けてきた。パインはまだ胸の高鳴りで彼女たちに返事ができていなかった。
コーダンは怪物を棍棒でツンツンしていた。
『『ザァーーーーーーーーーーーー』』
『まだ まだよ ・・・・』
「「えっ!?」」
パインがそう叫ぶと彼女達が何言ってんだという表情を浮かべて返してきた。
「「まだですっ!!!」」
「コイツ シンデルゾォ?」
コーダンがこちらに向け歩み寄ってきた。
その時だった。
白く爛れた顔はそのまま、後ろの蛇のような太い胴体がビクンと動いたのが分かった。
顔を切り離すと、太巻きの断面が形を変えていく!
船首側まで後ろ向きにウネウネと動くと、オコゼの捕食シーンのように断面になった所から巨大な口が姿を表す。それが気味悪く縦に大きく伸びた。
「「まずいっ! 気を付けてっ!」」
パインがそう叫ぶと、皆してそいつの方を向く。
「「油断したなー にんげん!」」
『『ゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー』』
怪物はそのまま物凄い勢いで空気を吸い込み、腹を巨大に膨らませてさせていった。
「「きゃああああー!」」」
その吸引に抗う様に自分ら3人は身を寄せ合う。
「「きゃああああああー!!!」」
一番怪物に近かった、そしてなにより一番軽かったリンデルが宙に浮く。
『『ガシッ!』』
なんとかパインはリンデルの手を掴んだ。
しかし…。
(くっ くそぉ!!! すべって ・・・)
しかし、さらに勢いをつけた吸引により彼女の手が指が、パインの手から抜けていく。
「「ぱーーーいぃんっ!!!!」」
リンデルの細い指が宙に放たれた。
「「りんでるっ!!!!」」
パインは追いかけようと走ろうとした。
『『ガシッ』』
「なにしてるんですか! 離してください!!!!」
なぜかミグーナが自分の腕を掴んで離さなかった。
リンデルが顔をこちらにむけたまま怪物の口めがけて飛んでいく。
そして…。
ピンクのボールが穴に落ちていくようにリンデルはサメの中に吸い込まれた。
…。
(そろそろか ・・・ ?)
久々に聞く声にパインは焦りもせず、条件反射のように軽く頷いてしまっていた。
コーダンも手をクロスさせ、吸引を抑えていた。リンデルが宙に飛んでいることすら彼は気がついていない。
(はやく ・・・ しろ!)
パインは声の主に強く念を押した。
飲み込まれる時の彼女の表情がパインに何かのスイッチを押させたようだった。
(役立たずども ・・・)
『はなせっ ・・・」」
パイン、はミグーナの手をグンと振りほどく。
怪物は形を再度あの巨大なエビのような形態に戻していた。しかし、大きさはさらに一回りほど小さくなっている。おそらく一番最初の形状に戻っている。甲板に再度降り立つその白いサメは船の照明を浴びて不気味に白く輝いていた。
『『バガンッ』』
パインは荒々しくロッカーの扉を引き剥がしリンデルに買ってもらったあの銛を手に取る。
「「ああはははは やっとくえたぞぉ!!! まずは1ぴきだあ」」
「「パイン!どうするってのよ!」」
後ろからミグーナの声がしたが、そんなの今の彼には全く効果がなかった。
コーダンがまたちまちまと剣劇を奴とやり合っていた。そんなのじゃ拉致があかない。
怪物が小さくなっている分動きがさらに早くなっている。だがそんなのも今のパインには遊んでいるようにしか目に映っていなかった。
『シュッ ・・・』
やつの足下まで駆け寄る。
「「邪魔だっ!」」
パインは手のひらでコーダンの胸を打った。打たれたコーダンは巨体を転がし、ミグーナのいる所に着地を果たす。
「「ウグェッ! パイィン!?」」
パインが上を見上げると奴の厚い唇がにたぁと笑っているのが目についた。
笑う時にできた下の歯のような牙の先にリンデルにあげたネックレスがぶら下がっていた。
(ぶちっ)
パインの頭の中のヒモが鈍く音を発した。
『シュッ』
左翼側のゼンダと補修した手すりの上に飛び乗る。
…。
【そのパインの姿は槍を天に掲げるガーゴイルのよう】
一瞬にしてその姿は消えた。パインは手すりから上空に飛び立つ。
( ・・・ )
『 グンッ ッ! 』
手すりはパインの蹴りを受けあの石弓のように大きくしなり、まるで石弓の弾を打ち出すかのように超速でパインを宙に放っていた。
パインは銛を大きく肩の上まで逆手で持ち、奴の口元のネックレスめがけて狙いを定める。
上空から見るこの船の景色はまるで黒い背景それのみ、パインの目には船の照明すら映っていない。その中の緑色に光り輝く1点のみをパインは捉えていた。
雨空の下、黒い影をまとった大きな塊になったパインは自身の体をこれでもかと仰け反らす。撓りきった体は「ブチブチ」と筋が張ったり切れたりする嫌な音が鳴り響く。そして彼は1つの黒い円を思わせる極上のバネを描いた。
『 ッ 』
宙から衛星からのレーザーのごとく1筋の光が放たれた。
銛は雨粒を切り裂き、蒸気に変えるほどのスピードと威力を誇る。その投擲は誰にも捉えきれるものではなかった。
その間「0秒」豪速の銛の先がネックレスの緑色に輝く石にピッタリと触れた。
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(「大事な時に使うのよ ・・・」)
マユミがそう言っていたのをパインは思い出していた。
(大事な時って ・・・)
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「「がぁ !?」」
怪物はパインの動きに全くついていけていなかった。奴は動きを止め、何が起きたのか考えようとしていた。だが、その考える隙もなく奴の意識は消える。
パインに吹き飛ばされたコーダンも彼の目でそれ全てを捉えきれていなかった。彼の目に映ったのは頭を吹き飛ばされ、形を崩していく怪物の様子と一筋の光だった。目でパインを探そうとするも彼の姿はそこに映らない。
…。
パインの解き放った銛は確実に怪物の口に着弾した。そのまま奴の脳天をぶち破り、船首で動きを止めていた。
パインは緑色の光が怪物の口から中心に広がっていくのを上空で見ていた。あのネックレスが「道具」だと気がついたのはこの時、使った後だった。
『シュタッ』
そしてパインが船首の先に着地する頃には、怪物の姿はほぼ溶けて無くなっていた。緑に輝く光は怪物の白い体液に飲まれて消えて無くなっていた。
(ふぅ ・・・)
怪物の真下に歩みを進め、棒立ちでその光景を眺める2人をパインは無視する。彼はそのまま自身が放った銛を甲板から引き抜いた。
「なんなのよあれ ・・・・」
「アア ・・・」
パインの銛を持つ手から黒い影がゴォと吹き出し不気味に彼の頭の上まで昇っていた。
(またな ・・・)
この旅のきっかけを作った彼がパインの頭の中でそう言ってきていた。
…。
--------------------------------------
…。
『やったわ ・・・・ ありがとう パイン』
(・・・ んぁ ・・・)
その声でパインは我に返った。あの鯨の声だ。
「リ ・・・ リンデルはっ?! 」」
パインは怪物の立っていたところまで走る。コーダンとミグーナも駆け寄っていた。そこにはどろどろに白く溶けた怪物の亡骸が辺り一面に広がっていた。
3人とも無言でその亡骸をかき分けた。
「「いたっ いたわよっ!!!」」
ミグーナがリンデルをそこからグィとその胸に引き上げていた。
(よ ・・・ よかったぁ ・・・)
その光景はまるで赤子を抱える母親のようであった。
リンデルの目は閉じていたが、うっすら笑っていた。
「大丈夫 息もある ・・・・ 怪我もない」
ミグーナがそう言っていた。彼女の目からは雨に交じって涙が流れていた。
彼女はリンデルを抱きながら医務室に走っていった。
パインは膝をつき、それを目で見送ってやった。
(良かった ・・・)
…。
「オイ」
「はい ・・・ ?」
「オメェ オレンコト ブットバシタナァ!?」
コーダンが笑いながらパインに話しかけた。
「そんなこと できるはず ・・・」
しかし、この時パインは全部それらを覚えていた。彼は少しだけ遠慮していた。
「「ダハハ ツギハ オマエトダナァ ・・・」」
笑ってはいるが、彼にしては珍しく雨に交じって口から荒い息が上がっていた。
「あれ ・・・ 何か ありますよ」
白いはらわたの中に人の形がくっきりと浮かんでいるのが分かった。パインは意識が朦朧としながらもどうにか現状を確認している。
それをナイフで切り裂き、中身を外に引き出した。
「お おじいさん!?」
そこには目を瞑った老人が横たわっていた。
「んっ!!!」
ふと上を見上げると、いつのまにやらここまでやってきた船長のユーシルがその場に立ち、この老人を見下ろしていた。
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…。
『『 ビュウウウウーーーーーーー 』』
雨は上がり、風だけが吹く。
月の光が船と仲間達を照らしていた。
…。
こうして、深夜の長期に渡る決戦は幕を閉じた。




