【第77話】月下の決戦
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「なんで 俺だけが見張りなんだよ ・・・」
男はため息をつき、自分の運の無さを嘆いていた。
『ビュウッ』
「うわっ ちょ っ ・・・」
急にどこからか突風のような物が男のキャップを飛ばした。
「まじかよ ・・・ ついてねぇ ・・・」
男はあの事件以来キャップを被っていた。パインのスパイク靴の落下により頭部を何針も縫う事になってしまっていたのだ。
その為サンベルに丸刈りにされた。それを隠すようにキャップを被っていたという理由だ。
(悪いことは ・・・ するもんじゃねぇってか ・・・)
「おおっ ・・・ 鯨 ・・・ 」
風の吹いた方向を見ると、数匹の鯨が海面に背を打っている光景が目に映った。
そこを双眼鏡で真剣に覗き込む。
「「んあっ! いたいた! やべぇ!!」」
「「「おおおおーーーい! 出たぞー!!!」」」
急いで階段を駆け下りそれらを知らせに走った。
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『来るわよ ・・・・』
鯨で聞いたあの女性の声がパインの耳に入った。
「ゼンダさん 行ってきます!」
「「おう!! ぶちかませ!」」
ゼンダにそう言われた。
それと同時に部屋の外から騒がしい声が耳に入ってきていた。
パインはベッドから這い出て、既に準備していた恰好のまま部屋を飛び出した。
作戦を皆で練った後、リンデルとミグーナはあのビンの白い粉を薬莢に詰める作業を行っていた。チャーギは全身鎧を着る準備をしていた。その鎧は何やらコーダンとの連携に使う物らしいが、詳しくは教えてくれなかった。
自分は今こうして持っている石弓の最終調整をゼンダと共に行っていた。
(もう 外さない ・・・)
そう心に誓った。
甲板に上がる途中で丸刈りの漁夫にぶつかり謝ったが、彼はなんら返答なくおずおずと部屋に引き上げていった。
(返事くらいすりゃいいのに ・・・)
そして甲板に上がると自分を最後にして冒険者5人とエゾマがすでにそこに居た。
「わしらはここまでじゃ ・・・ 頼んだぞ ・・・」
エゾマがコーダンに歩み寄り握手を交わしていた。
「「あそこ!!!サメの背びれ! 1キロ先」」
リンデルが銃のスコープを覗き、迎え撃つ敵を確認していた。
「では ・・・ 健闘を祈る ・・・」
エゾマは足早に操舵室に戻っていった。
「「作戦通り 私達は上から パインはコーダンとチャーギの後ろから ね!」」
「「ヤルゾォ チャーギィ!」」
「「コーダンさんやってやりましょう!」」
「「頑張ります!!」」
船首の広い所でコーダンを先頭に自分ら3人で広がる。
女性陣は上へと駆け上がっていった。
…。
月が輝く夜空の光景は自然の偉大さを体現したものであった。やはり空が静止しているようにも思えた。その理由はおそらくこの海の静けさからだろう。
「「アハハ バトルバトル」」
コーダンは普段着そのまま、しかし彼の持つ得物は一番最初に自分と対峙した時のそれに変わっていた。一見鉄板のように見えるそれが、果たしてどう機能するのか少し興味が湧いた。彼は船首の先から船の下を覗き込んでいた。
『『バッシャッ!』』
物凄い勢いで白い何かが船首から垂直に登っていった。
空中で月に照らされたそのサメは恐怖のそれよりも一瞬だけ美しいとパインは思ってしまった。
『『ドン!』』
だがそれは一瞬だけであった。
( ・・・ )
口は大きく裂けたホホジロサメの顔、後ろの大きく発達した足のようなヒレと同じく発達した長い手のようなヒレ。コーダンの2倍ほどの高さを誇るそれは不気味以外なににも表現できるものではなかった。
(こいつが ・・・)
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「「おお 待っていたのか にんげん ああ お前は酒の匂いがするなぁ ・・・」」
サメが低く響く声をコーダンに浴びせていた。
「「マッテタゾォ シロサメ! ニククッタラ サケ ノムダロォ!!」」
(喋るのか ・・・)
「「じゃあ 酒の入ったお前のはらわたいただくとするぞ!」」
『『ガィンッ』』
(うそだろ? 見えなかった ・・・)
コーダンはサメのヒレの一撃を両手で持っていた鉄板で受け止めていた。彼らの短い会話で一気にその場は戦場に置き換わった。
「「コンナモンカァーー?」」
コーダンがサメのヒレの打撃を受けながら物凄い早さの斬撃をお見舞していた。
「おまえ 強いな」
サメが低い声をコーダンに浴びせていた。
『『ガガガガガガガガガ』』
水しぶきと突風が吹き荒れる。
サメもコーダンの動きに合わせ、長いヒレを使って彼の斬撃を受けていた。
「「今よ パイン!」」
塔からミグーナの声がする。
『『バァンッ バァン! シュッ!』』
彼女らの援護射撃が入り、サメの体に吸い込まれる。
パインは急に始まった試合にしばらくついていけなかったが、女性陣の動きでやっと頭を切り替えることに成功した。
(止まってる今なら ・・・ 行ける!)
ロケット弾を装填した石弓をサメに向けて放つ。
『『 シュッ ・・・ ダーーーーーン 』』
(あ あたった !!)
横目で見ながら次弾を装填する。
サメの腹が大きく抉れていた。
「いってぇな おい!」
サメがそう喋っていたがそれを誰も聞こうとはしない。
「「チャーギィ!!」」
「はいっ!」
コーダンはチャーギの両足を片手で掴むとそのままチャーギをサメのどてっぱらに横なぎで払った!
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【大回転撃】
それはチャーギが身に纏った鎧と剣をそのままコーダンの力で薙ぎ払う長射程かつ強打撃かつ斬撃の合わせ技であった。チャーギの肉体はサメの抉れた腹部にのめり込み、サメの体を真っ二つにした!
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かのように見えた!
「「まだよっ!」」
上からリンデルの声がする。
「うはははっは すんげぇじゃねぇか おもしれえ」
サメが笑いながらそういう。
上下に別れているはずのその肉体はなぜか綺麗に繋がっていた。
「「チャーギ サガレッ!」」
コーダンがそう言うとそのままチャーギを後ろに投げていた。
(自分で投げてるじゃんか ・・・)
「はい ・・・」
むくっと立ち上がるチャーギ。なんだか可哀そうであった。
(しかし ・・・ どうゆうことだ ・・・ ?)
自分が放ったロケット弾によって抉れた腹部もきれいさっぱり元に戻っていた。
コーダンはそのまま剣劇を放ってサメの動きを止めていた。
「こんなもんかぁ ・・・?」
『『ガガガガガガ』』
サメの連打にあのコーダンが押され始める。
『『バァンッ バァン! シュッ! シュッ!』』
上からの援護射撃も開始される。
「「こなくそっ!」」
ロケット弾を装填し、再度奴に向け放つ!
『『 シュッ ・・・ ダーーーーン 』』
やっぱりだ。奴の肉は抉れるものの数秒で元に戻っている。
「腹減るじゃねぇかよ! おい! そこの!」
何かサメが言ってきたがそれに答えはしなかった。
「「アハハハハハハ!!!!」」
コーダンが不気味に笑っていた。
「チャーギィ アレモッテコイィ!」
「「はいっ!」」
チャーギが自分の横を通りロッカーまで走ると、大き目のこん棒を重そうに運んでいた。コーダンは左手でそれを受け取ると両手持ちから2刀流に成り代わり、剣劇を再開していた。
「「ウオオオオオオオオ!!!!」」
甲板の床がきしみその振動が船全体を揺らし始める。
援護射撃もそのままサメの体に入っていった。
(あれ ・・・ ?)
サメの頭部、上からの女性陣の射撃された部分の傷は治っていないことに気が付いた。
(あの粉か ・・・)
「「2人の攻撃は効いているみたいです!!」」
「「そうね!!!」」
ミグーナがそう声を上げている。
このままコーダンが抑えていればいずれはこのサメの肉体が削れるはず。
『バシュン!』
その思いはこの音の後に間違っていることに気が付く。
見張り塔に向けたサメの口から発射された何か、おそらく水撃によって塔の屋根が吹き飛ぶ。
「「「きゃあぁあぁーーーーーー!」」」
女性陣の悲鳴が耳に入る。
「いてぇんだよ それえ!」
サメが再度口を膨らませ、強烈な水撃を発射しようとしている。
「サセル カイ!」」
『『ドゴォ!!』』
コーダンの打撃によってなんとか水撃の軌道がそれ見張り塔の横を飛んでいった。
「「オマエラ サガレ アイツラマモレ!」」
「「ミグーナさん リンデル! こっちに来てください! 守ります!」」
チャーギの声で女性陣が階段をかけ降りる。
そしてチャーギは大きな盾を持ちミグーナさんを。自分はコーダンの投げ捨てられたあの鉄板を拾い上げリンデルを守ることになる。
「確実に弱っている こっちの優勢よ」
ミグーナがそう皆を鼓舞していた。
確かに、コーダンの放つこん棒でサメが次第に押されているのが分かった。
「パイン 来る!」
リンデルがそう言う、サメが口をすぼめこちらに水撃を放つのが分かった。
鉄板を両手で持ちそれを迎え撃つ!
『『ビィーーーーービィ』』
物凄い水圧が鉄板から伝わる。
辺りは霧状に包まれ、弾いた水の粒子ですら手に当たると痛かった。
「ありがとう!」
そうリンデルがいい、銃でサメの頭に銃撃を放っていた。
チャーギらにも水撃が来ていたがそれも彼があのでかい盾でどうにか防いでいた。
(いける! このままやっていけば 倒せる!)
サメは頭部をリンデル達の特製弾によって大きく負傷し、血をだらだらと流している。
もはやサメの頭の形状はしておらず、赤い「つくね」のようになっていた。
「「アハハハハ オレガオマエヲクウゾ!!!」」
コーダンがそう叫ぶ。
「 ・・・・・・ 」
サメからは何も声が出てこなかった。というよりも口の形状がもはやそこに無い。しかしどうにかコーダンの斬撃はヒレで防いでいた。
そして水撃はピタと止まっていた。
(なぜあれで動く!?)
「コーダンさん! あれやりましょう! パイン 2人をよろしくな」
そうチャーギが言うと、大きな盾を自分に手渡した。そして鎧の兜をかぶってコーダンに近づく。その兜の頭の鉄片は銃弾のように丸く尖っていた。
「「コォイ チャーーーギィ!」」
コーダンはぐいとサメを前に押し出し、チャーギを引っ掴んだ。そしてそのままサメの腹の下まで潜り込み、
…。
「「ウオオオオオオオオオオ!!!」」「「うああああああああ!!!!」」
チャーギを天に、サメに向かって投げ飛ばした!
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【回天】
それはチャーギの着る特製鎧をラグビーボールのように投げる事による、捨て身の弾丸攻撃である。鎧には刃物が付いており、遠心力によって持ち上げられる。コーダンの投擲力がそれらをさらに引き立たせる。またチャーギの身のこなしにより、さらに物凄い回転を加えることができるのだ。
コーダンとチャーギによる、あらゆる魔物を葬ってきた必殺の攻撃である。
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(す ・・・ すごい ・・・ !)
サメの上半身は2人の攻撃によって抉られその身を半分以上失った。
見るも無惨、大きく風穴を開けられていた!
しかし……。
2人の攻撃はまだ止まない!
『『ドンッ!!』』
コーダンが鉄球のように丸まり、甲板を蹴る
(!!!!!)
チャーギの居る10mほどの高さの上空にコーダンがいた!月の光を黒い巨人の影が覆う!
チャーギの脚を両手で掴むとそのまま彼をサメに叩きつけようとする!
「「それはやめて!!!!」」
「「きゃーーーーー!!!!」」
女性陣の悲鳴が耳に入る。
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【六甲降ろし】
それは言わずもがな、高いところから刃物を振り下ろす重力と重量の効いた必殺の一撃。それをされた相手は刃物が通った痛みよりも冷たさを感じると言われている。だが、コーダンが武器として持つのは鎧をまとったチャーギ本人。あいかわらず捨て身の大技である。
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『『 シュッ ドガーーーーーーン!!!!!』』
サメはコーダンとチャーギの合わせ技により真っ二つに切り別れた。しかし、チャーギの上半身が甲板にのめり込んだ!
(ひ ひどすぎる ・・・ !!)
「「コーーーーーーダン!!!!!」」
ミグーナが物凄い勢いで2人の下に駆け寄った。
「「アハハハハハハ! ドウダ!!!!」」
『『 ペチッペチ!! 』』
「「これは絶対やらないっていったじゃないの!!!」」
ミグーナがコーダンに何度も拳を叩きこんでいた。パインも盾を捨て、チャーギの救出に向かった。
…。
サメは2枚降ろしにされ、よろよろと船首から海に落下していった。




