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【第76話】決戦前

//////////////////////////////////////


 あの後……。


 シオナの日記を見た後、マユミはこうしてまたアッシュと名乗る男と一緒に行動していた。


 数日ナンテコッタイで過ごした後アッシュのこのクルージングに乗って海を渡っている。本来ならば地元に帰って全てを忘れたかったけれど、それができるほど私の精神状態は良くなかった。むしろこの得体の知れない男に連れまわされているほうが心を平静に保っていられる気がした。そして彼の行動を観察している内に「あるもの」を見つけてしまった。


(バレない様に隠れてね ・・・・)


 古い白黒写真だ。そこには若い女性と彼が映っていた。印字された年が今から200年ほど前であった。先祖か何かとも思ったが、着ている物は違えど間違いなく彼であった。


(空の時代の生き残り ・・・・)


 巷で噂されている……。もはや都市伝説になってしまっている。


 それがもし彼だとしたら……。


 そう、この異常な環境が私をやはり正常な精神状態にしてくれているのだと思っている。


「そろそろ 着くぞ ・・・ なんだ?」

 男がレーダーもナビも使わずにこのクルージングの舵を取っている。勘でそんなことできるはずがない。


「いや あんた 何を見て運転してるの?」

 アッシュは「ああ」といい付けているサングラスを手渡してきた。


「なんなの ・・・・?」

「いいから着けてみろよ」

 そう言われ彼のサングラスを着けてみた、自分のそれよりもサイズが小さいことに少し動揺してしまったが。


(普通 ・・・・ じゃない ・・・・ じゃ ・・・・ ない!)


 そこに映っていたのは海面から狼煙のように白い煙のようなものが上がっていた。


「な ・・・・ なんなのこれ ・・・・」

 そう言うとアッシュは返せと手をよこしてきた。


「そいつはある物が映る ・・・ ほら返せ」

 そう言われ返した。


「あの船に目印君が2人も乗っているからな ・・・」

 返す間際にアッシュからも得体の知れない靄が出ていることは言わずにしておいた。


//////////////////////////////////////


「「おーーーーい!! アッシュさーーん!!」」

 パインは甲板からアッシュの乗るクルージングに向けて手を振った。


 アッシュはそれに片手を上げて少し恥ずかしそうにしていた。


(なんだか 緊張するなぁ ・・・)


 コーダンとエゾマがあのクルージングを発着所で迎え入れるよう船員らに指示をだしていた。


「アッシュ キタナァ ・・・ オコラレルカナァ ・・・」

 コーダンの心境もどうやら自分とほぼ変わらないようで安心した。


…。


「どうも はじめまして ・・・ パインと申します ・・・」

 見知らぬ女性にそう挨拶をした。


 自分より少し背が低い彼女はどこか顔の作りが自分と似ている気がした。


「マユミよ アッシュに世話になってるのよね 私もここんとこ彼とずっと一緒よ」

 パインは彼女の心情をいち早く察し強く握手を交わしてしまっていた。


--------------------------------------


 皆この船のボート発着所を後にし、食堂へと集まった。


「アッシュ サッキ ギシキ ヤッタゾ ・・・」

 コーダンが少し緊張した様子でそうアッシュに話していた。違和感が半端ない。


「よくやった ・・・ で?」

「デ? ・・・」

「おまえら全員で5人だったはずだが ・・・?」

「チョット アイツラ ヤスンデルンダヨ ・・・」

「説明しろ パイン」

(俺が ・・・?)

 しょうがなく3人がそうなった成り行きを説明した。


…。


「お前は何やってたんだ!?」

 その話を聞いた後アッシュは軽くコーダンを攻めていた。


「ショウガナイジャン ・・・」


 落ち込んでいるコーダンを見たのは初めてかもしれない。アッシュの隣で座るマユミもコーダンに慣れてきていたようだった。

「どおりでこの匂いか ・・・ どうだった あいつの中は」

 そうアッシュが言うとマユミも「いい匂いね」と言っていた。

「俺だけ声が聞こえたみたいで ・・・」

「はは ・・・ お前相変わらずだな」

 アッシュに何か文句でも言われると思ったが意外とそうではなかった。


「またね って最後に言われましたよ」

 パインのその言葉は無視されてしまった。


「と まぁ こいつらがお前の仇を取ってくれるんだ もういいだろ?」

 アッシュがマユミにそう言っていた。


(仇? ・・・)


「ええ なんか大丈夫な気がする ・・・・ お願いねパイン君」

 マユミが複雑な表情でパインを見ていた。


 どういうことか聞きたくなったが、今は聞かないことにした。


「そうだ そう 折角だから渡したい物がある」

「まずは これ ・・・ 本当はミグーナかリンデルに説明したいんだが ・・・」


 彼が話している内にマユミが白い粉が入った透明なビンを机の上に上げていた。今は彼女が荷物持ちなのであろう。


 どうやらそれはあの白角のイボアのあの角を加工した代物であった。弾薬に混ぜて使うことで破壊力を増すことができると言っていた。


 起きたら言うようにと何度も聞かされた。


「次はこれだ ほれっ コーダン!」

「「オオオオオオオ !!! ニクゥ!!!!!」」

 コーダンは餌付けされた犬のような勢いでその肉にかぶりついていた。


「おい! みんなで食えよ! 頼むから!」

 アッシュがそう言いヨダレの垂れた野獣を抑えていた。自分とマユミはそれを見て笑ってしまっていた。


「マユミ あれ! パインに渡してやれ」

 そう彼が言うとマユミが何やら大事そうにそれを渡してきた。


「大事な時に 使うのよ ・・・・ パイン君好きな人いるんでしょ?」


(ん ・・・ ?)


 渡されたそれはネックレスのように、ヒガンバナのような形状をした綺麗な白い物が輪の形をした革紐の先に付いていた。そしてその花の中心に小さな緑色の石がついていた。


「わ 分かりました ありがとうございます!」

 そう言いパインはネックレスを受け取る。マユミが言うにはあのイボアの角の中心にある貴重な部位を加工したものと言っていた。


「ニクゥ! ヨコセ アッシュ!」

 アッシュはそれには目もくれずにコーダンと格闘していた。


(キレイだな ・・・)

 そう思い見ていると、マユミがポンと肩を叩いてくれた。


…。


「「おお! いい肉じゃねぇか! いい感じに熟成されているぞ!」」

 アッシュがコーダンを後ろ手に縛った後、食堂に来たサクラに肉を厨房に持っていくよう告げていた。


「じゃあ 後は頼んだぞ パイン 今夜だからな ・・・」

「・・・ はい!!」

 パインはネックレスの事が気になって返事が遅れてしまった。その様子に気が付いたマユミがほほ笑んでいた。


「ああ ・・・ それはちゃんと説明したんだよなマユミ?」

「うん 大丈夫よ !」

「じゃあ コーダン ユーシルにもよろしく言っといてくれ 頼んだぞ」

 そう言うと暴れて疲れきった牛のような彼の腹をアッシュはドンと拳で殴りマユミと足早にこの船を去っていった。


…。


「どうだった? お前の上司来ていたんだろ?」

 パインは今こうして夕食をチャーギと一緒に取っている。

「ええ すぐに帰っちゃいましたが とりあえず怒られませんでした ・・・」

 そう言うとチャーギが笑顔を見せてくれた。あの鯨の中で見ることができなかったそれに安心してしまう。


「まぁ お互い頑張ろうぜ!」」


 このイボアの肉のステーキをこれでもかとサクラ風にアレンジを利かせていた。あの川辺で食べた時とは違う一品に仕上がっており、最高に美味しかった。


…。


 食事の後、5人で今夜の作戦を立てる。


 コーダンが前で攻撃を全て受ける。コーダンの補助にチャーギ、どうやら連携においてはミグーナよりチャーギの方が優れているらしい。ミグーナとリンデルと自分は後衛。


 そう、自分はあの石弓を任されていた。


 ミグーナは少しだけそれを心配していた。それをチャーギが心配ないと言ってくれていた。


(そもそも本当に今夜来るのか?)

 そのパインの疑問は誰もが思っていただろう。だが、この時その言葉は誰も口に出さなかった。


…。


(気持ちいいな ・・・)


 パインは仮眠を取れとミグーナに言われたが、そわそわして寝れなかったので今こうして船首に立ち夜の風に吹かれている。


 空は雲ひとつなく紺色の背景に星が輝いている。そして不気味なほど丸い月がこちらを見ているかのように星のそれ以上に光っていた。


 甲板には今誰も上がっていなかった。おそらく一時的に全員仮眠を取るよう言われているはずだ。


 コツコツと後ろから足音が近づいてくるのがパインに伝う。


(・・・)


「何1人で恰好つけてるのよ ・・・・」

 休んでいるはずのリンデルが自分のすぐ後ろに来ていた。髪を全て降ろし、シャワーを浴びた後なのか普段より艶っぽく見えた。


「いや そんなんじゃないけど ・・・」

「じゃあなんなのよ」

 それに答えられずにいると彼女がギュッと抱き着いてきた。


(・・・)


 自分も抱き返す事でなんとか返事をした。


 風呂上りの彼女の匂いに頭の中が溶けそうになってくる。


(あっ ・・・)


「ねぇ ・・・ これ ・・・ 良かったら ・・・ 受け取ってよ」

 ポケットからマユミに渡されたネックレスをリンデルに渡す。


「何これ ・・・・ キレイ! くれるの?」

 黙ってそれに頷いた。


「うれしい ・・・・」


…。


 しばらくの間2人はその場で抱き合っていた。

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