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【第74話】金木犀の香りの中で その3

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「「ぷっはぁーーーー!」」

 パインは陽がランランと降り注ぐ海面に頭を出す。


 海水を少し口に含んでしまっていたためしょっぱい。


(あっ! ・・・)

 辺りを確認すると、ピーナツ号が見えた。そのお尻から1隻のボートが出ているのが分かった。


「「こっちぃ!ごぽぽ! こっちですぅ!!」」

 ありったけの力でそう叫んだ。


 波は穏やかで浮いているだけの自分にとっては心地が良かった。だが抱えているチャーギはそんな事ないだろう。彼をどうにか沈ませないようしてやった。フナオーの傍で必死になり顔を空気に触れさせてやる。


「「こっちーーー!!」」

(まずい ・・・ はやく ・・・!)

 ボートに向け片手を必死に振った。


『『バシャー 』』 「「チャーギッ!!!」」

 すぐそこまでボートが来るとミグーナの金切り声が耳に入った。


…。


 ボートは女性2人のみであった。


 パインは意識のないチャーギの背中を押しボートに引き上げさせる。


「「チャーギ!!」」

 ミグーナが上着を脱いでチャーギの手当を開始している。


 自分はリンデルの手を握り、そのままボートに上がる。


 彼女もまたダイバースーツを着ておらず、自分らを見つけてすぐに急行したのか、いつもの白のオーバーオール姿であった。


「「チャーギさんを! ほんとさっきまで 大丈夫でした!!」」

 焦ってパインはそう言った。

「今やってるじゃないの! パイン! 見えてる?」」

 リンデルが言う通りミグーナがチャーギの頭をひざ元に乗せ屈んで何やらしていた。


(う ・・・ なんて光景だ ・・・ う うらやま ・・・)


「「ぶっふぉおおお!」」

 ミグーナの応急処置の接吻によりチャーギが息を吹き返した。


「「ばか!!!」」

 まだ何も考えきれてないといった様子のチャーギをミグーナが強く抱きしめていた。


(よ よかった ・・・)

 するといきなりリンデルもその場で自分に抱き着いてきた。


(おろろ ・・・)

「「良かった! ・・・ もう!」」

 それに動揺してしまったが、自分もリンデルを強く抱きよせてやった。彼女の匂いが鼻の奥にまで入り込む。上目遣いの彼女の目にうっすら涙が浮いていた。


 彼女の体は自分の濡れた体のせいでびしょびしょになっていた。

(・・・)


 数秒の彼女との抱擁が心の何かを溶かしていくようだった。


…。


「彼にはすごい世話になったんだ ・・・」

 それぞれの抱擁が解けた後にチャーギが海に浮いているフナオーをさしてそう言う。


 するするとロープを手繰る。


「な?」

 チャーギがそう自分に言ってきた。


「そうですね 彼が居なかったら結構危なかったかもしれません ・・・」

「よ よくわからないけど とりあえず今は帰るわよ! 話はあとで聞かせて頂戴!」

 ミグーナがそう言う。彼女もまた海水で濡れたTシャツが胸元にぴったりとくっついていた。


 フナオーを引いてピーナツ号まで向かった。


『『ありがとう ・・・・ パイン』』

 帰路で再度あの中で聞いた女性の声がパインの頭の中に入ってきていた。


「名前なんか教えてない ・・・ !」

 つい、そう独り言を言ってしまった。


「どうしたの パイン?」

 ミグーナさんが不思議そうに自分を見ていた。


「こいつ ・・・ 聞こえるみたいで ・・・」

 チャーギがそうフォローとも言い切れない事を言っている。


『『『また ・・・・ ね ・・・ 』』』

(また ・・・ ?)

「あ クジラさん! ありがとう!!」」

 リンデルがハッとした表情になり、遠くに手を振っていた。そこには自分達がいたと思われる大きな黄色い鯨の姿があった。


「「チャーギさんっ! あれ!」」

 今になって彼女の存在に気が付いた。


「おう ・・・ あれの中にいたんだな ・・・」

 自分より先に鯨を見ていたチャーギは具合が悪そうな顔になっていた。


「あんた 聞こえるの?」

 リンデルが目を細めて少し馬鹿にしたような表情を作っていた。それに黙って頷く。


(バカにされたっていいよ ・・・ もう ・・・)

「そう ・・・・」

 彼女が顔を自分の胸に寄せてきていた。

 ダイバースーツを脱いだ冷えた体に彼女の温もりが直に伝わってきていた。


(・・・)


 鯨は背びれをハート型にして水平線の中に潜っていった。

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