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【第67話】航海 6日目 船長ユーシル

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「う~ん ・・・ ぁ!?」

 パインには毎度おなじみの景色、サンベルの居る医務室の天井が彼の目に映り込む。


 しかし今日は蛍光灯は光っておらず、窓から射す日の光で部屋は隅々まで明るかった。


「やぁ 起きたんだね ・・・」

 やや、いや、かなり疲れ切った表情のサンベルが出迎えてくれる。


 彼が疲れを隠しながら今朝の出来事を説明してくれた。話の途中でガバッと立ち上がったが、自分の袖を掴み「もう済んだから大丈夫」そう教えてくれた。


 その話の通り、既にピーナツ号は出航しており、微かに揺れる海のそれに気が付く。そしてこれから討伐に向けての決起が行われることを伝えてくれた。


「君も色々あったんだろ?」

 そう言われ、腹の辺りをなぞるジェスチャーをしてきた。Tシャツをめくると、不気味な形のマークが腹部から胸部にかけピンク色に描かれていた。


(なんだこりゃ!?)


「ある程度は落としたんだけどね・・・」

 少しサンベルが笑っていた。ガラスに映る自分の顔にもそれがあり、頭を押さえてしまう。


(うぇえええぇぇ!?)

「ごめんなさい 全然記憶がないです ・・・」


 サンベルは口を押さえて必死に笑いを堪えていた。


「うん でもね さっき話した通り 皆はそんなに笑える心境じゃないと思うから」

「それだけ ・・・ 気にしてあげてくれないかな?」

 彼はそう言い、医務室のドアを開けてくれた。


「わかりました ・・・」


--------------------------------------


 カラッとした海の風がパインの頬に当たる。今まで見たことがない、船の青々とした晴天が水平線上に広がっていた。しかし、集会を前にした船員らの表情はサンベルの言ってたようにとても暗かった。


(そんなもん見たら ・・・ 俺だって見たくない ・・・ つか 俺は何をしていたんだ?)


「呑気に寝てやがったな !」

 とぼとぼと甲板を歩いていると漁夫の1人に気にしている言葉を言われる。


「す すいませんでした!」

 必死に頭を下げペコペコしてやる。


「「まぁまぁまぁ 落ち着け お前も昨日は良いことしてたんだよな? 俺抜きで」」

 サクラが漁夫の話に割り込みフォローをしてくれる。


「あ ・・・ あはは そうでしたぁ! ごめんなパイン!」

 そう言うと漁夫はUターンをして逃げていった。


(何が何だかよくわからないが 助かった ・・・)


「パイン ・・・ お前も俺抜きでいいことしてたんだよな?」

 「イギッ」条件反射的にそう声を漏らすとサクラは大爆笑していた。


「冗談 冗談!」

「パイン お前のその顔 ・・・ 変な趣味でも覚えたのか?」

 すると今度は別の漁夫にそう言われた。

「ええ 島の文化を ・・・・・・」

 咄嗟に浮かんだ言葉で返す。

「「なんだそれ! がはは!」」

 漁夫達は思ったより落ち込んでおらず、むしろ自分に対して明るく接してくれていた。


『そろそろじゃないか 生きた化石が見れるぞ ・・・』

 サクラのその言葉にパインは「はて?」と首を傾げた。


 船首にはコーダンとエゾマがいる。それに付き添うようにしてチャーギとミグーナが彼らの前に並んで立っていた。それを囲むようにして船員達が群がっている。自分と隣のサクラは医務室から近い最後尾に位置していた。


「「ええ ゴホン 皆集まったかな まずは今朝のスリバーチ号の件だが チャーギ殿 ありがとう ・・・ 」」

「「島の方々も感謝しておった 皆もよく働いてくれた ありがとう」」

 エゾマがそう話を切り出すもコーダンが彼の真後ろに立っているため逆光で表情までは伺えなかった。


(なんで真後ろに ・・・ )

(ん !?)


 そのまた後ろに椅子に腰かけている老人が目に付いた。おそらくビーチに遊びに行く前に見た人で、おそらくこの船の主だとパインは思った。


 エゾマの演説が続く。

「「これからこの船は情報を元に方角を南東に向け進めておる おそらく近々我々もあれと対峙しなくてはならない!」」

「「スリバーチ号は悲劇じゃった あれはもう2度と起こしてはならない!!」」

「「他にもやられている船があるのかもしれない!!」」

「「世界の航路のためにも そして我々ピーナツ号の栄誉の為にも皆の力を貸してほしい!」」

「「この船に乗るこのコーダン殿は一流中の一流じゃ 彼らの力を信じ共に戦おう!!」」


『『ヤッテヤルゼェーーー!!!! ワーーワーー!!!!』』


(あの ・・・ 聞かされた ・・・ あんな現実を目の当たりにして 皆 ・・・)

 もし自分がその光景を目の当たりにしていたら、こんなに気合を入れることができたのだろうか。


(まだまだ 俺は ・・・)

(ん ・・・)

 ミグーナの傍にいるリンデルとふと目が合うが、プイとわざとらしく目を逸らされる。


(まだまだ ・・・)

 サクラがバンと自分の背中を叩き笑っていた。


…。


「あ? ツギ オレカ?」

「「では コーダン殿からも話があるようなので伺おう」」

 エゾマが後ろに下がりコーダンの姿がぬっと前に出てくる。

「「ええ みんな オハヨウ!」」


『『もう昼だぞー! 寝ぼけてんのかー!』』

 ギャラリーが沸いた。


(あれれ ・・・ ?)

 コーダンが緊張しているようだった。


「「アハハ ワリイワリイ 僕たちもあの怪物を倒すためにみんなさんの力が必要 デス」」

「「なんであんた一々そこで片言になるんだよ!」」

 ミグーナのつっこみがさく裂すると船員らから笑いの声が上がる。

「いいから ・・・ 続けて ・・・」

「「まず 情報にヨルと すごく早く動く魔物ナノデ チョット作ってもらいたいものが アリマス」」

「「弾ゼンブ避けられたってな? チャーギ?」」

「「はい 今朝会った冒険者の方 生存者の方の話からすると砲撃は既存の武器では太刀打ちできないとのことです」」

 いつの間にやら前に出てきたチャーギがそう説明する。


(先鋭15名中の1人の方か ・・・ どんな人だろう ・・・)


「「ゼンダさんには モウ 伝えましたが 大きな石弓を作りますので ゴキョウリョクを お願いイタス」」


(やばい 笑ってはいけない ・・・)


「「あんたもっとちゃんと畏まりなさいよ! ほら!」」

「「ゴワス!ゼンダ!」」

『『ダハハハハハハハハ』』

「「おめぇさんまだ俺 手すり直してるとこなんだ ペースちゃんと見てくれよな!!」」

 前の方からゼンダの声が耳に入る。

「「すいませんゼンダさんよろしくお願いします うちの者使って構いませんので ・・・・」」

「「スミマセン ゼンダ おしとやかに」」

「「あんた少しは言葉勉強したほうがいいんじゃないの?」」


『『 いよっ おしとやかにっ !!』』

(合いの手うますぎだろ ・・・ 誰なんだ)


「「エート 南東にフナオーたちが イルラシイ よな チャーギィ~!?」」

「「はい 先日の聞き込みで明らかにしました 普段でしたら今までの航路にいるはずでしたが 南下している模様です」」

 チャーギがつらつらと説明をしている。


(チャーギさんも仕事頑張っていたのに ・・・ 俺は ・・・)


「「次のマンゲツまでに あと4日 カ? それまでにフナオー1匹トルマス!」」

「「フナオーの タマブクロ を ソラ ・・ ヒブッ」」


 ミグーナのジャンピング右ストレートがコーダンの顎に決まる。


「「フナオーの浮袋です 訂正させてください 申し訳ございません」」

 ミグーナが右手を痛がりながらそう叫んでいた。


 皆腹を抑えて声にならない声を上げている。


「「アア ワリイ タマ じゃねぇよ タマ ウキブクロ を鳥に食わせて アイツがここにキマス!」」

「「ちょうど満月の日にフナオーの浮袋を鳥に食べさせます それで奴がここに来るはずです 情報は上から来ました確かなものです」」


 腹を抑えながらもなんとかその言葉を頭の中に入れ込んでいく。


「あたしが全部喋った方が良かったんじゃないの? もう ・・・」

「ト いうわけだ 皆 ゴキョウリョク な! ゴワス!」

 コーダンが巨体を折り曲げ、皆に頭を下げる。


『『 ゴワス! いいぞー! タマブクロ ー!』』

 顔に手を当てるミグーナと少し離れた所に居るリンデル以外、会場は盛り上がっていた。


…。


「「ありがとう コーダン殿 ありがとう ミグーナさん 続きまして ええ ゴホン」」

「「我が船 船長ユーシルから直々にお話があります どうかご清聴願います」」

 エゾマがそう喋ると、するすると後ろから片足を引きずりながら杖を持った老人が皆の前に立つ。


 エゾマが用意しておいた拡声器を彼に手渡した。


…。


「「ずっと待っておった ・・・ わしは見た あの丘のようなあいつに飲まれ ・・・ 何年も前の話じゃ ・・・」」

「「わしはあの時から何もかも失ってしまった 何年も 何年も この船だけがわしの手元に残っておる」」


 ユーシルと呼ばれる老人は微かな声を出しながらそう話しを切り出す。


 老人の昔話がつらつらと拡声器を通して流れていった。


 見るからにご高齢であろう、頬はこけ深い皺が何本も縦に刻み込まれており、ガリガリに痩せた手に持つ拡声器は今にも落ちそうである。恰好は教科書に出てきそうな肩パットの入った赤と黒の豪華なコートのようなものを着ており明らかに着瘦せしている。頭にかぶる帽子も今買うのは難しそうな、それまた赤と黒のハットであった。


『いつもの話だ ・・・』

 隣に居るサクラがそうボソと呟いている。


「「コーダン殿 そなた達がわしを助けてくれた わしはあの時起きたことを全て覚えとる 間違いない そなた ・・・ むぅ!!?」」


『あれ ・・・ いつもと違う ・・・』

 サクラがそう呟くと会場が確かにざわついているのがわかった。


「「もう1人おられる そなた そなたじゃ!」」

 彼は急にボリュームを上げ、目がカッと見開き、明らかにパインその目に捉えていた。


(え!?)


 老人と思っていた彼の気迫は明らかに別人のように殺気を出し、それにパインは度肝を抜かれてしまう。


(お おれか?)

 パインは自分を指差し、辺りをキョロキョロするも誰も何も言葉を発しない。


「「そうか この日を待っていた 今回のバケモンをわしは知っておる 古の書物に書かれておった クジラどもも騒いでおる ・・・」」

 そう言うと、小指で顔を軽く掻いていた。


「「月いづるその日の陽に 海の主のはらわた使者に届けよ さすれば 門の鍵 腐水とともに現れん」」

「「あの日はようくじらが飛んでおった ・・・ 同じじゃ ・・・ やっとあれに会える 白い丘じゃ ・・・ わしは ・・・」」


 心の底から悲鳴にも似たくぐもった声を上げていた。それは過去に見たオペラのそれを彷彿とさせた。しかしそれは演技でも何でもない、男の内側から出る呪いのような言葉であった。しかし、しばらくすると彼は疲れたようにして殺気のオーラを纏うのを解除した。そしてまた同じ調子で同じ内容を喋っていった。


『ああ おっかねぇおっかねぇ ・・・』

 サクラがパインに向かって呟いていた。


「「では 以上である 皆精一杯の働きを期待しておる!」」

 エゾマがユーシルから拡声器を取り上げると、この場を切り上げた。


(どうゆうことだよぉ ・・・)

 どこからともなく船員達のため息の声がパインの耳に入ってきていた。



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