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【第61話】マユミとアッシュ その2

 静かなムードのあるbgmの中、マユミは車窓を眺める。


 少し高めの位置のシートから眺める景色はあの海の街から自分の住む街の、慣れ親しんだそれに変わっていく。


 数時間という長い時間のドライブもこの車の居心地がいいせいか苦にはならない。


 時折話しかけてくるこのアッシュと名乗る男の低い声も半分bgmになり、夢見心地でいさせてくれる。


 「彼の仕事」以外の時間はあの荒く疲れた声を聞かずに済んでいる。そしていつの間にやら剃られた顔の無精ひげは下顎だけ残っていた。この2日間は彼のお陰で憂鬱な気分を忘れさせてくれた。もちろん今もそんな気分ではない。


 あの日カフェに行き、昼をたらふく食べさせてくれたあの日からは寝耳に水どころか、行水のような日々であった。


 ホテルに帰るや否や急いで荷物をまとめ彼のこの車の荷台に上げるとさんざん色んな所に連れまわされた。土地の資料をあさったり、あの土地の木材の購入運搬。女である私にこれでもかという重労働をさせた。幸い宿泊費も食費も何から何まで持ってくれたのは有難かったが、休み明けの体には少し応えた。


 その最中の言葉遣いが荒いのなんのって、これでも人かと思うほどであった。まぁ、ブラナン達と色々修羅場を経験したことがあったのが幸いして乗り切ることはできたものの、生きた心地がしなかった。


(おかげで 色々考えずに済んだかもだけど ・・・・)


「そろそろ着きそうですね ・・・・」

 そう喋ると男はぼそっと「ああ」とだけ返した。彼はナビも何も見ずに、地図と住所だけでマユミの住むマンションまで車を走らせていた。


 エントランスのシャッターが上がり。来客用の駐車場にバックで車を止める。男はキッっとブレーキを踏み、コンマで車の外に降りる。


 このブレーキを強く踏むのは彼の癖なんだろうと、ここ数日一緒に過ごして彼女は分かった。


「道具箱 あと ・・・・ ガラ袋 ・・・・」 ※ガラ袋はゴミ袋の厚手のやつと思ってください。

 「はい」と返し、彼の整理された荷台の上からそれを降ろし、マユミの住むマンションの玄関まで歩を進めた。


 管理人に彼のIDを見せ、部屋の前まで案内される。


「終わりましたら 鍵を ・・・ お返し願います ・・・」

 妙に丁寧に喋る管理人は事前に連絡していたのであろう、かなり恐縮してしまっていた。

 このマンションに入ったのは1回だけだったとふと思い出す。駆けだして間もない頃にシオナとブラナンの引っ越しを手伝ったきりであった。


 冒険者が住むにしては豪華すぎるこのマンション。


 車のエントランスですら、管理人に声をかけないとシャッターが上がらない。エントランスのガラスのドアはきれいに磨かれており、もちろんオートロック。そこからエレベーターまでの道は長く、両脇にきれいな丸石が敷き詰められそれに立派な背丈ほどもある観葉植物が植えられている。


 所々でレモンのような香り付きのミストが噴霧され、おおよそ一般人からすると高級ホテルを思わせるような。そんな感じである。おそらくここにシオナはブラナンと一緒に6年以上は住んでいたものと思われる。これはおそらく彼女の両親による計らいである。当時こそ嫉妬したものの、彼女のあの性格のためか、それに対して別段気にしなくなっていったのを思い出した。


(やっぱり ・・・・ オカシイわよ ね ・・・・)


 今になってこうしてこんな作業をするタイミングでそう思ってしまった。


--------------------------------------


 15階の角部屋まで男とこうして作業着姿で彼女の部屋の前まで足を運んできた。


「良かった 俺らが1番乗りだな ・・・」


 何が1番乗りだよと、仕事中の彼に対してついむかっとしてしまった。だがそれが大事な事だとマユミは後で気が付く。


 アッシュはいつの間にやら用意していたスリッパを2足分パタと玄関に落とし、ガサ入れを開始する。


 白い手袋を手渡され、無表情で部屋の中を歩くさまはよほど慣れてないと出来ないと思ってしまう。リビングの2人にしては大き目なテーブルを端に縦に畳んで寄せ、広くなったそこにこの部屋の荷物を積んでいく。

 ブラナンもあの性格の、その通り、綺麗に部屋が整理されていた。そこで時折出てくる4人の写真に少し時間を奪われてしまう。


「あのマークがあったら報告な ・・・」

 すっかり仕事のスイッチが入った彼の言葉に気おされ作業をするすると進めていく。


…。


 ブラナンの部屋を空っぽにしたが、何も出てこなかった。


「キッチンかと思ったが 出てこないな ・・・」

 人の生活にズカズカと入っていく彼の様に苛立ってしまう。


「弔いの言葉もないわけ? 一応あたし シオナの親友なのよ?」

 抑えようとしていたものが口から出てしまう。


「ああ? 今はよしてくれ 時間がないからな ・・・」

 そう男に睨まれる。


 ため息をつき、シオナの部屋を2人で作業する。


「衣服は私がやるわよ ・・・・」

 そう言うと「ああ」とだけ短く返してきた。


 衣服が終わり、化粧机に向かう。


 茶を基調とした豪華な3面鏡作りで、随所に花柄の模様が掘られている。

 引き出しや観音開きの扉の中を探すもそれらしきマークは見当たらなかった。だが、観音扉の中で1つあるものが不自然に落ちていた。


「ちょっとこれ 見て ・・・・」

 観音扉を施錠するための南京錠が中に落ちていた。


「怪しいな ・・・」

 それを男に見せると作業を止め顎髭をゴリゴリと擦ってこちらまで来た。


「中身はこれか?」

 そうだと返すと、その中に持っていた小型ライトを入れ確認をしていく。


「当たりだ 道具箱 ・・・」

 そう言われ、彼の下にそれを持っていく。


 少し声を上げそうになったが、幸いにもマユミの口からは何も出なかった。男は丁寧にその中の板を剥していった。そして出てきたのは30センチほどの小箱。見事にその箱の上にあのマークが刻んであった。そして開けられるまいとナンバー式のロックが箱の正面にあった。男はこつこつとその箱を叩き、いまある道具で壊せないと悟っていた。


「あまり試行できないタイプのロックだな ・・・」

 相当に大事なものが入っていると思われた。


「何かお前 心当たりのある数字はあるか?」

 そう言われると、ブラナンの誕生日かあるいは彼女の誕生日くらいと返す。


「まぁ そうだよな ・・・」

 クルクルとナンバーを回すが、その2つは外れのようであった。


「すいません- そろそろ終わりにしていただきたいです! ご両親が来ます!」

 玄関の前で焦ったように喋る管理人からであった。


「おそらく この台ごと引き上げるつもりだ 先客は居たんだ ・・・」

 そこで不自然に置いてあった南京錠かと思いついた。


(1度来て 諦めた ・・・・ という事ね)


「2人の記念日とかそうゆうのはないか?」

 それなら心当たりある。そうわざわざ組んだあの旅行の最終日。


「この前の事件の日 ・・・・」

 もしそうであったら、これは私が組んだ旅行でもなんでもない。彼女に踊らされたのは私の方。


「あのクルージング ・・・・ シオナの知り合いの ・・・・」

 そう言った後彼にシオナとブラナンの記念日を伝える。


『カチッ』

 その音の後に簡素な箱から不自然な電子音が鳴り響く。


「安易ではあるが ・・・ あいつららしいな ・・・」

 そう男が言った後こちらを同情の目で見やった。中からでてきたのは日記と皮表紙でできた古い本。


「内容はあとだ ずらからないと 勘づかれる」

 そう言われ2人で手分けしてそれらの文言とイラストを写真に収めていった。おぞましい形の獣や今まで狩ってきたきたことのある獣。


(・・・・・・・・・・・・)


 その中にあの「白い鮫」も居た。


…。


「うし ・・・ 全部戻すぞ ・・・ !」


(はぁ ・・・・!?)


「ちょっとあんたこれ ほんと許可もらってやったの!?」

 ちらと男がこちらを見てきたが答えは返ってこなかった。


 男は器用に化粧台の全てを元に戻していく。最初からそう言ってくれればよかったのにと、頭の中で覚えている範囲でリビングに集めた荷物を元の場所にしまっていく。


(ほんと 人使いが荒い あたしじゃなきゃこんなことできないわよっ ・・・・ ふっ う ・・・・)

 それらを確認していくアッシュ。最後に出てしまったゴミをガラ袋の中にしまっていく。


「おし 行くぞ ・・・」

 外にはすでにずっと待っていたであろう管理人がおずおずとこちらを確認していた。


「間に合いましたね ・・・ 鍵を ・・・」

「すまんな ・・・」

 そうアッシュは言い鍵を管理人に手渡していた。

 一体どうゆう契約をしたのか気になるが、それよりも今は写真に収めた内容のほうが頭の中を占めていた。


--------------------------------------


 彼は逃げるようにして車を走らせ、どこかに連絡を入れていた。


 すでに大事なことはあの本から引き抜いたのであろう、それら意味深な内容を誰かに連絡していた。


「そうだ 次の満月だ いいな?」

「あいつにあんまあの力使わせるなよ 船壊すぞ!」

 そう謎の会話を苛立ちながら喋っていた。


(船壊すって ・・・・ どうゆう会話よ ・・・・)


 次はどこに行くのか気になったが、なんだかそれを聞く前に彼が自分を良い方向に導いてくれそうな気がしていた。そう思ったから……。


 今は彼の車に揺られていようとマユミは決心した。


(絶対あいつは 許さない ・・・・ モチモアのためにも) 

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