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【第59話】ピーナツ号の憂鬱 桜ソース仕立て 後編

 食堂の小窓からはグレー色の空が見え、そこから次々にそのガラス面に水滴を打っていた。雨の音は聞こえず、ざわついた人々の声がこの食堂に響き渡っていた。


「彼らが仲たがいをしている様子は私にも分かりました ですが!」

「さきほどパイン君が言ったこと全てがチャーギさんが行ったこととは言い切れないように思えます!」

 普段落ち着いてるサンベルの口から叫びにもとれる言葉が絞り出された。


「なんだ サンベル 言ってみてくれ ・・・」

 エゾマは少し残念そうな顔をしてそう口にする。


「まず パイン君の銛の紛失ですが うちの船員が単独でそのような行為を行ったのを私は見ました」


『『ざわざわ』』


「ただその目的がわからなかったのですが 今 この場でその目的が分かりました」

 エゾマが続けて、と無言で頷く。


「ロープの件もですが もし私の推測でしたら 「彼」ならできます」

「スープの件も不自然です なぜならあれを使う時は厨房にあるものではなく 普段は別の場所に置いてあるからです」


 「「意義あり!」」と漁夫の1人が挙手する。


 エゾマがなんだねというと、「彼らの喧嘩に直接関係がある発言とは思いません!」と返事をした。


「いや 聞こう サンベル ・・・ 続けてくれ」

 明らかに後ろから挙手した船員を見ていると彼が焦っているのが分かった。


「はい なぜ私がそれを知っているかは すいません 医学的な興味から少しだけそれの行方を追わせていただいたことがあります」


『『ざわざわ 20年 ・・・ ざわざわ ・・・』』


「そして何よりこの 今こうして集まるに至った昼すぎの事件の 剣に関してですが ・・・」

「チャーギ殿にあの剣2本を渡したのは「彼」 ・・・・・・」

「雨が降り始めたときに大急ぎでその場を 確認したときに不自然にあった あの焼け焦げた剣と そして ・・・」

「地面に落ちていた白い粉 ・・・ 急いで集めましたよ ・・・ その成分が ・・・ 貝の


「「だぁぁぁ 待ってくれ 先生すまん それ以上は言わないでくれ」」


 サンベルが普段そんなに喋る事がなかったであろう、息絶え絶えにそう叫ぶように喋っていたその時。


 「彼」がそう切り出す。


 会場のざわつきがピークに達する。


 漁夫達はお互いの顔をキョロキョロと見合い、今にも逃げ出しそうな様子である。


--------------------------------------


「全部おれが仕組んだ事だ 冗談じゃない ・・・」

 静まり変える会場の中でそう喋ったのはサクラであった。


(・・・)


「まず最初に謝らせてくれ 君たち個人的に悪意はない 本当だ 申し訳ない パイン君 そしてチャーギ殿」


 そこからサクラがことの顛末を喋り出した。


…。


 彼には「計画」があった。

「まず、ナンテコッタイのバーでパインとチャーギがあまりいい関係でない事にすぐに勘づいたんだ。それを出汁に使って計画を進めようとしていた。船という狭い場所で一方的に人を陥れることは容易いことだ。案の定2人ともそこまで勘がいいタイプではなかった。どちらかというと性格が似ているように思えた。あの大事そうに抱えていた銛が無くなれば、必然的に誰を疑うかは明白。そして、その心情を知るために俺はパインに接触を図った。案の定落ち込んでいるのが分かった。次に行ったのは自分の部下をチャーギに接触させ、もてはやすこと。そしてパインが「チャーギの事をバカにしている」という噂をわざと流させた。」

「想像以上にうまく行った ・・・」

「ロープを切ったのも自分。なぜなら彼らなら絶対に命に関わる事態にまで発展しないと認識していたから。」


…。


「「ふざけないで! 人命に関わるようなことそっちがしてるじゃないの!」」

 前の席でリンデルが叫ぶのが分かった。


「お嬢ちゃん すまない ・・・・・・」

 サクラがリンデルに向けて頭を下げているのが分かった。


 彼の話は続く。

「あのスープを流させた事件も自作自演だ。あんな馬鹿力で喧嘩すればどちらか一方はただじゃ済まないって思ったから心理的に追い込んでやったんだ。そして最後の剣について、渡したのはサンベルの言う通り自分だということ。片方は本物の剣を加工したということ。そしてどちらが怪我しても……。」


「「ちょっと待ってください! サクラさん! なんでそんなこと!」」

 パインの溜まりかねたものがここにきて爆発してしまった。


「すまん!!」

「「じゃあ僕に料理を教えてくれたのもその計画の内だったんですか!」」

 爆発が連鎖する。彼に優しく教えてもらった調理の仕事の光景が脳裏に浮かぶ。


(それが計画の内であれば ・・・ おれは)


「「違う それは否定させてくれ!お前さんは良い腕してる それも本当にそう思った!」」


(・・・)


「「じゃあなんでこんな事わざわざしたんですか!」」

 パインの叫びに会場のみんなが顔をしかめた。


「俺は実はもうこの船を 降りる ・・・ その予定だったんだよ なぁ? 副船長」

 サクラの言葉の後に「うむ」とだけ返すエゾマ。


「「そんな ・・・ それが理由ですか?」」

 自分のその問いにサクラは普段は見せない暗く淀んだ目をこちらに見せていた。


「きちんとご説明を願います サクラさん」

 ミグーナが少し落ち着いた口調でサクラに言う。


…。


『『ザ ・・・ ザザァ ガガ ・・・』』


 静かになった食堂に雨の音が外側から響いてくる。


 サクラの動機はこうであった。

「もうこの船を降りる。そして…。自分の店の開店の準備をし終えた。みんなに引退の挨拶をしようとした、そんな時にこの依頼が舞い込んできたこと。しかも年に1度のオフに。」

「なんでこんな時にって 前からその事を伝えていた奴だってここにいる ・・・」

「そしてさぁ 依頼を受けた時の船長の顔を見た時 俺は直感したね やばいやつだって ・・・」

「そういう暗い噂は足が速い、みんなそう思ってるに違いなかった。正直みんなわざわざこんなオフに仕事なんざしたくなかったのさ、それをどうにかしたらやらないで済むって。」

「そう思ってたら ・・・ この計画を思いついてしまった ・・・」

「彼らのためにも俺が率先して守ってやる必要があったんだ。わざわざ「最後」の航海で彼らの命を犠牲にしたくなかった。「最後」くらい彼らを守ってやりたかった。」

「「全部俺がやったことだ 魔が差してしまった すまねぇ!!」」

 漁夫達が明らかにうなだれている。


「あなたは自分達のために私たちを犠牲にしようって思ったの?」

 リンデルが泣きそうな顔を必死に抑えながらサクラに聞いた。


「そうだ ・・・ その通りだ!」

 サクラが深々と自分達に何度も深く頭を下げる。


 そのサクラに釣られて数人の漁夫が立ち上がった。自分に向けて悪口ともとれる発言をしていた人たちであった。


「「サクラさんの計画を後押ししたのは俺達だ 俺達も悪い サクラさんだけ謝るのは違う」」

「「申し訳ございませんでした ・・・・・・」」

 エゾマがやれやれといった表情を作る。


「彼らは俺が利用させてもらった 彼らは関係がない 全て俺が悪い」

 サクラが再度深くお辞儀する。


「私からもお詫びさせていただきたい コーダン殿 申し訳なかった ・・・」

 エゾマも自分達に向けお辞儀を開始する。


「イインダヨー ベツニ タイシタコト ナクネ?」

 コーダンはまったくもって上の空の返事をする。


『『ベチン!』』

 ミグーナが彼の右腕を強くパンチしていた。


 会場から「ぶ」と息を吹き出している人が数名いた。


「まさか ・・・ 我々の方に非があったとはな ・・・ サンベル ・・・ よく見ていてくれた」

 エゾマがそう言うとサンベルに目配せをした。


「我々はあなた達を「犯罪者」呼ばわりしてしまった ・・・ 本当にすまない ・・・」

「あなた達あらため サクラを島で降ろし 警察に引き渡す ・・・ それでいかがですかな?」

 彼は続けてうなだれたサクラを指さしてそう話す。


「ちょっと ・・・ ちょっと待ってください」


(俺も別に ・・・ その事情なら ・・・ そんな事情なら俺だって一緒のようなもんだ)


「チャーギさんと決闘した時 僕は自分から ・・・ 自分から受けて立ちました」

 そう正直な気持ちを彼らに打ち明ける。


「私も つい彼 ・・・ パインに対して熱くなりすぎていたのかもしれません ・・・」

 チャーギが自分の発言に連ねてそう言ってきた。


(そうなのか ・・・ それの理由も気になるが ・・・)


「私たちも ・・・・ サクラさんをどうこうするなんて思ってません ・・・・ ねぇ?」

 ミグーナがリンデルの肩に身を寄せた。


「 ・・・・ はい ・・・・ 」

 リンデルだけ何故か悔しそうであった。


「いいのか ・・・ 本当に いいのか?」

 エゾマが目を大きく開きそう聞いてきた。


「ナカナオリ ハヤクシロヨー」

 コーダンが全員に向けてそう言った。


「いいのか? 俺はこのままここにいていいのか?」

 サクラの目から薄っすら涙が出ているのが分かった。それに釣られて親しかったであろう数名の漁夫達も目に涙を浮かべていた。


「むしろ 居てほしいですよ そんなまだ全然料理できてないですし ・・・」

 ぽろっと自分が発した言葉に会場の雰囲気が明転したのが分かった。


「僕らもあなた達に対して 任務をしていただける という配慮が足りなかったかもしれません ・・・」

 当事者であるチャーギがそう口にする。


「そして なによりつい熱くなってしまった自分の心が ・・・ 未熟でした ・・・」

「パイン 申し訳なかった 謝らせてくれ ・・・」

 続けて彼がそう口にした。


「そんな いえ こちらこそ変に誤解させていたかもです チャーギさん すいません」

「ハヤクシロヨォー ハラヘッテキタジャンカ」


『ブッブハ!』』


 自分達がそう言い合うと上の空の巨人がそう言った。それがトドメをさしたかのように会場に普段の活気が戻ってきた。


「パイン君 本当にいいのか? 俺がここにいて」

「むしろ ・・・ 居てもらわなきゃ困ります ・・・」

 サクラの質問にそう本当の事を言った。


「分かった 臆病風に吹かれちまってたが ・・・ 気を取り直して ・・・ ここに立たせてもらうぞ!」

「「サクラさーーーん! 私たちもついていきます!」」

 人望のあるのはエゾマよりもサクラのようである。漁夫達もサクラの覚悟をがっちりと受け止めたようだ。


「では サクラよ こうして我々の事を免罪してくれた彼らに恥をかかぬこと約束してくれ!」

 エゾマがそういうとサクラの口から大きな声で「はい」と言葉がでていた。


--------------------------------------


「ちょっとアタシはあのおじさん許せないかも ・・・・」

「あんたそれ 妬いてるんじゃないの?」

「下手なドラマよりあんた達面白いわよ」

「な! なにを言ってるんですかぁ!」

 会議のすぐあとの女子トイレで彼女達はそう話していた。


…。


 会議が終わるとコーダンの激しい腹時計の音の下、そのまま早めの夕食をサクラとその部下、そしてチャーギと準備をしてみんなに配膳してやった。


 いつの間にやら用意していたサクラの特製ソースは今回は少し酸味が効いていた。


「「おお!見えたぞ!マタンレーだ!」」


 漁夫の1人が食堂の小窓を見てそう叫んだ。雨はすっかり晴れ、ここ食堂まで斜めに射すオレンジ色の光が部屋一面に広がっていた。


「おい パイン見に行くぞ! 見張り台!」

「あ! いきます! チャーギさん!」

「ちょっとあたしもいく!」

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