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【第58話】ピーナツ号の憂鬱 桜ソース仕立て 前編

「ごぽっ ごぽぽぽ ぽはっ」


(あれ なんでまた海の中いるんだ?)

 それになんだか体を強く打ったような、最近よくある諸症状が出ている。


(また奴に世話になっちゃったのかなぁ ・・・ 何もやらかしていないといいんだけど ・・・)

 そうパインの願いは虚しくその何かを成した後、ただただ海中の底へ向かっていく。


(もういいかな 色々考えすぎて嫌になっちゃったよ ・・・)

 サンベルに言われた「彼」の存在に心を強く痛めていた。


(あれ 今度は ・・・)

 パインが薄れゆく意識の中見たのは人魚達の姿であった。


(ああ 暖かい ・・・)

 その2人に抱きかかえられ、朧な意識のなか海の塩水に身を寄せていた。


(おっ?)

 左手を動かすととても柔らかい大きなそれがあった。右手を動かすとそれも柔らかい、右手のそれとは大きさが違えどとてもいい「ぷにぷに」した感触があった。


(なんていい気分なんだ ・・・)

「「なにやってんだこいつ!」」 「「ちょっとお! パイン!」」


 3人はピーナツ号の小型ボートによって引き上げられた。


「おい こいつ鼻血でてんぞ!? 大丈夫か?」

 その時のパインの様子はとても幸せそうであったと彼は他の船員達に語っていた。


…。


「ん~~ ・・・」

 ふと目を擦ると見覚えのある景色がそこにぼやっと広がっていた。白い天井に蛍光灯が数本眩しい光を放っており、薬品の匂いが鼻につく。


「あっ ・・・ !!」

 はっと気が付き、身を起こすとやはりこの人が居た。サンベルは難しい表情を作りこちらを見据えていた。

「君は優しそうでいて 実は結構人に厳しいのかもしれないね」

 そう言ったあと彼は難しい表情からいつもの笑顔に変わっていった。


「でも 今回はちゃんと事情を説明されないと皆納得しないと思うんだ ・・・」


 「え?」と言うと、サンベルは食堂にみんな集まっているから一緒に行こう。そう言ってきた。


(なにを またなにを 俺はやらかしたんだ?)


…。


 医務室を出ると風がビュウと吹き、横殴りの雨が船にガンガンと音を鳴らしていた。その雨に打たれたサンベルの白衣が色をグレーにしていった。その白衣が船の階段にすれすれのところで擦れない様子を見ながら、また自分が何をやらかしたんだとパインは考えていた。


 そして物静かな彼の背中から少しの「怒り」を感じた。それが果たして自分に向けられているのか、それとも……。


--------------------------------------


 食堂に着くと、いつものそれとは違った光景が広がっていた。長い机を横に2列づつ並べている。まるで学校の授業のようであった。それに一瞬立ち止まってしまった。


 一番奥、厨房側にはエゾマが1人だけ座っていた。それはまるで、これから授業か何かが行われる雰囲気である。それらに圧倒されながらも教室の後ろの席にサンベルと一緒に座る。


…。


 束の間の静寂の後。


「え~ パイン君大丈夫かな?」

 エゾマがそう遠くから話しかけてくる。それに「はい」と答える。


「では 始めよう まずは「一応」とでも言わせてもらおう 皆 命が無事で良かった」

 ざわざわと生徒たちが騒いでいる。


「静粛に 怪我は少なからずあった ご存じの通り 彼 パイン君とチャーギ殿である」

 はっと気が付いた。


(俺がやってしまったのか?)

 彼をどうにか見つけその姿を見ると首元をグルグルと包帯が巻かれていた。


(・・・)


「我々はその事について その出来事を見てしまった それについてご説明願いたい コーダン殿いいかな?」


「アア? タダバトル シタダケダロ?」

 その答えに教室がより一層ざわついた。


「えー すいません私がお答えさせていただいてもよろしいでしょうか?」

 コーダンと同じく最前列に座っていたミグーナが手を挙げてそう言う。


 エゾマが「良いぞ」と返事をする。


「先ほどの件に関しては私たちの詰めが甘かったと思います ですが」

 ミグーナが一瞬こちらをちらっと振り返って、続きを答弁する。


「政府からパインの特訓について仰せつかっております」

 教室改め裁判所のような雰囲気に会場は変わっていった。その会場はミグーナの答弁でさらにざわついた。


「俺たちは聞いてないぞ ・・・」 


(俺も聞いてないぞ ・・・)


「大変な航海とは聞いていたが パイルの特訓でこんな大騒ぎで 尚且つこんなに俺が仕事する羽目になるなんぞ聞いてねぇ」

「修理費はどうすんだ? それとよぉ ・・・ 」

 ゼンダのメガネが光ると口から次々に言葉がでてきていた。名前をまた間違って呼ばれたのは気にしないでおこう。


「ゼンダ ちょっと黙ってくれ」

 エゾマが彼の連射を止める。


「修理費に関しましてはあとで清算させていただきます」

 エゾマのアイコンタクトの後にミグーナがそう話す。


「その件 確かに聞き届けたぞ では なぜこのような「過度」な事をしてしまったのかご説明を願おう」

「その件に関してましてはこちらとしては「事故」であったと言わせていただきます」

 ミグーナが辛そうにしてにそう話す。


「人命が関わるような出来事であったと報告を受けているぞ ・・・ 胸を貫いたと ・・・ そして首を ・・・」

 エゾマが自分とチャーギを見てそう話す。


「そうです ・・・・ 確かに内輪もめをしていたのかもしれません ・・・・」

 ミグーナが悔しそうにそう話す。


「ゴホン 本船ピーナツ号では 確かに少なからず過去に死者はだしておる しかし ・・・」

「過度な喧嘩をして「死者」を出したことは一度もない 仮にそのような事態に発展する場合は ・・・ 船を降りてもらう」

「これは国の大事な任務であろうとなかろうと 関係がない この船の絶対的なルールである」

 エゾマがそう話すと漁夫達が「そうだ そうだ」と軽く同調していたのが分かった。


「その件を踏まえて ・・・ 当事者の御2人方 ご説明願おうか? パイン君」

 続けてエゾマがこちらを見てそう話す。


(えっと ん~ ・・・)


…。


「え はい 今回はお騒がせしてしまい 申し訳ございません ・・・」

 会場から冷ややかな視線が送られるのが分かった。


『大丈夫 全部言っちゃって』

 サンベルが隣でそう小声で自分の話の続きを促した。


「まずは出航前の銛の紛失でした それを誰かが意図的に紛失させたものと思ってしまいまして」

 続けてとエゾマが促す。


「バケツがトイレの前に置かれていて それを倒しました それも自分ではやっていなかったので ・・・」

「あと気になるのは サクラさんのソースを洗い場で流してしまったことですが そのあとすごいヒンシュクを買ったように思えます」


「あとは昨日の ・・・ 自分が最初に溺れた時にロープが切れたことも彼に疑いを持ってしまいました ・・・」

「それに ・・・」

「「ちょっといいですか 全て事実無根です 私は彼の言ったこと全てに関与していません」」

 前の方のチャーギが起立してそう叫んだ。


「ちょっとまってくれチャーギ殿 彼の話を全て聞いてからそなたの意見を聞こう」


(無事だ ・・・ 良かった ・・・)

 チャーギが元気に叫んだので安心した。


 エゾマに再度促され続きを話す。

「それと あの練習用の剣に刃が付いていたのが「特訓中」に見えました」

 その自身の発言に会場がどよめく。


「では チャーギ殿 ご説明いただけるであろうか ・・・」

 エゾマがやれやれとそう話す。


「全て彼のでっちあげです それと勘違いです 私はそれらの事を一切していないです」

 チャーギがわざわざ起立してそう言う。


「これらに関して何か思い当たる節のある者はいるか?」

 エゾマがそう言うと1人の漁夫が挙手して発言する。


 その時わずかにサンベルの顔が寂しい表情を作っていた。


「私はチャーギ殿がパイン君の悪い噂といいますか 愚痴みたいなのを聞いたことがあります」

「具体的には ・・・ ?」

 漁夫はもじもじさせながらも淡々と言葉を続けた。


「まずは あいつは「僕たち漁夫の事をバカにしている」とか」

「本当はあいつが居なくてもこの討伐は良かったとか ・・・ ですかね」


(そんなこと言ってない なんでだよ ・・・)


「確かに ・・・ 私情でそのような事は言ったのかもしれませんが 行動に出すほどでは ・・・ ありません ・・・」

 チャーギがそう弁明する。


「「胸に剣思いっきり刺しておいて なんでそう言えるんだ!!」」

 漁夫達があれほど慕っていたはずのチャーギを責め立てている。


「「私は ・・・ 私は ・・・ あの剣が胸を貫くだなんて事を知らなかった ・・・」」

「「確かにあの時 本気で突きました ですがそれは貫けない物と知ってのことです!!」」

 チャーギは少し首を苦しそうにしながらそう叫ぶ。


「「どっかで細工してたんだろ!!」」

 どこからともなく漁夫がそう叫ぶ。


「「静粛に!!!!」」

 エゾマが机を両手で叩き、その場を制す。


「以上を聞いておると すまんのチャーギ殿 そなたに非があるのはほぼ間違いがなさそうであるが ・・・」

「僕は知らなかった ・・・ 彼の事も知らなかった ・・・ 被害者だ ・・・」


(俺の事を言っているのか ・・・)


「どうであるか コーダン殿いやミグーナ殿 ・・・」

 エゾマがわざとらしくミグーナに問いかける。


「確かに私も ・・・ ロープが切れた時からチャーギを疑っていました ですが 彼が ・・・ そんな真似をするようには ・・・」

 彼女が辛そうにそう話す。


「誰しも道を間違える時はある しかし 今回は目撃者も多数いるのでな ・・・」

「そんな 俺のせいかよ 待ってくれ あいつがわざとそう仕組んだんだ! あいつは俺らとは部外者だ!」

 チャーギが声を荒げそう言う。


(部外者 ・・・)


「「チャーギ止めなさい!」」

 ミグーナが叫ぶ。


「「副船長 この人は危ないです! 今すぐ降ろしましょう!」」

 漁夫の1人がそう叫ぶ。


「「静粛に この件については 我々のルールで決めさせてもらう!」」

「「明日の早朝 物資補給を兼ねて 1日「マタンレー」国に停泊する そこでこの船の討伐の任を降ろさせてもらうか」」

「「あるいはチャーギ殿とパイン殿の両名の下船の科を!」」


「オレラ5メイ ハ ゼッタイダ カエラレネェヨ」

 満を持したとばかりにコーダンがそう言い放つ。


「では この船は「マタンレー」に着き次第この任を降りる よろしいかな?」

「アア ショウガネェヨ セワナッタナ アッシュニオコラ

「「ちょっと待ってください いいですか?」」


 コーダンがそう言い終わるのを前に何故かサンベルが口を大きく開き、そう叫んだ。

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